バンドよりも日常的で、どこか俯瞰的な音――ホリエアツシに訊く、entの5年ぶり新作『ELEMENT』とは

2017.1.10
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ent 撮影=上山陽介

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前作『Entish』から、待つこと5年。ホリエアツシのソロプロジェクト・entの3rdアルバムがついに完成した。タイトルは『ELEMENT』。エレクトロ、アンビエント、インディロックといった要素をより緻密にミクスチャーし、時代のサウンドと彼の心の内なる響きとを、美しく紡ぎ合わせた至高の音。ストレイテナーとは違う、もうひとつの彼の顔がここにある。

――entの曲を語るときって、ちょっと違いますか。ストレイテナーを語るときとは。

何というか、entって、音楽ファン目線で作ってるところがあるんです。バンドよりも日常的であって、でもちょっと俯瞰的でもあるというか。今回は制作期間の幅があったから、旬の音というよりも日常寄りな、自分の好きなルーツみたいなものになってますね。

――これまでの2枚とは、性格が違う?

そうですね。特にセカンドは、その時の旬を、“今だからかっこいい音”を目指して作っていたので。それとは異なる感じはしますね。

――逆に言うと、5年前のセカンドと、今とでは、旬の音が変わってきていると。

変わっていきますね、やっぱり。いろんなジャンルに共通して、電子音の使い方やリズムだったりとか、音使いもだいぶ変わってきてるんで。この1枚には、いろんな時期の曲が入ってるんですよ。一番古いものは、4年前に録っていて。

――ちなみにどれですか。

リミックスなんですけど、11曲目の「Silver Moment 12MIX」。もともとファーストに入ってるから、2009年の曲なんですけど、2012年にリミックスして、2017年に出すという(笑)。

――よくわからない(笑)。今リミックスし直せばいいじゃないですか(笑)。

そうなんですけど、これがすごく良くて。2012年の音なんですけど、確実に。僕の趣味として、2012年の頃にやりたかった音。それが一番古くて、その次が「Sunset Moonrise」ですかね。

――その頃の音は、よりエレクトロっぽいというか、電子音主体ですね。音の質感として。

逆に今は脱エレクトロというか、打ち込みはリズムだけで上にアコースティック・ギターを乗せるという、7曲目の「Forever and Ever」とかが最新の感じなんですよ。極力音数を減らして歌を聴かせようという。
アルバムを聴いてると、途中途中で、“あの時はこういうものをやりたかったんだな”とあらためて感じますね。4曲目の「Healer」は、3年前ぐらいに、“次のアルバムはこういう路線で行こう”と思って作った曲なんですよ。……全然その路線一色にならなかったですけど(笑)。

ent 撮影=上山陽介

――あらためて。entの曲って、ストレイテナーとはまったく出どころが違うんですか。頭の中の。

作り方は全然違うんですけど、最初の出だしというか、メロディをハナウタで作っている時は、どっちの曲にするかは決めてなくて。ただ最近は、ストレイテナーの曲には強いフックを持たせようとしてるので、フックがないまま、気持ちいいまんまで完成するような曲は、entにとっておく。
あとは「Healer」みたいな曲は、メロディというよりもトラックを作り込んで、フレーズみたいな歌を乗せるというやり方をしているし。「悲しみが生まれた場所」は、自分で言っちゃいますけど、“いい曲だな”と思いながらも、これはバンドでやるよりも自分で音を重ねて行って、こじんまりとした世界観の中で、心の奥の方に浸透していくようなアレンジがいいなと思ったので。すごい気に入ってたけど、これはentにしたいと思ったんですね。……いい曲だけど。

――それって語弊あるんじゃないですか、いい曲だけどentにって(笑)。

どっちが曲として映えるかとか、説得力を持たせられるかを考えた上ですね。いい曲は、ストレイテナーに持って行ったほうが、圧倒的に聴いてくれる人の数が多いので。いい曲は、たくさんの人に聴いてほしいから、ということになるんですけど。

――ああ、なるほど。そういう判断のもとに。

そもそもentを始めたときって、ストレイテナーのファンに聴いてほしいわけじゃなかったからインディーやアンダーグラウンドの音楽ファンをターゲットにしていて、プロフィールもあいまいにしてたんですけど。

――名乗ってなかったですからね。正体が誰だかわからなかった。

でもリリースしたレーベルの人から「Atsushi Horieという人がやっているということだけは、出させてもらっていいか」と言われて、渋々OKして。

ent 撮影=上山陽介

――わかる人はわかると。

レコード屋さんも、やっぱり売りたいし。“もしかして、あの?”とか書かれてましたけど(笑)。ストレイテナーと一緒に並べてあったりして。
まあでもバンドのオフィシャル的にはアナウンスせずに、ターゲットはこういう音楽を好きな人、エレクトロやインディロックのリスナーに特化したかったんですよ。それが時を経て、良い音楽はジャンルに捉われることなくたくさんの人に聴いてほしいと思うようになって、徐々視野を広げていった感じですね。

――昨日、3枚並べて聴いてみたんですよ。ファーストはいい意味で荒々しいというか、宅録感満点の音で。

あれがいいんですよね。あれが好きという人は結構いて、ちょっと進化しちゃったセカンドは、あんまり評判良くない、みたいな(笑)。セカンドは、結構がっつり作り込んだんで。

――そうですね、ビートもしっかり効いてたし。そういう意味で言うと、この『ELEMENT』は、どういう性格のアルバムになるんですか。

今回は、ファーストとセカンドのどちらの要素もあるんですけど、ちょっとファーストに戻った感じがありますね。シンプルだし。
わかりやすく環境が変わって、パートナーであるレコーディングエンジニアの菅井(正剛)くんが、ファーストの時は六畳のワンルームに住んでて、機材も最小限だったり、僕がギターや鍵盤を持って行って、ベッドの上に置いて弾いてるみたいな。高円寺だったんですけど、絵的にもろに中央線感が出てましたね(笑)。外を車が通った騒音で録り直しとか。近くにお寺があって、ずっと木魚の音がしてて作業中断とか(笑)。

――あはは! それいい。入れちゃえばよかったのに。

そんな中でやってたから、いい感じのローファイさが出てますけど。今は自宅にミックス用のスタジオがあって、機材も充実していて、菅井くんが提案してくれるシンセ機材やリズムのループ素材だったり、いろいろと試しながらやってます。セカンドほどのハイテク感は出したくないと思ったので、重ねてる音も少ないですね。ギターも、エレキ1本、アコギ1本に決めていて。

ent 撮影=上山陽介

――たとえば1曲目「How To Fly」は、どういう作り方をしたんですか。

ギターを爪弾きながら作った曲を、打ち込みのリズムを乗せて、エレクトロニカからダンサブルに展開するようにしたら面白いかなと。途中でリミックスしちゃったみたいなノリですね。「How To Fly」と「悲しみが生まれた場所」は、このアルバムの軸というか、リードしていく曲だろうなとは最初から思っていて。この2曲があったらアルバムできるな、と思ったんですよ。

――「How To Fly」って、エレクトロニカやダンス・ミュージックの香りがありますけど、もっと昔のソフトロックとか、バロックポップとか、そういう感じもするんですよね。フルートみたいな音が入ったり、クラシカルな要素があるなぁと思って。

ああ、そうか。僕からすると、渋谷系な感じなんですよね。

――わかります。渋谷系のさらに一時代前みたいな感じがします。

日本っぽさも、ちょっと意識しましたね。

――それはどのへんに?

フルートの音だったりとか。海外のテクノには、あんまりこういう音は入ってこないんですよ。インスパイアされてるのは洋楽なんだろうけど、J-POP的な解釈が前面に出ていて、日本語で歌っているからかっこいい感じってあるじゃないですか。ほかにもちょいちょい、鍵盤ハーモニカを使ったりとか。

――「Forever and Ever」ですね。

それと、「The Awakening」の途中から入ってくるのが、鍵盤ハーモニカの音です。あと「The Awakening」は、下手くそですけど、ドラムを自分で叩いてます。それを切って貼って。最初に打ち込みだけで作ったら、硬くて味気ないリズムになっちゃったので。生音の空気感が必要だったんですよね。

ent 撮影=上山陽介

――日本っぽさと言われると、思い当たる節はあちこちにありますね。「素子」の、琴のような和音階とかにも。

ですね。あれは「来た!」と思いましたね。タララランって弾いた瞬間に。

――そうだ、これを聞かなきゃ。8曲目の「Imagine」、これ、カバーではないですよね?

違います(笑)。これはアレンジの途中で「Imagine」のフレーズが頭の中で鳴り出して。そこからそのまんま、「Imagine」っていうタイトルにしちゃったんですけど。

――大丈夫ですか。真面目な話(笑)。

サンプリングでもなくて、パロディーみたいなものだと思ってくれれば。曲は全然違うし。

――インディロック好きにも、エレクトロニカ好きにも、ギターポップ好きにも、それぞれハマるポイントが確実にあるので。聴き手を選ばないアルバムだと思います。普通に自分で聴きますか、このアルバム。

聴きます。

――おすすめのシチュエーションとか、ありますか?

車の中とかですね。この間、ソロで信越を巡った時に、自分で車を運転して、それを撮ってもらって、ロード・ムービーみたいなものを作ったんですよ。このアルバムのトレーラー用に。映像を曲に当てはめていって、たとえば「Healer」だったら、ひたすらトンネルの中だけとか。あとは海、空、街とか、風景的なイメージは、曲ごとにありますね。

――確かに。サントラ感はあります。

歌とか歌詞とか、中身がガツンと入って来るというよりは、ちょっと俯瞰的な要素があるというか。そこにentに対する自分の姿勢があるような気がしますね。自分が聴いていたいという。

――わかります。

だからか、アルバムが完成してからずっと聴いてはいるんですけど、未だに歌えないですからね(笑)。聴いちゃってるから、口ずさめない。聴くのと歌うのとが、別になってきたのかなと。意識が別なんでしょうね。
子供の頃とかは、聴いていたら自然に歌えたんですけど。不思議なもんですよね。今は、聴いてるだけじゃ全然覚えない。

――ドカーンと行ってほしいですか。それとも……そんなに行かなくてもいいですか(笑)。

もちろんバンドのファンにも聴いてもらいたいですけど、いろんな層の人に口コミで広がっていってくれたら。entの音楽が好きで、でも僕のことは知らないという人に、たまに出会うことがあるんですよ。

――へええ。それは面白い。

そういう出会い方をしてもらえると、うれしいです。坂本美雨ちゃんのラジオに出た時に、ストレイテナーとしてけっこう前から知り合っていたのに、「entってあなただったの?」って言われたんですよ。

――ネタみたいな話(笑)。でもそれは、しめしめ、ですね。

entのリミックスをしたHeliosというアーティストが好きで、そこから辿って曲を聴いたと言っていました。そういうのって、いいですよね。

――アルバム・タイトルは『ELEMENT』。要素ですか。

意味としては、1曲1曲が自分のルーツだったり、好きなものの結晶であるような、そういうアルバムが作れたなという印象が、タイトルにつながってるんです。entという文字も入れたくて、前作が『Entish』だったので、その流れもあって。

――ライブはやりますか。やってください、ぜひ。生で聴いてみたい、いい曲ばかりなので。

ツアーは組んでないんですけど、僕自身のソロで、弾き語りではやってるんです。サンプラーを使った方法なんかも考えてはいます。「悲しみが生まれた場所」も弾き語りで披露しましたし、聴きたい方は、とりあえずソロのライブに来ていただければ!


取材・文=宮本英夫 撮影=上山陽介

ent 撮影=上山陽介

リリース情報
3rd ALBUM『ELEMENT』
2017.1.11 Releasse
全11曲入り 価格:2,800円(税抜)
品番:初回盤デジパック TYCT-69108
 
■トラックリスト
1.How To Fly
2.悲しみが生まれた場所
3.Autumn Nightmare
4.Healer 
5.Perfect Light
6.The Awakening
7.Forever and Ever
8.Imagine
9.素子-Soshi-
10.Sunset Moonrise
11.Silver Moment  12MIX

 

ライブ情報
「ツタロックpresents『順不同vol.1』フルカワユタカ×ent  supported by 新代田FEVER」 
出演:フルカワユタカ、ent ※順不同
日程:2017年3月8日(水) OPEN 18:00 / START 19:00
会場:新代田FEVER
※当日のライブ内容は、2組ともソロのアコースティックライブを予定しております。
詳細は、下記イベントHPをご確認ください。
http://tsutaya.jp/jyunfudo-vol1/