柄本明にインタビュー 東京乾電池、20年ぶりの名古屋公演を北村想作品で!
劇団東京乾電池『十一人の少年』チラシ表
柄本明の演出で、北村想の岸田戯曲賞受賞作『十一人の少年』を上演
今年で創立40周年を迎えた、柄本明率いる劇団東京乾電池。1月にはそれを記念して東京の「ザ・スズナリ」でプレ公演『十一人の少年』が上演されたが、同公演が11月16日(水)から5日間にわたって名古屋でも行われることになり、「ナビロフト」に初登場する。
『十一人の少年』は、劇作家の北村想がミヒャエル・エンデの名作『モモ』を下敷きとして1984年に書き下ろし、岸田國士戯曲賞を受賞した作品だ。『モモ』は不思議な力を持つ少女モモと、人々の心のゆとりを奪う“時間泥棒”の物語だが、『十一人の少年』は、孤児で盲目の少女スモモや、清掃局に勤める演劇青年たち、劇中劇の十一人の少年、怪しげな〈思う保険〉なるものの勧誘員らが登場し、その保険に加入した演劇青年たちが“想像力と創造力”を奪われ、演劇への興味を失ってしまう…という物語。ファンタジーをベースにしながら、【演劇をめぐる冒険譚】として描かれたものだ。
「十一人の少年」北村想 著(白水社 刊)
柄本と北村は2009年に岐阜で開催された「演劇CAMP in 中津川」を機に出会い、2011年には「アトリエ乾電池」のこけら落とし公演として北村の代表作『寿歌』を上演。その後、同作で全国公演も行っている。さらに今年は劇団創立40周年記念公演の脚本も依頼、北村が書き下ろした『ただの自転車』が6月に「本多劇場」で上演されるなど密な交流が続いている。
また、今回の公演が行われる「ナビロフト」は、かつて北村が主宰していたプロジェクト・ナビのアトリエだった場所である。ナビ解散後は貸し小屋として稼働していたが、今年から態勢を新たにして地域演劇文化発展に寄与すべく、環境整備・創造発信・人材育成・活動支援・ネットワーク構築など、多彩な事業展開も始めた客席数90ほどの小劇場だ。そこへ見学に訪れた柄本が立地環境を気に入り、約20年ぶりとなる名古屋公演が決まったという。
上演作品の選定は劇団員たちによって決められ、柄本は今回、演出のみを担当している。今作の演出方法や北村との出会い、「ナビロフト」という劇場に対する思いなど、キャンペーンのため来名した柄本明に話を聞いた。
演出を手がける柄本明
── 柄本さんは、過去に上演された『十一人の少年』はご覧になっているんでしょうか。
いや、観てません。
── では、今回の公演にあたって戯曲自体を読まれたのも初めて、ということですか?
ザーッと目を通すというかそのぐらいのことはしますけど、読まないです。台本をものすごく読んで演出するっていうことじゃないです。だからもう、演出する時にはホンのことは忘れてる。(稽古で)俳優たちがセリフを喋りますよね。彼らにとりあえず創らせるというか。それでわかんないところが出てくるわけですよ。そうするとホンを見るんです。「それは書いてないでしょ」とか、「なんでそっちから出てくるの?」っていう時に見て、「ああなるほど、だからそっちから出てくるんだ」と。あらかじめ読んでわかっているということじゃなくて、その場で見ていて何が行われているのか、なんでこうなってるんだろう?っていうこと。そこから始めるんですよ。
『十一人の少年』プレ公演より
── 今作の演出で一番ポイントにされた点はどういうところでしょうか。
わからないってことですね(笑)。身も蓋もない言い方になるけど。読めばね、そこに書いてあることはわかるといえばわかりますよ。だけど、何が本当で何が嘘かということも含めて本当のことはわからない。まして人様が書いたホンですからね。やっぱり演劇っていうのは、二次元のものが演出だの役者だの照明だのが関わって三次元に立ち上がるわけでしょ。そりゃあ何が出来るかわからないですよね。俳優さんだっていろんな人がいるわけだから、この人がこの役をやる、あの人がこの役をやることによってまた変わるわけでしょ。だから“わかんない”っていうことが面白いです。だけどその裏に、想さんのホンに対する信頼があるからやるっていうことは確かですよね。
── 戯曲のセリフやベースにあるものは変えずに演出されるんでしょうか。
変えるのは嫌ですね。まずしません。つまり、不自然なことをしてるのに「自然にやれ」ってないじゃない(笑)。だからこのセリフは言いにくいからって言って変えるのは、基本は良くないよね。気持ちはわからなくはないんだよ、「もう少し自然にならない?」とか。けど、何が自然で何が不自然なの?っていう問題になりますからね。自然に言う、っていう事はどういうこと?って。演劇っていうのは、その事から始めていくものなんじゃないかしら。
たぶん、俳優なんてものをやろうっていう人も仕込み先が問題なわけだよね。要するに何かの真似をしてるに過ぎないんだから。自分が考えたと言っても、どこかから引っ張って来てるんだから。だけど、その瞬間演じているのはその人で、それはやっぱりその俳優の何かなわけで。だから良いホンであれ悪いホンであれ、俳優さんが楽しくやってくれるっていうことが一番なんでしょうね。じゃあ、楽しいっていうことはどういうことなのか、楽しいっていうことの中には苦しいことは入らないのか、とか。楽しくないってどういうことか、とか。
まぁでも角度を変えれば、だいたい笑えるからねぇ。今この(取材を受けている)状態も笑えるでしょ。要するに、こちら側の見方が変わればね。だけど最終的に思うのは、「演出なんてできないな」って思いますよ。何かをするということは、何かを出来ないっていうことに気づくんだろうね。みんなそうだと思うよね。何かの仕事をしてるから「できるようになった」なんてさ、思わないでしょう。せいぜい「ちょっと上達したかな」くらいのことは年に一回くらいは思うかもしれないけど、「俺は上手くなった」とか気持ち悪いよね(笑)。
『十一人の少年』プレ公演より
── 柄本さんは作品に対して、肉付けをたくさんして演出される方でしょうか? それともストレートに表現される感じですか。
常に言うのは、「今あなたがやってるんでしょ。何かをやればあなたの中に何かが、うまくいっただのいかないだの生まれちゃうでしょ。良くったって悪くったって、それがあなたの演劇だよ」っていうことだよね。それしかないよね。それに対して俳優は「どうしたらいいかわからない」とか、いろいろ思うわけじゃない。要するに、人に見られることによっていろんな自分と出会うことができるわけだから、とにかく人が見てれば何かやっちゃう。その何かやっちゃう自分のくだらなさと対峙するわけだから、「あなたが考えなさいよ」っていうことだよね。
もちろん具体的にアドバイスできるところはね、この場所に立った方が良いとか、あの場所に立った方が良いとか言うけど、そんな問題じゃないよね。だけど確かに、こっちに立った方がいいんだよね。なんで良いのか知らないけど。こっちに立った方が良いということがわかったら、そっちに立っても良いんだよね。つまり可能性っていうものは無限大なわけだから。無限大の中から何かひとつを選ばなくちゃいけないから問題なわけで。でも、無意識でやってたらいけない。意識的じゃないとね。
俳優になればわかるけど、人に見られるっていうことは、何かしちゃうことになっちゃう。絶対、何かするよ。だから演出っていったって、そんなことを言うぐらいですよね。あとは書いてあることを言うんだから。じゃあ書いてあること言うって、皆さん言ってみればすぐわかるけど、言えないですよ。他人の言葉というものが自分の身体を通るわけでしょ。そうしたら当然違和感を感じるもんね。ましてロシアでソーニャなんて言われたってねぇ(笑)。
『十一人の少年』プレ公演より
── 先ほど「想さんのホンに対する信頼がある」と言われましたが、その思いに至った理由というのは何かあるんでしょうか。
同じ芝居の世界にいますからね。想さんも下北沢で芝居したりなんかするじゃないですか。俺も観に行ったりするから、それで顔見知りではあったんだけど、確かにものすごく気になってたことはありますね。それで演出家協会の流山児(祥)に脅されて、「ハンコ押せ」って言われて入ったら、中津川の演劇CAMPでワークショップをやってくれと言われて。そしたら後ろの方で想さんがニヤニヤしながら見てたんですよ。それでなんか話すようになったのかな。それからうちのカミさん(角替和枝)が『寿歌』をやりたいって言って、想さんに「やらせて」って電話して、それからですね。楽しかったし想さんも観に来て気に入ってくれたんだね。そんな関係があって、劇団創立40周年記念の『ただの自転車屋』も書いてもらったんですね。なかなか芝居の話をできる人がいなくてね。名古屋に来ると会ってるんですよ。
うちの芝居はお客が入るような芝居じゃありません(笑)。ベケットでありイヨネスコであり別役実さんであり、お客がたくさん入ることにはならない。だけどなんだろうな。なんかそういう決して近くはならない、遠いもの。つまりその距離感の遠さっていうものが、僕は演劇だっていう感じがする。観客と役者が一体になったら気持ち悪いですよ。そうじゃなくて遠ざかっていくものが演劇だろうっていう気がするんだよね。ところが世間っていうのは、その逆。だからこれはなかなか大きく動くものではないでしょう。昔からなんかそういうような気がするね。ゴダールの映画だって、何かから遠く離れていく。そういうことで言うと、「ナビロフト」っていう場所を見たときに、面白い場所だなと思いました。
── それは具体的にどのあたりが?
あの住宅街に挟まれた場所でね、夜な夜な何かが行われている(笑)。そこでクスクス笑えるものができたら面白いよね。
インタビューでは東京乾電池の名古屋公演継続にも意欲を見せた柄本。その発端となる今作は、北村の32年前の名作にふれられ、当地では観る機会の少ない柄本演出を体感できる好機だ。尚、初日の16日(水)終演後には、北村想、柄本明によるアフタートークも開催される。
劇団東京乾電池『十一人の少年』チラシ裏
■作:北村想
■演出:柄本明
■出演:麻生絵里子、池田智美、岡部尚、沖中千英乃、川崎勇人、柴田鷹雄、杉山恵一、竹内芳織、田中洋之助、中村真綾、西本竜樹、藤森賢治、前田亮輔、松沢真祐美、吉橋航也
■日時:2016年11月16日(水)19:30、17日(木)19:30、18日(金)19:30、19日(土)14:00・19:00、20日(日)14:00
■会場:ナビロフト(名古屋市天白区井口2-902)
■料金:一般前売2,800円、当日3,300円 学生前売1,500円、当日1,800円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「原」駅下車、2番出口から北西へ徒歩8分
■問い合わせ:
劇団東京乾電池 03-5728-6909
名古屋演劇教室 090-9929-8459
■公式サイト:
東京乾電池HP:http://www.tokyo-kandenchi.com
ナビロフトHP:http://naviloft1994.wixsite.com/navi-loft