元吉庸泰、村井良大が描く深い絶望と希望の物語 エムキチビート第十三廻公演『アイ ワズ ライト』公演レポート

レポート
2016.8.6

画像を全て表示(9件)

2016年8月7日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアターにて上演されているエムキチビート第十三廻公演『アイ ワズ ライト』。本作は、2012年4月に元吉庸泰が主宰する劇団エムキチビートの第十廻公演として初上演。今回は主演に村井良大を迎え、内容をリライトした上で、タイトルを『I was Light』からカタカナ表記に変更しての再演となった。その公演の模様をレポートする。

(一部、演出の内容に触れています)

開幕してからしばらく、劇場の中は暗闇の状態が続く。すると、どこからか声がする。「食欲は変わりません。昨日は地震があったんですね・・・」。暗闇の中語りかけ続けるその声は、明るいのに、どこか寂しい。

そこへ、「誰かいませんか・・・?いるなら返事してください!」ともう一つの声が飛び込んでくる。劇場は、まだ暗いまま。空気の動きや衣擦れの音で、二人の距離が少しずつ近づいていくのがわかる。目が暗闇に慣れてくると、ぼんやりと認識できるようになる人の輪郭。最初の声の主は「マシロ」と名乗った。そして、もう一つの声の主に「ハイバ」と呼びかけた・・・。

物語の舞台は、震災直後の山奥の施設。そこで、目の見えないマシロ(村井良大)がお話を語っている。傍には、それをパソコンで記録し続けるハイバ(末原拓馬)が寄り添う。マシロが語るお話は、ピーターパンを基にした空想の物語。震災で立ち入り禁止となった区域で、二人はずっとそれを続けていた。

ある日、そこへ一人の女性が訪れた。ワスレナ(川村ゆきえ)というその女性はボランティアスタッフとして訪れながら、ある目的で立ち入り禁止区域へと足を踏み入れ、マシロとハイバに出会う。ワスレナに対し正反対の反応を示す二人。ハイバは拒絶し、マシロはここにもう少しいて自分の物語を聞いてほしいと言う。「言葉って、誰かに聞いてもらうと力になるんだ」―。

ここ最近はミュージカル作品への出演が続いていた村井だが、今回ストレートプレイで、改めてその底力を見せつけた。盲目という役どころを見事に表現するだけでなく、無垢なマシロの内に秘めた感情を露にしていく。末原は、普通の青年が抱える複雑な想いを声や所作の一つ一つに乗せて届け、川村は、自身も抱えるものがあることを含みながら女性の弱さと強さの同居を体現していた。

そして、マシロの語る物語の中で、ティンカーベル・クリア(黒沢ともよ)やロストボーイのスオウ(森本亮治)、海賊の長フック(若宮亮)、インディアン率いるタイガー・リリー(長谷川あかり)なども、生き生きと動き回る。本来のピーターパンに登場するキャラクターを個性で色付け、舞台全体の雰囲気にメリハリをもたらしていた。そっと忍ばせてあるオマージュを見つけるのも楽しい。

舞台向かって左側には、ピアノ、ヴァイオリン、チェロが控え、生演奏を聴かせる。紡がれる音楽は、観客の心情に寄り添いながら、奥深いところにまで響いてくる。また、エムキチビートが得意とする映像、音、光の演出が絡み合い、シンプルな舞台ながら、物語の奥行きを広げていく。

過去と現在、空想と現実が入り混じる複雑な構造でありながら、脚本・演出の元吉の持つ世界観が、繊細に、丁寧に描き上げられた本作。生きることは、選択の連続だ。選択は、終わらない物語を動かし、旅立ちを促す。元吉は、インタビューで「希望を描くには、ちゃんと絶望を描かなければいけない」と語っていたが、その言葉通りすべてが明るみになった時の絶望は深い。その分、その先に灯る光のあたたかさを強く感じ、どこか救われる想いがした。全身を駆け巡る感情の波を、ぜひ劇場で体感してほしい。そして、誰かにその体験を話してほしいと思う。

劇団エムキチビート第十三廻公演『アイ ワズ ライト』は、8月7日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアターにて上演。

エンタステージ
シェア / 保存先を選択