秋山準が担う役目は「ヘッドコーチ」か「老害」か? 26周年を迎えるDDTに注入される王道のエキス

インタビュー
スポーツ
2023.3.14
秋山準

秋山準

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3月21日に後楽園ホールで26周年興行を行うDDTプロレス。ますます躍進するであろう同団体のキーマンは、キャリア30周年を昨年迎えたレジェンド・秋山準である。今回は、そんな秋山選手にインタビューを敢行してみた。

DDT入団を決めたきっかけ、DDTの若い芽に対する印象、DDTにおける自らの役割だけでなく、先日引退した武藤敬司や昨年のサイバーフェスのあの一件についてまで、この機会に聞きたいことをまとめて掘り起こしてみた。

“智将”秋山準と対峙した、1万字超えのロングインタビューだ。

 

●竹下幸之介がいなければ、DDT入団はわからなかった

――秋山選手がDDTに所属して3年が経とうとしています。今さらですが、秋山準がDDTに入団するという出来事自体がファンにとっては驚きでした。秋山選手からすると、DDTの選手との初遭遇時にどんな印象を抱きましたか。「しっかりしたプロレスをしている」という印象?

一番最初に遭遇したのは、男色ディーノ選手なんですよ。だから全然、しっかりしたプロレスも何もない(笑)。

――ハハハ! ディーノ選手でしたか。

はい。それは、俺がノアのときかなあ。男色ディーノ選手がすごく俺の中で引っかかって、彼に出てもらったんです。引っかかったというのは、男色ディーノ選手のキャラクターが面白くて引っかかって。で、彼はバックステージで挨拶するとき、マスコミがいなくても「準ちゃん、こんにちは」って必ず股間を触ってくるんです。それで、「こいつ、すごいな」と思って。あれはまだノアが始まって間もない頃で、当時の僕ってめちゃめちゃ怖かったと思うんですよ。そんな俺の股間を、よくこいつは触れるなと思って。

――それは、男色ディーノ幻想が高まりますね(笑)。

あの頃の僕は、怖いの極地にいた頃です。記者の人たちが「取材するのが嫌だ」って言うくらい。なのに、彼は自分のキャラクターが揺るがないからすごいなと思った。内面に芯を感じます。面白いだけじゃなく、そういうのがしっかりしてるんだなと思って。で、その後に、竹下幸之介と遠藤哲哉の2人と試合(2016年6月15日、全日本プロレスでの秋山&青柳優馬組VS竹下&遠藤組)をして、そのときに初めて「あ、こんなちゃんとできるんだ」と思って。

――DDTとの2回目の遭遇で驚きが。

それは、特に竹下に思ったんです。「あ、こんなできる子いるんだ」って。

――そのときの竹下選手への印象が、DDT入団につながるのでしょうか?

本当、それです。高木(三四郎)さんから「選手を教えてもらいたい」って話をもらったんですけど、あの竹下君の印象がなかったらちょっとわかんなかったですね。そのくらい、竹下君のインパクトがすごかった。僕が出会った後輩の中でも、かなりできるレベルでした。僕が竹下君の立場にいると仮定すると、「秋山準が相手だったら俺ならこうする」という試合を、彼は的確にやったんです。全日本という敵地に来て、向かっていく若手のお手本のようなプロレスを。

秋山準

秋山準

――DDTといえば、かつては飯伏幸太選手やケニー・オメガ選手が活躍していました。その頃から、「DDTにはできる奴がいる」というイメージはありましたか?

そうですね、飛び抜けてできる選手がいるという。タイプとして、自由にさせて伸びる選手と、押さえつけて“バーン!”と跳ねる選手がいて、たぶん飯伏君は自由にさせたほうがいいタイプだと思います。竹下君も自由なほうですよね。まあ、今は世の中的に自由なほうが多いっすよ。

――そのへんは、王道育ちの秋山選手が若手の頃とは違いますよね。

全然違います。今、若い選手を見て「俺ならこうするのに」と思うこともあるけど、個々のやり方を矯正させて押さえつけることは全然ないし。DDTにはDDTで教えられてきたものがあって、それを僕が「こうやれ」と直したら、全日本やノアで育った選手と同じになっちゃうじゃないですか。DDTの良さがなくなっちゃうので、あまり細かい技術までは僕は言わないです。

――ちなみに、秋山選手が入門された頃の全日のコーチはどなたでしたか?

小橋(建太)さんです。小川(良成)さんもたまに来ました。あと、渕(正信)さんもですね。

――いわゆる、王道流のプロレスをがっちり教えて、そこに自由はないわけですよね?

もう、自由なんかないです。

――よく聞くのが、ジャイアント馬場さんが細かくご指導されたという話なんですけど。

馬場さんは細かく言いますけど、別に怖いとかではないです。関節技とか「これはこうやって極まるんだよ」と、細かく教えてくれます。理論的ということですよね。今のコーチは“型”を教えていると思うんです。「こうやって教わったから、その型をそのまま教える」という。そうじゃなくて「ここはこうやるから、こうやって極まるんだよ」と、すべてに意味があるという形で、馬場さんは細かく教えてくれました。

――秋山選手もそういう教え方をされているのですか?

全日本にいるときは、僕の教え方を青木篤志っていうのが……もう亡くなりましたけど、奴がちゃんとわかってたので、コーチとしてあいつが教えてました。僕が教えたことをちゃんと教えてくれる奴に任せて。それは青木が一番できていたので、青木に教えてもらってました。

――秋山選手がDDTに移籍されたときは、「ヘッドコーチ」という肩書でした。現在もDDTでコーチとしてご指導されているのですか?

いや、今はDDTの上の子が教えています。試合で気になったことがあれば、そのときに教えるという感じです。ただ、それもコーチを務めている子たちに伝えてます。たぶん、一番下の子に僕が言ってもあまり理解できないと思うんですよ。だからまずはコーチ役に伝えて、彼らが噛み砕いて教えてくれていると思います。

 

●秋山準がDDTに王道のエキスを注入?

――全日本の社長を退任されたとき、秋山選手はご自身について「使い勝手は悪いし、ギャラは高いし、自分は全日の老害」という言い方をされていました。今、DDTにとって秋山準はどういう存在でしょうか?

(間髪入れずに)大老害ですよ。

――そんなふうには見えないですけど(笑)。

いや、高木(三四郎)さんが「“チーム大老害”を一緒にやりましょう」って言うから(笑)。うまいこと色んな材料を使うから、高木さんは。

――老害になってやろうっていう感じですか?

はい、老害です。まあ、若い子にとっては上から押さえつけるような奴は、みんな老害なんじゃないですか。若害(じゃくがい)っていう奴らもいますけどね。

秋山準

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――DDTはもともと「文化系プロレス」を標榜していて、面白い選手が多い団体です。ただ、秋山選手が入ってくることで本格的なプロレスに専念する方向性に進むのでしょうか?

いや、彼らは元から“できる選手”だったんです。そこに秋山準が加わったことで、皆さんからしたら「秋山がいるからプロレスが良くなった」と見えているだけだと思うんですよね。

――秋山準がいるだけで、「王道のエキスが注入された」というイメージが付く。わかりやすいところで言うと、「カール・ゴッチ直伝」みたいな。

本当、そうだと思います。元からみんなできていたけど、ファンの目線がそこに合っていなかっただけで。でも、俺が来たことによって焦点を合わせてくれた。それだけだと思うんです。ただ、僕がDDTに来た頃より、今のほうがみんな試合のタイミングは良くなってきていますよ。たぶん、本人たちは気付いてないと思います。僕も川田(利明)さんとやったとき、全然気付いていなかった。あの頃は若いし、何の技術もないし、ガムシャラに試合をやるだけだったけど、後々考えたら「俺も川田さんとの試合でリズムを覚えていったんだな」って気付いて。それって自然に覚えていくものなので、たぶん誰も気付いてないと思います。

――秋山選手は「川田さんの間を参考にしている」と、よくおっしゃいますよね。その間がDDTの選手に受け継がれていくとしたらすごく面白いです。秋山選手との試合を重ねていったら、自然にそうなっていくのでしょうか。

なっていくんじゃないですか? もっと時間が欲しいですけどね。もうちょっと俺が若けりゃよかったんですけど。10年若かったら技もバンバン受けて。でも、DDTにはいい子がいっぱいいるんでね。

――秋山選手がDDTに来て、特に変わった選手は誰でしょうか?

僕がDDTに来てからは遠藤君が一番変わった。雰囲気もすごく良くなったし。樋口(和貞)君も吉村(直巳)君もそうだし。あと、勝俣(瞬馬)君は、僕は彼と組んだことないですけど、「そばにいたら、こいつをうまく動かせるのになあ」と思わせてくれる。だから、できる子はいっぱいいますよ。今まではその部分が注目されていなかったけど「なんだ、DDTの選手ってできるじゃん」と、皆さんが見てくれるようになった。たぶん、自分の役割はそれだけだと思います。別に、僕がめちゃくちゃ教えたってことでもないですから。

――ただ、竹下選手がジャンピングニーを使うようになったじゃないですか。あれは、ジャンボ鶴田流のジャンピングニーを秋山選手が伝授されたわけですよね? 同じジャンピングニーでも、鶴田さんと坂口征二さんのとでは全然違うと思うのですが、具体的にどんなコーチをされたのでしょう?

前に流れるか、上に飛んで“バコーン!”って当たるか、その違いだと思います。僕は鶴田さんから「高跳びのように跳べ」と言われて、そういう練習をしたんです。竹下君も最初は前に流れてたけど、「高跳びのように跳ぶんだよ」って言ったら、彼は2回ぐらいでできました。竹下君は陸上をやってたから、高跳びという表現がピタっときたのかもしれない。あと、彼はでかいから余計に見栄えがいいですよね。

――あと、高木社長としては「育ててほしい」だけじゃなく、伸び盛りの選手の壁になってほしいという期待もある気がします。かつての秋山準にとっての川田利明であったりスタン・ハンセンであったり、そういう役割が。

もうちょっと、若かったらよかったんですけどね(笑)。だって、あの頃の川田さんなんか、まだ40歳いってないもん。僕が入ったとき、川田さんはまだ30歳ぐらいですから。

――その役割を、秋山選手が期待されてるのかなと(笑)。

当時の川田さんより、今の自分は20年も歳を取ってますよ。ハンセンさんだって、40代前半だったと思うんで。今の僕は、秋山準が入団したときのラッシャー木村さんや大熊元司さんの年齢ですからね。もう、悪役商会をやってもいい歳ですよ(笑)。

(ここで、DDTの今林久弥GMが口を開く)

今林:でも、秋山さんが所属になってから竹下がどうしても秋山さんに勝てなくて、しばらくスランプになったんです。今の竹下の活躍は、あの時期があったからだとは思います。

――スランプの時期が、ジャンプするために屈む期間になったという。

まあ、彼はそれで良かったと思いますけど、それが全員に当てはまるかって言ったら、押さえつけてダメな奴はダメだし、竹下君みたいに「クソー!」と奮起する子は“バーン!”って跳ねるだろうし。ダメな奴は、押さえつけたらダメだと思うんですよ。

――そこまで気を遣っていらっしゃるんですか……。

気は遣いますよ!

――いや、秋山選手だったら構わず千尋の谷に突き落とすのかと……。

いやいや、もう53歳ですよ? 気を遣いますって(笑)!

秋山準

秋山準

――ハハハハ! ところで、今現在も「DDTといえば高木三四郎」「DDTといえば男色ディーノ」という印象が強いです。それは、竹下選手たちに打破してほしいですか?

なかなか、できないでしょうけどね。今も、「全日本プロレスといえばジャイアント馬場」と言う人はいますから。馬場さんの全盛期って遥か昔なのに、まだそうですもん。やっぱり、作り上げた選手のイメージってなかなか消えないですよ。だから、高木さんの存在感を潰すのではなく、その横に竹下なら竹下、遠藤なら遠藤という存在感のある大きいビルを“ドン!”と建てて、先人を少しずつ霞ませろと。潰すことは、もう絶対に無理です。僕らがいくらやってもジャイアント馬場は潰せないし、三沢光晴は潰せないですから。ならば、自分がそこに同じようなビルを建てて、目立つしかないないですよね。

――男色ディーノのようなプロレスがあり、その横には本格派の竹下幸之介がいる。強引かもしれないですけど、まさに「明るく、楽しく、激しいプロレス」という気がします。

いや、本当にそう。今、DDTがそれをやっていて。でも、明るすぎるっていうのはあるかもしれない。ちょっと、(男色ディーノが)ケツ出すのは(笑)。僕はすごい楽しく見てるんですけど、親がたぶん見せたがらないですよね。

――秋山選手との試合(2021年4月11日のKO-D無差別級選手権)で、ディーノ選手は脱ぎましたからね(笑)。

親が見せたがらなくて、客席に子どもが少ないという。DDTの会場って女の子ばっかりなんです。8割がた、女の子です。男と子どもが極端に少ない。

――秋山選手としては、子どもの比率を上げていきたい?

子どもの比率と、やっぱり男性ですよね。プロレスファンの比率です。こんなこと言ったら女性ファンに怒られるかもしれないけど、カッコいい人がここにいたら女性はパッと行っちゃう可能性もあるじゃないですか。男の人って、割りとこの人と決めたら、その人をずっと見てくれる傾向があるので。そういうファンがDDTには少ないのかなと。だから、そういう人たちにもっと来てもらいたいですよね。

●高木社長は馬場さんに、竹下たちは四天王に見える

――昨年(2022年9月18日)に秋山選手の30周年記念大会が開催され、あのときの秋山選手のマイクにはグッときました。「高木社長が馬場さんに見えます。遠藤、竹下、樋口(和貞)、吉村(直巳)は四天王に見えます」と。これは本心からの言葉でしょうか。それとも、期待値を込めての発言?

いや、あのときの言葉どおりに見えますけどね。四天王が馬場さんに抱く感情と、DDTの4人が高木さんに思う気持ちはちょっと違うかもしれないですけど。高木さんには、少し歳の離れた兄貴という雰囲気もあるので。でも、そういう感じになっていってくれればと思いますね。今の高木さんが、僕が全日本に入った頃の馬場さんと同じくらいの年齢ですから。

――四天王になぞらえられた4人に対し、秋山準はどういう存在でいるのでしょうか。やっぱり、大老害として邪魔をする?

まあ、若い子たちは「老害」ってよく言いますけど、僕はそれは必要なところもあると思うんですよね。本当に害になることはやりたくないですけど、必要な障害、乗り越えるための障害だったら、まだ動けるうちにやろうかなと思います。

――秋山選手ご自身がプロレスラーとしてやりたいことはございますか?

僕がやりたいことですか? もう、ないっすよ。「どうしても、こうしたい!」っていうのは、今はないですね。どっちかって言ったら、「育てたい」って感じしかないです。

――ただ、ベテランになって動けなくなる選手もいますけど、秋山選手は今もキレキレじゃないですか。

いや、動けてないですよ。自分で試合映像を見たら、「遅せぇー」って思いますもん。全然、遅いと思いますよ。

――いや、秋山さん世代でいえば、鈴木みのる選手と秋山選手だけは「化け物か!?」ってくらい、動いていらっしゃると思います。

ああ、みのるさんもコンディションいいですもんね。見たら、意識しますよ。永田(裕志)選手もそうだし。やっぱり、同年代の人がやってると「俺も負けてらんないな」って思います。

●武藤敬司の引退によって意識した自分の引き際

――秋山選手がDDTに入ったのと同時期に、武藤敬司さんもノアに入団されました。その会見で、サイバーファイト(DDT、プロレスリング・ノア、東京女子プロレス、ガンバレ☆プロレスの4団体を運営)は「業界ナンバーワンを目指す」と宣言しています。ノアが2月にドームで興行を行い、DDTも若い世代が伸びています。サイバーファイトは業界ナンバーワンの座に近づいていると感じますか?

どうですかね。ノアがドームに行ったのは武藤効果もありますし、あれは“武藤特需”ですからね。だから、それはまだまだ難しいと思いますよ。

――合言葉は、「新日本に追いつけ追い越せ」ですよね。

そのためには、やるべきことがたくさんあって。ノア、DDT、東女、ガンプロの全部でサイバーファイトじゃないですか。対して、新日本は1つだけの団体。それでも、まだ抜けてないっていうね。だから、そこはよほどやらないとダメでしょうね。

――そんななか、武藤さんが引退をされました。以前、秋山選手は武藤さんから「俺がいなくなったら寂しくなると思うぞ」と言われたそうで。実際、武藤さんが引退されてどうでした?

武藤さんもそうですし、「引退」という言葉は使ってないですけど川田さんも試合に出ていらっしゃらないじゃないですか。僕らが追い続けた世代の人たちがいなくなるし、武藤さんの引退カウントダウンあたりから自分の引退についても考え始めました。「俺はどうしたほうがいいかな?」って。

――ただ、秋山選手はまだ動けているじゃないですか。だから、辞める必要はないと思うのですが……。

でも、僕は肩が悪いんですよね。人工関節になったら辞めないといけないので、(手術を)してないだけなんですよ。だから、辞めようと思えばいつでも辞めれるところにはいる(笑)。まあ、でも本当に考えますよ。「どうやって辞めるのかな」とか、「辞めたら俺はどうやって生活するんだろう?」とか(笑)。

秋山準

秋山準

――振り返ると、武藤さんも、天龍(源一郎)さんも、小橋さんも、最後までメインイベンターでしたよね。秋山さんはこの先、どのような道の歩み方をするのでしょう? 後進を育てたいお気持ちはわかりますが、やはりベルトに絡んでいってほしいですし、ずっとメインに出てほしいと思います。

そういう声があるのはすごくわかるんですが、僕は馬場さんみたいな感じでいきたいと思いますよね。馬場さんは40代の頃からチャンピオン・カーニバルに出ていないので。

――ただ、馬場さんは生涯現役でした。

生涯現役かどうかはわからないですけど、ポジションに関してはそういう感じでいいかなと僕は思うんですけどね。

●「ちゃんとプロレスやろうぜ」発言の真意

――あと、これはファンも知りたがっていると思うのですが、昨年6月の「サイバーファイトフェス2022」で、中嶋勝彦選手の張り手を受けた遠藤選手が脳震盪となり、試合続行が不可能になった件がありました。

ああ、はい。

――ファンの中でも議論を深めた出来事で、その一因としてあったのは秋山選手の「プロレスやろうぜ」というコメントでした。あの投げかけにより、我々もプロレスとは何か? を考えるようになったのですが、あの言葉にはどのような真意があったのでしょう?

結局、あの瞬間にもうあの試合は終わっちゃいましたよね。僕にも中嶋勝彦も何もないし、稲村(愛輝)君も何もない。もちろん、他の人たちも何もないじゃないですか。僕が見てきたプロレスって、全員が自分のいいところをそれぞれ見せて、その試合が成り立って、その後は誰かが勝って、感動して……っていうものなんです。それが、僕の中のプロレス。それじゃないじゃないですか。お客さんも静まり返って、途中で終わって、1人はノビて、いびきをかいてて。「これ、何?」っていうのが僕の中であって。まあ、僕もカーっとしてましたからね。僕にとってのプロレスは、要は四天王のプロレスなんです。最終的にみんなが感動して、勝っても負けてもお客さんがワーって来て拍手して、負けた人にも拍手をして。それが僕にとってのプロレスで、あのときの光景って全然プロレスじゃなかったんです。だから、「しっかり、ちゃんとしたプロレスしようぜ」っていうのが僕の言葉だったんですけど、それはそれでいろいろみんながつぶやいてくれてるんで、よかったなとは思います(笑)。

――90年代の全日本プロレスの武道館興行では、全試合が終わると必ずファンがリングサイドに押し寄せて、選手に喝采を送っていました。あの光景が、秋山さんにとってのプロレスということになりますか?

そうですね。負けた人にも拍手が送られるようなものが。どちらかというと、僕は負けたほうに焦点が当たるものがプロレスだと思ってて。僕はスタイル的にそうですから。こっぴどくやって僕が勝ったとしても、相手に焦点が当たるような試合が僕の中のプロレスなんですよ。それを考えたら、何にも当たってないですから。

――ただ、遠藤選手の今後の立ち上がり方次第では、あの試合の点が線になっていくのかな? という気はしたのですが。

いや、点が線にはなるでしょうけど、あの日の試合で敗者に何かがないといけないのに、あまりに何もないじゃないですか。あれは、もしかしたら遠藤のプロレス人生を揺るがしかねない、プロレスラーとしての遠藤を揺るがしかねないことですからね。でも後から思ったのは、やっぱり遠藤は遠藤で対策が足りなかった。あいつらの怖さがわかっていなかった。

――打撃って一瞬ですからね。

はい。だからあの日、僕はマウスピースを付けてたんです。僕、マウスピースって大っ嫌いなんです、えづくから。試合ギリギリまでマウスピースを置いて、入場のところでカパッと入れて行ったんです。あと、僕は自分のチームメイトに声を出して指示するんです。でも、マウスピースを付けてるとしゃべれないんで、聞こえないんですよね。だから、普段は使わないんです。あの日は「勝彦、絶対にやってくるんだろうな」と思ったので。俺が打ち合うんだったら打ち合うだろうなと思ったから、ちゃんとマウスピースを付けたんですよ。

――秋山選手はご自身のYouTubeチャンネルで、小橋さんともこの件について話されていましたよね。小橋さんは「例えば、あれを食らったのが準だったらあんなノビないだろう」とおっしゃっていましたが……。

いや、それはわかんないですよ。ピンポイントでスパーンって入ったらノビちゃうんで。だけど、遠藤君の中で「勝彦の打撃はこのくらい来る」っていう想定がたぶんなかったんですよね。それは、彼の落ち度といえば落ち度ですね。

――あの試合でプロレスの怖さを改めて感じました。

いや、怖いですよ。僕なんか、しょっちゅうあんな感じになってる(笑)。しょっちゅう脳震盪になってる。年に4回くらいなってる。

――全日時代、記憶がなくなったまま試合をしている秋山選手の姿を何度も見たことがあります。

いや、しょっちゅうですよ。だからよく今、元気でいるなと思うぐらい。

――まったく話はずれますが、今まで意識が飛びやすかった技ってありますか?

一番後遺症があったのは、川田さんと三沢さんのスピンキックです。スピンキックで何回も脳震盪を起こしたんで、“スピンキック恐怖症”になりましたね。川田さんのスピンキックで何回も意識が飛んでるので、やられながら「こっちに体をこうやったら当たらないんだ」っていうのをだんだん覚えてきたんです。自分の体を守ろうと(苦笑)。

――意識が飛んだら飛んだで、その状態でも秋山選手はノーザンをかけたりしてましたよね。

あれは、たぶん言われたままにやってるんです。指示されて「あれやれー!」「これやれー!」って言われたのを聞いてやってたんじゃないですかね? 後で見たらやってますから(笑)。自分では全然覚えてないです。

――自分が印象に残っているのは、川田さんと秋山さんで垂直落下ブレーンバスターを掛け合ってお互いが意識を失う応酬です。

垂直落下ブレーンバスターは脳震盪っていうより、首が詰まるんですよね。一番ひどかったのは、小橋さんにやられて胸骨にひび入ったブレーンバスター。胸が痛くて、検査をしたら胸骨にひびが入ってたんです。

――だって、小橋さんはバーニングハンマーを秋山さんと三沢さんにしか掛けなかったですからね(笑)。

小橋さんの中で、「この2人なら大丈夫だろう」って思ってたんじゃないですか? そんなに信用してくれるなと思うんですけど(苦笑)。俺にはそんな信用はいらない!

――鶴田さんがバックドロップの角度を相手によって変えるっていう話がありますけど、それみたいですね(笑)。

ああ、それは僕もそうです。エクスプロイダーの角度は全然変えます。「こいつは受け身、ちょっとダメだな」と思ったときは、相手の頭を抑えて顎を引くようにしてから投げるんです。まあ、三沢さんと小橋さんにはやらなかったですけど。あの人たちは大丈夫だと(笑)。

●鈴木鼓太郎との試合は、他とは違った雰囲気になる

――3月21日開催のDDT26周年興行で、秋山選手はEXTREME王座の防衛戦に臨まれます。挑戦者は鈴木鼓太郎選手。EXTREME王座の3度目の防衛戦後、秋山選手が鼓太郎選手を指名して組まれた試合です。「このベルトがあったら動きやすいと思うよ。俺とガッチガチのプロレスの試合をやれ。それで勝ったら、DDTで生きていけるよ」と。やはり、愛弟子として鼓太郎選手に情があるわけでしょうか?

いや、愛弟子って言われるけどあれは愛弟子じゃないですからね。愛(まな)でもないし。どちらかといったら、鼓太郎は三沢さんのほうなので。

――ただ、実際に指名されたわけじゃないですか? そこは、思うところもあるのかなという。

まあ、この前(3月4日 神奈川・横浜ラジアントホール大会)もエルボーやられましたからね。痛いエルボーなんですよ、あいつのエルボーは。三沢さん譲りのね。三沢さんに強いエルボーを食らったときは「俺、何か悪いことしたかな?」って思ったけど、あいつに悪いことなんかしても関係ないですからね(笑)。思いっきり俺も返してやろうと。久しぶりに「この野郎」って試合ができるから、楽しみですよ。だって、まだ痛いもんな。

――でも、そのぐらい来てくれたほうが良かったりしないですか?

いや、良くないですよ(キッパリ)。それは、痛いのはあんまり(笑)。でも、まあシャキッとはしますよね。「この野郎」と思わせてくれて。

――EXTREME王座というベルトについて、秋山選手はどう思っていらっしゃいますか?

本来はチャンピオンが試合形式を決められるんですけど、僕がチャンピオンになってからは挑戦者の意向を汲むようになって。僕は「チャンピオンがルールを決めたら、チャンピオンに有利になるじゃん。お前らが有利なルールでやったほうが面白いよ」って思うんです。俺が有利になったって、何の面白みもない。だから、防衛戦のたびに色合いが違う面白い試合ができればいいと思うし。今までの防衛戦は各選手の個性を反映してきて、鼓太郎といえばガチガチですから。今の僕にはそういう試合が面白いですよ。ちょっと気分転換というか(笑)。

――鼓太郎選手は弟子ではないとのことですが、叩き潰すつもりでいきますか?

そのつもりでやりますよ。で、あいつもそういうつもりで来ればいい。まだギリギリ、あいつがイメージする動ける秋山準ではあると思うので、叩き潰せるんじゃないかなと思いますね。どちらかというと僕らは組むほうが多かったし、対戦するのも面白いと思います。たぶん、他のDDTの選手がやる試合と僕らの試合は雰囲気がちょっと違うだろうし、この26周年に空気が違うものが1つぐらいあってもいいかなと思って。

秋山準

秋山準

――業界ナンバーワンになる過程として、面白いスパイスになるんじゃないかと。

そうですね。あいつもDDTでいいところを取って頑張れば延命になるし、それはお互いに(笑)。

 

(取材・文・撮影:寺西ジャジューカ)

イベント情報

Judgement2023〜後楽園史上最長5時間スペシャル〜

2023年3月21日(火=祝)後楽園ホール

開場 12:00 / 開始 14:00

ドラマチック・ドリーム・シート 完売

スーパーシート(ろ列、は列) 15,000円(当日15,500円)※お土産付き

リングサイド 12,000円(当日12,500円)

指定席S 10,000円(当日10,500円)

指定席A 8,000円(当日8,500円)

指定席B 6,000円(当日6,500円)

一般発売・受付期間中

詳細はオフィシャルH.P. (https://www.ddtpro.com/news/19775)でご確認ください。

 

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