SHISHAMO史上最も「バンドっぽかった」ツアー、そのファイナルに確かな成長とタフなバンドの姿をみた
SHISHAMO
SHISHAMO ワンマンツアー2016秋「夏の恋人はもういないのに、恋に落ちる音が聞こえたのはきっとあの漫画のせい」 2016.12.11 Zepp Tokyo
人間に成長期があるように、バンドにも急激に成長する時期が訪れることがある。SHISHAMOにとっては11月11日から12月11日までの1か月間に渡って9都市13公演で行われたツアーがその期間に該当しそうだ。初日のZepp Tokyoと最終日のZepp Tokyoのステージを観たのだが、彼女たちは見違えるほど、いや、聴き違えるほどの成長を遂げていた。初日は初日なりの良さがあったし、鮮やかな始まり方だったのだが、ファイナルは1本1本のステージを着実に積み重ねてきたからこその磨き抜かれたパフォーマンスが展開された。ここでは初日を踏まえつつ、最終日の模様をレポートしていこう。
ステージの光景で印象的だったのは宮崎朝子(Gt/Vo)と松岡彩(Ba)と吉川美冴貴(Dr)の3人が作り出す三角形のフォルムの見事さだ。もちろんこれまでだって山ほど三角形を形成してきたわけだが、奏でる音が強靱になったのに伴って、そのトライアングルがさらに強固になっていると感じたのだ。3人がアイコンタクトを取り、吉川のスティックのカウントで始まったのはツアー・タイトルの一部にもなっている新曲「きっとあの漫画のせい」だった。初日と同じ始まり方だが、音が鳴り響いた瞬間からすべてが違う。キレが増してタイトでソリッド。アンサンブルも整理されて、空間的な広がりとスケール感もアップ。グルーヴはよりしなやかで有機的になっている。ギター、ベース、ドラムの音の輪郭がよりくっきりしながら、ニュアンスに富み、歌の自由度も増している。つまり単純に音楽の楽しみそのものが増幅されていた。いい曲がさらにいい曲になっていると感じたのはきっと息の合った演奏のせいだ。さらには「中庭の少女たち」「量産型彼氏」へ。観客の反応も最初から熱狂的だ。間奏で宮崎がステージの真ん中から突き出た花道の途中まで歩いてギター・ソロを披露すると、ひときわ歓声が高くなった。
宮崎朝子
「ファイナルなんですよ、今日は。11月11日から始まりまして、全国回ってきまして」と宮崎が言った後に、マイクをはずして生声で「Zepp Tokyo!」と叫ぶと、「イエ~イ!」と観客が応える。「女!」「男!」に続いて、「ぼっちで来た人!」という言葉にたくさんの声が上がると、「いいね」と宮崎が笑顔を浮かべた。カップルからぼっちまで様々な層に届く身近で普遍的なテーマを、彼女達はみずみずしいタッチで描いている。宮崎のソリッドなギターソロで始まったのは「僕、実は」。このあたり、ライブ前半の流れを形作るセットリストも初日とは変化していた。恋と友情の板挟みで葛藤して困惑する主人公の心境がエッジの効いた歌と躍動感あふれるグルーヴによって浮き彫りになっていく。次も初日とは違う曲、「きみと話せないのは」。この曲の主人公も戸惑っている。ままならない思いを緩急自在の演奏によって表現していく。松岡の太いタッチのベースで始まったのは「デートプラン」。間奏でのギターとベースとのかけ合いもいい感じだ。最後は三角形になってのフィニッシュ。細かなところでの精度の向上が気持ち良さ、痛快さに繋がっている。
松岡彩
「ツアー、あっという間だね」と宮崎が言うと、「一瞬でファイナルになっちゃったね」と吉川。「ツアー中、なんかあったっけ?」という宮崎の問いに、吉川が「ケンカしたよね」と答えると、「でも仲直りしたもんね」と松岡。ちなみにケンカの理由は吉川のリュックのヒモを松岡が踏んだとか、踏んでないとかいうことだった。そんな理由でケンカするのはそれだけ近い関係だからだろう。もうひとつの大きな出来事はツアー中に吉川が誕生日を迎えたこと。「ツアーを回っていたおかげで自分の人生史上、最大の長い期間で祝われてました」と吉川が笑顔で発言。「でもそれ以外はないね。この期間、ライブしかしてない。こんなにライブ三昧だったツアーは初めてだったね。私は個人的には良かったなと思ってます」と宮崎が言うと、「私も充実してた。バンドっぽかった」と吉川。松岡も「バンドっぽかった」と同意。つまりそうしたライブ三昧の日々がこのステージに結びついているということだろう。
吉川美冴貴
初日にも披露された新曲「すれちがいのデート」は演奏の回数を重ねることで、履き慣れた靴のようにバンドと歌とがしっくりと馴染んでいた。しなやかさ、伸びやかさと躍動感とが絶妙のバランスでミックスされることによって、歌の世界が立体的になっていた。続けて披露されたもう一つの新曲「終わり」も、切迫感あふれる歌と疾走感と焦燥感とがスパークしてような演奏がスリリングだった。恋の終わりをこんなにも炸裂するサウンドによって描いていけるところが画期的だ。ポップ、ロック、パンク、オルタナティブなど、様々なジャンルの音楽を咀嚼して、既成の枠組や固定観念に囚われず、彼女たちは自分たちのオリジナルの世界を自在に作り上げているのではないだろうか。
会場で募集した“お悩み”を解決していく“SHISHAMOの部屋”というトークコーナーもあった。3人が花道に出てきて、ひとつひとつの悩みに答えていくと、会場内が笑いに包まれていく。相変わらずのぶっちゃけトーク、率直な発言が楽しい。トークに続いては、宮崎がギターからエレキピアノへ楽器をチェンジして、松岡も着席してベースをプレイして、じっくりと聴かせるブロックへ。まずは「あの子のバラード」「昼夜逆転」が披露された。これらの歌の主人公たちも葛藤し、悶々としている。彼女たちのトークのようにスパッと悩みを解決するわけではないのだが、悩みまでも共有していけるような繊細な歌の世界はSHISHAMOならではだろう。音楽によって人生の難問を共有することは、おそらくハードな現実と対峙していく上で力となっていく。ぼっちであってもぼっちではない。彼女たちの音楽はそんな感覚をもたらしてくれる。さらに「冬の唄」へ。せつない宮崎の歌声に吉川のニュアンス豊かなドラムスと深みのある松岡のベースが寄り添っていく。
宮崎朝子
冬の空気感がまだ会場内に残っている中で始まったのは、初日には演奏されなかった「熱帯夜」だった。冬から夏へ、季節が逆走していくような展開だが、太陽がギラギラ照りつける灼熱の夏とはちょっと違う雰囲気が漂っていく。ファンキーでムーディーな演奏からは夏の夜の湿度高めの空気の重さ、気怠さまでもが伝わってきた。エンディング近くでラテン的なグルーヴへとチェンジして、3人が三角形になってブレイクを繰り返しつつフィニッシュ。続いての「旅がえり」はツアーという旅の最終地点で演奏されることで、リアルな現実ともシンクロしていくかのようだった。この曲も後半は三角形となっての演奏。3人の思いが重なり合っていくようなエモーショナルな演奏が染みてくる。
松岡彩
恒例となっている吉川のMCコーナーはファイナルということで、ツアー中に感じたことがテーマになっていたのだが、ここでの発言は感動的だった。バンドを結成してからずっと自分がSHISHAMOのドラムである必要性があるのか引っかかっていたこと、そしてその引っかかりが今回のツアーを回ることで解消されたことなど、率直な思いが語られたのだ。「自分がドラムをやっていることをみんなに受け入れてもらっていると感じられるツアーでした」とのこと。つまりこのツアーを回ることで、バンドはさらにバンドになっていったのだろう。
吉川美冴貴
吉川のMCでさらにスイッチが入って、「恋に落ちる音が聞こえたら」からの後半はバンドサウンド全開の演奏が繰り広げられた。ソリッドなギターで始まった「僕に彼女ができたんだ」では観客もハンドクラップで参加して、エネルギッシュな空間を共有していく。漫画に例えるならば、熱血漫画のエンディングのような展開だ。「タオル」では観客が一緒にタオルを回して、会場内に充満していた熱気をかき回していく。さらに「生きるガール」、「君とゲレンデ」でラスト・スパート。
「次が最後の曲です。寒いんですが、今年の夏を思い出しながら聴いてもらえたらうれしいです」という宮崎の言葉に続いての「夏の恋人」では、それぞれが思いの詰まったプレイを披露していく。感傷的な要素もあるのだが、センチメンタルに浸るだけではなくて、ひとつの季節に別れを告げて、次の季節へと向かっていく予感も漂っている。ツアー・ファイナルの本編ラストを飾るのにふさわしい歌と演奏だ。
アンコールは「みんなのうた」からの始まり。力強くて温かなバンド・サウンドによって、体も心も温まっていく。この後、2017年2月22日にニューアルバム『SHISHAMO 4』がリリースされることが発表され、ツアー中に作ったという新曲「好き好き!」も初披露された。アルバムへの期待が高まっていくようなポップでエネルギッシュでロマンティックな曲だ。恋する気持ちの高ぶりが軽快なグルーヴに乗ってダイレクトに届いてくる。まるで『夏の恋人はもういないのに、恋に落ちる音が聞こえたのはきっとあの漫画のせい』というツアー・タイトルの続きのストーリーのようにも響いてきた。充実したツアーは創作活動にもいい影響を及ぼしているようだ。
MCでは3人それぞれがツアーの感想を述べた。まずは吉川から。「今回のツアーはライブが詰まっているツアーだったので、バンドのあるべき姿で回れたツアーなのかなと。すごく楽しかったです。ありがとうございます」というところで吉川が一瞬、感極まったのか、言葉に詰まってしまうと、宮崎から「SHISHAMO、泣いたらクビだよ。そういうルールがあるんです」とのこと。そうクールに言い放ちつつも、実は3人ともクビのピンチが訪れる瞬間があったのではないかと思ってしまった。松岡はこんな感想。「今回のツアーは始まったのがついこの前という感じで、終わってしまうのが寂しいなと思っています。今日はみなさんのおかげで楽しくできました」 宮崎の感想は、「お客さんとの距離も近くて、SHISHAMOを聴いている人の顔がよく見えたツアーでした。楽しかったです。感謝してます」とのこと。2017年3月31日には日本武道館公演が行われることも発表された。
宮崎朝子
アンコールラストは「君と夏フェス」、そして「恋する」。今回のツアーを完全燃焼していくようなエネルギッシュな演奏によって、会場内も熱狂の渦に包まれていく。宮崎が花道に出てきて、笑顔でプレイしている。松岡が下手の最前列に出てきて、笑顔で歌いながらの演奏。吉川もドラムを叩きながら、歌う場面が目立っていた。ファイナル公演の演奏が素晴らしいものとなったのはメンバーそれぞれがより踏み込んだ演奏をしながら、息の合ったアンサンブルとグルーヴを形成していたからだ。“合わせていく”のではなくて、それぞれが思う存分、歌の世界を追求することによって自然に“合っていく”。バンドはより自由になることで、さらなる一体感を獲得しつつあるのではないだろうか。演奏が終わると、3人は花道の前に並んで手を繋いで、その手を高く挙げていた。最後は生声で「ありがとうございました」と挨拶して、ツアーは幕を閉じた。終演後、<船はあるのか>と歌われるTheピーズの「東の窓」がBGMとして流れた。すでにSHISHAMOの新たなる船出はもう始まっているのだろう。ひとつの終わりはたくさんの新しい楽しみを連れてきた。2017年、彼女たちは新曲たちを携えて、無敵の三角形を形成しながら、新たな景色を見せてくれることになるのだろう。
取材・文=長谷川誠 撮影=岡田貴之
2. 中庭の少女たち
3. 量産型彼氏
4. 僕、実は
5. きみと話せないのは
6. デートプラン
7. すれちがいのデート(新曲)
8. 終わり(新曲)
9. あの子のバラード
10. 昼夜逆転
11. 冬の唄
12. 熱帯夜
13. 旅がえり
14. 恋に落ちる音が聞こえたら
15. 僕に彼女ができたんだ
16. タオル
17. 生きるガール
18. 君とゲレンデ
19. 夏の恋人
[ENCORE]
20. みんなのうた
21. 好き好き!(新曲)
22. 君と夏フェス
23. 恋する
(読み:ししゃも よん)
『SHISHAMO 4』
UPCM-1404 ¥2,700(税込)
01. 好き好き!
02. すれちがいのデート
03. 恋に落ちる音が聞こえたら
04. 終わり
05. 恋
06. 音楽室は秘密基地
07. きっとあの漫画のせい
08. メトロ
09. 夏の恋人
10. 魔法のように
11. 明日も
「明日メトロですれちがうのは、魔法のような恋」
[アリーナ編]
03.18(土) 愛知 日本ガイシホール
03.20(月・祝) 兵庫 神戸ワールド記念ホール
03.31(金) 東京 日本武道館
04.09(日) 福岡 福岡サンパレス
04.15(土) 新潟 新潟テルサ
04.16(日) 長野 ホクト文化ホール・中ホール
04.22(土) 北海道 札幌わくわくホリデーホール
05.20(土) 愛媛 松山ひめぎんホール・サブホール
05.27(土) 岡山 岡山市民会館
06.03(土) 宮城 仙台サンプラザホール
06.07(水) 福島 club SONIC iwaki
06.08(木) 山梨 甲府KAZOO HALL
06.11(日) 和歌山 SHELTER
06.13(火) 福井 響のホール
06.15(木) 鳥取 米子AZTiC laughs
06.16(金) 山口 周南RISING HALL
06.19(月) 高知 キャラバンサライ
06.21(水) 大分 DRUM Be-0
06.22(木) 宮崎 WEATHER KING
代:前売 ¥4,400 (税込)
※3歳以上必要
※ライブハウス編 1DRINK代別(福井公演のみDRINK代無し)
一般発売日:
アリーナ編 2017.01.15(土) AM10:00~
ホール編 2017.02.19(日) AM10:00~
ライブハウス編 2017.04.23(日) AM10:00~