話題の笈田ヨシ演出、プッチーニ歌劇『蝶々夫人』にゴロー役で出演の晴雅彦に聞いた
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話題のオペラに引く手数多のバリトン歌手 晴雅彦。
新国立劇場、兵庫芸術文化センター、びわこホールなど話題のオペラに引っ張りだこのバリトン歌手、晴雅彦。これほど色々なカンパニーから声が掛かるのは、歌の実力だけでなく他にもきっと理由が有るはず。そんな魅力に迫ろうと、あんな事やこんな事を聞いてみた。
―― たいへんなご活躍ですね。
本当にありがたいことです。次々と話題のカンパニーに呼んでいただき、感謝しています。ただ、毎日がプレッシャーとの戦いでもあります。我々の世界は実力の世界。一度でも下手な歌を聴かせると、その瞬間にあいつはもう終わったなと。そのことを自分に言い聞かせて、精進していかなければと思っています。
―― 今回の全国共同制作オペラ、プッチーニ歌劇『蝶々夫人』ではご自身のレパートリーの中でも十八番のゴロー役を演じられますね。この役で記念すべきデビューを飾られたとか。
「蝶々夫人」のゴローは特別なレパートリーと話す晴雅彦。
そうなんです。実はゴローはテノールの役。これからデビューしようというバリトンの私には音域的にもギリギリで、本来ならお引き受けすべきではなかったのですが、演出の方がぜひ私でと言っていただいたので思い切って歌わせていただきました。おかげさまでそれが好評だったようで次々とオファーをいただくようになり、これまでに30回以上歌っています。やはり同じくらい歌っているモーツァルト歌劇『魔笛』のパパゲーノと並び、私にとって特別なレパートリーです。
―― ゴローは蝶々夫人にピンカートンを引き合わせる役ですが、演出家によって役のイメージが大きく変わります。ご自身ではどういう思いで演じられていますか?
仰る通り、演出家によってはやくざのように描いたり、幇間(太鼓持ち)のように描いたり、色々な演出の付け方があります。私も色々なゴローをやらせていただきましたが、ゴローとの絡み方次第で蝶々夫人もピンカートンも役の見せ方が大きく変わるので、蝶々夫人に付き添うスズキ役と同様に大切で遣り甲斐のある役です。役作りとしては、自分のこだわりのようなものは極力封印し、演出家にすべてを委ねるタイプですね。それを繰り返してきたことで役に幅が出来てきたのだと思います。
―― 今回演出をされる笈田ヨシさんと、これまでご一緒されたことはありますか?
いえ、全く初めてお会いするので怖くもあり、楽しみでもあります。もちろん海外でご活躍されておられるのでお名前は良く存じ上げています。今回、日本人に見せるための蝶々夫人を作るとお聞きしています。その中で、私が大好きな初演版を第3幕で取り入れられるそうなので、たいへん楽しみです。初演版は現在よく演じられている版とは違い、蝶々夫人が侍の娘として威厳を持ち、媚びない姿勢が描かれていて、個人的にはリアリティがあるように感じます。ヴェリズモオペラの先駆けのような感情表現に重きを置いて書かれていて、逆に今の方が受けると思います。なかなか上演されない初演版と改訂版のミックスによる『蝶々夫人』は、きっと皆さまに気に入っていただけるはずです。
―― 今回、蝶々夫人を演じられる中嶋彰子さんや小川里美さんとこれまでに共演されたことは?
はい、何度も共演させていただいております。お二方とも凄く美しく、圧倒的な華もありながらとてもパワフル。卓越した技術もお持ちですので、素晴らしい蝶々夫人になると思います。最近のオペラでは、日本人と外国人のキャストが混在することは珍しくはありません。ですが、今回は日本人の役は日本人が、外国人の役は外国人が演じるので、お客さまには自然に入ってくると思います。
―― 引く手数多の晴雅彦さんですが、ここまでのご自身の半生を振り返って、オペラ歌手というお仕事は天職だと思われますか。
柔らかな物腰で人生は必然!と語る晴雅彦。その表情は自信に満ち溢れている。
ここまで色々なことがありました。オーディションに落ちたことも有りましたが、スケジュールが空き、時間が出来た事で後から来た海外の仕事が入ったり……。結果として最善の方向に流れていると思います。その瞬間は良くないと思った出来事も、後で振り返ればアレで良かったんだ!と思うことばかり。“人生は必然!” 私はそう確信しています。
――最後に、今後の抱負をお聞かせください。
もっともっと歌いたい歌、演じたい役はあります。これまで同様に素晴らしいカンパニーでやらせて頂けるように頑張っていこうと思っています。それと、今とても楽しいのが後進の指導です。母校の大阪音楽大学で教えています。学生に教えていると、自分もはっと気が付くことがたくさんあります。自分ももっと頑張らないといけないと思いますし、教える事は歌うことと同様に私に与えられた使命だと思っています。
話題のオペラに数多く出演し、大活躍の晴雅彦。インタビューは出演中の新国立劇場の歌劇『ラ・ボエーム』の合間に行われた。30回以上もゴロー役を演じている晴雅彦が、今回のゴローは本当に楽しみと語る。ピーター・ブルックの作品には欠かせない笈田ヨシが、演出家として日本デビューとなる話題の歌劇『蝶々夫人』。豪華な出演者が集結した話題のプロダクションだけに、今から上演が待ち遠しい!
(取材・文・撮影:磯島浩彰)
「プッチーニ歌劇『蝶々夫人』の記者発表レポートはこちらからご覧ください。
⇒https://spice.eplus.jp/articles/93676
2/18~19◎東京芸術劇場コンサートホール
※蝶々さん:中嶋彰子(2月19日出演)・小川里美(2月18日出演)[ダブルキャスト]