正戸里佳(ヴァイオリン)と福原彰美(ピアノ)が織り成すドビュッシーの世界
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(左から)正戸里佳、福原彰美
正戸里佳と福原彰美がカフェライブに初出演! 第57回“サンデー・ブランチ・クラシック” 2016.12.18ライブレポート
クリスマスまで残り1週間を切り、街はすっかりクリスマスの装いとなっていた。12月18日、渋谷のeplus LIVING ROOM CAFE&DININGで開催された『サンデー・ブランチ・クラシック』では、ともに初出演となる若手奏者、正戸里佳(ヴァイオリン)と福原彰美(ピアノ)を迎えた。
13:00、正戸は明るい薄紫のドレス、福原は鮮やかな青緑のドレスで、それぞれ舞台に登場する。早速2人が披露したのは、エルガー作曲「愛の挨拶」だ。優しげなピアノの伴奏に乗って、有名なヴァイオリンの旋律が奏でられる。愛情に満ちた曲想にふさわしい、伸びやかで明るい音色だ。2人で息を合わせ、曲の中に小さな溜めをつくることで、聴衆を音楽の中に引き込んでいる。ピアニシモの息の長い音で曲は終わるが、弱音でも音にしっかりとした存在感がある。
正戸里佳(ヴァイオリン)
福原彰美(ピアノ)
拍手にこたえながら、まず正戸が挨拶をした。
「私は、普段はフランスのパリに拠点を置いて活動しながら、時折日本に戻って演奏をしています。フランスでの暮らしはもう8年になりますので、今日はフランスものを取り入れたプログラムにしています。次に演奏するのは、ドビュッシー作曲のヴァイオリン・ソナタです。第一次世界大戦中の1917年に作曲された、ドビュッシー最後の作品です。3つの楽章からなり、幻想的な場面やリズミカルな場面、力強い場面などの転換を楽しんでいただけたらと思います」。
続いて、福原も「私は15歳からアメリカに渡り研鑽を積んできました。次にお届けするヴァイオリン・ソナタは、私の大好きな曲なのですが、パリから帰国した正戸さんと共演する機会なので、是非これを弾こう、ということで取り上げました」と語ってくれた。
カフェには初出演の2人
2曲目となる、ドビュッシー作曲「ヴァイオリン・ソナタ」の演奏が始まる。第1楽章。弱音で始まる冒頭部分は、幻想的で少し物悲しいが、やがて激情を感じさせる盛り上がりを見せる。強弱が次々と変化するが、メリハリがきいていて鮮烈な印象を与える演奏だ。
続いての中間部は、逆にゆったりした雰囲気。甘美で伸びやかなヴァイオリンの旋律と、雨だれを思わせるピアノの伴奏の掛け合いが印象に残った。やがて冒頭の旋律が回想され、演奏は再び緊張感のあるものに。目まぐるしく変わる曲想を、見事に表現していた。
第2楽章は、軽快な間奏曲だ。技巧的なパッセージの多い、スケルツォ的な音楽である。激しいピッツィカートなどで、視覚的にも魅せる演奏となっている。響きは現代的だが、フランス風のエスプリも感じさせる。高音域の激しい刻みがインパクトを与えるかと思えば、直後にゆったりとした旋律を奏で、対比を上手く聴かせることで、曲の不思議な魅力を引き出している。
第3楽章は、小川のせせらぎにも似た、ピアノの軽く美しく音で開始する。少しずつ盛り上がるヴァイオリンが、田舎の歌のような華やかで楽しい旋律を奏でた。ヴァイオリンが技巧を見せたあと、楽想は一転して気だるげで官能的な雰囲気になる。細かい音も自在に操るピアノ、ピアニシモでも遠くまで飛ぶようなヴァイオリンが印象的だ。最後は消え入るような弱音から、一気に駆け上がるように頂点を作って曲を締めくくった。
食事を楽しみながらクラシックを
演奏が終わると、まず福原が「ドビュッシーのソナタは、本当に弾くのが楽しい曲です。特に2楽章は1小節ごとに作曲家の指示が変わるので、それをどう活かして音色を作るのか、リハーサルのとき2人で話し合うのはとても楽しかったです」と今回の共演について話してくれた。
続けて、正戸が「続いて演奏するのは、『タイスの瞑想曲』です。これは歌劇『タイス』の間奏曲で、娼婦タイスが修道士アタナエルに改心を説得され、熟考する場面で演奏されます。原曲ではオーケストラとヴァイオリンですが、今日はピアノとヴァイオリンでお聴きください」と次曲を紹介。
マスネ作曲「タイスの瞑想曲」。安らぎに満ちたピアノの序奏に乗せて、息の長いヴァイオリンが旋律を奏でる。柔らかく優しい音色は、聴衆をリラックスさせ、音楽に没入させる。「瞑想曲」というタイトルにふさわしく、聴く人の心の雑念を消すような演奏に仕上がっていた。リラックスして音楽を楽しめるのがこの演奏会のコンセプトだが、自然に会場全体が曲に集中しているのが手に取るようにわかった。
そして早くも、演奏会はプログラムの最後の曲を迎えることに。4曲目に演奏されたのは、クライスラー作曲「中国の太鼓」だ。エキゾチックな旋律が持ち味の快活な曲で、ヴァイオリンの軽やかな早弾きが目と耳を楽しませる。テンポの速い箇所でも、1つ1つの音が丁寧に作られているのがわかる。
中間部は一転して、のんびりと陽気に歌うような楽想へ。ビブラートを十分につけながら、歌心たっぷりにメロディを聴かせる。曲は再びテンポを速め、軽やかに駆け抜けるように終わった。
普段とは違う雰囲気の中で
満場の拍手を受けながら、2人は一礼して謝辞を述べた。「短いミニコンサートでしたが、お楽しみ頂けましたでしょうか? 私たちにとっても、楽しい時間でした」と福原が述べると、正戸が「アンコールは、ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』をお聞きください」とアンコール曲を紹介してくれた。
ドビュッシー作曲「亜麻色の髪の乙女」。まずピアニシモのヴァイオリンが、有名な旋律を奏でる。弱音でも弱々しくならず、人をあたたかく包み込むような存在感を備えている。伴奏のピアノも、夢の中にいるような心地よい空気を作り出していた。甘く美しい旋律だが、音量のあるところは情熱的な面ものぞかせる。曲は終わりに向かってだんだん静まっていき、余韻を残して閉じられた。
「あたたかい拍手をありがとうございます。私たちは来年にもコンサートを予定していまして、是非お越しいただけたらと思います」と、福原の挨拶に続けて、2人が今後予定しているコンサートの告知を行った。
福原は、2017年2月10日(金)に、ベヒシュタインサロン汐留にて、オール・ショパン・プログラムのピアノコンサートを予定している。正戸は、2017年2月5日(日)に、サントリーホールにてオルガン・リレー・コンサートに出演する。サントリーホールが改装のため休館するのに先立っての特別公演で、オルガンとのデュオに挑戦するそうだ。
演奏後は、ステージの近くで、和やかにファンと談笑する光景が見られた。聴衆と演奏家の距離が近いカフェならではの風景だ。
サインを書く正戸
演奏後にお客様とのふれあいも
終演後におこなったインタビューで、正戸は会場の雰囲気について、「2人ともeplus LIVING ROOM CAFE&DININGには初出演で、初めのうちはカフェでの演奏に普段と違う感じがしました。でも、だんだん会場の空気感もわかってきて、お客様が注目している様子などがすごく伝わってきました。演奏していてとても楽しかったですし、新鮮でした」と語ってくれた。
福原も、「食事やドリンクを楽しみながら聴いてもらうのですが、時々手を止めて聴いてくださっている姿も演奏中目に入るので、とても嬉しく感じます。コンサートホールだと、客席の様子は暗くて見えないのですが、LIVING ROOM CAFEでは会場全体が一体になった雰囲気で、楽しく演奏できました」と感想を述べた。
インタビュー中の様子
2人の共演は今回が初めてとなるが、それについて正戸は、「今回は3日間にわたってリハーサルを行いましたが、特にドビュッシーのソナタは世界観を共有できるよう気を配りました。他の小品は、主旋律と伴奏とが比較的わかりやすく作られていますが、ドビュッシーの場合は2つの楽器で音色を作っていかなければいけません。特に重点的に、2人で弾き合い、話し合って調整しました」と語る。
2人にとって、今回のドビュッシーのソナタは特別な思い出になったようだ。
「今回の曲の中では特にドビュッシーのソナタが印象的でした。この曲は前から弾きたかったのですが、今回正戸さんがフランスからいらっしゃるということで、フランスもののドビュッシーをリクエストしました」(福原)
「本番前には、『会場ならではの響きや音色を聴き、お客様とも音楽を共有できるように、臨機応変に弾こう』と話し合いました」(正戸)
今後の活動についてもお話を聞いた。正戸は来年2月5日のオルガン・リレー・コンサートについて、「共演するオルガニストの梅干野(ほやの)安未さんは、パリ国立高等音楽院で知り合いました。パリでは教会でのコンサートで共演したりもしましたが、今回は何年ぶりかの共演となります。サントリーホールのオルガンは、まだ生で聴いたことがないので、どんな響きになるかとても楽しみにしています」と話す。また、3月4日(土)には、故郷の広島でもリサイタルを予定している(会場:広島市西区民文化センターホール)。ピアノに望月優芽子を迎え、ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタなどを演奏する予定だ。
来年2月10日にオール・ショパン・プログラムのコンサートを控えている福原は、「ショパンは大ホールでの演奏より、サロンでの演奏を好んだそうですが、この企画は至近距離でショパンの音楽を楽しむのをコンセプトにしています。私はオールショパンのリサイタルは初めてなので、欲張ってバラード全曲とスケルツォ1,2番をプログラムに加えました。体力勝負になるので、まずは体力作りから頑張ろうと思います(笑)」と語ってくれた。また、福原は来年に、ブラームスの晩年の作品を集めたCDのリリースも予定している。
正戸は最後に、「私はパリに住んで8年になりますが、来年は特にフランスものを重点的に取り上げる演奏活動をしていこうと思っています。本場フランスの音楽を、日本の皆さんに楽しんでいただければ」と今後の展開について語った。福原も、「毎年自主リサイタルを行っているのですが、毎年聴きに来てくださるお客様がいらっしゃいます。そうした方に、少しずつ自分の成長を見ていただけるのはとてもありがたいと思います」とファンへの感謝を語る。
「来年2017年は、ブラームス没後120周年となります。来年はショパンとともに、ブラームスの音楽に力を入れていく予定ですので、楽しみにして頂ければ」と、ファンに向けてメッセージを送った。
正戸と福原は、それぞれフランスとアメリカで研鑽を積み、素晴らしい音楽を作り出してくれた。今後も届けられる音楽に注目だ。
正戸里佳(ヴァイオリン)、福原彰美(ピアノ)
毎週日曜日、午後の昼下がりに渋谷のカフェでおこなわれる『サンデー・ブランチ・クラシック』。ぜひ一度訪れてみてほしい。
取材・文=三城俊一 撮影=岩間辰徳
広島市出身。06年第51回パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールでは第3位を受賞。ポーランド放送室内合奏団、広響、大フィル、日フィル、札響等国内外のオーケストラと共演し好評を博す。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマを経て2009年に渡仏。パリ国立高等音楽院修士課程をプルミエ・プリ(一等賞)およびフランソワーズ・ドゥロー賞をもって修了。
現在同音楽院の室内楽科で研鑽を積む一方、ヨーロッパを中心にサル・プレイエル、シテ・ドゥ・ラ・ミュジク、ルーヴル宮殿にてリサイタルを行う等多彩な演奏活動を展開している。ヴァイオリンを長谷川夕子、飯田芳江、前橋汀子、工藤千博、原田幸一郎、ローラン・ドガレイユ、パトリス・フォンタナローザ、ジョルジュ・パウクの各氏に師事。
使用楽器は1710年製ジュゼッペ・グァルネリ(フィリウス・アンドレア )
福原彰美(ピアノ)
PTNA・C級金賞、全日本学生音楽コンクール小学生の部・西日本大会第2位他、数々受賞。
10歳で米国ユタ州、ジーナ・バックアワー国際ピアノコンクールエキジビションコンサート、12歳で世界的ピアニスト、シプリアン・カツァリス氏のプレコンサート(於サントリーホール)に出演。その翌年ワールド・ユース・オーケストラと共演。15歳で単身渡米、サンフランシスコ音楽院でマック・マックレイ氏に師事。全米の音楽大学が共同で行うコンサヴァトリー・プロジェクト(於ケネディーセンター、ワシントンDC州)にソリストとして抜擢される。
日本では2010年6月に高名なチェリストであるクリスティーヌ・ワレフスカ氏の要請により、氏の日本公演の伴奏ピアニストを務める。これまでに多胡まき枝、松岡三恵、マック・マックレイ、シャロン・マン、ヨヘイヴェド・カプリンスキー各氏に師事。室内楽をイアン・スワンセン、フレッド・シェリー、ニコラス・マン各氏に師事。
日時:2017年2月5日
会場:サントリーホール
共演者:梅干野安未
※
正戸里佳 リサイタル
日時:2017年3月4日(土)
会場:広島市西区民文化センターホール
共演者:望月優芽子
米津真浩/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
3月19日
松田理奈/ヴァイオリン&中野翔太/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
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