odol×PELICAN FANCLUB 2マンライブ『凄い日』を控える新世代バンドは何故共鳴するのか
odol・ミゾベリョウ / PELICAN FANCLUB・エンドウアンリ、カミヤマリョウタツ 撮影=風間大洋
UK.PROJECTの中でもユニークな個性を持った存在、odolとPELICAN FANCLUBが、その名も『凄い日』と銘打った2マン・ライブを3月3日に開催する。かたやサウンドの柱としてピアノが重要な位置にありながら、ロックバンドとしての意義と日常的な心象を描くバンドとして存在感を増してきたodol。かたや瞬間の感情をもはや狭義のドリームポップとかギターロック、シューゲイザーとかに括れないバンドアンサンブルで鳴らし始めたPELICAN FANCLUB。乱暴に言えば静と動、パッと見では対極を行く両バンドだが、深いところでは共振するものがあるのだと言う。今回はPELICAN FANCLUBからエンドウアンリ(Gt,Vo)とカミヤマリョウタツ(Ba)、odolからはミゾベリョウ(Vo,Gt)を招いて、互いの音楽観や、イベント『凄い日』に至る経緯を聞いた。
――バンド同士の交流のきっかけはなんだったんですか?
エンドウアンリ:一番最初にodolと出会ったのは仙台で。そのあとに僕らはタワーレコード渋谷店B1FのCUTUP STUDIOでインストアイベントがあったんですけど、odolを呼んで2マンという形でやって、そこからだんだん仲良くなりました。
ミゾベリョウ:一歳とはいえ、僕の方がエンドウさんやカミヤマさんより下なんで、敬語で話してたんですけど、みなさん仲良くしてくれます。……最初はちょっと怯えてたんですけど(笑)。
エンドウ・カミヤマリョウタツ:ははは!
――それはなんで?
ミゾベ:なんか……怖いなぁとか思ってたんです。僕らはあまり仲良いバンドがいなくて、自分たちの中に閉じこもりがちだったんですけど、PELICANに会って、優しい先輩もいるんだと思って、そっから他のバンドにも話しかけたりするようになりました。
――エンドウさんがodolとの2マンを誘った理由は?
エンドウ:純粋に曲が好きで。それにライブの空気感とかを、いわゆるシーンとして見せたいなと思って呼んだんですよ。“PELICANがodolと一緒にやってる”というところを見てもらいたいって気持ちがあって。
ミゾベ:分かります。(共演の)回数自体はそんなに被ってないんですけど、PELICANがこんなことをしたとか、こういうところでライブしたとか、新曲が出たとか聞くと、僕らもすごく刺激をもらえます。曲作りの中でも――たまにこう、メロディの作り方とかアレンジの作り方でいろんなアーティストの名前が出るんですけど、「これPELICANっぽい感じでベース弾いて」とか。
エンドウ:(笑)。
ミゾベ:「PELICANっぽいコーラスにしてみた」とか(笑)。
カミヤマ:(笑)。僕らも(odolを)すごい好きなんですよね。シンパシーを感じるし、仲良くなる前から楽曲を聴いた時点でそう感じてて。何だろ? 同世代で、レコード会社が同じUK.PROJECTってのもあって……UK.PROJECTの若手って他にもいっぱいいるんですけど、その中で一番、同じ音楽の作り方をしてる感じがするというか、スタンスが似てるのかな?って思いますね。
エンドウ:僕はodolとライブをすることにすごく興奮を覚えます。そういう意味で今回一緒にやれたらなと思って実現したんですよね。
odol・ミゾベリョウ 撮影=風間大洋
――先ほど、エンドウさんがodolとライブをやる空気感が……って話してましたが、odolのライブって極めて音楽的じゃないですか。演奏する、煽らない、ほぼ喋らない。お客さんの演奏に対する集中度とかもすごいし。
エンドウ:そうですね。だから、自分たちが持ってるものと比較して憧れてしまう部分が多いですね、odolに対して。例えば、ライブ中にあんまり煽らないことにしても、彼らのスタイルで。もちろん、僕らもより音楽的でありたいという気持ちがあるけど、ライブのスタイルに差があるわけじゃないですか。そこが面白いなと思って。だから『凄い日』っていうイベントについても、気持ちは同じなんですよ、僕らは。表現の仕方は全く真逆であっても、観る人は同じ気持ちで観られるはずなんですよね。切り替えなくていいというか。
ミゾベ:むしろ僕たちも……僕たちのスタイルがマイノリティなのかマジョリティなのかは置いておいて、PELICANのライブを観て刺激を受けるところが多くて。それは僕らに出せない面――エンドウさんがこう、ちょっとシュールなことを言って、みたいなことは僕らにはできないし、煽ったりっていうのも僕らにはできないなと思ってるんで、刺激にもなるし……まぁ、ちょっと凹むというか。
――(笑)。両者がなぜ惹かれるのか、具体的に解析していきましょうか。お互いに近作で好きな曲といえば?
カミヤマ:最初は『YEARS』、1曲目(「years」)が一番好きだったけど、今は「綺麗な人」もめっちゃ好き。
ミゾベ:あれこそPELICANぽく作ったと言うか。
カミヤマ:あ、そうなんだ?(笑) 最初のコードからいいと言うか。鳴らしてる感がいい。
ミゾベ:だいたい、森山が曲作るんですけど、あの曲をデモで作ってきたのはギターの井上で。井上が作ると他の曲と違って結構ギターメインというか。
カミヤマ:ああ、確かに。
ミゾベ:森山がギター弾けなくて、デモの段階ではギターを入れられないから、リフみたいのだけ最初にあって、そのあとにメロディを乗せたんですけど、ずーっと2コードで、サビも2コード。
エンドウ:PELICANっぽいね(笑)。
ミゾベ:(笑)。メロディもPELICANをだいぶ意識して。……僕は並行して歌詞を書いてた「years」では意味が主体になるように書いたんですけど、「綺麗な人」では、それよりも歌詞のメロに対する乗せ方を意識して作って。そのあたりもPELICANを意識して作りました。
odol・ミゾベリョウ / PELICAN FANCLUB・エンドウアンリ、カミヤマリョウタツ 撮影=風間大洋
――ミゾベさんはPELICANの好きな曲といえば?
ミゾベ:一番最初に好きだったのは「Capsule Hotel」なんですけど、近作でいうなら、「記憶について」。ライブで聴いて、「あ、こういうことだったんだ」って思いました。歌詞の一言一言のフレーズが、自分の今まで考えてきたことに対して胸を打つというか。ライブで音楽を見せることって、こういう風にやるべきなんだという、ちょっと啓示を受けた感じがあって。
エンドウ:「記憶について」が入っているアルバム『OK BALLADE』を作るまでは、あんまりライブ感を気にしていなかったんですよね。割とステージだけで完結してるショーみたいなものを意識してライブをしてたから、お客さんとオンタイムの感覚を共有するっていうことはあんまり無かったんだけど、『OK BALLADE』を作っている時に、もっとお客さんに寄り添いたいという気持ちがだんだん強くなっていって。ライブで伝えられるものを追求して行った結果が、あの言葉だったし、あの曲構成だったし、っていう感じかな。
ミゾベ:じゃあ、僕が感じたことは正しかったんですね(笑)。
エンドウ:狙いではあったけれど完全に見つけきれてはいないくて、やっぱりずっと探し続けてるものではあるんだけれど、“届ける”って意識は変わってないんだよね。やり方の部分で変化していこうと4人全員が決断するのは、人のライブを見て思うことが多い。
ミゾリョウの感覚と同じなんだけど、なんかそれこそodolとやって刺激を得て、odolのライブから深呼吸するようなものを感じて、そういう要素を自分たちに欲しいなと思ったり。それで形成されていってるんだよね、PELICANって。
――レーベル内外に同じぐらいのキャリアや環境でやってるバンドは多いと思うんですけど、中でも『UKFC on the Road』に行くと、すごくマイペースなバンドが多いことを実感するんですよね。
一同:ははは。
――そういう状況の中で2年ほど経過したわけですが、何か変化は感じますか?
ミゾベ:PELICANの変化としては、さっきも言いましたけど「あ、見つけたんだな」と思って。PELICAN FANCLUBとして表現したいことが凄く研ぎ澄まされていってるように感じました。
エンドウ:odolは、演奏しているっていうだけじゃない、なんか精神的なものが見えてきて。っていうのも、雑に言っちゃうと“コンサート”みたいな感覚なんですよね。それは精神的な意味で。そのうちodolのライブでサークル作って泣くみたいな人が出てくるんじゃないか、みたいな……。
ミゾベ:ははは!(笑)
エンドウ:そういう、感情を揺さぶることに徹してる、ただ熱いだけじゃない熱さ、そういう力を最近感じますね。
ミゾベ:年末に初ワンマンをやったんですけど、16曲やって1時間半ぐらいの間に(客席から)手が挙がることが一度としてなくて。僕がお客さんとして見たワンマンのライブはみんなで盛り上がるみたいな感じやったんですけど、僕としてはこれはこれで嬉しいというか、僕たちがやりたいことを、見にきてくれてる人たちも感じてくれているんだなと思いました。
PELICAN FANCLUB・エンドウアンリ 撮影=風間大洋
――お互いに言葉を書く人としてはどう思いますか? どういうところが特徴的だと。
ミゾベ:外から見てるからかもしれないですけど、常にエンドウさんっぽさというか世界観がありつつ、いろんなボキャブラリーで歌詞を書ける人だなと思うんで。凄いなっていうか……羨ましいっていう方が近い(笑)。
エンドウ:僕は素直じゃないのかもしれないですけど、素直じゃないからこそ、ミゾリョウの書く詞ってすごい素直に感じちゃうんですよね。表現が悪いかな?と思って言うのをためらってたんですけど、日用品みたいな感じなんですよ。すごい身近にあるような言葉というか、問いかけというか。なんかこう、そっと撫でるような感じがある。
ミゾベ:嬉しいです。音楽って、例えばライブを見に行ったり聴いたりすることよりも、例えば僕が単純にPELICAN FANCLUBのファンだとして、PELICAN FANCLUBの『OK BALLADE』を買ったとするじゃないですか。そして、今すごく好きな女の子がいたとして、その子と付き合ってる時に『OK BALLADE』をめちゃ聴いてる、で、10年後に振り返って『OK BALLADE』は聴かなくなってたけど、久々に聴いてみたら、その時のことを思い出したりとか。……音楽の一番いいとこってそこだと思ってて。
エンドウ:そうだね。
ミゾベ:誰かの生活に寄り添いたいという気持ちがすごくあるんで、そう言ってもらえるのは嬉しいです。
エンドウ:だから、odolの曲を歌詞を含めて聴いたときに、家に帰ってきてコーヒーを淹れるような感覚で聴けるんですよ。「一息入れよう」みたいな感覚で聴けるっていうのは、ミゾリョウの考えてるコンセプトがきちんと表現できてるんだろうなと思いますね。
カミヤマ:ミゾリョウは曲を聴いてから歌詞を書くの?
ミゾベ:そうですね。高校の1年生の頃に森山とバンドをはじめて、高校1年生の時から拙いなりに二人で曲を書いてて。その頃から森山が曲にコード進行とメロディを作って、僕がそれに歌詞をつけるっていうスタイルが定着してたので、今もそれが一番やりやすいというか。
カミヤマ:音とのシンクロ率がすごくて。だからこのコンビじゃないと作れないものってあるんだなって、聴くたびに思ってる。
エンドウ:言葉がすごい立っているんだよね。本当に日本語を大事にしてるというか、いい意味で日本のバンドというか。それが綺麗。日本語でやってる以上、切っても切り離せない侘び寂びみたいな、そこがちゃんと入ってるから、すごくすんなり水のように入ってくるし、それがいいんだよね。
ミゾベ:森山があげてきたメロディに対して歌詞をつけるんですけど、歌詞がこうなったからメロディをこう変えたいっていう話もして、そういうやり取りが何回かあって完成品ができるっていう。PELICANは、エンドウさんがどこまで作るんですか?
エンドウ:オケとかは原型を持ってって、みんなで「ここはこうした方がいい」って試行錯誤して。メロは自分の気持ちいいメロディラインを歌って「ここはもうちょっとこうした方がいいんじゃない?」ってみんなが言ってくれて決まるんだけど、詞は普段から作文というか日記みたいのを書いてたりする。自分の中で何かが弾けそうな時とかに書くんだけど、それって自分の中で絶対言いたいことだと思うから、それを作ってあったメロに当てはめてたりもするし、逆に詞からメロディを作るっていうこともしてる。
――カミヤマさんも曲を作ってるんですよね。
カミヤマ:原型はエンドウが出すことが多いですけど、『OK BALLADE』からは俺も出すようになって。「記憶について」は原案を僕を出したもので、それをエンドウが色々改変してくれた曲です。だから、それこそ森山くんとミゾリョウがどういう感じでやってるんだろう?と気になってて。今、僕らも新しいアルバムを制作してるんですけど、そこで僕が出した曲にエンドウが詞を乗せるみたいな場面もあったし。
エンドウ:結構多いね。次は半々ぐらいになるかも。
ミゾベ:(作った曲を)どういう形で出すんですか?
カミヤマ:一応、DAWである程度作り込んだものを「こんなのどうですか?」って。
エンドウ:弾き語りもやってたんだけど、あまり反応がなくて(苦笑)。「あんまよく分からない」みたいな感じで。DAWにして出すと、もう全部形ができるわけだから、それで会話ができる。
ミゾベ:なるほど。
PELICAN FANCLUB・カミヤマリョウタツ 撮影=風間大洋
――ちなみに、これまでの交流の中で、メンバーの知られざるキャラとか、「俺はあいつのこれを知ってるぜ」的な話はありますか?
カミヤマ:PELICANともう一つのバンドとスプリットツアーで回ってたとき、水戸でodolに出てもらったんですけど、その時の打ち上げにodolのベースのShaikh Sofianが……何語だっけ?
ミゾベ:ウルドゥ語。
カミヤマ:パキスタンの言葉を一個だけ覚えてるって言ってて、それが「パニチャイエ」って言葉なんですけど……「お水をください」っていう意味で。
一同:ははは!
カミヤマ:もし現地で倒れて死にそうになった時に使う言葉は何だろうな?って考えた時にその言葉を覚えたらようと思ったらしくて、その言葉だけ知ってて。
ミゾベ:一番大事らしいです、その言葉が。
カミヤマ:打ち上げでみんなで楽しく飲んだんですけど、飲んだ後ってお冷を頼むじゃないですか、その時に「アレ言ってやれよ」ってなって(笑)。ソフィアンが「パニチャイエ!」って言ったとき、その日一番盛り上がった。
エンドウ:「すみませーん、パニチャイエ!」。あれは可笑しかった(笑)。
――ウルドゥ語、一つ覚えました(笑)。最後にあらためて、両者が共演する『凄い日』について、現状で言えることはありますか?
ミゾベ:実際にやる曲までは公表できないんですけど、一緒にやるとか、カバー曲をやるとかは、あります。
――全員でのセッションなんかも?
エンドウ:あるんじゃないですかね?
カミヤマ:ギター、5人弾くことになるのか。うるさっ!(笑)
ミゾベ:名の通り“凄い日”にしなきゃ。
エンドウ:できるだけ来る人が“凄いな”と思うようなことは尽くしたいと思います。“凄い”って言葉の幅みたいなものを全部出したいですね。
取材・文=石角友香 撮影=風間大洋
odol・ミゾベリョウ / PELICAN FANCLUB・エンドウアンリ、カミヤマリョウタツ 撮影=風間大洋