ありったけの愛と祝福が照らした、シアターブルック30年の歩みと進化
シアターブルック
シアターブルック 30th Anniversary Party THANK YOU 2016.12.9 恵比寿LIQUIDROOM
会場の恵比寿LIQUIDROOMのフロアに脚を踏み入れると、天井にはレトロなデザインのレースとシャンデリアが設えられていて、ジプシーの天幕を思わせるような、アンティークテイストのダンスホールでもあるような、ちょっと不思議な空間が広がっている。開場から開演までの間はDJタイムを楽しめるようになっており、僕が到着した際にはDJ 吉沢 Dynamite.jpが80’sHITSを片っ端から投下していた。マドンナ、マイケル・ジャクソン、ポリス、イエス……心地よく音に身体を委ねているうちに、グラス(カップ)片手のオーディエンスがだんだんと集まってくるあたり、イベントタイトル通りパーティーらしい。年齢層は30代以上がメインといったところで、フェス会場でよく見かけるタイプのファンのほかにも、背広をロッカーにぶち込んできました、といった体のYシャツ姿から、一見“ロックとか聴くのか?”というマダム風ご婦人、普段の仕事が気になる奇抜な出で立ちのお方まで、みな一様にワクワクを隠しきれない様子で開演を待っている。
シアターブルックの結成30周年を記念して開催された、『30th Anniversary Party THANK YOU』の話である。
30年。あらためてよく考えると、時の流れという意味だけで言ってもとんでもないことだ。会場に集まったファンの年齢からそれぞれ30を引いたらどうなるか、と想像しただけでもなんだかゾッとするし、しかもその間ずっと現役でロックバンドを動かし続けてきたという事実は途方もないことである。そして30年も経てば色々なものが変わっていく。それぞれに年齢を重ねていくのはもちろん、流行や文化も移ろい、要するに時代そのものが変化していく。それは決して良いことばかりではないのだ。一口に変化、といってもそれは進化なのか、退化なのか?
はじめに「この30年って何だったろう」と佐藤タイジ(Vo/G)は問いかけた。彼らが活動を続けてきた間に、国や社会、そこに暮らす人々のあり方はどう変わったのだろうか。戦争のできる国になろうとしているじゃないか、メルトダウンした原発の問題は収束の兆しがないではないか。そう彼らしくハッキリとした調子でシリアスな問題提起を口にしたあと、こう続ける。
「俺たちは30年間、数々の修羅場をくぐり抜けて進化をしてきました。俺たちは退化したくないんです、進化をしたいんですよ」「今日は昔の仲間も一緒に、その進化を見せたいと思います」
そのままソリッドにしてダイナミックな音塊をフロアに放つと、コール&レスポンスから「裏切りの夕焼け」になだれ込み、特別なパーティーの幕が上がった。
Candle JUNEの手がけた大小様々なキャンドルライトが温かい光を放つステージには、白ジャケットでキメたフロントマン・佐藤タイジ、中條卓(Ba)、エマーソン北村(Key)、沼澤尚(Dr)のレギュラーメンバーに加え、DJ 吉沢 Dynamite.jpがDJとして、与西泰博がマニピュレーターとして、それぞれ立っている。「昔の仲間」と佐藤が評したように、この日のライブは過去にシアターブルックに在籍していた2人を加えた6人体制で行われた(ちなみに初代ボーカルの新見茂仁も客席に駆けつけていたそうだ)。「悲しみは河の中に」「捨てちまえ」とライブは進んでいき、佐藤はボーカルを執りながら、エレアコにエゲツないエフェクトをかけたり歯切れの良いカッティングを繰り出したりと、とにかく華のあるギタープレイで魅せる。中條はほとんど微動だにしない寡黙なスタイルながら随所に気の利いたフレーズを盛り込み、北村の弾くオルガンやピアノの音色はときにサイケにときにファンキーに楽曲を彩っていく。それらのアンサンブルを支える沼澤のドラムプレイはとんでもなく正確にしなやかに、複雑なフィルも当たり前のようにこなす。肉体性とかグルーヴとか、よく耳にする言葉だけどこういうことだったのか、みたいな音楽体験。もはや説明するまでもない名うてのプレイヤーたちによるドリームバンドという側面もあるシアターブルックの演奏は、ただひたすらに眼福(耳福?)だ。
曲を経るごとにどんどん大きくなる歓声の中、「すごい懐かしいヤツやりますよ」と佐藤のワウを効かせたギターから始まったのは「Here We Go THEATRE BROOK No1」。「(発表したのは)レッチリの前座をやったすぐ後だから、90年とかかな」という活動初期の楽曲だが全く古臭さは感じられず、むしろ近年のディスコサウンドのリヴァイバルやソウル/ファンクがロックやポップスに自然と融合している状況における、お手本のような楽曲といえる。<30周年のおめでとう/ありがとう>と歌詞を変えて歌う佐藤に会場は大いに盛り上がり、そこから、この日のライブをソーラー電力で撮影するためのクラウドファンディングが目標額を達成したことの報告とそれに対する感謝を告げ、第1部のラストナンバー、すっかりお馴染みとなったプリンスの「Purple Rain」をリスペクト満載にカバーしてみせた。そう、この日は2部構成となっていたのだった。「一旦休憩させていただきます。……30年やからね(笑)」との自虐も飛び出していたが、単に休憩時間というだけでなくインターバルの間に周りのファン同士で語り合ったりお酒を飲んだりという時間が生まれたことは、この日が“PARTY”と銘打たれた以上、とても意義があったと思う。久しぶりに会う人もきっといるだろうから旧交を温めてほしい、と佐藤が言っていた通り、ロビーでは実際に「うわぁ、久しぶり!」みたいな会話をしているファン同士が何組もいて、ちょっとほっこり。
第2部は「俺の手にはギター」からスタート。ブラックミュージックの質感のあるゆったりとしたナンバーに、色気や艶を感じさせる歌声が混ざり合うオトナなテイストで攻める。2部はそっちのモードなのか?と思ったのもつかの間、沼澤が弾んだリズムを刻み始めると一斉にクラップが巻き起こったのは80’sディスコ調のダンサブルな「How do you do Mr.President」だ。ここでゲストコーラス/ダンスとして「新しい友達を紹介します」と呼び込まれたのは今枝珠美。軽やかに舞い歌う彼女の姿にステージが一気に華やぐ中、佐藤も途中でギターを下ろしたかと思ったら、ステップを踏み始め、終いにはダンス姿まで披露してくれた。やり終えた後のちょっと照れたような表情も込みで、会場は大ウケ。大盛況である。
後半に向け、会場はどんどんシアターブルックの音世界に浸っていく。ゆったりとしたサウンドにキラキラとした鍵盤の音色が合わさり、アシッドハウス期のUKロック的なアプローチをみせたのは「Horse-Shit」。1993年の楽曲だから、海の向こうの最も尖ったサウンドをシアターブルックが当時いち早く日本で再現していたということであり、その事実に今更ながら驚かされた(93年の日本のヒットソングを検索してみればその異質さがよく分かる)。「心臓の目覚める時」では、佐藤が再びエレアコをガンガンに弾き倒し、オトナのファンクでオーディエンスの身体を容赦なく揺らしていく。ここでライブ前日がジョン・レノンの命日にあたったことを受けて「俺はジョンとヨーコを全身全霊で、心の底から尊敬しているよ。じゃないと俺ら、ロックなんてやってる意味ないよね」と、佐藤タイジという男の魂の所在を明らかにし、一呼吸おいてから「……やるよ。「ドレッドライダー」」と宣言。一斉に沸き立つフロアに向け、無敵のナンバーが打ち鳴らされるとボルテージは沸点を超え、無数のピースサインに送られながら、「ドレッドライダーは走ることを止めないぜ」とライブはクライマックスへ向かう。
ラストナンバーの前には、佐藤が数日前に届いた朝本浩文氏の訃報にも言及。言葉自体は決して長いものではなかったが、故人との思い出や追悼の意がひしひしと伝わるようなMCだった。30年も経てば当然、別れもたくさんあるわけで、それは人の生き死にだけではなく、バンドが無くなってしまったり、音楽から離れてしまう場合だってある。思わず、シアターブルックが30周年を迎えたことと、その祝福にこれだけの人数が集ったことの奇跡性を、ここであらためて噛みしめた。そうして静かに流れ出したイントロは「まばたき」だった。<さあ 今ここを旅立つのは勇気がいるぞ / 心を決めろ ドアを開け 一歩踏み出せ>と、集まったファンたちの、そして自らの背中を押すようなフレーズが、ロックンロール×ラテンのリズムという黄金律に乗せて届けられる。たくさんの笑顔と拍手に包まれる中、「30年やってこれました。ホンマにみんなのおかげです。ありがとうございました」と感謝の言葉を口にして、ライブ本編を締めくくった。
当然アンコールは鳴り止まず、メンバーは再びステージへ。あらためて会場を見渡しながら「いやぁ、やってて良かったなぁ」としみじみ呟く佐藤タイジ。きっと客席も同じ感想だったであろう。「出会って良かった」「聴いてきて良かった」。
そして再び今枝をコーラスに呼び込んで妖精のグルーヴたっぷりに演奏されたのは、ソーラー武道館スタート以降のシアターブルックにとって欠かせない曲となった「もう一度世界を変えるのさ」、そして彼らの代表曲中の代表曲といえる「ありったけの愛」。大シンガロングと次々に突き上げられる拳、ありったけの祝福が場内を満たし、佐藤は心底嬉しそうに、そして楽しそうにギターをかき鳴らす。このライブ中ずっとそうであったように、とても長尺で、けれどいつまでも聴いていたくなる、テクニカルなだけでなく歌うようなギターソロ。僕は30年前のシアターブルックを観ていないけれど(4歳だったし)、その当時から、いや、きっともっともっと以前から、佐藤タイジはこうやって楽しそうにギターを弾き、ロックンロールを体現してきたのだろう。
そして喜ぶべきことに、彼らの旅路はまだまだ続く。
<終わりのない行き先には ガソリンはあっても銃はないぜ>――30年を通過点に、ロックンロールと愛と平和を高々と掲げながら終わりのない旅路を走り続ける彼ら。シアターブルックが40周年、50周年を迎えたとき、Yシャツ姿は定年しているかもしれないし、マダムはもう老婦人になっているかもしれないけれど、またこうしてみんなで“太陽”の下に集い、祝うことができたなら、それは言うまでもなく最高である。
取材・文=風間大洋 撮影=naoaki okamura / daisuke hirano
1. 裏切りの夕焼け
2. 悲しみは河の中に
3. 捨てちまえ
4. ぜんまいのきしむ音
5. ただの道
6. Here We Go THEATRE BROOK No1
7. Purple Rain(プリンスカバー)
8. 俺の手にはギター
9. How do you do Mr.President
10. 五反田ディレイセンター
11. Horse-Shit
12. 心臓の目覚める時
13. ドレッドライダー
14. まばたき
[ENCORE]
15. もう一度世界を変えるのさ
16. ありったけの愛