役者人生40年も「まだまだ青い」と言い放つ、わかぎゑふ作・演出、リリパII 新作中華芝居『天獄界』
大阪を拠点に、いま東京と行き来して定期的に公演を行えている劇団がどれだけあるだろう。数々の人気劇団が東京に移るなかでも大阪にこだわり続けているリリパットアーミーが旗揚げして30周年を迎えた。故・中島らも氏とこの劇団を旗揚げし、現在は二代目座長をつとめる、わかぎゑふも役者生活40年になるとの風のうわさ。久しく話を聞いていなかった、関西小劇場界の姐御に話をうかがった!
■小劇場の緊張感が楽しいし、戻って来たくなる
--役者生活40周年とうかがうと、すごい数字のように感じますが、ゑふさんの実感としてはいかがですか?
わかぎ 途中で挫折して何回も辞めたので、始めてから40年というだけで、まだまだ青いなぁというのが実感です。
--青いですか! ゑふさんのすごいところは、“小劇場”という舞台を中心に続けてこられたことだと思います。劇団も30年ということで、続けてこられた推進力、持続力はなんだったと思いますか?
わかぎ 私自身は日本舞踊などの古典の世界に近いところで育ったので、飛び込みたくて入ったのが小劇場です。ですからここがベースでないと落ち着きません。小劇場はもっとも近いところでお客様に見られるので、芝居もうそは付けないし、衣裳のほころび一つで白けさせてしまうことだってあるので、気が抜けません。その緊張感が楽しいし、ほかのお仕事をいただいても戻って来たくなるのだと自覚しています。
--過去には、亡くなった維新派の松本雄吉さんに弟子入りをお願いしたこともあったとか。
わかぎ 松本さんは、人を納得させる「美」を作ることができる人でした。たとえそれがエログロだった時代でも、他に見たことのないものを見せてくれる力があった。私もかくありたいと思っています。まだまだ到底及びませんが。心は松本雄吉の弟子のつもりです。
--かつてお話しさせていただいたときに、劇場で楽しく笑ってくれたらそれでいい、劇場を出たら芝居のことなんか忘れてもらっていいというようなことをおっしゃっていた気がします。その思いはどこから出てきたものですか?
わかぎ その方針は故・中島らもさんの受け売りです(笑)。当時は座長の方針だったので劇団員としてそう答えてました。今は悲劇も作るので、それだけでは済みません。ただ私の作る芝居を見て、何かを覚えていてほしいとか、感じてほしいというより、芝居の中のせりふでもいいし、衣裳や小道具でもいいし、役者の表情でもいいんですが、お客様の心の中に何かが種として植わり、それがどんな形でも芽を出して育ってくれたら最高だなと思います。
リリパットアーミーの新作『天獄界~哀しき金糸鳥』は久しぶりの中華芝居。「ジャッキー・チェンみたいなことがしたい! 」という中島らもの一言から始まったシリーズは、遊び満載、徹底的にバカをやり続ける芝居が人気を呼んだ。わかぎもおかげで中国通になった。けれど、今の「リリパ II」は物語性の強いブラックコメディを得意としている。一癖も二癖もある、いい大人が繰り広げる新たな中華芝居とはいかに!
時は大正12年、関東大震災直後に起きた「甘粕事件」。憲兵大尉・甘粕正彦の独断により、社会運動家・大杉栄と愛人・伊藤野枝、大杉の6歳の甥が殺害された。後には4人の幼子、魔子、エマ、ルイズ、ネストルが残された。彼女たちはその後どう生きたのか? 物語は末娘ルイズ(後に留意子と改名)の成長をたどる形で進む。アナーキストを殺害した罪で服役した甘粕は出所後、満洲映画協会の理事長に就任し、「満洲の夜は甘粕が支配する」と言われほど巨大な権力を得ていく。軍人と結婚し満洲へ渡った留意子は、夫の留守に奉天の甘粕家に女中として潜入するがーー。
--久しぶりの中華芝居です。かつてのバカバカしさは炸裂するのでしょうか?
わかぎ 私が座長になってからは芝居をベースにする劇団に切り替えたので、昔のようなお祭り騒ぎにはしませんが、久しぶりに小劇場らしい遊びはふんだんに入れました。もちろんミュージックハラスメントも復活しますよ(笑)。
--大正12年という設定です。このあたりの時代は、ゑふさんはお好きだと思うのですが、どんなところに魅力を感じていらっしゃいますか?
わかぎ 人の才能や欲望が渦巻いていた時代なので好きなのかもしれません。良くも悪くもという意味ではありますけど。劇を劇的にするにはもってこいの時代なのでよく設定しています。そのほうが今を反映して見直しやすいという点でも少し前の現代というのが一番書きやすいと思っています。
■今の大阪のお客様はファッションではなく芝居を観たくてきてくれる
--今の大阪は演劇人にとっていかがですか?
わかぎ 劇場不在と言われた時期にお客様も激減しました。2010年くらいから少しずつ戻ってきていますが、それでも一時のことを思うと少ないですね。ただ、昔はファッションの一つとして小劇場を観にくる学生さんが多かったけれど、今の大阪では本当に芝居を観たくてきてくださる方が多いので、お客様の質がすごくいいと感じています。そこはうれしいです。
--ゑふさんは、この先どこへ向かっていくのでしょう。そういえば昔は、2、3時間寝れば大丈夫というぐらい動きまわっていらっしゃいましたよね?(笑)
わかぎ 来年以降は古典とのコラボをする「わ芝居」というシリーズを作っていく予定です。古典の方々と親しくしている自分の特異な環境を仕事にも反映させていいかなと思うようになりました。ちなみに来年は私の書いた本を、劇団の芝居で上演し、それを落語にも書き直して、同じ舞台のセットを使って噺家さんに落語もやってもらうということもやる予定です。睡眠時間は相変わらず短いですが、猫を飼うようになって、暇なときは一緒にお昼寝しています。
(取材・文・撮影:いまいこういち)
わかぎゑふPROFILE:
作家・演出家、大阪府出身。関西小劇場の劇団リリパットアーミーⅡ二代目座長。大阪弁の人情劇を上演するユニット、ラックシステムも主宰。2014年度から京都造形大学の非常勤講師も務める。2000年大阪市きらめき賞。2001年上演の『お祝い』の作、演出に対して大阪舞台芸術奨励賞受賞。古典に造詣が深く、歌舞伎舞踊『たのきゅう』の脚本・衣裳・演出、新作狂言『わちゃわちゃ」の作・衣裳・出演なども担当する。エッセイ本も多数。またNHKで放映中の『リトル・チャロ』シリーズの原作者でもあり、近著に「芝居上手な大阪人」(kkベストセラーズ)がある。2014年10月に上演した『おもてなし』(作・演出・出演・衣裳)に出演した女優、みやなおこが作品に対する主演を評価され芸術祭優秀賞を受賞したことで、自身の人情喜劇創作への評価も上がった。また2015年に上演した『ひとり、独りの遊戯』では戦前戦後を生き抜いた女ヤクザの半生を文楽テイストの人形やイラストを用いた巧みな演出で新境地を披露した。
全席指定4,500円/大学生以下(要学生証、玉小HP予約・当日券のみ取扱い)3,000円