味方良介、黒羽麻璃央、文音、多和田秀弥の『熱海殺人事件 NEW GENERATION』公開リハーサル&会見レポート

レポート
舞台
2017.2.18
『熱海殺人事件 NEW GENERATION』公開リハーサル

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』公開リハーサル


『熱海殺人事件』は、2010年に永逝した劇作家 つかこうへいの初期の代表作だ。1973年に文学座のために書き下ろし、1974年に岸田國士戯曲賞を、当時最年少の25歳で受賞。その後はつかこうへい事務所で上演、78年からは新宿の紀伊國屋ホールを拠点に上演。『売春捜査官』『モンテカルロイリュージョン』など様々な演出でバージョンを増やし、ファンを魅了してきた。つかの他界後、2015年には33年ぶりに風間杜夫&平田満という本作のゴールデンコンビが復活、再演が実現したことも記憶に新しい。

知らない世代が『熱海』を演じ、観る時代

2017年版となる『熱海殺人事件 NEW GENERATION』は、その名のとおり登場人物を4人全員を、新たな世代のキャストが演じる。演出は、晩年のつか作品に多く携わった岡村俊一だ。開幕前日の2月17日に行われた、会見と公開リハーサルの模様をレポートする。

文音、黒羽麻璃央、味方良介、多和田秀弥

文音、黒羽麻璃央、味方良介、多和田秀弥

主演を務める味方良介は「この紀伊國屋ホールで、若い世代で、つかさん、馬場さんの思いを、誠心誠意、心を込めて繋いでいきたい」と力強く語った。さらに「若さに甘えたくないですし、役者としてのプライドと魂をかけてこの作品を作っていく覚悟でいます。あんまり大きい声で言ってしまうと自分にプレッシャーがかかっちゃうんですけれど……」と続けると、他のキャストたちから一斉に「今、自分でハードル上げた!」とツッコミが入り、会場の笑いを誘った。

文音、黒羽麻璃央、味方良介、多和田秀弥

文音、黒羽麻璃央、味方良介、多和田秀弥

「生きることの大切さを感じていただけたらと思いながら、必死に演じさせていただきます」と挨拶をしたのは、紅一点の文音。多和田秀弥は「同年代の役者たちが憧れるこの作品で、役を演じられることに使命のようなものを感じます。みんなの思いを背負い、ご覧になる皆さんと一緒に、ニュージェネレーションになれるように」と意気込みを語った。さらに黒羽麻璃央は「長い歴史のある『熱海殺人事件』を若い僕らが演じることで、この作品をご存じない若いお客さんにも繋いでいける。つかさんの創り上げた世界が、これからも続いてく。そこに時代の巡りを感じます」と思いを明かす。

演出の岡村俊一によると、故・つかこうへいと関わりのないキャストだけで演じる紀伊國屋ホールでの『熱海殺人事件』は今作が初めてだという。「どこまで再現できるのかの挑戦になりますが、逆に、これからはそういう(つかこうへいとの接点がない)方が演じていく時代になるわけです。”新しい世代がちゃんとやってるな”と思っていただける形を残せるようにがんばって作りましたのでご期待ください」と締めくくった。

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』ゲネプロ(公開リハーサル)レポート

※以下、演出に関するネタバレを含みます

チャイコフスキー『白鳥の湖』をBGMに、刑事部長の木村伝兵衛が、けれん味たっぷりの演出で登場する。タキシードにアイシャドー。「俺より目立つな、俺を立てろ、俺より前に出るんじゃねえ!」と言い放つクセ者だ。

文音、味方良介

文音、味方良介

味方良介

味方良介

舞台は、警視庁の刑事捜査室。富山県警から鳴り物入りで上京してきた熊田留吉(多和田秀弥)と、婦人警官であり木村と男女の関係にある水野朋子(文音)で捜査を担当することになった。

熱海の浜辺で女が殺された。しかし被害者アイ子はブス。死体発見者の名前は山田太郎。入った喫茶店の名前はマイアミ。凶器は腰ひも。あらゆる要素が、木村の「刑事としての美学」に反する"3面記事にもならない事件”だった。木村は当然のように事件の記録を書き換え現場の指紋を消させたり、でっち上げの証言を犯人に押しつけようとする。

味方良介、多和田秀弥

味方良介、多和田秀弥

そんな木村を罵る熊田だが、次第に熊田なりの美学で木村に迎合していく。この物語は謎解きサスペンスではない。随所に時事ネタがちりばめられ、古くからの、つかこうへいファンへのサービスも随所にみられ、歌もダンスもあり、壁ドンありアニメフェス(?)ありと、会場は幾度となく爆笑に包まれダメ押しのような力いっぱいのドタバタで笑いを誘うが、4人が紡ぎあげる物語はコメディではない。

黒羽麻璃央

黒羽麻璃央

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』公開リハーサル

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』公開リハーサル

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』公開リハーサル

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』公開リハーサル

つかこうへい作品においてしばしば”マシンガンのように”と形容される台詞の応酬も、味方良介をはじめ皆がエネルギッシュに滔々とこなし、カンパニーが共に稽古に励んできたことを窺わせる。

文音

文音

文音が演じる水野は、翌日には木村の元を去り別の男と結婚式を挙げることになっている。複雑な思いを押し込めて、笑顔と色気を溌剌と振りまく姿は哀しくも清々しい。文音は同時に、殺害されたアイ子の役も務めるが目を背けたくなる純朴さと脆さを残す女を演じている。

多和田秀弥

多和田秀弥

味方良介、多和田秀弥

味方良介、多和田秀弥

多和田秀弥は、熊田を愛嬌たっぷり、愚直に演じる。分かりやすいキャラだからと心のよりどころにしていると、時折むき出しになる狂気に驚かされるだろう。彼もまた故郷の富山に思いを断ち切れない女がいる。

黒羽麻璃央、多和田秀弥

黒羽麻璃央、多和田秀弥

文音、黒羽麻璃央

文音、黒羽麻璃央

黒羽麻璃央が演じる大山は、九州の田舎から東京に出てきて、安い給料で工場に務める男だ。故郷の村の相撲大会で大関になったことを唯一の誇りにしている。そして、この捜査室で唯一、思いを寄せる人に"1歩踏み込む”強さをもっていた。無茶苦茶な取り調べが終わるころには、アイ子を殺害した経緯も明らかとなり、悲哀に満ちたいくつもの情愛と、大山、そして木村の強さと優しさが浮き彫りになる。

味方は囲み取材で「若さに甘えたくない」と言った。しかし、若さが滲みどこか親しみやすく、最後には理解に足る味方版・木村伝兵衛こそ『NEW GENERATION』に求めるべき魅力ではないだろうか。

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』公開リハーサル

『熱海殺人事件 NEW GENERATION』公開リハーサル

制作発表当時、本作は「若手イケメントリオが演じる『熱海殺人事件』」と話題になった。彼らの顔かたちが整っていることに異論はない。しかし、この舞台にイケメンは見当たらなかった。代わりに、究極的にキザで不器用で無様な(しかし愛すべき)男女の物語に浸ることができた。

つかこうへいを知らないNEW GENERATIONの方も、本作を機会に『熱海』の歴史に飛び込んでみてほしい。

取材・文・撮影:塚田史香

公演情報
「熱海殺人事件 NEW GENERATION」
 
■会場:紀伊國屋ホール (東京都)
■日程:2017/2/18(土)~2017/3/6(月)
■作:つかこうへい 
■演出:岡村俊一
■出演:味方良介/文音/多和田秀弥/黒羽麻璃央
■公式サイト:http://www.rup.co.jp/atami.html

 
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