ルイ•ヴィトンに身を包んだ村上隆と市川團十郎、京都に出現した屋外作品「お花の親子」に「諦めない強さを感じる」

レポート
アート
2024.4.2

1.もののけ洛中洛外図

続いては展示内容を紹介しよう。村上隆の国内での大規模な個展は2001年、2015年に続いて8年ぶりで、東京以外での開催は今回が初、公立の美術館で行われるのは実に23年ぶりとなる。村上が信頼する同館事業企画推進室の高橋信也ゼネラルマネージャーからの「村上隆の過去、現在、未来を京都の文脈に絡めた展覧会を」との提案から実現した。

同展では、東京藝術大学で日本画を学び、博士号まで取得した村上が、江戸時代に京都で活躍した絵師の代表作を独自に解釈、引用して再構築した作品を中心に、最新の描き下ろし作品や国内初公開作品を含む約170点の作品が並ぶ。そのうち約160点が新作だ。

村上隆「洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip」2023-2024年(部分)

村上隆「洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip」2023-2024年(部分)

展示室に足を踏み入れるとまず視界に飛び込んでくるのは、全長13mにもおよぶ「洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip」(2023-2024)。京都市街(=洛中)と郊外(=洛外)の景観や風俗を描いたもので、17世紀に岩佐又兵衛が描いた「洛中洛外図屏風(舟木本)」を引用し、新たに村上が描き下ろした大作。かなり細かく描き込まれた図の中には、村上キャラクターのほか、じっと目を凝らすと雲の中に髑髏が見える。

村上隆「「村上隆 もののけ 京都」展をみるにあたっての注意書きです。」2023-2024年

村上隆「「村上隆 もののけ 京都」展をみるにあたっての注意書きです。」2023-2024年

会場にはところどころに「言い訳ペインティング」なるものが綴られている。お金と時間の事情で完成しきらぬまま展示されている作品が数点あり、その事情がユーモアたっぷり&赤裸々に語られている。「「村上隆 もののけ 京都」展をみるにあたっての注意書きです。」(2023-2024)なる作品もあり、日本のアート業界を取り巻く事情が垣間見える。会期終了まで随時展示の様子が進化したり、リアルな「今」を語ることは、村上が愛聴するヒップホップからの影響を受けているそう。一見ネガティブに思える未完成作品すらコンテンツにしてしまうのが、面白いところだ。

2.四神と六角螺旋堂

村上隆「白虎 京都」2023-2024年

村上隆「白虎 京都」2023-2024年

京都は東西南北が山や川で囲まれている。部屋自体が八角形になった2つ目の展示室では、それを象徴する四神(青龍・白虎・朱雀・玄武)をモチーフとした新作が登場。照明が落とされた暗い室内には、部屋の中央にそびえる鐘楼「六角螺旋堂」(2023-2024)と四神が四方を囲んだ村上版の「平安京」で、華やかな古都・京都に隣り合わせに存在する「死・闇・もののけ」が表現されていた。

3.DOB往還記

村上隆「レインボー」 2023-2024年

村上隆「レインボー」 2023-2024年

1993年に初登場した村上の代表的キャラクター「DOB」の変遷を辿ることができる。村上が提唱した「スーパーフラット」は、日本の伝統絵画から現代のアニメ、マンガへと連なる「平面性」と、戦後日本の階級の無い社会とを文脈的に関連させた現代美術の概念だ。

ドローイングをはじめ、立体的、ファンタジック、もののけ的なものや、最新作の「ズザザザザザ レインボー」(2023-2024)など、様々なDOBが一堂に会する。また、村上率いるアートの総合商社、カイカイキキのマスコットキャラクター「カイカイ」と「キキ」の作品も。ここではキャラ誕生の秘密も明かされている。

村上隆「四季 FUJIYAMA」2023-2024年

村上隆「四季 FUJIYAMA」2023-2024年

「言い訳ペインティング」とともに展示された巨大な「四季 FUJIYAMA」(2023-2024)はクライアントから受注した作品だが、まだ完成しておらず、割り切れないメンタルを表現するために割り切れない数字こと「素数」を上から敷き詰めたという。9月が納期ということなので、会期中に完成していくのだろう。

4.風神雷神ワンダーランド

村上隆「風神図」、「雷神図」2023-2024年

村上隆「風神図」、「雷神図」2023-2024年

ここでは俵屋宗達の「風神雷神図屏風」を村上流にアレンジした「風神図」(2023-2024)と「雷神図」(同)が展示されている。琳派を代表する宗達の風神雷神は、尾形光琳、酒井抱一ら琳派の絵師が模写したものをはじめ、琳派が衰退した後も葛飾北斎や前田青邨など、多くの画家がモチーフとして作品を描いてきた。時代の変遷とともに画面に作家の個性が表れてきたが、村上流の風神雷神はずいぶんコミカルでゆるキャラ風。思わずクスッと笑ってしまうゆるさが良い。

村上隆「雲竜赤変図 《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》」2010年

村上隆「雲竜赤変図 《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》」2010年

最もインパクトを感じるのは、横幅が18mもある「雲竜赤変図 《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》」(2010)だ。村上のルーツには、岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳ら「奇想の絵師」を取り上げた美術史家・辻惟雄の名著『奇想の系譜』がある。曾我蕭白の「雲龍図」(18世紀)を参考にしたという同作品は大迫力。これまでの展示室で見てきた、細部まで作り込まれた精巧な表現とは違い、ぎょろっとした竜の大きな目やダイナミックな筆使い、したたる絵の具といった身体性を感じさせる表現に圧倒される。

5.もののけ遊戯譚

村上隆「Murakami.Flowers Collectible Trading Card 2023」2023-2024年

村上隆「Murakami.Flowers Collectible Trading Card 2023」2023-2024年

同展で村上が資金調達と文化振興の手段として導入したのが、日本のふるさと納税制度だ。プランを選ぶと、返礼品としてトレーディングカードがもらえる仕組み。かねてから「Murakami.Flowers」というNFTプロジェクトを運営してきた村上だが、今回はそれに関連した「もののけバージョン」のトレーディングカードを108枚新たに作成、「Murakami.Flowers Collectible Trading Card 2023」(2023-2024)として正方形の絵を壁一面に展示した。このふるさと納税によって寄付金約3億円が集まり、京都市内に通う大学生、高校生、専門学生は学生証の提示で入場の無料化が実現した。

他にもNFTコレクション「CLONE X」とタッグを組んだアバターや、村上が監督をつとめるアニメ『6HP』などのデジタルデータが絵画として展示されている。

作品画像は全て『村上隆 もののけ 京都』展示風景、京都市京セラ美術館 2024年 (c)Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

6.五山くんと古都歳時記

村上隆「2020 十三代目市川團十郎白猿 襲名十八番」2020年

村上隆「2020 十三代目市川團十郎白猿 襲名十八番」2020年

展覧会の最後を飾るのは、全面金箔貼りの豪華絢爛な部屋。京都にゆかりのある「京都の舞妓さん アニメ風」(2023-2024)や「五山の送り火」(2023-2024)、そして「2020 十三代目市川團十郎白猿 襲名十八番」(2020)などが展示されている。

限定オリジナルグッズが多数

(c)Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

(c)Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

ミュージアムショップでは、Tシャツやクリアファイルなどの定番商品から、アクリルブロックやぬいぐるみなど、様々なオリジナルグッズを販売。中でもお菓子コーナーは平日でも混雑を極めていた。

展覧会のメインビジュアル「金色の空の夏のお花畑」があしらわれたストロベリーピスタチオ缶は、完売必至の人気アイテム。

八ッ橋を300年以上にわたり製造販売している聖護院八ツ橋総本店の「聖」とのコラボ商品は、オリジナルステッカー入りで、ニッキ/抹茶味と3月から新しくさくら/抹茶味の2種類が登場。

新作「風神図」「雷神図」のパッケージに、花の焼き印を施したラングドシャは、京都土産の定番となりつつある京都北山マールブランシュの「茶の菓」とのコラボ商品など、目移りしてしまうほどの豊富さ。ぜひショップも堪能してほしい。

東日本大震災直後に京都に移り住んだ村上が、真っ向から「京都」と対峙した今回の展覧会。まさに62歳の成熟した作家として、村上の過去、現在、未来を表すものであり、完成お披露目会で團十郎が語ったように、自身のルーツである日本画という伝統をリスペクトしながら、新しいことにも挑戦する熱量の高さを見せてくれた。さらに私たちに日本と海外のアート業界の違いについても教えてくれる、非常に意義深い展覧会となっていた。

未完成の作品も展示されているため、進化する展示を見に何度も足を運んでほしい。そして村上曰く「日本での展覧会は今回で最後にする」とも言われていることから、9月までに鑑賞されることを強くおすすめする。

取材・文=久保田瑛理 撮影=SPICE編集(川井美波)

イベント情報

『京都市美術館開館90周年記念展「村上隆 もののけ 京都」』
会期:2024年2月3日(土)~2024年9月1日(日)
会場:京都市京セラ美術館新館 東山キューブ
音声ガイド:山﨑賢人(日本語版)、Awich(英語版)※別途、利用料(650円)が必要です
観覧料
一般:2,200円(2,000円)
⼤学・専門学校生:1,500円(1,300円)
高校生:1,000 円(800 円)
中学生以下無料
※価格はすべて税込み
※( )内は20名以上の団体料金
※障害者手帳等ご提示の⽅は本人及び介護者1名無料(学生証、障害者手帳等確認できるものをご持参ください)
※そのほか企画あり
●京都市内の大学生以下の入場無料について(2月2日更新)
御寄付により、京都市美術館開館90周年記念展『村上隆 もののけ 京都』について、京都市在住の学生もしくは京都市内の学校に通学している学生の入場料を無料とします。
*対象の方は、ご入場の際にご住所が分かるもの、学⽣証の提⽰が必要です。
*中学⽣以下の⽅は在学(通学)の地域に関わらず無料でご⼊場いただけます。
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