深川秀夫が語る、深川秀夫そして『白鳥の湖』

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2016.11.20
深川秀夫

深川秀夫


ロームシアター京都オープニング事業、および、公益財団法人京都市芸術文化協会創立35周年記念事業として、深川秀夫版『白鳥の湖』全幕公演が11月20 日(日)、ロームシアター京都で上演される。

本公演は公募で選ばれた京都ゆかりのダンサーたちが出演。演奏は園田隆一郎指揮、創立60周年を迎えた京都市交響楽団。は即日完売したため前日の19日には最終リハーサルを一般公開した(若干数の当日券を販売する)。この秋注目のバレエ公演だ。上演に先立ち、京都芸術センターで本公演の構成・演出・振付を担当する深川秀夫によるアーティスト・トークとリハーサルを取材した。

(取材・文:編集部 Photo:M.Terashi/TokyoMDE)


■バレエへの道程

8人兄弟の末っ子で、兄弟はいろんな賞(賞状)をもらっていましたが、僕はちょっと変わっていて、頭もよくなかったみたいで。ある時、塾の帰り道にぼーっと夜空を見ていたら、(星が)「バレエ」という文字に見えた。それから「バレエ」って何だろうと・・・。家族が西川流の日本舞踊を習っていたので自宅に踊り場があり、父に「バレエをやりたい」と言ったら「シュミーズみたいなコスチューム着ているのはやめろ! 日本舞踊にいけ!」と言われたんです。1年間父を口説いて、14歳の7月14日、最近亡くなられた越智實先生のところでバレエを始めました。週3回のレッスンで、行く度に上手になるような気がしました。月・火曜日はレッスンがなかったのですごく嫌で、自宅の稽古場で練習していました。

東京新聞の洋舞コンクールで3位になり、1965年(17歳)に第2回ブルガリア・ヴァルナ国際バレエコンクールで銅賞を受賞しました。ソ連時代のヴァルナに行くため、横浜から船でナホトカに着いて、ハバロフスク、モスクワ、ヴァルナと移動しました。

ヴァルナではロシア人のダンサーと練習させてもらい、ボリショイ・バレエ団のプリマなど教えにきてくれました。

69年に第1回モスクワ国際バレエコンクールで第2位に入賞しましたが、そのコンクールにはミハイル・バリシニコフも出ていました。「バリシニコフが『秀夫が出るなら出たくない』」と言っていたとか・・・・(笑)

■振付家・演出家になったきっかけ

33歳(1980年)の時にドイツから戻りました。海外では、当時から振付家以外に、バレエマスター、バレエ・ミストレス、コレペティトールなどといった職業がありましたが日本に帰ってきたとき、そういった職業がなかった。

そのころ、「バレトメニア」というところが活気があり、『アリスの夢 金子國義とバレエ・ダンサーたち』(1981年1月14日〜18日 PARCO西武劇場)という作品にダンサーで出演する予定した。そうしたら、しばらくして振付家の方が辞めてしまわれて、10日間で創れと言われたんです。演出は、この間亡くなられた金子國義(美術家)で、大のバレエ好きでした。

その作品をご覧になったフランス人の先生が「秀夫、振付いいんじゃない」と言われて。ジョン・クランコを振付の神様だと思っていましたから、自分がやるのはどうなんだろうと思ったのですが、そこから振付家の人生が始まりました。少しずつはじめたら、深川節になったのかなと思います。

京都芸術センターでの稽古より

京都芸術センターでの稽古より

■深川版『白鳥の湖』

『白鳥の湖』では、ほとんどが白鳥/黒鳥を一人のプリマが踊るのが定番ですが、私はそれぞれを違うダンサーに踊ってもらっています。バレエ団の運営は経済的に大変で、実は、そうすることでの割り当てが2倍になると思ったのが始まりなんです(笑)。でも、いまでは、このやり方が本当の『白鳥の湖』じゃないかなと思っています。

プロローグから黒鳥が登場します。私が一番好きなのは、3幕、紗幕の奥でダミーの白鳥が手を振っているなか、白鳥がちゃんと舞台にでて、黒鳥と闘うところ。プリマ・バレリーナとしては白黒を分けて踊るところに醍醐味があるのでしょうが、別々にやらせていただいています。

プロローグから2幕まで通して上演し、その後に休憩が入ります。12年間ヨーロッパにいたからではないですが、劇場は社交の場ですので、ワインやシャンパン、お菓子などをつまんで、そういう時間がほしいと思って、少し長めの休憩を入れています。それに、休憩の回数が多いと、その後また最初から物語に入っていかなければならない。お客様には辛いかも知れないけど、僕の作品はスピーディーでコケティッシュさを売り物としていますから大丈夫だと思います。オーケストラもたいへんだと思いますが、京響さんに了承いただけた。感謝しています。

4幕は深川の世界だと自負しています。

左)井澤照予 (オデット/白鳥) 右)矢部希実加(オディール/黒鳥)

左)井澤照予 (オデット/白鳥) 右)矢部希実加(オディール/黒鳥)

左)井澤照予 (オデット/白鳥) 右)青木崇(王子)

左)井澤照予 (オデット/白鳥) 右)青木崇(王子)

■京都ゆかりのダンサーたち

今回、200名以上の方から応募いただき、その中から出演者をオーディションで決めさせていただきました。オーディションしてみたら、いい子がいっぱいいる。各バレエ団、スタジオにいい子がいるので、水準が高いと思いました。特に11歳〜15歳の子たちはラインがすごくきれい。

私の作品に一人でも多く立ってほしいという思いで、メンバーを1幕&3幕、2幕&4幕と分けました。若いダンサーたいですから、私のことを1/3くらいの人しか知らないのですが、稽古を通じて終わる頃には全員が私のことを好きになってもらって、楽しく踊っていただきたいと思っています。

右)梶田真司(ロットバルト)

右)梶田真司(ロットバルト)

■深川版としての振付の考え方

ダンサーたちに踊ってもらうことで私の作品がお客様に行き渡る。だから、上から目線ではなく、一緒に創ろうねとという気持ちでやっていやっています。

振付はフレキシブルにダンサーによって変えていきます。ダンサーに楽しく踊ってもらわないとお客様に伝わらない。彼らにあうようにいいところを持ち上げて、いかにダンサーとして喜びを感じて踊ってもらえるか。リハーサルでは愛情で怒鳴ったりしていますが、和気藹々としています。

自分ができないことをいっぱい要求して、特に男性はリフトばかり(笑)。今回の『白鳥』では、ロットバルト役が全幕で三十数回リフトがあります。自分ができないことをダンサーがやってくれていますから、快感です。

■日本のバレエ界、ダンサーに思うこと

バレエは外国人のものだな、とは思うけれども、“無国籍のアジアのバレエ”を進めていきたいといつも言っています。

昔、バレエ初めてすぐのころ、貝谷八百子先生の『白鳥』を観て感激したんです。でも観た瞬間に感激したのではなく、後になって「あれって何だったのだろ」「あの作品なんだ」って興奮した。そういう経験を若い時にしたので、終わった後に「よかったなぁ」と余韻が残るようなダンサーであってほしいし、僕も含めてそういう振付をしてほしいと思う。コンクールで1位、2位になった子が僕の作品に出てくれますが、バリエーションはできるけれど、作品になると全然できない。飛んで回る足あげるだけではないのです。何回もまわって凄いというのではないんです。

僕はストーリーが分かるように振付を心がけています。ダンサーたちの踊りのなかに台詞が見えればいいなと思っています。

■今後について

奇をてらわず、流れに中でゆったりと、淡々と自分のバレエの世界を求めていけばよいと思っています。淡々とやってきたから、ロームシアター京都も今回私の作品を取り上げてくれたのだと思っています。いままでもそうだったのですが、私が何かをやってれば誰かがチャンスをくれる。今まで通りずっとやっていきたい。

もし来年も続くなら、『ドン・キホーテ』をやりたいですね。純粋に好きなの。観客もリラックスして曲も楽しいし、手前味噌ですが私の版は面白いですよ(笑)ボリショイより面白いと自負しています。


●構成・演出・振付:深川秀夫
●指揮:園田隆一郎
●管弦楽:京都市交響楽団
問合せ:ロームシアター京都カウンター
TEL.075-746-3201
http://rohmtheatrekyoto.jp/

 
【当日券】
販売日時:11月20日(日)午後2時
販売場所:メインホール入口(2階メインホールもぎり口付近)
料金:当日券 1,000円
枚数:60枚程度(1人2枚まで)
※当日券は舞台が一部見切れる席、見えづらい席となります。
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