トニー賞4冠の痛快ブラック・コメディ『紳士のための愛と殺人の手引き』で、ヒロインの宮澤エマが見所を語る!

インタビュー
舞台
2017.3.7
『紳士のための愛と殺人の手引き』取材会にて(撮影/石橋法子)

『紳士のための愛と殺人の手引き』取材会にて(撮影/石橋法子)


2013年にブロードウェイで上演回数900回超のロングランを記録。翌年トニー賞作品賞、脚本賞ほか4冠を達成した大ヒットミュージカル『紳士のための愛と殺人の手引き』が早くも日本初上陸。エドワード朝時代のイギリスを舞台に、伯爵継承順位8番目の男が上位継承者の”邪魔物たち”を次々と殺めていく(!)痛快ブラック・コメディ。軽快な楽曲と風刺の効いた筋書き、何より殺しの手口がユーモア満点で爆笑を誘う。しかも殺される8人を市村正親が一人で演じ分けるというから見逃せない。本作でヒロインのフィービーを演じる宮澤エマが、大阪の合同取材会で作品の見所を語った。

「誰もが『一番輝いている人が地に落ちる姿を見たい!』と思っているはず(笑)」

--NYブロードウェイ公演をご覧になったそうですね。

ブリティッシュ・ユーモアが入っていて、すごく面白かったです。日本人の感性に似ている部分もたくさんあって、日本に持って来たら絶対に喜んで頂けるだろうなと思ったのを覚えています。ただ、フィービーはすごく高いソプラノだったので、まさか自分がオーディションを受けさせて頂くことになるとは思いませんでした。

--具体的に、作品のどんな点に面白さを感じましたか?

歌舞伎にもそういう作品があると思うのですが、自分がそこ(殺人)までできないから面白い。悪い人たちを退治していく痛快さだったり、みんな表立っては言わなくても、どこかで「一番輝いている人が地に落ちる姿を見たい」とは思っていることかもしれません(笑)。劇中では、この人が殺されてもそこまで罪悪感を覚えないな、というぐらい強烈なキャラクターが次々に出てくるので、お客様もモラルを心配せずに見て頂けると思います(笑)。

宮澤エマ

宮澤エマ

--斬新な殺しの手口も飛び出しそうです。

素人が考える一番簡単な殺人って、毒を盛ることかもしれませんが、モンティの場合も一番最初に思い立つ殺人はそうなんです。ただ予定通りにはいかない。人に毒をもるって難しいじゃないですか(笑)。それが意外な方法で結末に至るのが、一番の驚きでした。導入がそれなので、お客様にとっても楽しんで見てもらえる最初のフックになると思います。私も殺人現場を見て笑っている自分に驚きました(笑)。

--現時点で、フィービー役についてはどんな印象をお持ちですか。

フィービーは田舎に暮らす貴族の女性。あまり外の世界との関わりを持って来なかった箱入り娘です。そのため、すごく外の世界に興味があって、”本当の自分を知って欲しい”という思いを強くもっている。そんな時、モンティ(ウエンツ瑛士/柿澤勇人Wキャスト)と出会うことで、今まで以上の自分を出していける。誰もが最初は、相手の肩書きや経歴に注目しがちですが、そうではなく中身の部分を知って欲しいという役どころなので、じつは「こんな人だったの!?」という、良い意味でのギャップや意外性を大事に演じたいなと思います。

宮澤エマ

宮澤エマ

--共感する部分はありますか?

特にデビューしてから感じるのは、祖父(第78代内閣総理大臣・宮澤喜一)の肩書きが先に出ると”深窓の令嬢”という部分を期待されることが多いのですが、普段の自分はそこまで首相の孫を意識して生きているわけではないので。フィービーのようにどこかで、本当の自分を知って欲しいという思いはあるかもしれません。

--フィービーがモンティとの出会いによって変わったように、モンティにも変化はあるのでしょうか。モンティを巡るシベラ(シルビア・グラブ)との三角関係も気になります。

のちに三角関係となるシビラとフィービーは恋の裏表じゃないですけど、性格も黒と白ほどに対照的です。シベラは自分が好きなものを分かっていて、どんどん上にあがっていきたいモチベーションを持っている。逆にフィービーは、生まれながらに豪華なものを持っていて、そうじゃないものを求めている。モンティは最初、シベラにすごく憧れを抱きますが、階級を理由に彼女にフラれてしまう。そんななかフィービーと出会い、「僕がもし伯爵になれたら求めるべきものは、地位にふさわしいモラルや上品さかもしれない」と考える。そういう意味で、フィービーは彼に今までにない価値観や世界を見せていく部分もあると思います。でも、結局モンティは2人の女性の間で揺れ動くんですけど(笑)。

--Wキャストでモンティ役を演じるウエンツ瑛士さん、柿澤勇人さんの印象は?

ウエンツ瑛士さんには、お互い似たようなハーフということもあり、ご挨拶の際に「はじめましてな感じがしないよね」と言われ、すぐに打ち解けられました(笑)。すごく優しい歌声なので、どんなモンティになるのか楽しみです。柿澤さんとは私の初舞台(『メリリー・ウィー・ロール・アロング 〜それでも僕らは前へ進む〜』)でご一緒して以来。その時も柿澤さんに片想いする役だったので、今回も三角関係で中々上手くいかないねという話をしました(笑)。モンティは殺人を繰り返しながらも2人の女性がメロメロになる役なので、お2人のチャーミングな魅力が全面に出てくると思います。同時に「カスティリアの血が入っている」というセリフがあるように、モンティもイギリス人とのハーフなんですね。白人の貴族の血と、カスティリアの情熱的な血が入っているので、モンティの中にも良い部分と悪い部分、まじめな部分やセクシーな部分がある。そのギャップをお2人がどう演じられるのかも楽しみです。

宮澤エマ

宮澤エマ

「コメディとシリアスが表裏一体の作品で、何度でも笑わせます!」

--殺人という笑えないテーマに、軽快なオペレッタ調の楽曲も楽しい作品です。

今のブロードウェイはポップス寄りの作品が多いので、久々にクラシカルな音楽が印象的な作品です。フィービーの楽曲もソプラノのクラシカルな曲調がメインで、とても美しい旋律なんですが、歌詞は意外におげれつ……とまではいかなくても、すごくリアリティがある。階級や格差を描いたお話の中で、”理想と現実のギャップ”というのが大きなテーマなので、そこを極めることで作品の面白さがお客様に伝わるのかなと思っています。

--理想の裏側が暴かれるのは、スリリングで興味を引かれそうです。

貴族階級の人たちは社会のモラルを作る人というか、一番素敵に見えている人だと思うんですけど、じつはその人たちが一番下品でモラルのないことをしていたり。市村さん演じる8人のモンティの親戚たちも、伯爵家のはずなのに秘密の逢瀬を重ねる人がいるなど、問題をそれぞれが抱えている。彼らの生き方への問題提起でもあるので、その中でモンティが何のために上流階級にのぼっていくのかという所も見えてくると思います。

--歌稽古も始まったそうですね。

耳障りは良いんですが、ただただ難しい。作曲者の方が楽しんで作曲されたんだろうなと、風景が思い浮かぶぐらいウィットに富んだ構成で、ハーモニーがすごく素敵なんですが、パートをばらすと特別な旋律であることが分かる。みなさん苦労されている部分ですね。フィービーはオペラ経験のある方が演じてらしたので、今までにない発声法や裏声を使います。一番クラシカルなフィービーの曲「裏を表に(Inside Out)」も、モンティがフィービーに恋する理由が分かるとても美しくロマンチックな楽曲ですが、技術的にはとても難しいですね。また、トニー賞でも披露された結婚の歌「結婚します(I've Decided to Marry You)」はモンティ、フィービー、シビラの三重奏。微妙なタイミングのズレでユーモアが生まれる楽曲なので、お客様にもすごく喜んでいただけるナンバーになるんじゃないかな。

宮澤エマ

宮澤エマ

--市村さんは8役のなかで、フィービーの兄ヘンリー役も演じます。市村さんとは兄妹役ですね。

市村さんとは初共演ですが、兄妹役として絡むシーンはすごく少ないんですね。フィービーにとってはロマンチックなのに、ヘンリーにとっては面白いような場面として描かれるので、お客様はどっちを見ていいのか分からないという状況になると思います(笑)。笑いとシリアスな場面が表裏一体というか、コメディだと思って見ていたら、全然違うことが起こったり。大御所の方は多くを語らずとも役で見せて下さる印象なので、市村さんにもたくさんのことを教えていただきたい。今から稽古が楽しみですね。

--ちなみに、フィービーにもコメディ要素はあるのでしょうか。

よく女性はコメディパートではないと思われがちですが、フィービーもシベラもなかなか面白いキャラクターです。フィービーは外の世界と関わりを持たなかったことが個性となり、こう発言すればこう受け取られるだろうということが想像できない。物知りで頭も良く、衣装や立ち振舞いはお嬢さまなんですけど、よくよく話を聞いていると相当面白く、過激なことを言ってたりする、そのギャップが魅力です。歌い方にも彼女の性格が表れているので、大事に演じたいと思います。

--見所満載の舞台になりそうです。最後にお客様にメッセージを。

人を笑わすのは、時に人を泣かせることより難しい。特に今回はコメディになり得ないような題材なので、どこまでうまくお客様を巻き込めるかチャレンジです。ひと笑いと言わず、なん笑いも取れれば良いなと思います。楽しみに劇場に足を運んでくだされば幸いです。

宮澤エマ

宮澤エマ

取材・文・撮影:石橋法子

公演情報
ミュージカル『紳士のための愛と殺人の手引き』
 
<東京>
■会場:日生劇場 (東京都)
■日程:2017年4月8日(土)~4月30日(日)

<大阪>
■会場:梅田芸術劇場 メインホール (大阪府)
■日程:2017年5月4日(木・祝)~5月7日(日)
 
<福岡>
■会場:キャナルシティ劇場(福岡県)
■日程:2017年5月12日(金)~5月14日(日)
 
<愛知>
■会場:愛知県芸術劇場 大ホール(名古屋市)
■日程:2017年5月19日(金)~5月21日(日)
 
■脚本・歌詞:ロバート・L・フリードマン 
■音楽・歌詞:スティーブン・ルトバク 
■演出:寺﨑秀臣
■出演:市村正親、ウエンツ瑛士/柿澤勇人(Wキャスト)、シルビア・グラブ、宮澤エマ、春風ひとみ
阿部裕、小原和彦、香取新一、神田恭兵、照井裕隆、安福毅、彩橋みゆ、折井理子、可知寛子、伽藍琳、高谷あゆみ、RiRiKA(五十音順)
■公式サイト:http://www.tohostage.com/gentleman/
 
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