三代目市川右團次、襲名で81年ぶりに大名跡が復活! 海老蔵、猿之助、中車が強力サポート

コラム
舞台
2016.11.28
右近改め市川右團次、市川右近

右近改め市川右團次、市川右近

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2017年、新橋演舞場の幕開けを飾る『壽 新春大歌舞伎』で市川右近が三代目市川右團次を襲名。そして新右團次の6歳になる長男が二代目右近を名のって初舞台を踏む。

今年5月に行われた襲名発表の記者会見で、新右團次は「初世、二世の右團次さんは早替りなどのケレンを得意とし関西歌舞伎に功績を残した方。関西出身である私が師匠のもとで学ばせていただいたケレンを受け継ぎ、歌舞伎の発展のために少しでもお力添えできれば。その覚悟で芸道に精進していく所存でございます」と語っていた。

初世、二世右團次が生きた時代から時を経て、歌舞伎のケレンの魅力を現代に伝えたのが右近の師匠である市川猿翁だ。市川團十郎家ゆかりの右團次という名跡の、実に81年ぶりの復活となったこの襲名は、いわばそのふたつの遺伝子の融合。そうした意味においても歌舞伎史に残る出来事なのだ。

その記念すべき襲名披露公演を強力にサポートするのは、ベテランの中村梅玉を始め團十郎家の市川海老蔵、そして猿翁の後継者である市川猿之助、市川中車といった華やかな顔ぶれだ。

注目の演目は歌舞伎のさまざまな魅力が楽しめるものが揃った。

昼の部で上演されるのは、猿翁が手がけた「三代猿之助四十八撰」のひとつである復活通し狂言の『雙生隅田川』。吉田家のお家騒動を軸に展開される物語にはスペクタクルな演出が盛りだくさん。新右團次は主人公である猿島惣太と奴軍介の二役を演じ、軍介では代々の右團次が得意とした「鯉つかみ」の場面を披露する。

初舞台を踏む右近も双子の兄弟を演じ分け、父である新右團次と猿之助と三人宙乗りにチャレンジする。

20日にはイープラス貸切公演も行われる夜の部の幕開きを飾るのは、海老蔵と中車が顔を揃える『義賢最期』。海老蔵のダイナミックな立廻りが見どころで、鬼気迫るなかで思わず息を呑む幕切れに注目だ。

続いて上演されるのが『口上』で、出演俳優が横一列に舞台に居並び観客に挨拶を申し述べる様子は襲名ならではの一幕。人と人がつながって連綿と受け継がれてきた歌舞伎の長い歴史や芸に対する真摯な思いなど、語られる内容はさまざま。時にはプライベートのエピソードが披露されることも。

様式美のなかに俳優の素顔が垣間見えるフレンドリーな雰囲気は独特だ。新右團次はもちろんのこと、裃姿の正装で大人同様に列座する6歳の右近の可愛らしい姿は見逃せない。これから始まる長い歌舞伎人生の記念すべき出発点なのだ。

夜の部の襲名披露狂言となるのが『錣引』。平家物語の超人エピソードをベースにした作品で新右團次が平家の景清を演じる。景清と対峙することになる源氏の三保谷四郎を演じるのは梅玉で、キーアイテムの長刀と明鏡をめぐって展開される物語では歌舞伎の古風な味わいがたっぷり堪能できる。

ラストは猿之助が実は安達原の鬼女である老女岩手を演じる舞踊『黒塚』。変化に富んだ三部構成の内容はドラマティックで、岩手が月光を浴びながら無心に踊る場面には猿之助の曾祖父がロシアン・バレエにヒントを得て取り入れたという振りが盛り込まれている。そこから一転、鬼女の正体を現してからは迫力ある踊りとなる。

旅の高僧阿闍梨祐慶を勤めるのは新右團次で、初世猿翁ゆかりの作品でふたりが顔を揃えることになる。

襲名会見で「屋号は澤瀉屋から高島屋になりますが、師匠の生き様、芝居の理念を後世につないでいくのが私の使命。澤瀉屋の精神を右團次の名を通して広く歌舞伎界に残していけるよう精進します」と語っていた右團次。

新橋演舞場は猿翁が創始したスーパー歌舞伎の数々の作品を上演してきた劇場だ。その創造の精神が詰まった思い出の劇場で、三代目右團次が長男である二代目右近と共に踏み出す新たな一歩をしっかりと見届けたい。


文=清水まり

公演情報
壽新春大歌舞伎

 日程:2017年1月3日(火)~27日(金)
 会場:新橋演舞場 (東京都)
 出演:
右近改め市川右團次、市川右近、中村梅玉、市川猿之助、市川海老蔵、市川中車 ほか


 

 

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