「フルートの魅力をもっと伝えたい」~バロック音楽からジャズ風技法まで、竹山愛が紹介するフルートの世界
小澤佳永(ピアノ)、竹山愛(フルート)
凸凹コンビ!? の竹山愛(フルート)と小澤佳永(ピアノ)が贈るメロディー “サンデー・ブランチ・クラシック”2017.2.5 ライブレポート
肌寒さが抜けない2月5日の日曜日。この日、渋谷・道玄坂のLIVING ROOM CAFEで行われた『サンデー・ブランチ・クラシック』は、フルート奏者の竹山愛を迎えた。ピアノ伴奏は、小澤佳永が務める。
13:00、赤いドレス姿で登場した竹山は、早速演奏に入る。1曲目は、モーツァルト作曲「ロンドK.Anh.184」だ。冒頭から、華麗で伸びやかなメロディーが提示される。モーツァルトの演奏にふさわしい、上品で包容力のある音色だ。伴奏も曲調に合わせて、柔らかく優しい弾き方となっていた。
メロディーが転調するとともに、物憂げであったり、楽しげであったりと様々な表情を見せる。短調のメロディーは、悲しげでありながら気品に満ちていた。曲の終わりに近づくと、情感を込めてたっぷりとためを作り、テンポを上げながら技巧的なクライマックスを築く。最後は音量を落とし、穏やかに終止した。
笑顔で挨拶する竹山
会場の拍手を受けながら、竹山が挨拶する。「今日は午後から雨の予報でしたが、外は降っていないようで良かったです。本日は、このおしゃれで素敵な空間で、皆様と一緒の時間を過ごせたらと思っています。」
続いて、ピアノ伴奏として、紺色のドレス姿の小澤が紹介された。竹山が小澤についての紹介コメントをする。
「小澤さんと私は身長差があるので、よく『凸凹コンビ』と言われています(笑)。小澤さんは、東京芸術大学での指導やコンクールでの伴奏、またソロ活動などで活躍されています。」
小澤は室内楽の分野でも活躍しており、ヴァイオリン・チェロ・ピアノの三重奏団『アルクトリオ』の一員として演奏活動も行っている。また、竹山は先ほど演奏した曲目についても解説してくれた。
「最初に演奏した曲は、モーツァルト作曲『ロンドK.Anh.184』です。“Anh(アンハング)”とは「追加」または「偽作」の意を持つ追加番号のことです。元の作品はヴァイオリンの為のハ長調の作品ですが、当時のフルートの楽器的特徴に最適であったであろうニ長調に編曲されています。続いての曲は、バッハ作曲『管弦楽組曲第2番』より「ポロネーズ」です。『管弦楽組曲』という名前は堅苦しく感じるかも知れないですが、誰でも聴いたことのある有名な曲です。」
竹山愛(フルート)
小澤佳永(ピアノ)
3曲目の冒頭、フルートが高貴な感じのする舞曲のメロディーを奏でる。先ほどのモーツァルトの演奏とは対照的に、張りのある硬質な音色となっている。同一のメロディーの中でも、ダイナミクスの変化があり、印象を強くしている。
後半には荘重で華麗な曲調となる。技巧的な早回しの箇所も、バロック音楽らしく、精巧な機械のような精密な演奏だ。
2曲目の演奏が終わったところで「先ほどのバッハの管弦楽組曲ですが、次の機会ではピアノ伴奏ではなく、原曲通り弦楽器とともに演奏します。場所は東京芸術劇場で、6月28日(水)の『芸劇ブランチコンサート』でバッハを取り上げます。平日の11時という早い時間ですが、ご都合の合う方はぜひ、いらしていただけたらと思います。このアンサンブルでは、とても素晴らしいメンバーとご一緒させていただいています。『アンサンブル・サンセリテ』というグループ名をつけたのですが、これはフランス語で『真心合奏団』という意味です。日本語だと少々怪しげですが(笑)、毎回真心を込めて演奏していこう、という気持ちが込められています」と告知をおこなった。
バロック・古典派と、古い時代の音楽が続いたが、3曲目はやや雰囲気が変わる。「続いて演奏するのは、20世紀スペインの作曲家モンポウの作品です。小品を数多く残していますが、いずれも印象的で美しい作品です」と、3曲目のモンポウ作曲『内なる印象』より「哀歌」について紹介してくれた。
カフェで食事を楽しみながら
底から湧き上がるようなフルートのメロディーが奏でられる。幾度も繰り返される、悲しく美しい旋律が印象的だ。ピアノの伴奏はロマンティックで、流れるような音型である。
中間部は一転して、激情的な音楽となる。フルートの突き刺さるような激しい音は、それまでと大きく印象が異なっていた。楽が一度静まったあと、再び冒頭のメロディーが現れる。張り詰めた切ない音色を聴かせながら、曲は徐々に静まっていく。音楽は速度を緩め、静謐な余韻を残しながら終わりを告げた。
「早いもので、次でもう最後の曲となってしまいました。私事ですが、私は去年から東京シティフィルハーモニック管弦楽団に所属し、オーケストラでの演奏活動もしています。次に演奏するのは、ピアノ独奏とオーケストラの為の作品で知られるガーシュウィン作曲『ラプソディー・イン・ブルー』です。ジャズとクラシックの融合した音楽で、今回は吹奏楽作曲家としても高名な真島俊夫さんの編曲です。今日の演奏会は、ジャズとクラシック両方に関係の深いガーシュウィンの音楽で終わりにしたいと思います。」
竹山愛
4曲目のガーシュウィン作曲・真島俊夫編曲「ラプソディー・イン・ブルー」は、原曲とは雰囲気の異なる始まりだ。冒頭は静かなピアノの序奏で、ジャズらしい雰囲気の強い気だるげな始まりだ。やがて、原曲中間部の美しいメロディーが、フルートに現れる。テンポを自由に揺らし、たっぷりと情感のこもった演奏になっている。少しずつ音楽は盛り上がり、切ない思いを歌い上げるような音色となる。
小澤佳永
曲想は一転して、ピアノに活気のあるメロディーが現れ、徐々に音楽を盛り上げていく。それにフルートが答えるように、快活な音型を奏でる。
フルートといえば上品で美しい音色というイメージがあるが、今回はサックスのような激しい動きも見せる。普段のクラシックでは聴かれないポルタメントなど、新鮮な印象を受けた。原曲のメロディーはよく知られているが、編曲版を聴くと、よく知っていた曲の違った面をよく感じられ、非常に面白い。
再度音楽はロマンティックな雰囲気に戻る。甘く切ない頂点を作り上げたあと、名残惜しさを感じさせながら、静かに曲は終わる。この日一番の拍手を受け、竹山と小澤の両名はステージで礼をした。
「せっかくなので、アンコールとしてもう1曲ガーシュウィンの曲を演奏したいと思います。本日は短い時間でしたが、ありがとうございました」
アンコール曲は、ガーシュウィン作曲「ポーギーとベス」だ。ピアノの刻む独特のリズムに乗って、黒人音楽風の旋律が現れる。気だるげでユーモラスだが、どこか哀愁の漂うメロディーだ。
音楽が盛り上がるにつれ、わざと潰れた音を出すなど、フルートに面白い動きが出てくる。「クラシックの楽器」としてのフルートしか知らない人にとっては、驚くような尖った音色だ。同時に、メロディックな箇所ではフルートらしい上品で澄んだ音色を出し、存分に楽器の魅力を伝えていた。
最後は、高く突き抜けるような高音域の長い音を響かせ、アンコール曲は終わった。
アンコールは「ポーギーとベス」
今日出演した2人は、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGでの出演は初めてとなる。終演後、竹山は会場について、「響きも素晴らしいのですが、何よりも『おしゃれなところだな』というのが第一印象です。ホールとは違い、カフェらしくお客様の雰囲気があたたかなところだと思います」と語ってくれた。
バロック音楽から20世紀の音楽までが並んだこの日の選曲については、「クラシックとなると、どうしてもモーツァルトやバッハのイメージが強くなってしまいます。クラシックにはもっと広い時間軸があるんだということを伝えたくて、こうした選曲にしました」と語る。この日は、広く知られたフルートのイメージとは違う音色も披露したが、それについても意図を話してくれた。
「フルートといえば、美しい音色で有名曲を奏でる、というイメージがあると思います。でも実は、フルートはエアリード楽器(クラリネットやオーボエのようなリードを持たず、息のみで空気を震わせて音を出す楽器)なので、息の表情がたくさんつく楽器です。もちろん、艶やかな美しい音がメインなのですが、そこから外れた奏法もフルートの楽しさです。最後のガーシュウィンの曲も、ジャズらしい遊びを入れた曲として取り上げてみました。」
インタビュー中の二人
6月28日には、竹山は東京芸術劇場において『芸劇ブランチコンサート』を控えている。
「今回参加するのは、大人数のものではなく、固定メンバーによる小編成のアンサンブルです。弦楽器は1本ずつ、またチェンバロではなくピアノを入れるという試みです。なので、『人数が限られているからこそできる演奏』が楽しめると思います。名前も『真心合奏団(=アンサンブル・サンセリテ)』ですので、とにかく誠実に頑張っていくことを大切に、たくさんの方に聴いていただけたらと思います。」
これからの活動について、竹山は「オーケストラに入ったばかりなので、まずオーケストラでの演奏をしっかり頑張っていきたいです。それだけでなく、楽器の魅力をもっといろいろな方に知っていただきたいので、ソロや『アンサンブル・サンセリテ』などの形で、フルートの楽しさを伝えたり、クラシック音楽の入り口になったりできればと思います」と語り、伴奏を務めた小澤も「目の前のことを、一つ一つ大切にしながら頑張っていきたいです。しっかりと上を見ながら、音楽に妥協せず続けていけば、自分の思い描いている音楽に近づけると思っています」と今後の意気込みを語ってくれた。
竹山愛(フルート)&小澤佳永(ピアノ)
毎週日曜日、午後の昼下がりに渋谷のカフェでおこなわれる『サンデー・ブランチ・クラシック』。ぜひ一度足を運んでいただきたい。
取材・文=三城俊一 撮影=荒川潤
日時:2017年6月28日(水)
会場:東京芸術劇場コンサートホール (東京都)
<出演>
アンサンブル・サンセリテ
フルート:竹山愛
ヴァイオリン:大江馨
ヴァイオリン:藤江扶紀
ヴィオラ:佐々木亮
チェロ:富岡廉太郎
コントラバス:西山真二
ピアノ:清水和音
ナビゲーター=八塩圭子
<曲目・演目>
J.S.バッハ:管弦楽組曲第2番
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第5番
《和音・今月の一曲》チャイコフスキー:「四季」より舟歌
岡田 奏/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
6月4日
1966カルテット/女性カルテット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
MUSIC CHARGE: 500円
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html