「こんなに気まずさを感じる映画は初めて」[Alexandros]川上洋平、ある家族を襲う悪夢のような週末を描いた『胸騒ぎ』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】

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2024.5.22
撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

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大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、各国の映画祭で話題になったデンマーク発のホラー『胸騒ぎ』。イタリア旅行中に親しくなったオランダ人家族から自宅に招かれたことで始まったデンマーク人家族を襲う悪夢の週末を描いた作品を語ります。

『胸騒ぎ』

『胸騒ぎ』

こんなに気まずい映画は初めてでした。まず、『ファニーゲーム』みたいな後味が悪い映画ジャンルには入ると思うんですが、途中までずーっと居心地が悪い。

──クリスチャン・タフドルップ監督は『ファニーゲーム』に影響を受けていると公言していますね。

でしょうね。訪問系でいうとキアヌ・リーブス主演の『ノック・ノック』もよぎった。ただ、僕は正直後味が悪い系の映画は苦手なんです。単純に腹が立ってくる(笑)。

──そうなんですね(笑)。

『胸騒ぎ』の主人公はデンマーク人夫婦で、彼らを招いたのはオランダ人夫婦。出会いは旅先のイタリアということでかなり多様性を感じますよね。ヨーロッパが舞台ではありつつ、デンマーク人夫婦が「オランダではこれが普通なのかな……?」と気を遣う感じがあって共感できますね。

──監督が以前家族でイタリア旅行に行った時にオランダ人の家族と仲良くなって、数カ月後に「オランダに遊びに来ないか?」という誘いが来たけど断った。「もし行ってたらどういうことがあっただろう?」と想像を膨らませたところから着想を得たらしいですね。

そのインタビュー読みました! そのオランダ人の夫婦にこのインタビューを読まれたら、それこそ気まずくないのかなと心配したけど(笑)。地続きのヨーロッパでもいろんな違いはありますよね。日本でいうと、東京の人が沖縄に行って、大阪の人と出会う、みたいな感じかね(笑)。

──よく西と東でお好み焼きに違いがあるとか言いますよね。

僕、ちょうど大阪のフェスから帰ってきたばかりなんですが、関西人って誰かと一緒にいて相手に電話がかかってきた場合、電話が終わった時「今の誰なん?」って聞く人が多いらしいんです。でも、東京人は聞かない人が多い。

──へえ!

俺も聞かないし、聞かれたら「え、別に誰でもいいじゃん」って思う(笑)。その「いいじゃん」も関東ぽいわーって言われるんだろうけど。

『胸騒ぎ』より

『胸騒ぎ』より

■価値観の違いを感じるんだけど、そういうことではないっていうことがわかる瞬間が後半でやってくる

──『胸騒ぎ』にはいろいろな価値観の違いが出てきて。例えば夫婦がイチャイチャする姿を人前で見せるか見せないかとか。

そうそう。ヨーロッパだと気にしない人が多いのかなって思ってたけど。

──あと、飲食店の会計をどっちが払うかとか。

そう。そういうところで価値観の違いを感じるんだけど、そういうことではないっていうことがわかる瞬間が後半でやってくる。「俺だったらこういう気まずい時はどうしてるかな」ってちょくちょく考えました。

──感情移入しやすいストーリーが、途中から思いもよらない展開になっていきますよね。

社交辞令の捉え方についても考えたなー。例えば飲み屋で隣になった人となんとなく意気投合して、「またどっかで」なんて言っても大抵はそこで終わると思うんですが、そこからもう一歩踏み込んで仲良くなって「今度家来ます?」って話になった時にどうするか。僕は結構無理だなー。その場限りがいい(笑)。だから常連の店もないんだろうけど。

──なるほど。

常連が多いお店にたまに入ってしまうと「あれ? ここ初めて?」とか言われて。その場ではうまく対応するんだけど、「今度●●さんの家でカラオケパーティーあるから来なよ」とか「バーベキュー来なよ」とか言われてかなり気まずかった。社交辞令なんだろうけど……どうすればいいんですかね(笑)。

──そんなに踏み込みたくないんですね(笑)。

あんまり外で身の上話をしたくないんですかね。僕がミュージシャンだからということではなくて、ゆっくり焼き鳥食べさせてくれよって思う。よっぽど意気投合したらわからないけど。

『胸騒ぎ』より

『胸騒ぎ』より

■個人的には「腹立つ」の感情が溢れた(笑)

──『胸騒ぎ』の場合、家に行くところまで踏み込んで、いろいろと違和感を感じるんだけど、我慢するのが大人だし、みたいな感じでその違和感を押し込めていって、やがて恐ろしい目に合うという教訓めいたところもありますよね。

童話めいたところもあった。後味が悪い映画って大抵の場合、主人公が「なんでそっちに行くんだよ」っていうシーンの連発ですよね。それで最悪な結末を迎えることパターンが多い。この手の映画は悲劇の主人公に腹立つんです。『胸騒ぎ』は特にそうだったかな。

──もやもやしてるのに、我慢してオランダ人夫婦に従い続けるというか。

そう。例えば『ファニーゲーム』のリメイクの『ファニーゲーム U.S.A.』や『ノック・ノック』は被害者となるであろうナオミ・ワッツやキアヌ・リーブスはかなり抵抗していたのである程度は同情の余地があったけど。『胸騒ぎ』は主人公たちが途中からなんか諦めてませんでした?(笑)。自ら悲劇方向に向かってるのかってぐらい同情の余地がなかった。すんなり受け入れ過ぎや。

──だから後味は悪いですが、「かわいそう」というよりおもしろさが勝るというか。

うーん、個人的には「腹立つ」の感情が溢れた(笑)。そう言う意味では後味が悪い映画の中でも珍しい。

──そこまでかなりリアルな描写が多かったのに、違和感を我慢し続けていた結果、急に非現実的な展開になるのが痛快ですよね。

そうそう。本当に何度も逃げるチャンスはあったのに。大抵そういう話って子どもが原因を作るんですよね。

──やっと逃げれたのに子どもが「オランダ人夫婦の家にぬいぐるみを忘れた」って言いだす(笑)。

あそこが一番嫌だった(笑)。ぬいぐるみくらい諦めて帰りなさい!って。僕なら無言でそのまま車を飛ばします。

『胸騒ぎ』より

『胸騒ぎ』より

■俺みたいに腹が立つ人が多いのか、はたまた同情する人が多いのか気になる

──そうですよね(笑)。

でもちょっとドラマ的な部分で好きな描写もありました。被害者の旦那さんが普段の生活で抑圧されているような描写がいくつか出てきて。特に好きでもない友達とご飯を食べたり、やりたくない仕事をしたりする中で、笑顔を作っていいヤツを演じなきゃいけなかったっていう。それは奥さんにもわかってもらえない自分だけが感じてる窮屈さなんだろうなって。それを加害者のオランダ人が解放してあげるシーンがあって。あれは良いシーンですよね。気まずい空気をぶっ壊したくなる瞬間を見事に表現してくれている。

──ただ、そういう習慣が身に付くと身を滅ぼすことになるよっていう。

そう。

──川上さんが人と一緒にいて許容できないポイントっていうと?

うーん、そこまでないんだけど。でも手は洗ってほしいかも。あとは男性もトイレでは便器に座ってほしい。そんなもんかな。飲食物をこぼすとかは気にしない。仕方ないじゃん。物壊されるのも、まあ物だし。割と人を家に招くことはあるので、いつか騙されるかもね(笑)。絶対阻止するけど。そういえば、昔試写会で『ノック・ノック』を観た時に、内容的にずっと苛立ちが込み上げてきて。映画が終わって席を立ってドアを開けたらPRの方が待ち構えていて、「どうでしたか?」って聞かれたんですよね。俺、ものすごい顔してたと思うんですけど(笑)。「いや、面白かったんですけどめっちゃ腹立ちました」ってかなり微妙な感想を述べてしまったのがものすごい申し訳なかったなって未だに思ってます。この『胸騒ぎ』を観た皆さんは、俺みたいに腹が立つ人が多いのか、はたまた同情する人が多いのか気になるので是非感想を送ってください(笑)。

 

取材・文=小松香里

※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています! 

上映情報

『胸騒ぎ』
監督:クリスチャン・タフドルップ/脚本:クリスチャン・タフドルップ、マッズ・タフドルップ/出演:モルテン・ブリアン、スィセル・スィーム・コク、フェジャ・ファン・フェット、カリーナ・スムルダース
あらすじ:イタリアでの休暇中、デンマーク人夫婦のビャアンとルイーセ、娘のアウネスは、オランダ人夫婦のパトリックとカリン、その息子のアーベルと出会い、同世代の子どもを持つ者同士で意気投合する。「お元気ですか? 少し間があいてしまいましたが、我が家に遊びにきませんか?」。後日、パトリック夫婦からの招待状を受け取ったビャアンは、家族を連れて人里離れた彼らの家を訪れる──。
新宿シネマカリテほか全国大ヒット上映中
© 2021 Profile Pictures & OAK Motion Pictures

アーティストプロフィール

川上洋平(Yoohei Kawakami)
ロックバンド[Alexandros]のボーカル・ギター担当。ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を手がける。毎年映画を約100本鑑賞している。「My Blueberry Morning」や「Sleepless in Brooklyn」と、曲タイトル等に映画愛がちりばめられているのはファンの間では有名な話。

リリース情報

[Alexandros]『SINGLE 1』
絶賛発売中
[Alexandros]『SINGLE 1』

[Alexandros]『SINGLE 1』

・初回限定盤[DVD] (UPCH-7668) ¥3,400(税込)
CD+DVD+「SINGLE 1」ミニチュアCDキーホルダー
・初回限定盤[Blu-ray] (UPCH-7669) ¥3,900(税込)
CD+Blu-ray+「SINGLE 1」ミニチュアCDキーホルダー
・通常盤 (UPCH-6025) ¥1,500(税込)
CDのみ
 
収録内容
【CD】
1. 冷めちゃう
2. アフタースクール ※テレ東系「WBS ワールドビジネスサテライト」エンディングテーマ曲
3. todayyyyy ※スマホゲーム『モンスターストライク』コラボレーションソング
4. Girl A (:D)
 
【DVD / Blu-ray】
THIS SUMMER FESTIVAL TOUR '23 ~カバーも入れときました~
・Underconstruction
・Yeah Yeah Yeah ~ Girl In A Black Leather Jacket ~ Revolution, My Friend
・Baby's Alright
・VANILLA SKY (feat. WurtS)
・de Mexico
・踊り子
・お子さまプレート

ツアー情報

[Alexandros]『SINGLE 1 TOUR』
6月4日(火) 東京 新宿LOFT
6月5日(水) 東京 新宿LOFT
6月11日(火) 福岡 福岡BEAT STATION
6月12日(水) 福岡 福岡BEAT STATION
6月18日(火) 愛知 NAGOYA JAMMIN'
6月19日(水) 愛知 NAGOYA JAMMIN'
6月25日(火) 大阪 心斎橋 Music Club JANUS
6月26日(水) 大阪 心斎橋 Music Club JANUS

全会場 OPEN 18:00 / START 19:00
料金 スタンディング 8,800円(税込 / 別途ドリンク代必要)
※未就学児童のご入場はできません/小学生以上はが必要になります
 
TOTAL INFO.
Livemasters Inc. 
03-6379-4744 (平日12:00-17:00)
 
https://alexandros.jp/

イベント情報

[Alexandros] presents『THIS FES ’24 in Sagamihara』
10月26日(土)、27日(日) 相模原ギオンフィールド
開場 09:00 / 開演 11:00 / 終演 20:30 (予定)
 
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