余白の詩学――「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」展

レポート
アート
2015.7.19

余白の詩学――「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」展

 20世紀を代表するアーティストのひとり、サイ・トゥオンブリー(1928~2011)の個展が、品川の原美術館で8月30日(日)まで開催されている。引っかいたような鉛筆の線、走り書きした文字や数字、無作為に配置された絵の具などから構成される平面作品が80点ほど展示され、およそ50年にわたる彼の画業を追うことができる。

 トゥオンブリーは「抽象表現主義」第二世代と見なされることもあるが、実際に彼の作品を見てみると、抽象的というよりはむしろ詩的で、暗号的で、そして官能的だ。とくに80年代以降の作品は、50年代の禁欲的なモノクロームの作品とは対照的に、カラフルな絵の具が奔放に描き散らされている。

 にもかかわらず、トゥオンブリーの作品が一貫しているように感じられるのは、つねに十分な広さの余白があるからだろう。鋭い筆跡とかすれた筆触が、それぞれに異なった時間をはらんだ空白を創り出す。そしてこれらの余白で、もはやない過去の線といまだない未来の色彩とが交差し、時間的な厚みをもった視覚的経験が生み出される。それはどこか、詩を味わう経験と似てはいないだろうか。

 

イベント情報
サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡
日時:2015年5月23日(土)〜8月30日(日)
会場:原美術館
開館時間:11:00~17:00(祝日を除く水曜は20:00まで/入館は閉館時刻の30分前まで)
休館日:月曜日(7月20日は開館)、7月21日
入館料: 一般1,100 円、大高生700 円、小中生500 円/原美術館メンバーは無料
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