最小限で見せる無限の宇宙――ピクシーズの美学に痺れた夜

レポート
音楽
2017.3.9
ピクシーズ 撮影=風間大洋

ピクシーズ 撮影=風間大洋

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Pixies来日公演 2017.2.27 EX THEATER ROPPONGI

1987年にEP『カム・オン・ピルグリム』でデビューしたピクシーズだが、1992年に解散を発表するまでの間は、一度も日本に来ることはなかった。初来日は再結成を果たした2004年の『FUJI ROCK FESTIVAL』。2014年には23年ぶりとなるアルバム『インディー・シンディ』をリリースし『SUMMER SONIC』のステージに。“かつて伝説を残したバンド”ではなく、今を走るバンドとして復活した姿を見せてくれた。そして今回は新作『ヘッド・キャリア』を引っ提げての単独公演。クラシカルな美メロを歌い上げたかと思えば、衰え知らずのシャウトをぶちかます。ブラック・フランシス(Vo/Gt)が生み出すメロディーひとつとっても、円熟した大人の色気と若き日さながらのエネルギーが合わさった、実に濃厚な作品であっただけに、どんなパフォーマンスを披露してくれるのか、期待に胸が膨らむ。

Bo Ningen 撮影=風間大洋

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Bo Ningen 撮影=風間大洋

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まずはサポートアクトのBo Ningenが登場。今年2017年5月には結成10周年を迎える、UKはロンドンで出会った日本人4人組バンドだ。ヘヴィなリズムが猛スピードで爆走し渦巻く轟音が嵐を起こすなかで、ときにストレートに響き、ときにスピリチュアルな輝きを放つメロディー。フロアごと根こそぎ持っていきそうなパワーと、脳内をかき回すカオティックなサウンド、繊細な美しさが入り混じり強烈なインパクトを残す。彼らは3月7日に大阪・梅田Shangri-la、3月9日には東京・代官山UNITでのワンマンライブも行っており、フロントマンのTaigen Kawabeに本サイトが敢行したインタビューもあわせ、ぜひチェックしていただきたい。

Bo Ningen 撮影=風間大洋

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Bo Ningen 撮影=風間大洋

Bo Ningen 撮影=風間大洋

Bo Ningen 撮影=風間大洋

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セットチェンジもスムーズに終わり、いよいよピクシーズの登場。1曲目は「Where Is My Mind」。ジョーイ・サンディアゴ(Gt)のリードギターがスッと引き、ブラック・フランシスがタイトルフレーズを歌い上げる瞬間の切ない空気感がたまらない。前半はこのまま”歌”の魅力がよく伝わってくる流れ。新作『ヘッド・キャリア』からの「All The Saints」では、2014年からメンバーとなった紅一点ベーシスト・パズ・レンチャンティン(Ba)の声が響く。あえて抑揚をおさえた、気だるさの中にキュートな魅力が光るスタイルは、まさにオルタナティヴ。ブラックと共にバンドの顔役であった、前任キム・ディールに勝るとも劣らない存在感だ。彼らのナンバーの中でも、最もキャッチ―で明るいメロディーが印象的な「Here Comes Your Men」から、ニール・ヤングの原曲をパワーポップに寄せたようなカバー「Winter Long」の流れも実に美しい。

ピクシーズ 撮影=風間大洋

ピクシーズ 撮影=風間大洋

ピクシーズ 撮影=風間大洋

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続く「ハハハハ」とブラックが不気味な笑い声を上げるロックンロールナンバー「Mr. Grieves」で、流れがアッパーなモードへと変わる。「The Holiday Song」で飛び出したブラックのシャウトに場内はヒートアップ。デヴィッド・ラヴァリング(Dr)のタイトなドラミングも、凶暴性もアート性も併せ持つ、ジョーイの自由なギタープレイもより牽引力を増していく。新作からも「Bel Esprit」、「Talent」、「Onna」、「All I Think About Now 」を短いスパンで演奏。過去の名曲群に埋もれることなく存在感を放っていた。ピクシーズの大きな魅力の一つとして、各曲が実にシンプルに構成されていることが挙げられる。奇妙なコード運びも変拍子もそのうえに成り立っているのだ。淡々と持ち場をこなすジョーイとバズ、ロックを叩くドラマーのフィジカルな見せ場を極限にまで削いだデヴィッドのドラム。ブラックはMCをすることもなければ笑顔すら見せることもない。そこがバンドのキャラクターとして受け止められていることも含めて、改めて曲そのものと見せ方の底力を感じる。そしてとどめを刺すように投下されたのが、待ってましたの「Debaser」。ここまでで18曲を演奏。しかし、まだまだこんなものではなかった。

ピクシーズ 撮影=風間大洋

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「Magdalena 318」から「Velouria」ときて「Snakes」の流れで、重厚でダークなグルーヴのカオスと同時に、近未来的なトリップ感を演出。ここからはいわゆる“ロック”や”歌もの”のライブを観ているというよりも、極限状態で聴くミニマルミュージックのような、先述した“シンプルな構成”がその中毒性をいかんなく発揮する。アコースティックギターのコードカッティングと三拍子を刻むキックだけのイントロをとことん引っ張った「Vamos」。ストレスと快楽は表裏一体だと言わんばかりに、同じことをただ延々と。そうそうできる芸当じゃない。まさにピクシーズという名の宇宙。

ピクシーズ 撮影=風間大洋

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最後は「Hey」で締めたと見せかけて、ブラックが腕時計を指して「まだ時間あるぞ」とジャスチャーし、デヴィッドが「ほんとだ、やろう」と無言で答える小芝居から「Planet of Sound」を。ブラックは退場時も仏調顔(サングラスをしているが目も笑っていないはず)だったが、観客に向かって手を上げたあと、右手の拳で左胸、ハートの部分を叩いてみせた。歌以外は一度も言葉を発さずとも、それだけでこっちには十分伝わってくる。最後の最後までそのパフォーマンス美学に痺れた夜だった。


取材・文=TAISHI IWAMI 撮影=風間大洋

ピクシーズ 撮影=風間大洋

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