「街に魔法をかける」香川・高松の商店街を舞台にした、15周年の超個性的な大祭り『SANUKI ROCK COLOSSEUM 2024』2日間レポート

レポート
音楽
2024.5.2
四星球 撮影=翼

四星球 撮影=翼

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『15th Anniversary SANUKI ROCK COLOSSEUM 2024 -MONSTER baSH × I♥RADIO 786-』2024.3.23(SAT)高松市商店街

『15th Anniversary SANUKI ROCK COLOSSEUM 2024 -MONSTER baSH × I♥RADIO 786-』(以下『サヌキロック』)が、3月23日(土)、24日(日)の2日間にわたって開催された。コロナ禍の影響もあり、2022年に3年ぶりに開催。昨年よりコロナ禍以前の規模に戻って、今年も約100組が出演した。昨年と今年の大きな違いは、観客・出演者・関係者のほとんどがマスクを装着していなかったこと。この何気ない光景は、2022年からライブレポートで参加している私にとっては初めての光景であり、初日の朝から喜ばしかった。

3年連続で同じことを書くが、まずはおさらいを。このイベントは、2010年から四国在住のバンド、四星球が発起人となり、FM香川と四国のコンサートプロモーターのDUKEが主催している。香川県高松市の常磐町商店街を中心として、通称「ことでん」こと高松琴平電気鉄道の瓦町駅周辺で行われてきた。会場となるのは、約200m範囲内にあるfesthalle、オリーブホール、DIME、MONSTER、TOONICE、SUMUS cafe。昨年はDIMEが南新町商店街付近に移転し、その手前に位置するTOONICEも新たに会場として加わった。それにより少し範囲は広がったが、それでも10分もあれば移動できる距離だし、全て商店街を起点にしているので全く遠さは感じない。逆に商店街を奥まで楽しめるということでもある。

以前は瓦町駅地下広場にあった特設ステージ「786FM香川ステージ Supported by レクザム」が、去年からは常磐町商店街と南新町商店街、田町商店街が交差する南部3町ドーム下に設営されている。公開生放送、トークライブ、アコースティックライブが行われる場所であり、発信基地としての意味合いもあるため、観客が必ず通るドーム下に設営されているのはイベント的にも商店街的にも活気という意味では本当に大きな存在である。しかし、バンドライブがフリー観覧できていた本来の瓦町駅地下広場特設ステージは、今年も復活ができていない。来年6年ぶりに復活できることを心から祈っている。

朝10時には、商店街のアーケード内でパス交換が始まるが、今年も去年と同様に長蛇の列ができていた。その列の横で、DUKE担当者が拡声器で挨拶をしていたのも、商店街の催しみたいな親近感があって素敵だった。アーケード内には、ミュージシャンやイベントの物販エリアから、CD販売をするDUKE SHOP、毎年夏に国営讃岐まんのう公園で開催される野外フェス『MONSTER baSH』(以下、『モンバス』)のブースも設置されている。大浦梶や、ムーディ勝山との勝山梶(後にアイスクリームに改名)といったコンビでも活躍し、現在は地元香川で「よしもと住みます芸人」を務める梶剛の情報発信スペース「かじ笑店」は、今年も観客の荷物を預かるクロークとして機能していた。

また、飲食店を中心とした20店舗が、イベントとコラボしたメニューを提供していたり、イベントのリストバンドを提示するとお得になるサービスを実施していた。常磐町商店街の入り口にある、「三びきの子ぶた」の特製シュークリーム「四星シュー」、常磐町商店街の奥にある「CREPE DE GIRAFE」の「おいりロッククレープ」は定番人気であり、手に持ちながら移動する観客もたくさん見受けられる。

コラボメニュー食レポ合戦 LONGMAN

コラボメニュー食レポ合戦 LONGMAN

晴屋製麺所 まちなか店 コラボメニュー「LONGTEN」

晴屋製麺所 まちなか店 コラボメニュー「LONGTEN」

今年は南新町商店街の奥にある「Bakery cafeル・レーヴ」が地元香川在住のバンドである古墳シスターズと焼きそばパンをコラボしていた。FM香川ステージ初日昼13時半からは、四国は愛媛出身のバンドであるLONGMANが「コラボメニュー食レポ合戦」を行なうなど、しっかり広めていっているのも良かった。個人的には、田町商店街の「気楽整体院」の「足ツボ強めにします」がツボだった。足ツボだけに……。

そんな冗談はさておき、幅広い街ぐるみな感じはニヤけてしまうし、実際にDUKE担当者に聞いても、商店街の方々は本当に協力的だという。毎年、自主的に商店街の方がひとりモデルになり、『サヌキロック』を盛り上げるためにポスターまで作っている。そうそう、今年初めて知ったのだが、商店街は『サヌキロック』の出演者と関係者用に商店街で開催2日間使用できる500円クーポン券をわざわざ作り、そのクーポン券を使用して、出演者や関係者は商店街で食事や買い物をしているという。ケータリングの食事やお弁当が他のイベントやフェスだと通常の中、商店街と一緒に開催している『サヌキロック』でしかありえない素晴らしすぎるサービスである。そして絶対に忘れてはならないのが、今年は『サヌキロック』15周年なのだ。

開会式

開会式

初日朝11時。FM香川ステージにて、公開生放送特別番組「サヌキロックレディオ2024」がスタート。四星球のメンバー全員で開幕宣言を行うのだが、毎年同様に昼12時にはオリーブホールで四星球のライブがある。あいにくの雨模様だったが、北島康雄は「毎年晴れていたのに今年は雨だけど、さすが商店街! あんまり影響が無い!」の言葉通りで、本当に1日通してほとんど雨の影響を感じることはなかった。さすが商店街内で繋がっているイベントである。11時10分にはfesthalle、オリーブホール、DIME、MONSTERでライブが本格的に始まるので、恒例のカウントダウンからの開幕宣言を、四星球とMCの下舞春希(FM香川DJ)が取り仕切る。

FM香川ステージの客席後方には、四星球のまさやんが段ボールで製作したFM香川ラジオブースが飾られていた。マイクやヘッドホンやミキサー卓など、どれも精巧に再現されているし、それがお手製で、それも発起人でもある出演者のバンドマンが手掛けているのにはもはや感激すらある。開幕宣言後、四星球は歩いてすぐのオリーブホールに移動するが、その短い間に康雄と少し話をすることができた。初日オリーブホール初っ端と2日目 festhalle大トリを務めるにあたり、それぞれのライブのコンセプトを教えてくれたが、それは『サヌキロック』でしか観れないワクワクドキドキする内容であった。

Are Square

Are Square

昼12時のオリーブホールでの四星球まで時間があるので、TOONICEまで歩き、11時30分トップバッターのAre Squareを観に行く。2022年に東京は八王子で結成されて、今年『サヌキロック』初出演となる。TOONICEは『サヌキロック』の中ではキャパ数が少ないライブハウスで、ステージも低くて観客との距離も近い。ここから初出場して、年々、大きなライブハウスに出演していくのは『サヌキロック』ドリームなので、TOONICE初出演のバンドは凄く気になってしまう。

四星球

四星球

オリーブホールは、四星球の開演前でリハーサル中に到着したが、既に満杯状態。リハをギリギリまでやると言って、メンバーもステージ上で着替える。この時点で11時53分だが、康雄は「休みたい」と言って、その場でうずくまると、仔馬が立ち上がる様子を応援する愉快なナンバー「UMA WITH A MISSION」がそのまま始まる。11時56分には無事に立ち上がり、それでも4分前。超満杯になってきている中、まだ中には入れていない入り口間際付近の観客たちの中に、康雄が井川さんを発見する。井川さんとは、元FM香川ディレクター兼パーソナリティで『サヌキロック』の立ち上げにも関わった方であり、2022年の『サヌキロック』復活の前に退職してしまった井川達雄さんのこと。

「井川さんが入れたら始めます! 15周年を祝うべく15曲やります! 井川さんが入れたら始めます!」

別にイベントの歴史を知らなくても、それも詳細となる裏方の関りを知らなくても楽しめたら良いのだが、そういった面白い詳細も知ってたら知ってたでより楽しめるはず。そういう意味で『サヌキロック』は数多くの豆知識や歴史がある。そんな15周年の歴史の中で、立ち上げに関わった方にまつわるMCから始まりを告げるのは、『サヌキロック』発起人である四星球でしかできないことでもあるな……と勝手に感心していたら、当の康雄はライブが始まる前のイベントジングルの時間を考えておらず、いきなり焦っている!

四星球

四星球

それでも30分15曲勝負の幕は開いた。2曲目「Teen」からすでに観客の上にダイブしている康雄。気が付くと6曲目に突入しており、観客フロアではサークルモッシュが起きている。今回2日間の四星球において特筆すべき点は、両日共に新曲をおろしたこと。8曲目「エラ」はシンデレラをモチーフにした新曲であり、譜面台に歌詞を置いて歌う。途中、本の様に綴じられた歌詞を持ちながら、歌詞を朗読する。その姿は、まるで康雄が敬愛する小沢健二の様であったが、翌日のライブで色々とわかっていく。

9曲目を前に、康雄は高松で行きつけの惣菜居酒屋「まほろば」で90歳の女将さんが現役で働いていることを明かす。自身も90歳まで『サヌキロック』を観ていたいと言って、こうも宣言した。

「『サヌキロック』は、この街の誇り! 時間が迫っているけど言わして下さい! 『サヌキロック』愛しています!」

去年に引き続き、四国のスーパー「マルナカ」の歌も歌っていたが、四星球は本当に四国を愛している。だから、他のイベントやフェスでは絶対にやらないような30分15曲という無茶なライブに挑んでまでも、『サヌキロック』15周年を祝おうとするのだろう。14曲目「薬草」終わり、まさかの時間を巻きそうなことがわかり、再度「薬草」を歌う。15曲無事に終わったところで、本日の15曲セットリスト表が出てきて〆。流石です、天晴れですとしか言いようが無いが、ライブ終わり楽屋に向かうと、既に井川さんが来られていて、康雄も嬉しそうだった。

四星球

四星球

四星球が終わり、FM香川ステージの前を通ると、古墳シスターズがクレープを食べながらトークしている。全体の中間地点おへそ地点的にFM香川ステージがあるとはいえ、毎年ではあるが今年も2日間の間に四星球メンバー全員をよく見かけた。5分くらいの時間差で、その間にメンバー全員がそれぞれFM香川ステージの前を通ったこともあった。で、毎年といえば、この記事のために商店街で四星球メンバー全員の撮影を行なう。メンバーと商店街の中で何かしらすれ違う度に「撮影は何時でしたっけ? 場所どこでしたっけ?」と聞かれるのも毎年のこと。

今や毎年写真館で撮影する家族写真の気分になっているが、今年は15周年の特別な撮影でもあった。康雄は撮影の合間に、「15年あっという間でしたよ。15年前って25歳なんで相当若手やのに発起人なんて(笑)。初年度は東京からYO-KINGさん(真心ブラザーズ)が弾き語りで来てくれたりして凄いですよね……」と振り返ってくれた。イベンターや商店街などの支えがあったとはいえ、25歳そこそこのヤングバンドマンが大型イベントに発起人として名前を連ねるのは驚くべきことだし、その一生懸命さや可愛げに惹かれて、YO-KING始め先輩方も出演されたのだろう。そして、15年続いている。快挙と言わず何と言う。

a flood of circle

a flood of circle

15時、DIMEへ。DIMEへ向かう階段で、まさやんお手製の段ボールスタンド花が飾られている、DIME名物店長還暦を祝う花。「そりゃ可愛がられるわ四星球!」と想いながら、a flood of circleへ急ぐ。真っ赤な照明に照らされる中、緑茶割りの缶を片手に佐々木亮介が現れて、ぐいっと呑む。絵になるし、「初めまして四星球です」なんていう自己紹介も粋だ。音楽も生き様もロックンロールな白革ジャン姿の佐々木の虜になるが、缶を呑み干して、自身もマイクコードを舞台から引っ張りながら観客フロアに降り立ち、後方のドリンクカウンターに向かってビールを購入。モーゼの十戒の如く観客がふた手に分かれて、真ん中に道ができる様は圧巻だった。そこを悠然と歩きながら歌う佐々木。

「新しい曲を作ったけど、でも新鮮味は特に無いですけど、新しい価値観を覆すのはネットとかで観て下さい。全部変わっても、まだあるぜロックンロール!」

a flood of circle

a flood of circle

ロックンロールの定義を説きたいわけではないが、簡単に言うと型にはまらないということだとは思う。そういう意味では、『サヌキロック』もfloodもロックンロールだ。「あと30分で東京に帰るんで!」と佐々木は言っていたので、一瞬30分しか佐々木を堪能できないのかと寂しくなったが、よく考えたら昼間FM香川ステージでトークはしているし、夜はSUMUS cafeで弾き語りもぶちかましていた。一粒で三度美味しいではないが、各会場を繋ぐサーキットフェスは、こういう楽しみ方ができる。同じくSUMUS cafeでトリを務めた映秀。も魂を込めた弾き語りを披露した上で、夕方にはFM香川ステージでトークをしていた。いやぁ、本当に1日隅から隅まで端から端まで楽しめる。

佐々木亮介(a flood of circle)

佐々木亮介(a flood of circle)

映秀。

映秀。

SUMUS cafeのように通常のカフェ営業では無く、アコースティックライブ会場にしているのならば、まだ理解はできるが、15時45分の「三びきの子ぶた」は誉め言葉としてカオスだった。ケーキやサンドイッチの販売店であり、カフェとしてイートインもできるが、通常営業そのままにして、古墳シスターズ・まつやまわたるの弾き語りライブが敢行された。この試みは初であるし、まつやまいわく前日にDUKEから打診の連絡があったという。四国のイベンターと四国のバンドマンという地元繋がりだから成しえた業でもあるが、ケーキを買いに来るおじいちゃんやお茶を楽しむ家族連れの中での弾き語りは異様であったし、たまらなく痛快でもあった。

古墳シスターズ まつやま弾き語り 撮影=アミノン

古墳シスターズ まつやま弾き語り 撮影=アミノン

夕方に入り、FM香川ステージで「最高にかっこいいバンおじ」というテーマで四星球とTHE イナズマ戦隊がトークを繰り広げる中、1983年生まれ四星球の康雄やU太と同い年のTHE BAWDIESが16時40分にfesthalleに登場。「お祭りにお祭り野郎たちがやってきました!」とROYが言ったように、1曲目「HOT DOG」からお祭り騒ぎ。ROYの言葉でいうところの、もう大祭り騒ぎ。

THE BAWDIES

THE BAWDIES

初年度に出演しており、自身たちもデビュー15周年、結成20周年なので、そりゃ大祭りになるだろう。「ロックンロールは、みんなを笑顔にして元気にしてくれます!」と言っていたが、まさしくその通りだし、TAXMANのギターシールドをライブ中に捌いていたのは四星球のまさやんだったりと、もう笑顔で元気になる要素しかない。同い年同世代ということもあり、最近、四星球と仲良くなったという彼ら。ドラムのMARCYも前日はずっと四星球のモリスと一緒にいたという。心底四国でのライブを楽しんでいると感じたし、最後、観客に打ち上げ花火と称してジャンプをさせていたのも良かった。間違いなく大祭りに打ち上げ花火を打ち上げてくれたロックンロールライブ。

PRAY FOR ME

PRAY FOR ME

四星球もそうだが、四国の大祭りを四国のバンドが盛り上げてくれるのは嬉しい。古墳シスターズもそうだが、四星球の下の世代の若手バンドたちが盛り上げてくれていると尚更嬉しい。17時10分、MONSTERに出演した愛媛県松山市在住のPRAY FOR MEは、昨年の『モンバス』初出場でも感じたが、地元四国の大祭りに関われていることに感動しながら音を鳴らしている。「バンドに逢えるのでサーキットは楽しい!」とボーカルのタクマは話していたが、普段自分たちが全国各地のバンドに逢いに行っているだけに、そのバンドたちが自分たちの地元を訪れてくれるのは感無量だろう。

LONGMAN 撮影=アミノン

LONGMAN 撮影=アミノン

同じく愛媛出身のLONGMANも19時40分オリーブホールに登場。毎回ライブを観る度に思うが、さわ、平井、ほりほりのメンバー全員が笑顔で登場するだけで、こちらもライブが始まっていないのに笑顔になってしまう。もちろんポップでキャッチーでリズミカルな楽曲が鳴らされるので、より笑顔になってしまう。平井が「完全復活『サヌキロック』!」と言っていた通り、地元のバンドがそう高らかに宣言することで、そのことを最も実感することができた。

キュウソネコカミ

キュウソネコカミ

あっという間に初日も終盤。festhalle、18時55分。9年ぶりに登場のキュウソネコカミ。リハの段階で汗ビショになって風邪をひくんじゃないかというくらいに観客を大暴れ大騒ぎさせる。1曲目「ビビった」から観客全員が両手を使って、ボーカルのヤマサキセイヤと同じ動きで大盛り上がり。「ライブハウスは騒いでもいい物件となってます!」とヤマサキが言う様に、騒がにゃ損というくらい皆が騒いでいる! 密集・密閉・密室なライブハウスでサークルモッシュなど大騒ぎ状態。ヤマサキは観客の上を観客に支えながら歩いていき、「今日からfesthalleの柱になる!」と断言して、観客の上に立ち尽くす。「9年ぶりに帰ってきて、誰にも負けないつもりでやってます! 多くの人が観ている中で証明しに来ました!」とも申していたが、とにかく気迫を見せまくったライブ。

いよいよfesthalle、20時5分。Atari Teenage Riotのデジタルハードコアな爆裂な音が登場SEとして鳴り響きまくる中、トリの9mm Parabellum Bulletが現れる。赤い光が差す中、1曲目「名もなきヒーロー」へ。ここ数年、色々とあった世の中だけに<また明日 生きのびて会いましょう>という歌詞が物凄く沁みる。「The Revolutionary」でも感じたが、ただただ硬派に、ただただブッ放すだけ。何も余計なものも無駄なものも無い削ぎ落された音楽にぶっ飛ばされるのみ……。天候不良もあり、実は飛行機が高松空港に着地できず、東京にUターンする可能性もあった中で、今、爆音でライブを聴けているのは本当に幸せである。9mmの卒業ソングである「君は桜」を挟み、菅原卓郎が話し出す。5月に四国の至宝である四星球がツアーに呼んでくれて対バンをすることを、同じ数字を背負う者という小粋な表現で伝える。「明日も最後の四星球まで楽しんでください!」なんて言うのも小粋でしかない。

9mm Parabellum Bullet

9mm Parabellum Bullet

「耳寄り情報だけど夏も9mmに逢えるとか……逢えるとか! 俺たち20周年だから、あそこでお祝いしてもらわないといけない。『サヌキ』にも呼んでもらったし、これが20周年ってことだ!」

中々ツアーで高松を周れなかったことも踏まえて、こう菅原は話した。当然、この時点ではまだなにも発表されていない。20周年の東京のバンドがここまで四国を想っているということが、四国の人間ではない私が言うのもおかしいが、何よりも喜ばしかった。後日、夏に香川・国営讃岐まんのう公園で開催される『MONSTER baSH 2024』に9mm Parabellum Bulletの出演は発表された。夏にあそこで9mmに逢えるなんて最高だ。

「Brand New Day」、「One More Time」、「Black Market Blues」と三連発どか~んとブチかまされたが、滝 善充のギターも暴れうねっていて、最狂な宴に。ラストナンバー「新しい光」。重戦車のような凄まじすぎる音で、むちゃくちゃ良いという陳腐な言葉しか出てこないが、むちゃくちゃ良いのだから仕方ない。とてつもない音の残り香が漂いまくり、余韻のように鳴り響く中、去っていく。

「これでライブが終わって雨がやんでいたら、すげーかっこいいんだけどな!」と言っていたが、実際に外に出たら雨はやんでいた。格好良すぎるでしょ……。そんな格好良い現象で初日は〆られた。2日目に続く。

9mm Parabellum Bullet

9mm Parabellum Bullet

『15th Anniversary SANUKI ROCK COLOSSEUM 2024 -MONSTER baSH × I♥RADIO 786-』2024.3.24(SUN)高松市商店街

古墳シスターズ

古墳シスターズ

前日も問題になっていた天候からの高松空港視界不良があり、急遽当日になって2組の欠場という残念なできごとは生じてしまったが、現場の商店街は朝から物販に並ぶ長蛇の列など、前日と変わらない盛り上がりをみせる。festhalle12時20分は、地元高松在住の古墳シスターズ・まつやまの「高松へようこそ!」という挨拶から始まった。1曲目から人気曲「ベイビーベイビーベイビー」から熱気が高まる。「香川県高松市でギターソロを聴いて帰って下さい!」というまつやまの呼びかけから、松本のギターが火を吹いて暴れている。ギターが火を吹くわけは無いのだが、暴れながら弾いていると火を吹いている様に見えてしまう。「焼き芋フローズン」については「こんな曲が映画やドラマに使われるわけがない!」と自虐的に叫んでいたが、映画やドラマが全てでは無いし、もちろんネットが全てでも無いし、ライブハウスで鳴らされたら良いじゃないかと勝手に想っていた。すると……。

「フォロアーが多い、バズるバンドが偉いんちゃうで! 逢いたい人がおるバンドが強いんや!」

このまつやまの言葉はおっしゃる通りだった。映画やドラマで使われようと、ネットでバズろうと、逢いたいと想ってもらってこその存在だ。観客が帰宅してお風呂に入る時も耳鳴りとして残りたくて、観客が帰宅して枕元で電気を消す時も一緒にいたいと言う。それくらいにずっと残る音でいたいのだろう。自分たちは変なバンドだが、世界で一番好きなバンドなので見せたくなるとも言う。

「香川以外の人たち! 俺たちが、そっちに行った時は、その街を一番楽しい町にしますから、どうぞ安心して帰って下さい!」

この言葉を聞いた時に全国各地を駆け回るツアーバンドなのだなと思ったし、だからこそ地元香川に来てもらうことの有難みがよくわかるのだろう。『サヌキロック』2日目も良いスタートダッシュをきれている。そのままオリーブホール13時のセックスマシーン‼︎へ。

セックスマシーン!!

セックスマシーン!!

12時58分と時間ギリギリになっても本意気でリハを行なっている。ボーカルの森田ことモーリーは「時間が来たら勝手にジングルを鳴らしちゃって下さい!」と言いながら、とうに息を切らしている。結局、13時まで袖にはけることなく、「俺めちゃくちゃ調子いいです!」などとずっと喋っていた。後方の関係者エリアで観ている四星球の康雄を「あれが四国のランドマーク!」と言ったり、始まったら始まったで、観客フロアに出て一番後ろまでマイクコードを引っ張って向かったり、途中、外国人観光客を見かけては「紹介します! 俺のお父さんです!」とウソぶいたり、去年『サヌキロック』に出場していたことを完全に忘れていたりと、好き放題に楽しんでいる。本当は騎馬を組んで商店街を練り歩きたかったが、雨だから安全第一とライブハウス内で、観客たちに組ませた騎馬で騎馬戦をして見事に負けたり。後方で観ていた四星球のまさやんを引っ張り出して、勝者の観客たちの騎馬と戦わせたり。

セックスマシーン!!

セックスマシーン!!

「ライブハウス変なとこだなと思っただろうけど、毎日こんなことが起きてんだぜ! 俺たち全部合わせてロックバンドなんだぜ! 『サヌコロ』は続く!」

何かエエように聞こえてしまうが、ぶっちゃけ「何やってんの!?」という話である。でも、何やってんのということがありえてしまうのがライブハウス。ライブハウスは非日常が日常だということを改めて再認識させられた。14時FM香川ステージでの四星球と夕闇に誘いし漆黒の天使達による「東西コミックバンド談義」でも、ふざけたことを一生懸命やりきる男たちの美学を感じられた。2日目は、そんな型にはまらない自由さ全開の流れであったが、私自身も良い意味で、その渦に巻き込まれることになる。

MONSTER baSH 25周年記念緊急対談

MONSTER baSH 25周年記念緊急対談

それは初日の夜の話。今年は『モンバス』も25周年というアニバーサリーイヤーであることから、『モンバス』に向けての対談を、四星球とDUKE担当プロデューサー定家氏で『サヌキロック』の期間中に行なうことになっていた。そしたら何故かFM香川ステージで観客に向けての公開生対談をしようという話になり、いつのまにやら14時45分からSPICE掲載用の対談取材と16時10分から公開生対談という2本立て続けのスケジュールが急遽決まった。

どちらも私が担当することになり、『サヌキロック』中に『モンバス』を味わうという不思議な体験をした。普通の対談取材の方は近々、SPICEでアップされる。公開生対談は、その場のノリもあり、四星球はクリームソーダ屋さんのみで出場するかもという愉快な話にもなったが、ひとあし先に『モンバス』の何かしらが発表されるという貴重な内容も聞けた。この大規模なレベルのイベントで、緊急で何かが決まるなんてことは普通はありえないが、それを可能にしてしまうDUKEと四星球のフットワークの軽さ、フレキシブルさには脱帽した。そりゃ型にはまらない面白い発想を毎年毎年生み出せるわけだ。

ヤユヨ

ヤユヨ

瞬く間に時刻は17時。ヤユヨを観にDIMEへ行く。ボーカルのリコが「2年前、大学の卒業式の日にライブしながら卒業した想い出があります」と話す。2年前の初出場時のことは凄く覚えているし、去年も出場していたことを覚えている。イベントに毎年出場することは簡単なことではない。また、ライブをするハコの大きさや観客動員という目に見える形だけでない何かしらの成長を観ることができるのも、このようなサーキットフェスの良いところである。

フレデリック

フレデリック

ある意味ドキュメントだよなと思いながら、festhalle18時55分のフレデリックへ。初っ端から「スパークルダンサー」をぶちかまし、「高松まだまだいけるんちゃうか!? 35分一本勝負フレデリックです!」と煽っていく。そして、8年ぶりの出場ということもあり、ボーカルの三原健司から気合いをとてつもなく感じる。

同じ場所で20時5分に出演を控える四星球について、昔、大阪の江坂MUSEでライブを観たことがあり、その時は気付いたら自身も観客フロアで観客と一緒にゴチャマゼになってライブハウスの楽しみ方を知ったとも明かす。四星球を面白いし感動すると両面から絶賛しながらも、負けてられないという強い気持ちを打ち出していた。

フレデリック

フレデリック

「記憶に残るくらいのライブならば、その辺のバンドと一緒なんで、記憶に残らないくらいのライブをして帰ります!」こう宣言してからの「名悪役」、「スキライズム」の畳みかけには気迫と気概しか感じない。

「俺たちは、こうやって俺たちなりにライブハウスを守ってきたバンドです!」

この更なる一撃を加える言葉から、ラストナンバー「オドループ」でとどめを刺す……。メラメラとした闘争本能を感じまくったし、サーキットフェス全体を対バンと捉えている凄みも伝わってきた。天晴れという言葉しか思い浮かばない、魅力溢れるライブであった。

ハク。

ハク。

あくまで個人的に感じ取ったことではあるが、『サヌキロック』に出場する全バンドたちは、四国の戦友という存在だけではなく、四国の強敵という存在としても四星球を意識しているように思えたし、そこにバンドマンの矜持すら憶えた。フレデリックで熱気を浴びまくったので、20時5分の四星球まで一旦クールダウンをしようと散歩がてらTOONICE19時30分ハク。へと向かう。入った瞬間、<満月が速い日 走ってるんじゃないかな>という歌声が聴こえてくる。今年22歳を迎える若き女の子4人組の落ち着き払った淡々と飄々とした佇まいに、全ての感情を通り越して何だか訳わからない涙が出てくる。大祭りを楽しみながらも、自分たちのペースを崩さず周りに流されない姿勢。

TOONICEはコンパクトな箱なので、初期衝動的な勢いで持っていく若手が多い中、敢えてハク。は地に足をつけて普段通りのライブをみせる。専属のPAが音響を担当しているのかと勘違いするほどの良い音。プロフェッショナルなバンドとプロフェッショナルなライブハウススタッフの関係性にも感服せざるを得ない。一服の清涼剤とは、まさにこのことだろう。立派過ぎる初出場だった。これで心身完璧な状態で大トリ四星球を迎えることができる。

四星球

四星球

四星球は、リハで香川ではお馴染みにのスーパー「マルナカ」の歌を演奏している。そして、四星球担当PA岡嶋さんが翌日に娘の卒業式のため、今日中に東京に帰らないといけないことも、康雄から発表される。だから何なんだという話なのだが、どこか何かが起きるとワクワクドキドキ期待している自分がいるのも確か。最初に『サヌキロック』初年度という約15年前にオープニングでよく踊っていたというパラパラダンスを、U太、まさやん、モリスがアニメ 『ドラゴンボール』のテーマソングで踊る。それぞれピッコロ、魔人ブウ、フリーザのコスプレ姿。そこに康雄によく似ていると噂されるちょんまげマンが現れて、「CHA-LA HEAD-CHA-LA」を歌う。

四星球

四星球

四星球というバンド名は「ドラゴンボール」が由来であるわけで、さっきまで岡嶋さんの娘の卒業式ばかり考えていたが、とんでもなくエモーショナルな胸騒ぎがしてくる。引き続き『ドラゴンボール』でお馴染み神龍が、古墳シスターズのメンバーによって運ばれてくる。ここで今日のライブは『サヌキロック』15周年を祝うものであり、『ドラゴンボール』リスペクトライブであることが発表された。それから、名古屋で『ドラゴンボール』作者の鳥山明氏と逢える機会があったもののコロナ禍で叶わなかったことを打ち明ける康雄。

「このバンド名でまだまだやらせて下さい! 『サヌキロック』コロシアムという名の天下一武道会やろか!」

観客を煽るというより自分を煽って鼓舞する康雄。少年時代からのリアルな感情が心底湧き上がってくるエモーショナルさの気迫気概は凄みしかない。横で観ていた若い観客が口をあんぐりと開けて涙目で凝視している。止まることを知らず、どんどん攻めていくのが四星球。メンバーのルーツを落とし込んだ新曲も初披露するという。昨日初披露された新曲「エラ」のルーツがやはり小沢健二だったことも判明する。U太のルーツであるビジュアル系をモチーフにした「FLAG」、まさやんのルーツであるブルーハーツやハイロウズをモチーフにした「そういう生き物」と立て続けに鳴らされる。

四星球

四星球

康雄は昼にDIMEにバンドを観に行った話をする。ハコの人がPAも照明も務めていたが、バンドの演奏に完璧に合わせていたという。

「この15年で四国にツアーバンドが増えたのは、ライブハウスの人たちの努力のおかげです」

先程のハク。のライブで同じことを思っていただけに、実際本当にそうなんだと胸が熱くなる。そんなシーンの後には康雄がアラレちゃんのコスプレをしていたりと感情の落差が激しいが、「鳥山先生! これだけは本当に恥ずかしいです!」という康雄の魂の叫びに再び胸が熱くなってしまった。「このイベントに関しては他のバンドより温度が高いんです!」というように、『サヌキロック』への熱さで四星球に勝てるバンドはいないだろう。兎にも角にも四星球のライブは、マニュアル通りでは絶対に出せない熱狂的なエネルギーやパッションが溢れ出している。これぞ本物の熱気。

本編を終えて、すぐに出てきてアンコールへ。PA交代も考えたが、最後まで岡嶋さんに観てもらいたかったことを告げて、「ふざけてナイト」へ。岡嶋さんも四国出身のPAである。四国の人間と作り上げていくことにこだわる四星球。

「四国のライブハウスがずっと潰れずに続いていきますように!」

そう叫んでアンコールラストナンバー「ライブハウス音頭」。全く力み過ぎずに肩の力が抜けているのに力の入ったライブ! 大トリにふさわしいライブであった。

四星球

四星球

終演後、急いで楽屋に向かうとPA岡嶋さんが現れて、康雄に挨拶すると急いで駅の方へと消えていった。きっと翌日の娘さんの卒業式に間に合ったはずだ。そんなわけで21時54分無事2日間が終了。

余談だが、高松在住の友人が初日商店街に遊びに来て、普段の商店街との違いに仰天していた。単純に人通りの多さもあるだろうが、雰囲気や空気感が全く違うのだろう。この魅力は一体何なんだろうと考えながら過ごしていたが、2日目の夕方にDUKE担当者からこんな話を聞いた。以前、FM香川での『サヌキロック』特集で取材を受けた「三びきの子ぶた」店長が『サヌキロック』について、こう言ったという。

「街に魔法をかける」

あぁ、もうこれしか無いと思った……。そう、街に魔法がかかっているのだ。これは実際に自分の目で観なければわからない。だから、これを読んでいるあなたには、街に魔法をかける『サヌキロック』を絶対に来年は目撃して欲しい。おあとがよろしいようで。

取材・文=鈴木淳史 撮影=翼、アミノン


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