トロンボーン奏者・藤原功次郎の魅力がさく裂! 大河ドラマ『軍師官兵衛』のテーマ曲も
藤原功次郎(トロンボーン)
トロンボーン初登場! 藤原功次郎が届けるその魅力 “サンデー・ブランチ・クラシック”2016.11.27 ライブレポート
日本を代表するトロンボーン奏者として、現在日本フィルハーモニー交響楽団首席トロンボーン奏者を務める藤原功次郎が、昨年11月に初めて『サンデー・ブランチ・クラシック』に出演した。eplus LIVING ROOM CAFE & DININGにトロンボーンが登場するのは、これが初めて。トロンボーンの持つ独特の音色の魅力、そして、藤原功次郎という“演奏者”の魅力が存分に感じられる30分となった日曜日のリサイタルの様子をお届けする。
原田恭子(ピアノ)、藤原功次郎(トロンボーン)
ニコニコと笑顔を浮かべ、舞台上に姿を現した藤原。一呼吸置くと、原田がゆっくりとピアノを奏で始める。この日は、ルドルフ・ジーツィンスキー「わが夢の街」で幕を開けた。店内がほんわりと温まるような、ノスタルジックで優しいトロンボーンの音色が、空間を満たしていく。
間奏に差し掛かると、藤原はマイクを手に取り、「皆さんこんにちは。日本フィルハーモニー交響楽団の藤原功次郎です。皆さんに楽しんで頂けるように、短い時間ではありますが、一生懸命、心を込めて演奏したいと思います」と優しく語りかけた。
演奏を終えた藤原は、雰囲気を一転。盛大な拍手が贈られる中、再びマイクを手に取ると「皆さん、こんにちは~! このカフェのコンセプトは、自分の家に遊びに来てもらったような感覚で楽しんで頂く、ということで。この広さは、僕のウィーンの家よりちょっと狭いぐらいかな……なんて、嘘です(笑)。そのぐらい、近い距離で楽しんで頂ければと思います!」と、冗談を交えながら朗らかに呼びかけた。
笑顔の藤原
2012年、ウィーンの国際管楽器コンクールで優勝し、オーストリア名誉市民称号をアジア人として初めて授与するなど、卓越した演奏技術と華々しい経歴を誇る藤原だが、そんなイメージをいい意味で裏切るのが、親しみやすいそのキャラクター。軽快なトークで観客を笑わせながら、音楽の持つ背景の物語や、豆知識を伝えてくれる。
この日は「皆さんが必ず耳にしたことがあるクラシックを編曲、アレンジし、トロンボーンの良さや自分の良さを伝えたい」という観点から選んだというプログラム。藤原は、続いての曲を「2016年の夏に、イタリアのシチリア島で行われたイブラ大賞国際音楽コンクールで優勝勝させて頂きまして。今日は、その時のコンクールで演奏した曲を主に演奏させて頂こうかなと思っております。次の曲は、きっと皆さんご存知の曲だと思います」と紹介し、イタリアの作曲家プッチーニが書いた歌劇『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」を演奏。名曲を、ピアノの伴奏に乗せトロンボーン一本で奏で上げ、その魅力を存分に聴かせた。
藤原功次郎
ここで藤原は「ここで、本日のピアニストをご紹介したいと思います。ピアニスト、原田さんです!」と原田を紹介。藤原と原田がペアを組み演奏を行うのは、これで10年目になるという。二人の出会いは音大時代にさかのぼる。MCの中では「音大って、卒業論文がない変わりに、卒業演奏が試験や論文の代わりになるんです。当時、原田さんは弦楽器の伴奏助手をされていたんですけど、その演奏を聴いた時、『絶対にトロンボーンとやってほしい!』と、恐れ多くも声をかけさせて頂いたんですよ(笑)」と、なんと藤原の一聴き惚れとも言える“スカウト”だったことが明かされた。
終演後、当時のことを原田に聞いてみると、実は当時の原田は弦楽器とばかり演奏していたため「声をかけてもらった時は、金管楽器か……と思ったんですけど(笑)。それが逆に新鮮で良かったのかもしれないですね」と笑っていた。
原田恭子(ピアノ)
続いては、藤原の「すごく思い入れのある曲」だという菅野祐悟作曲の「軍師官兵衛」メインテーマを選曲。藤原は、2014年に放送されていた大河ドラマ『軍師官兵衛』ですべてのトロンボーンの音を担当している。「きっとご存知の方も多いこの曲をアレンジいたしました」と“藤原にしかできない技”という特殊奏法も用いられ、馬がいななき、荒野を駆ける様子などが脳裏をよぎり、スケールの大きな厚みのある演奏で観客を存分に魅了していく。演奏後には、客席から「ブラボー!」の声が飛び、藤原も「いい曲でしょう」とにっこり。
トロンボーンは『サンデー・ブランチ・クラシック』に初登場
4曲目は、ベートーヴェン作曲のピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章で、再びがらりと雰囲気を変える。「この曲を作った時期、ベートーヴェンはハイゲンシュタッドという、ウィーン郊外の街に引っ越しました。この街は、ベートーヴェンが自分の耳の病状に気づくきっかけとなり、遺書を書いた地でもあります」とエピソードを紹介。「悲愴」の第2楽章は、ドラマティックな第1楽章に比べて、静かで穏やかだ。藤原のトロンボーンの音色は、それにさらに柔らかさとまろやかさをもって、難聴という絶望を背負ったベートーヴェンの“希望と再生”を、ゆったりと表現していった。
最後は、「僕の大好きな、ここで聴いてもらいたいなと思った曲です」マルグリット・モノーの「愛の賛歌」、そして「楽しい曲を!」とモンティの「チャルダッシュ」を演奏し、会場を盛り上げた。
ステージを降りてのフロア演奏も
「僕はもともと、作曲を習っていたんです。トロンボーンを始めたのは、中学3年生の頃。だから、今こうして出会えている人は、きっとあの時トロンボーンをやっていなかったら、出会えていない人たちばかりだったと思うんです。そういうのって、すごく愛しいことだなと思うんです。聴いてくださる皆さんの笑顔をエネルギーに変えて、自分もまた、発していけるようなトロンボーン奏者になりたいと思います」と、挨拶をした藤原。
鳴りやまない拍手に応え、アンコールでは即興演奏をピアノで披露することに。タイトルは、「皆さんとお会いできたのは、音楽をやっていたから」という想いを込めて「奇跡」とつけられた。藤原の人柄がにじみ出るようなメロディが、ステージと客席の間できらめいていた。
なんとピアノを披露
終演後、揃いのTシャツ姿でインタビューに答えてくれた藤原と原田(Tシャツは、藤原の似顔絵が描かれたオリジナルTシャツ)。カフェでの演奏経験も豊富だという藤原は「このカフェの雰囲気は、ヨーロッパみたいですよね。こういう場所が日本で、しかも若者の街・渋谷にあるってすごくいいなと思いました」と語る。
普段は、オーケストラの中でハーモニーを支えるトロンボーン。藤原は、こうしたソロの経験を「首席奏者としては、最初から最後までメロディを担う感覚を持つことは必要なスキルだと思っています。この経験をまたオケで活かせるのが楽しみなんです」と、自身の活動に対する考えを明かした。
インタビュー中の様子
誕生日を迎えたファンに即興でバースデーソングをピアノで贈るなど、演奏中も終えたあとも、観客とコミュニケーションを取ることいそしんでいた藤原は、最後に「人がいないと音楽は生まれない。音って、人と人のコミュニケーションの中で生まれると思うんですよね。こういうフレキシブルな感覚をどんどん取り入れてもらって、新しい文化が生まれていったらいいなと思っています」とメッセージをくれた。
おそろいの“コウジロウTシャツ”
2017年はNYカーネギーホールでのリサイタルはじめワールドツアーなど、国際的に活動の数々も予定されている藤原。このあと3月12日(日)には再びこの『サンデー・ブランチ・クラシック』への出演が決定している。
取材・文=友成礼子 撮影=荒川潤
藤原功次郎は日本を代表するトロンボーン奏者。現在日本フィルハーモニー交響楽団首席トロンボーン奏者。洗足学園音楽大学非常勤講師。Brass Ensemble ZERO メンバー。幼少の頃より、作曲・ピアノを始め、15歳よりトロンボーンをはじめ、国内のコンクールを制覇。国内オーケストラ客演の他、ウィーン交響楽団首席奏者など海外のオーケストラワークをこなす。日本フィルの60周年記念演奏会に天皇皇后両陛下がご臨席のもと天覧演奏会に参加。ショスタコーヴィチ交響曲第15番を演奏。絶賛される。またTV朝日題名のない音楽会『なんてったってトロンボーン』メインコメンテーター出演、ラジオ出演、雑誌など、その馴染みやすいキャラクターと雰囲気で幅広い層に支持を集める。2012年、国際管楽器コンクール(ウィーン)優勝。オーストリア名誉市民称号を授与。(アジア人初)2016年、イブラ大賞国際音楽コンクール(イタリア・シチリア島)で全部門の中で優勝(全世界で管楽器奏者で初)。カーネギーホール賞はじめ9つ全ての賞を独占受賞。2度の国際音楽コンクールにて優勝を果たす。映画・TVドラマ・アニメのレコーディングでは『99.9刑事専門弁護士』、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』の全てのトロンボーンの音のレコーディング、『ガンダムGのレコンギスタ』『ジョジョの奇妙な冒険』『亜人』『PSYCHO-PASS サイコパス』等幅広くレコーディング。2017年にはNYカーネギーホールでのリサイタルはじめワールドツアーなど、国際的に活動予定。
原田恭子(ピアノ)
東京芸術大学付属高校を経て、同大学器楽科ピアノ専攻卒業。2001年、同大学大学院修士課程 器楽科室内楽専攻修了。同年、プラハ芸術大学(AMU)に留学。第9回日本室内楽コンクール第3位。併せてヤマハ株式会社、音楽之友社より奨励賞受賞。第5回国際ピアノデュオコンクールにてディプロマ賞受賞。同年、第1回日本アンサンブルコンクール最高位、優秀演奏者賞受賞。2002年第41回ベートーヴェン国際コンクール(チェコ・Hradec)ヴァイオリン部門において最優秀伴奏賞、並びにベートーヴェン・ソナタ賞、並びにマルティヌー・ソナタ賞を受賞。これまでに国内外の主要オーケストラとのメンバーとの室内楽をはじめ、著名演奏家との共演多数。2003年より3年間、東京藝術大学音楽学部非常勤講師弦楽器科伴奏助手を務める。主に室内楽ピアニストとして国内外で意欲的な活動を行う。これまでに、ピアノをM・ラプシャンスキー、坪田昭三、渡邊健二の各氏に、室内楽をI・シュトラウス、J・ハーラ、松原勝也の各氏に師事。また、ピアノデュオを角野裕氏に師事。
海瀬京子/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
3月12日
藤原功次郎/トロンボーン&原田恭子/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
3月19日
松田理奈/ヴァイオリン&中野翔太/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html