TK(凛として時雨) × 原田郁子(クラムボン)が聖夜にアコースティックセットで競演 初のセッションでも観客を魅了!

2016.12.26
レポート
音楽

TK 撮影=河本悠貴

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2016年はソロとして3rdアルバム『white noise』を9月にリリースし、初の上海、台北(各1000人キャパ)を含む全10公演からなるツアーを成功裡に終了したTK(凛として時雨)。彼が、2012年から恒例となった『December’s Calling』に今年も出演。今回は、今年行われた凛として時雨の自主企画ライブでもバンドとして共演したクラムボンから、原田郁子を招いての2マン・スタイル。TKも345も原田の大ファンで、ピエール中野はクラムボンのミトに自身の作品で演奏を依頼するなど、実は親交の深い両者だけに今回の競演はファンの期待値も高い。

原田郁子 撮影=河本悠貴

暗転したステージにさりげなく登場した原田郁子はガットギターを爪弾きながら、ポツリポツリとメロディを発する。そこにリアルタイムにサンプリングを行うアーティスト、Ametsubが情景喚起力抜群のサウンドを重ねていくという手法がいきなりイマジネーションを拡張していく。「新しい人」「Walking in the rhythm」と、彼女もボーカル参加するFISHMANSの名曲をカバーしたが、「昨日、ここで東京スカパラダイスオーケストラのライブがあったそうで、まだ熱気が残っているかな?そのバンドのドラマーである茂木欣一さんがその前にやっていたバンド、FISHMANSの曲を歌います」という、初めましてのオーディエンスにも親切な紹介だったのが印象深い。

原田郁子 撮影=河本悠貴

グランドピアノに向かってからは、さらに原田郁子のミュージシャンとしての閃きとスキルが深遠な世界を立ち上げて行った、迫真のオリジナル「青い闇をまっさかさまにおちてゆく流れ星を知っている」。ポップ・ミュージックのボーカルと、楽器としての声の間をいくような、自然と呼応するようなボーカルが素晴らしく、そんな即興性の高い原田のボーカルをあらゆるフィールド音や、最低限のビートで瞬時に呼応していくAmetsubの手腕も冴え渡っていた。そして「あいのこども」「きみはぼくのともだち」と、盟友ハナレグミとの共作を2曲披露したところで、Ametsubの名前の由来でもあり、「凛として時雨っていうバンド名にも”雨”が入っているので」と、ラストにはクラムボンの「雨」をチョイスした彼女。ピアノと歌とサンプリングで水を感じさせるようなサウンドスケープを描いていく二人。全編をとして、波のうねりや水の流れを感じさせるような有機的なグルーヴと、生音とエレクトロニックをその場で融合するという先鋭性を同時に体現し、新しい音楽体験に満場の拍手がこだましたのだった。

原田郁子 撮影=河本悠貴

転換中、ホワイエではワインやシャンパンも用意され、緊張感の中にも音楽そのものを楽しもうとするある種の余裕が感じられるイベントになってきたことを感じつつ、もはや『December’s Calling』のメインアクトになった感のあるTKのステージが暗転とともにスタート。まずグランドピアノで素直な心象を歌う「tokio」を披露するのだが、ギター同様、ピアノも独特のタイム感を持って演奏されることを再認識した。アコースティックギターがセッティングしてある場所に移動し、時雨のバンドアレンジでは超絶にエクストリームな「abnormalize」をディレイと硬質なカッティングを駆使しつつ、より言葉とメロディが際立つ”弾き語りを超えた弾き語り”で再構築してみせる。続く「感覚UFO」も同様の流れだ。

TK 撮影=河本悠貴

4曲目の「unravel」では、“TK from 凛として時雨”でもおなじみの大古晴菜のピアノが加わり、うっすらとまるでストリングスのようなギターのエフェクトも。エモーショナルなバンドバージョンに比べて、ある種、シンガーソングライター的な歌の芯が聴こえるアレンジがメロディを際立たせていく。それでもアコギの常識を覆すディレイや空間系のエフェクトが、時空の感覚を自在に拡張・収縮させるのは、ギタリストTKにとってはもはやエレクトリックもアコースティックも境界がない感覚なのかもしれない。その上でやはりアコギだからこそのパーカッシブな聴感が残るコードカッティングも醍醐味になって、およそアコースティックギターとピアノのアンサンブルというイメージからはどんどん逸脱していく。

TK 撮影=河本悠貴

ボーカル表現は弾き語りであってもつぶやくようなニュアンスからハイトーン、時に絶叫まで、曲が持っているニュアンスをバンドスタイルと大きく変えない。それがむしろギリギリの感情や寂寞を音圧や轟音ではない中で聴くことができるのがリスナーとしては最大の妙味でもありスリルでもあり、回を重ねるごとにそのスタイルがTKにしかできない無二の表現として自然なものとして捉えられるようになってきた。オーディエンスのムードも緊張しているだけではなく、そのサウンドスケープと生身の歌に身を任せているようなフシもあるからだ。この形態でしか味わえないグルーヴが定着した証とも言えるだろう。

TK 撮影=河本悠貴

終盤には“凛として時雨”の初期楽曲「Sergio Echigo」。深いデプスをまとったエコーと人力ループを巻き起こすアルペジオ、そしてつぶやきから絶叫へと変質していく感情を映すボーカルが圧巻だった。そしてラスト1曲を前にガットギターに持ち替え、本編の最後に「シークレットG」を演奏。柔らかいニュアンスの単音、怒涛のようなコードカッティングとフレージングから生成されるグルーヴは、実際、本当に1本のギターのものなのか? にわかに信じがたいほど重層的だった。

TK 撮影=河本悠貴

アンコールで登場したTKは、花を贈ってくれたファンとピエール中野に感謝の言葉を述べ、大古を迎えての「seacret cm」を演奏。さらに原田郁子とAmetsubを呼び込み、4人編成での「white silence」を披露することに。この時、初めてテレキャスタイプのおなじみのエレクトリックギターを手にしたTK。しかしアコギとは一転、削ぎ落としたプレイで、ピアノやフィールド音と融合した、この4人ならではのアンサンブルで聴かせたのも心憎い。そして原田が彼女の解釈で歌うメロディがもはやカバーの域を超える消化を見せていたのも素晴らしい発見だった。音楽に向かう気持ちの純度、不確かな感情に形を与えるスタンスという意味では、この上ない顔合わせとなった今回の『December’s Calling』を象徴するような幕引きであった。


取材・文=石角友香 撮影=河本悠貴

セットリスト
L’ULTIMO BACIO Anno 16 December’s Calling 2016.12.22 恵比寿ガーデンホール
 
原田郁子(クラムボン)
1. 新しい人
2. Walking in the rhythm
3. 青い闇をまっさかさまにおちてゆく流れ星を知っている
4. あいのこども
5. きみはぼくのともだち
6. 雨
 
TK(凛として時雨)
1. tokio
2. abnormalize
3. 感覚UFO
4. unravel
5. like there is tomorrow
6. Signal
7. テレキャスターの真実
8. Sergio Echigo
9. シークレットG
[ENCORE]
10. seacret cm
11. white silence(Session)

 

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