【追悼】イエスのベーシスト、クリス・スクワイアを偲ぶ

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2015.7.2

イエスの中枢であり続けた“イエスマン”

英国プログレッシヴロックを代表するバンド、イエスの創立以来の最古参メンバーにしてベーシストだったクリス・スクワイアが去る6月27日、米アリゾナ州フェニックスで永眠した。享年67歳。今年5月に急性骨髄性白血病と診断され、今夏に予定されていたイエス北米ツアーや恒例の『クルーズ・トゥ・ジ・エッジ』(イエスの代表作『クロス・トゥ・ジ・エッジ』をもじったクルージング形式のプログレフェス)への参加を見送る決断をしたばかりだった。

 

Chris Squire - Fish Out Of Water (Promo) :スクワイアのソロ代表作!パトリック・モラッツの荘厳なオルガンやビル・ブルッフォードの端正なドラムスと見事にマッチ。

 

先週末に訃報が流れて以降、全世界のプログレ愛好家たちが大きな悲しみに暮れている。最近、盟友ジョン・アンダーソンから出されたコメントによると、スクワイアはジョンをオビ=ワン、自分のことをダース・ヴェイダーに例えていたそうだ。ネットでは意外にも若者たちからの嘆きもけっこう目立ったが、それはアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』のエンディング曲でイエスの『ラウンドアバウト』が流れていたことが影響しているらしい。

 

イエスは1968年にロンドンで結成されて以来、47年間に渡って活動を続てきた老舗バンドである。他のメンバーが次々と脱退や出戻りを繰り返す中で、ひとりスクワイアだけは一貫してイエスの中枢であり続け、大黒柱としてイエスを守り続けてきた、いい意味での“イエスマン”だった。

 

1979年に看板ヴォーカルのジョン・アンダーソンや花形キーボード奏者のリック・ウェイクマンが脱退するという一大危機に瀕した際には、『ラジオスターの悲劇』でおなじみバグルズを吸収合併するという荒技をやってのけた。また、その時のヴォーカリストだったトレヴァー・ホーンを次のプロデューサーとして起用し、バンド史上最大のヒットを飛ばすことに成功する。1983年の『ロンリーハート』である。

Yes - Tempus Fugit (Official Music Video) :ジョンとリックが抜けてバグルスを入れたイエス。何とも躍動的でスクワイアも楽しそうだ。

その大ヒット曲を作ったトレヴァー・ラビン(ギター)、そして初期メンバー出戻り組のトニー・ケイ(キーボード)、『イエスソングス』以来の忠誠心溢れるアラン・ホワイト(ドラム)といった、イエス再建に貢献したメンバー達との結束を、ある一時期、スクワイアは重んじた。義理人情に厚い男であった。イエスを飛び出した連中が同窓会的な分家ユニットABW&Hを仕掛けた時があったが、分家に対してスクワイアは頑として彼らにイエスを名乗らせなかった(その後、本家と分家が合体して8人組イエスなどという訳のわからないものに一時期発展したこともあった)。

総じて言えることは、スクワイアがイエスにおける司令塔の役割を果たしていたことだ。そんな彼があの世に旅立ってしまい、イエスは続けていけるのだろうか。予定されている北米ツアーなどでは、達者なマルチプレイヤーのビリー・シャーウッドがクリスの代役を勤める。演奏自体はこなせるだろうが、バンドとしての今後の継続が些か心配である。

America - Yes: 2分過ぎのところでハウが奏でるサイモン&ガーファンクル「アメリカ」の旋律に、バーンスタイン「ウエストサイド物語」の「アメリカ」の旋律をぶつけてくるスクワイアの対位法魂が心憎い。
 

しかしなんといってもスクワイアのあのベースを聴くことができなくなることが本当に淋しい。日本には昨年11月にイエスの一員として来たばかり。東京ドームシティーホールという比較的小規模な会場で、黄金期の代表作『こわれもの』&『危機』を完全再現してみせ聴衆を熱狂させた。最近のスティーヴ・ハウ(ギター)などは見た目の老境感がさすがに隠しきれないが、最年長者のスクワイアにはそのような印象はまるでなく、貫禄ある巨体でベースをウクレレのように軽々と扱いつつ、それでいてギンギンな音色の重厚音をこれでもかと楽しげに鳴り響かせていた。『燃える朝焼け』において名物と化した彼のフィーチャリングコーナーもいまだに脳裏にしっかり焼き付いている。それがこんなにも突然にこの世を去ってしまうとは…である。

 

つい最近では14枚組CDボックス『プロジェニー1972ライヴ』(1972年の危機ツアーの新発見音源を集めたもの)や『“危機”&“こわれもの”完全再現ライヴ~ライヴ・イン・アリゾナ 2014』のブルーレイが発売され、それらにあわせた各種専門雑誌の特集なども含め、ちょっとした“祭り”が盛り上がっていたところだった。レコードコレクターズ誌7月号の「黄金時代のイエス」なる特集では巽孝之と難波弘之の対談が行われているが、その中で(リターン・トゥ・フォーエヴァーのベーシストだった)スタンリー・クラークがスクワイアを敬愛していた、といったエピソードも巽によって紹介されている。スクワイアがベーシストの中のベーシストであった一端を垣間見た気がしたものだ。

 

YES - Sound Chaser - Live at QPR: アルバム「リレイヤー」の難曲をクイーンズパークの特設ステージで再現!

 

米ベース雑誌Bass Playerはスクワイア追悼として、「クリス・スクワイアの最も素晴らしいパフォーマンス 8選」を彼らのサイトに掲載した。

「SPICE」もそれに倣いつつ、しかし、若干違った角度から押さえておきたい映像をセレクトした。それが上記に挿入した4動画だ。これらを鑑賞しながら、在りし日のスクワイアを偲んで欲しい。

 
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