二人芝居『豚小屋』上演中、北村有起哉×田畑智子にインタビュー

2017.1.7
インタビュー
舞台

『豚小屋』というストレートなタイトルからどんな物語が想像されるだろう。自国の軍を脱走して以来、母屋ではなく、豚小屋で息を潜めて暮らすパーヴェル。夫は戦死したものとして未亡人を装い彼を匿う妻のプラスコーヴィア。二人が唯一ささやかな交流を結ぶ小さな空間からは世界の様相ばかりではなく、この世の真理までうかがい知れる。豚に囲まれながら得体の知れない恐怖に揺れ、疲弊し、落ちていくパーヴェルの潜伏生活は、やがて30年を迎える。二人はどんな希望を持って未来に向かっているのか––。

第二次世界大戦中、旧ソ連軍から脱走し、41年間も豚小屋で生きていた実在の人物をモデルに、南アフリカ共和国の劇作家アソル・フガードが戯曲化した二人芝居。年末、北村有起哉田畑智子に聞いた。

二人芝居は時間がなくて忙しい

写真提供:地人会新社

--お稽古の様子はいかがですか?

田畑 もうスケジュール的には大詰めなんですが、通し稽古を終えてやっと体が慣れてきた感じです。本読みのときはどうなるんだろうと思ったんですけど。

北村 台本は薄いんですけど、ざっと2時間もあるんですよ。

田畑 でもとても終わったあとに清々しい気持ちになれる作品なんです。

--ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、ラストは違う次元にいってしまう感じですもんね、カタルシスを感じるというか。それぞれ二人芝居の経験は?

田畑 初めてです。二人芝居のオファーがあると聞いたときに演出が栗山民也さんで、相手役が北村さんと聞いて、楽しみな気持ちが強かったから台本を開く前に決めていました。読んでびっくり、大丈夫かなと思いましたけど(笑)。

北村 僕は最近思い出したんですけど、二人芝居を過去に2回やっているんです。山本亨さんと『蜘蛛女のキス』、『豚小屋』と同じアソル・フガードさんの『ハロー・アンド・グッドバイ』を栗山さんの演出で。久世星佳さんと兄妹役でした。

--じゃあ、北村さんは二人芝居はお手の物ですね?

北村 なに言ってんですか、そんなことないですよ!(笑) パーヴェルは一回登場するともう出ずっぱりなので、稽古場では台本のチェックする時間もなくて。しかも俺は、俺は、俺はって本当によくしゃべるんですよ。

田畑 ずっとしゃべっているもんね。

北村 智子ちゃんが長いせりふをしゃべっているときに、頭の中で台本をめくっているんですよ。智子ちゃんが4ページしゃべるから、5ページ先を準備しなきゃって。

田畑 それ、すごくわかる。

写真提供:地人会新社

やっぱり人間は一人では生きていかれない

--台本を読まれたときに、これはどういう話だと思われましたか?

田畑 全く想像できませんでした。豚小屋に何10年も匿っているという生活ってどんなだろうと。実際にあった話だそうですけど、そんな体験したこともないし。

北村 当たり前じゃない(苦笑)。してみたいの?

田畑 そんなわけないよ! でもこの二人は毎日の生活をどんな気持ちで送っているのだろうかって。プラスコーヴィアのせりふは現実的だけど、パーヴェルはいろいろ哲学的なことをしゃべっていてまるっきり温度が違う。話す内容に差がありすぎるんですけど、二人にとってはこれが日常なんだということを見せなきゃいけない。でも稽古していくうちに、夫婦ってこんな感じなのかなと思ってきました。

北村 売れない芸術家を支えている感じだよね(笑)。プラスコーヴィアは食事だ洗濯だって具体的な話しをするのに、パーヴェルは生活力も何もないくせに夢やロマンばっかり。僕、そんなにアソル・フガードさんを知ってるわけじゃないですけど、『ハロー・アンド・グッドバイ』も似ていましたよ。はっきりとしたメッセージがあるわけじゃなくて、スポットを当てるのが隠れて隅っこにいるようなマニアックな人たち。でもそこに優しい光を当てている。僕らももしかしたら同じ境遇になっていたかもしれないと感じさせてくれるんです。笑えたり、時には残酷で胸が苦しくなったりするけど、だからこそ共感もできるのかもしれない。二人が寄り添う絆というか愛というか、智子ちゃんが清々しいと言ったラストも本当はすごく胸に迫るんです。やっぱり一人では生きていかれないんだなって。パーヴェルは豚との関係を断ち切って、一歩踏み出すんだけど30年ってかかりすぎ!(笑)。臆病が勝って(脱走した罪で)銃殺刑になりたくない気持ちが強かったんだろうけど。

田畑 私、豚小屋のセットの中に入るたびに金魚鉢の中にいるような感覚に陥っていたんです。苦しくてパクパクしている金魚のようだった。それがここ何日かでようやく生きやすくなってきた。

北村 それはそれでどうなんだろう? 苦しいままのほうがいいんじゃない?

田畑 え、そうなのかな? なんか土が踏めてきた感じがするんだけど。

写真提供:地人会新社

--30年という時間をどう描くかが難しい気がします。パーヴェルは人でなくなりかけたりもする。

北村 どこまで退化できるのか、精神、肉体、魂、人間の尊厳がどこまで腐っていくのか、実際やってみないとわからないですね。本当に想像するしかないんです。社会と完全に関係を断ち切っているけど、プラスコーヴィアがいるから人間でいられたわけで。

田畑 うん。けれどプラスコーヴィアは女性としての幸せ、喜びを彼が戦争から帰ってきてからすべてを我慢している。人との接触も最小限にしていて、子供も産めないし、何を頼りに生きていたのかなあと女性としては考えますね。

北村 別の男のプロポーズも断って。

田畑 苦笑

北村 でもプラスコーヴィアは絶対、パーヴェルのことが好きで結婚してくれたんだと思うんですよ。ちゃんと甘えられる存在だと思う。いつも問題にぶつかると背中を向けて逃げ出してしまう、ちょっとしたことでも彼女が励ましてくれた中で本当に小さな幸せを共有してきたのかなあと。それとも「なんで、こんなやつと結婚したったんだろう」って考えていたのかな?

田畑 考えていたと思うよ(笑)。

北村 ハハハハ!

写真提供:地人会新社

--この作品を演じる手がかりはどんなところですか。

北村 正直、今のところまだないんですよ。本当にパーヴェルはなに考えているんだろうって。子供のころなにがあったんだろう、親との関係はどうだったんだろうと想像するしかない。1日があと8時間多くあれば、ぼんやり考えることもできるのに。

田畑 きゃははは!

北村 栗山さんって僕にこういう役を演じさせたがるんです。ウジウジしていて、成熟しきってなくて、しょうもない感じ。それでだいたい汚い(爆笑)。ただ、やっぱりお客さんにはある程度共感していただかないといけない。ワケのわからないことばかりしゃべっている、ただのわがままな男じゃ見ていてもつまらないでしょう。

田畑 栗山さんがよくおっしゃるんですけど、バカバカしいやりとりを真剣にやっていて、その姿が愛おしくチャーミングに見える夫婦になれればと思いますね。

(取材・文:いまいこういち)

写真提供:地人会新社

《北村有起哉》
1998年、舞台『春のめざめ』と映画「カンゾー先生」で俳優デビュー。最近の主な出演作品はドラマ「ちかえもん」「怪盗 山猫」「赤めだか」、映画「太陽の蓋」(主演)、「オーバー・フェンス」、舞台『BENT』、『十一ぴきのネコ』、『戯作者銘々伝』など。第15回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。待機作に、ドラマ「千住クレイジーボーイズ」(2月15日放送予定/NHK BSプレミアム)、舞台『ハムレット』)4月9日~/東京芸術劇場プレイハウス)、映画「関ヶ原」(8月26日公開予定)。

 
田畑智子
1993年、相米慎二監督「お引越し」で主演デビュー。第67回キネマ旬報新人女優賞などを受賞。2000年にはNHK連続テレビ小説「私の青空」にてヒロインを演じる。以降、映画・ドラマ・舞台など幅広く活躍中。最近の出演作品は、映画「ソロモンの偽証 前篇・事件 / 後篇・裁判」、「鉄の子」(主演) 、舞台『幕末太陽傳』、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』など。

 
公演情報
地人会新社『豚小屋』

■日程:2017年1月7日(土)~15日(日)
■会場:新国立劇場小劇場
■作:アソル・フガード
■翻訳・演出:栗山民也 
■出演:北村有起哉 田畑智子 
■料金:全席指定A席6,500円/B席5,000円/25歳以下3,000円
※1月7日のプレビュー公演は全席指定3,500円/25歳以下2,000円
■開演時間:7・10・12日19:00、13・日曜・祝日14:00、11日14:00と19:00、14日13:00と16:00
■問合せ:J-Stage Navi Tel.03-5912-0840(平日11:00~18:00)
■公式サイト:地人会新社 http://www.chijinkaishinsya.com/