大衆演劇の入り口から[其之二十一] みんな大好き! 大阪・鈴成り座のたこ焼きのヒミツ
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鈴成り座名物・たこ焼き(ソースマヨ) 8個300円
鈴成り座外観
食事スペース「鈴成り茶屋」
焼き立て、アツアツ。中には大きなたことコンニャク。大阪は西成区にある大衆演劇場・鈴成(すずな)り座のたこ焼きは、お客さん・役者さん、みんなの好物だ。
気楽に楽しむことができる大衆演劇は、ほとんどの劇場で飲食OK。そのため、観劇の楽しみと「劇場名物」は切っても切れない関係にある。関東の劇場名物として名高いのが、東京・篠原演芸場のおにぎり(過去記事:十条・篠原演芸場のおにぎりがニッポン一おいしいワケ)。とすると、関西の劇場名物は…。
「よく聞く、鈴成り座のたこ焼きって劇場で作ってるのかな?」
まだ食べたことのなかった筆者が、ある日Twitterでつぶやいたところ。フォロワーさんから、
「作ってますよ!ひとつひとつ丁寧に焼いてくれますよ」
「今日も観劇して食べてきました」
「予約が必要で、注文してから焼くんです。だから作りたてでおいしいですよ!」
など、驚くほどたくさん返信をいただいた。大衆演劇ファンに愛される、おいしさのヒミツは何だろう?と知りたくなった。
鈴成り座の従業員さん・通称“にぃに”の案内で、1/10(火)の夜の部、たこ焼き作りの時間にお邪魔した。
取材を受けてくれた鈴成り座の従業員さん・通称“にぃに”
「いつも焼きたて」ができる理由
鈴成り座の中の食事スペース・「鈴成り茶屋」。時刻は17:35。この日の公演は冒頭のミニショーがなく、開演の17:00から芝居が始まったので、舞台では芝居の真っ最中だ。
女性従業員と二人、8個×16列が並ぶたこ焼き器に、たこを入れていく。作りながらも説明してくれる。
「今日は18:00が芝居終わりやから、そこから逆算して-25分で作り始めるんよ。そしたらちょうど芝居が終わる頃に焼き上がる」
しかし、大衆演劇の芝居は日替わりだ。したがって、芝居の終演時刻も毎日微妙に違うはず…。
「つまり劇団の座長さんに、今日の芝居が何時に終わるか、毎日聞いているってことですか?」
「うん。毎日聞いとる。時々芝居がアドリブで延びたりするけどな(笑)」
毎回アツアツのたこ焼きが出てくるのは、計算に基づいていたのか…。
生地を流し入れる。
切って茹でたコンニャクを入れる。
ネギ・紅しょうがを加える。
細い串を動かして球体の形に整える。ジュウ―ジュウ―と焼ける音がする中、壁の向こうから芝居のセリフが響いてくる。もう山場らしい。
≪恨みは果たしたぞ~!≫
「そろそろ焼けたやろ」「うん」
くるくる、とたこ焼きがひっくり返される。
慣れた手つきで、端から端までひっくり返していく二人。
≪お芝居、終演いたします。これより口上挨拶です≫
舞台では芝居終演を告げるアナウンスが流れる頃。
「ソースマヨ3つ」
茶屋では、貼り出した紙に書かれた注文数を読み上げ、次々とたこ焼きがパック詰めされていく。多くのお客さんは口上挨拶が終わってから取りに来るので、そのときちょうど渡せるように作業するそうだ。
さて「鈴成り座」という劇場について、まだ聞きたい話はたくさんある。舞踊ショー開始後、茶屋からお客さんがいなくなってから、改めてにぃににお話を聞かせてもらった。
たこ焼き人気は役者さんもお客さんも
――まず、この記事を読んで、たこ焼き食べたくなった!って思う読者がきっといるので、注文の仕組みを確認したいんですけど…。開演15分前までに注文して、ミニショー中に焼く。あるいはミニショー後に注文してもらって、芝居中に焼く。1公演の中で2回注文のタイミングがあるんですね。
そう。ミニショーの場合は、ミニショーが始まると同時に焼くんよ。したらちょうど、終わる頃に焼きあがる。
――たこ焼き器は16人前を一気に焼ける形でしたが、注文が多すぎて収まりきらないときはどうするんですか?
それ以上になったらもう、お断り。
――じゃあ1回での受付人数の限度は16人前なんですね。ソースとしょうゆ、どっちが人気なんですか?
ソースが7割、しょうゆ3割。たいていはソースマヨ。たまに、何もつけないでくれ言う人もおるよ。
しょうゆ味。あっさりしたおいしさが楽しめる。
――コンニャクが入っているのは珍しいですね。最初、知らずに食べて、たこ2個入ってるかと思いきやコンニャクでした(笑)
たこ2 個入ってるってまずないねんけどな(笑) たこは1個の中に4~5gって決まってて、普通のに比べたらちょっと大きめ。
――チェーン店とかに比べて、8個で300円って安いですよね。
安いやろ。もうずっと、この値段。安くておいしいっていうのでお客さんに喜んでもらっとるからね。お客さんによってはね、3人前焼いて持って帰るいう人もおるくらいやけど、冷めてしまうと、どうなんかなっていうのもあるよね。だからできるだけここで食べて下さい、とは言うとるんやけど。
――役者さんにも人気がありそうです。
けっこう食べる役者さんおるんよ。ここ来たら、たこ焼き食べるっていうて。鵣汀さん(剣戟はる駒座・津川鵣汀座長)とか…先月公演してた新さん(劇団新・龍新座長)や龍児さん(劇団新)も好きやったね。龍児さんはブログにも書いてくれて。役者さんにはお客さんが差し入れる場合も多い。たとえばお客さんが、“10人前のお金渡しとくから、役者さんが欲しいって言ったときに焼いたって”って風に。
鈴成り座は「なんか来やすい」劇場
――いつから鈴成り座で働いていらっしゃるんですか?
一昨年の6月から。「劇団武る」の三条すすむ座長がここのオーナーになったときからやね。すすむさんの友達だったんで、声かけてもらって。
鈴成り座オーナー 劇団武る・三条すすむ座長
――関西の小屋、これだけ増えてしまうと…“しまう”っていう言い方は変なんですけど。なにぶん小屋が多いので、役者さんや劇場の経営側は、本当に競争が大変ですよね(※)。
※近年、大阪を中心に大衆演劇の劇場やセンターのニューオープンが続いている。現在、大阪府内に劇場は17、センターは4あり、客入りの競争が激しくなっている。
うちらでもやっぱり宣伝して、一人でも多く来てもらわんとあかんしね。
――お考えを聞かせてほしいんですけど…いっぱい劇場がある中で、鈴成り座の魅力ってどんな点でしょうか?
何というか、“コンパクト”みたいやね、お客さんにしたら、なんか来やすいねんて。定員は109人で、座長大会のときとかは150人くらい入れる…それくらいの大きさ。持ち込みもOKやし、席も移動してもええし。あと芝居観る所と、食べ物の所と分かれてるやんか。慣れたお客さんとかだと、ここが一番来やすいねって。
客席。コンパクトにまとまっている。
食事スペース「鈴成り茶屋」は劇場と区別されている。
――たしかに劇場と食事処が分かれているのは、開演前に食事したい人には助かりますね。食べ物が充実しているなぁと思いました。たこ焼きがあって、うどんがあって、アイスもあって。
僕ら従業員で話し合うて、色々決めてる。たこ焼きって作る時間が決まってるやん。でも11時に開場して、開演の12時までお客さんの待ち時間があるから、そのとき食べる物あったらええなって言うて。うどんとかも、したらどうかなーって、あちこちのだし取り寄せて一番ええかなって思うところのでやっとるんやけど。
――うどんも好評ですか?
好評。今月は、うどんよう出てんで。冬は温かいうどんで、夏場はぶっかけうどんやってます。
毎月の劇団とともに
―1月公演の「劇団KAZUMA」は大人めの劇団さんですね。
派手な曲いうのがあんまりなくて、地元のお客さんは年配の人も多いから、合うみたいね。乗るのは何年かぶりやけど…。
――鈴成り座に毎年乗っているとか、縁の深い劇団というとどちらでしょう?
「里見劇団進明座」。毎年5月に乗ってる。
――里見要次郎さんが総座長をしているところですね。
うん、若い人もたくさんやっとるよ、直樹、祐貴、龍星、竜汰…。
里見劇団進明座・里見要次郎総座長 鈴成り座とは縁深い
――12月は関東の人気劇団「劇団新」が初乗りでしたね。初めての関西進出なので関西での反応が気になっていましたが、すごかったと聞いています。
前半が15日まで、後半が24日まで。後半、期間が短いやろ。でも前半と後半の入り数いうのが、ほとんど一緒や。それだけ右肩上がりに上がっていって、お客さんがついたいうことやろね。
劇団新・龍新座長
劇団新 龍児さん
――大阪のお客さんって舞台に反応してくれるじゃないですか。
突っ込み入れたら返ってくるような感じやろ?
――はい、あれは舞台をやる側は絶対に楽しいだろうなーって思うんです。
ただ、劇団新は10月に四日市のユラックス乗って、11月に和歌山の夢芝居乗って、で、12月にここやったやんか。大阪の劇場乗ったのってここだけやねん。だから龍児さんも、大阪公演の期間が短かったのをちょっと残念がってたな。
――もう一か月大阪公演があれば、もっとお客さんは増えたかもしれませんね。でも、また帰ってくるんじゃないですか?
そやねん、龍児さんに“帰ってきてや”ーって言うたら、“帰ってきます”言うてた。“有名になったらよそ行くんちゃうか?”って言ったら、“いやそれはないですよ”って(笑) “大阪乗るんやったら鈴成りに乗せてくれって興行師さんに話するから”って、言うてくれはったんやけどな。
≪何があってももういいの くらくら燃える火をくぐり≫…♪ お話を聞き終えて、舞踊ショー中の客席へ戻った途端、『天城越え』の曲が耳に飛び込んできた。前の席では、年配の女性客がじっと舞台の女形に見入っている。女性客は80歳を過ぎているという。開演前、にぃにがテキパキと席に案内し、「なんかやることあったら何でも言ってな」と声をかけていた方だ。「足があんまり良うなくて…でも、鈴成り座にはほとんど毎日来とるんよ」。女性は筆者を振り返って微笑んだ。
これから行ってみたい!という人に向けて、道案内を。
地下鉄四つ橋線「花園町」駅2番出口を上がり、向きを変えずに通りを進む(りそな銀行の方向)。
鶴見橋商店街。訪れたのが早朝だったのでほとんど開店前だったが、普段は人通りが多い。
左手に、鶴見橋商店街の入り口が現れる。商店街に入り、6~7分歩き続ける。
「鈴成座 次の角を左へスグです」という案内が見えてくる。この案内が出ている角ではなく、「次の角」で左折するので注意。
鈴成り座は商店街4番街の一番端に位置する。並んでいる店の表示が「5番街」に切り替わる角で左折すると、劇場の幟が見えてくる。
「鈴成り茶屋」の壁には書が掛けられている。うち1枚を、「俺はこれやな」とにぃにが指した。
「“何事もくよくよせずに前向きに生きなはれや~”って」
芝居観て、喋って、笑って。お腹が空いたら焼きたてのたこ焼きをどうぞ。元気をくれる鈴成り座が、あなたをお待ちしています!
期間:2/1(水)~2/27(月)昼の部まで
3月公演 優伎座
4月公演 森川劇団
5月公演 里見劇団進明座
会場:鈴成り座
日程:毎日昼夜2回公演
時間:昼の部12:00~15:00 夜の部:17:00~20:00
料金:大人1500円
問い合わせ先:06-4392-2201
大阪府大阪市西成区鶴見橋2-9-1
●地下鉄四ツ橋線「花園町」駅より徒歩5分
●阪神高速松原道「なんばIC」より20分
●大阪市営バス梅南2丁目より徒歩3分
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