FFXVと同じ世界観で描く映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』の“美麗なだけではない”魅力とは コラム『ゲームから生まれた映画たち』第2回
『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』 (C)2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
日本を代表するRPG『FINAL FANTASY』シリーズの最新作『FINAL FANTASY XV』が、11月29日にいよいよ発売となる。リアリティとファンタジーが融合した世界で描かれるのは、魔法国家ルシスを旅立った王子・ノクティスが、仲間たちと共に繰り広げる冒険の物語だ。主人公のノクティスは、花嫁のルナフレーナと結婚式を挙げるためにルシスを後にしたのだが、なぜ彼は故郷で結婚式を挙げなかったのだろう?その理由を明かすのが、今年7月9日に公開し、第89回アカデミー賞の長編アニメーション部門ノミネート候補として話題を呼んでいる映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』だ。
物語の舞台は、魔法国家ルシス。クリスタルの力によってニフルハイム帝国の魔の手から逃れてきたルシスだが、もはや帝国の進撃を止めることは難しくなっていた。そんな折、ニフルハイムの宰相アーデン(声:藤原啓治)がルシスに現れ、ルシスの王レギスに停戦を申し入れる。その条件として提示されたのは、「首都インソムニア以外の領土の放棄」と「王子ノクティス(声:鈴木達央)とニフルハイム配下の国・テネブラエの王女ルナフレーナ(声:忽那汐里)の結婚」だった。苦悩の末に停戦を受け入れたレギスだったが、停戦合意の調印式当日、ニフルハイムの王・イドラ(声:飯塚昭三)は、思いもよらぬ裏切りを見せる。これを受け、レギスに仕える戦士集団“王の剣”のニックス(声:綾野剛)は、仲間と共に、ニフルハイム軍に立ち向かうのだが……。
美しい「ワープ」やリアルな人間の表情 巧みなCG表現に注目
『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』主人公のニックス(右)
『FINAL FANTASY』シリーズの特徴は、美しい映像表現だ。RPG界で双璧をなしてきた『ドラゴンクエスト』シリーズが、鳥山明のキャラクターデザインに象徴される「デフォルメされたファンタジー」として人気を獲得してきた一方、『FINAL FANTASY』シリーズはリアリティとファンタジーを組み合わせた世界感で評価されてきた。最新作である本作では、その極致ともいえる映像美が生まれている。中でも、首都インソムニアの美しさには目を奪われる。機械類と自然がバランスよく組み合わさったルシスの街並みは、現代性とファンタジー性が程よくブレンドされており、東洋的な露店や西洋的な城下町の共存からは、観客が思わず引き込まれる異国情緒が醸し出されている。
アクションの描写も素晴らしい。オープニングでは、停戦のきっかけとなった“王の剣”とニフルハイム軍の大規模な戦闘が描かれるのだが、戦闘の中で“王の剣”によってたびたび使用される「ワープ」には、多くの観客が魅了されることだろう。“王の剣”のメンバーはレギスから魔法を借り受けており、彼らは剣を投げることで、その剣が位置する場所にワープすることができる。しかも、「ワープ」は連続で用いることも可能なので、他の魔法と組み合わせることにより、ニックスらは予想することが難しい戦闘を展開することができるのだ。戦闘における高速移動の表現には、『ドラゴンボール』シリーズの「瞬間移動」や、『ハリー・ポッター』シリーズにおける「姿くらまし」などの先例があるが、本作で描かれる「ワープ」は既存の表現にはない魅力を持っている。それこそが、「美しさ」に他ならない。“王の剣”が「ワープ」をするたびに、彼らが「位置していた場所」と「移動先」には軌跡としての光が発生するのだ。単純な「速さ」だけでなく、これに伴って生じる「美しさ」までも描くのは、『FINAL FANTASY』シリーズらしい意匠と言える。
宰相アーデン(声:藤原啓治)
アクションだけでなく、人物の描写においても映像の質は極めて高い。今や、CGによってあらゆる背景を描くことが可能になっているが、その一方で人物をCGで描くことには多くの課題が残されている。特に難しいのが、表情だ。表情からキャラクターが「生きている」と感じさせることは非常に困難で、多くのゲームソフトや映画製作者を悩ませてきた。確かに、本作にも課題を感じさせる部分はある。しかし、それと同時にキャラクターが「生きている」と感じさせられるシーンも多数あった。例えば、宰相アーデンが登場する序盤のシーン。憎たらしい顔つきや身振りなど、アーデンは実に生き生きと悪役ぶりを発揮しており、クローズアップで映し出された彼の表情は、俳優のそれを切り取ったかのようにリアルだった。
自己犠牲、迷い、裏切り……深い人間ドラマでアカデミー賞を目指す
映像に加えて、プロットも良く練られている。序盤では、機械と魔法、帝国主義と反帝国主義という、分かりやすい対立要素を通じて二国間の敵対関係が示され、善としてのルシス、悪としてのニフルハイムが、それぞれ魅力的に印象付けられる。停戦の申し入れを受け、ノクティスに危害が及ばないようルシスに留まるルナフレーナや、仲間を失いながらもレギスに忠誠を誓い続けるニックスに象徴される「自己犠牲」の精神も、観客の心を掴むことだろう。また、移民としての「王の剣」に向けられる差別や、彼らが主君に対して抱く猜疑心といった、善における負の側面を描くことによって、白と黒には割り切れない、複雑な人間模様を紡いでいくのも素晴らしい。アカデミー賞では、『君の名は。』や『ズートピア』など、史上最多27本の応募作品と競合することとなる本作。知名度的には一歩劣る印象が否めないが、深みのあるストーリーは審査員たちの心にきっと響くはずだ。
ニフルハイムの王・イドラ(声:飯塚昭三)
迎えた中盤。ニフルハイムの王イドラ は、卑劣な策謀によってルシスを蹂躙する。グラウカ将軍(声:?)が率いる軍勢の無慈悲な攻撃によって、美しい街並みが灰燼と化す中、ニックスはルナフレーナと共に孤軍奮闘を見せる。その過程では、予期せぬ裏切り者の出現が描かれると共に、サブキャラクターが見せる自己の行いへの逡巡が映し出されることによって、深く、悲しい人間ドラマが形成されていた。ただ、主人公として位置付けられている以上、ニックスにはもう少し肉付けがあっても良かっただろう。彼がなぜレギスに仕えることとなったのか、移民としてどんな日々を送っていたのか、こうした「過去の肉付け」がもう少し与えられていれば、レギスとの関係や、ニックスが見せる自己犠牲には、より大きな感動が生まれていたはず(これは『FINAL FANTASY XV』で明かされるのかも?)。このポイントは、先述したアカデミー賞の選考に関わってくるだろう。
『FINAL FANTASY XV』の発売が待ち遠しくなるエンディングも秀逸
とはいえ、終盤にかけて展開するアクションは、オープニング以上に美麗で、プロットの瑕疵を補って余りあるほど魅力的だ。圧倒的な戦力を誇るグラウカ将軍、そして巨大な戦闘兵器シガイに対して、レギス、ニックス、そして呼び起こされた「ルシスの最終兵器」が繰り広げる戦闘は、スピード感、ダイナミズム、美しさを兼ね備えており、ハリウッドが作るSFアクション超大作に負けないほどの見ごたえを感じさせる。激闘の末に導き出される結末は、決して心が晴れやかな気分になるものではない。美しかったインソムニアは荒廃し、人々の姿も最早見られなくなってしまう。しかし、ニックスが守り抜いた王都には、一握の希望が残される。果たして、この希望を託されたノクティスは、『FINAL FANTASY XV』でどんな冒険を見せるのだろうか。11月29日の発売が、待ち遠しくてたまらない。
Blu-ray『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』は発売中。
PlayStation®4/Xbox One『FINAL FANTASY XV』ゲームディスク付き『Film Collections Box FINAL FANTASY XV』は11月29日発売。
KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV
『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』
ディレクター:野末武志
プロデューサー:田畑端
脚本:長谷川隆
メインテーマ:下村陽子
ミュージック:ジョン・グラハム
声の出演:綾野剛、忽那汐里、磯部勉、山寺宏一、かぬか光明、関智一、藤村歩 ほか
国内配給 : アニプレックス
【ストーリー】
神聖なるクリスタルを擁する魔法国家ルシス。クリスタルを我が物にしようとするニフルハイム帝国。二国はあまりにも長い戦いの歴史を続けていた。ルシス国王レギス直属の特殊部隊「王の剣」。ニックス・ウリックら「王の剣」は魔法の力を駆使し、進行してくるニフルハイム軍を辛くも退けていた。しかし、圧倒的な戦力の前に、レギスは苦渋の決断を余儀なくされる。王子ノクティスとニフルハイム支配下のテネブラエ王女ルーナとの結婚、そして、首都インソムニア以外の領地の放棄―。それぞれの思惑が交錯する中、ニフルハイムの策略により人知を超えた戦場へと変貌したインソムニアで、ニックスはルシス王国の存亡をかけた戦いに向かう。全ては“未来の王”のために。
(C)2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
(PlayStation®4 『FINAL FANTASY XV』ゲームディスク付き)
(Xbox One『FINAL FANTASY XV』ゲームディスク付き)
発売中