浅利慶太プロデュース公演『アンチゴーヌ』開幕レポート

レポート
2016.12.9


1944年にフランスで初演された、劇作家ジャン・アヌイによる悲劇『アンチゴーヌ』が、12月7日(水)東京・自由劇場にて幕を開けた。また、公演にさきがけ、12月6日(火)同劇場にて公開ゲネプロが行われた。

本作は2016年の浅利慶太プロデュース公演4作目。また、劇作家ジャン・アヌイは浅利にとって原点ともいえる作家で、1953年に浅利たちが創立した劇団四季の旗揚げ公演は、ジャン・アヌイの『アルデールまたは聖女』、翌年に第2回公演として上演されたのが同劇作家の『アンチゴーヌ』であった。以降も度々『アンチゴーヌ』は上演されてきたが、同劇場での上演は約11年ぶりとなる。

ギリシャ悲劇『オイディプス王』の後日譚が描かれる本作は、オイディプス王の死後、テーベ国の覇権争いで共に倒れた二人の息子の亡骸を巡る物語がオイディプスの娘・アンチゴーヌを主軸に展開する。

オイディプスの二人の息子に代わって王に即位したクレオン(山口嘉三)は、良き兄エテオクルには盛大な葬儀を行い、弟ポリニスは反逆者として埋葬を禁じ、これを破った者は死刑に処すと命じる。

だが、兄を思うアンチゴーヌ(野村玲子)はポリニスの亡骸に土をかけ、捕らえられてしまうのであった。息子・エモン(松本博之)の婚約者でもあるアンチゴーヌを救いたいクレオンだが、死を覚悟した彼女の意志は固い。そこで、クレオンは二人の兄にまつわる隠された真実を告げるのであった・・・。

『アンチゴーヌ』はギリシャ悲劇をベースに執筆された物語であるため、少々お堅いイメージがあるかもしれない。しかし、実のところその内容は“少女”と“大人”の間で揺れ動く、アンチゴーヌの瑞々しくも儚い青春物語であった。また、物語は合唱役の近藤真行による物語背景や人物相関を明かす独白から始まるため、本作の土台にあたる『オイディプス王』を知らない人も、十分に楽しめるはずだ。

本作の見どころは繊細な少女の心の機微を見事に演じきった野村のアンチゴーヌ姿だろう。野村は対話する相手によってその表情を微妙に変える。松本演じるアンチゴーヌの婚約者・エモンには、確かな愛を伝えようと熱い視線をおくり、坂本里咲演じる垢抜けた雰囲気の姉・イスメーヌには責任感を覗かせ、佐藤あかり演じる乳母に対しては子供のように甘えてみせる。野村が演じるアンチゴーヌは角度によって煌めきを変えるダイヤモンドのようで、それはつまり現代に精通する普遍的な少女の姿であった。

アンチゴーヌと対峙するクレオンを演じる山口の人間味溢れる演技にも注目だ。王としての確固たる威厳を漂わせる山口だが、時に一人の人間として、か弱き姿を露見させる。不条理な現実に対して死を賭して純潔を守るアンチゴーヌと、幸福に生きるため不条理な現実を飲み込み大人になることを諭すクレオン。「純粋な美しさ」と「不純な幸福」の間で揺れ動くアンチゴーヌの生き様は見るものの心を揺さぶる。

また、アヌイの書いた美しい台詞の数々は観客を詩的世界へと誘う。舞台美術は向かって右手、左手、中央に両開きの扉と、腰を下ろせる台が2つあるのみのシンプルな作りとなっている。そのため、台詞の一言一言が哲学的な余韻を持って劇場に響き渡る。絶妙な照明の陰影も含めて、とても心地よい文学的体験となるだろう。また、畠山典之演じる衛兵のコミカルで滑稽な人物像には、悲劇を単一なモノクロームに染めないアヌイの手腕が光る。

2014年に劇団四季の代表を退き、2015年より浅利慶太プロデュース公演として演劇活動を再開した浅利が、再びアヌイの戯曲『アンチゴーヌ』を取り上げたというのが感慨深い。大人(不純)と少女(純潔)の間で揺れ動くアンチゴーヌの魂の行方をぜひ、劇場で目にしてほしい。

以下、出演の野村玲子、山口嘉三、佐藤あかり、近藤真行からコメントが届いたので紹介しよう。

◆アンチゴーヌ役 野村玲子
アンチゴーヌとクレオン以外にも、この作品には個性的な人物たちが登場します。お客様によって共感するポイントや人物が違うかもしれませんが、舞台をご覧いただきながら、お客様それぞれの生きる幸福を見つけたり感じていただけたら嬉しいです。

◆クレオン役 山口嘉三
アンチゴーヌとクレオン二人の会話を通して、お客様それぞれの人生や現代社会を照らし合わせてご覧いただけたら面白いと思います。

◆乳母役 佐藤あかり
このドラマの中でアンチゴーヌがもっとも少女らしくいられるのが乳母といるシーン。だがらその後の彼女の行く末を思うといつも心が締め付けられます。お客様にも一緒にアンチゴーヌの人生を見守っていただきたいです。

◆合唱役 近藤真行
タイトルから古典劇ではないかと構えてしまう方が多いかもしれませんが、そんなことはありません。現代を生きる僕たちだからこそ共感できるところがたくさんあります。難しく考えずに楽しんでご覧ください!

浅利慶太プロデュース公演『アンチゴーヌ』は‪12‬月‪7日(水)から12‬月‪11日(日)まで東京・自由劇場にて上演中。‬‬‬‬‬‬‬‬‬

(取材・文/大宮ガスト)
(撮影/石阪大輔)

公演情報
浅利慶太プロデュース公演 『アンチゴーヌ』

■作:ジャン・アヌイ
■訳:諏訪正
■演出:浅利慶太
■出演:野村玲子、山口嘉三、松本博之、坂本里咲、齊藤奈々江、佐藤あかり、古庄美和、志村史人、折井洋人、山本航輔、桑島ダンテ、近藤真行
■日時:2016年12月7日(水)~12月11日(日)
■会場:自由劇場
■公式サイト:http://antigone2016.com​

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