新国立劇場オペラ新制作『ルチア』 見逃せない、意欲あふれる新制作ベルカント・オペラ

2017.3.8
レポート
クラシック

新国立劇場オペラ『ルチア』 (撮影:西原朋未)


3月14日(火)に初日を迎える新国立劇場オペラ『ルチア』の制作発表会見がこのほど行われた。会見に登場したのは新国立劇場オペラ芸術監督の飯守泰次郎、『ルチア』演出を手掛けモンテカルロ歌劇場総監督でもあるジャン=ルイ・グリンダ、指揮者のジャンパオロ・ビザンティ、さらにルチア役オルガ・ペレチャッコ=マリオッティ、エドガルド役イスマエル・ジョルディ、エンリーコ役アルトゥール・ルチンスキー。新国立劇場とモンテカルロ歌劇場の共同制作となる『ルチア』の見どころと、公演を前にした出演者たちの意欲や期待が語られた。

■東京からモナコへ。共同制作のオペラを世界に向けて発信

『ルチア』は1835年にドニゼッティが『ランメルモールのルチア』(Lucia di Lammermoor)として発表した、ベルカント・オペラの代表作だ。今作は新国立劇場の2016/2017年シーズンの2作目の新制作であり、モンテカルロ歌劇場との共同制作。3月14日~26日まで東京の新国立劇場オペラパレスで上演されたのち、2019年11月のモナコの建国記念日にモンテカルロ歌劇場グリマルディフォーラムで上演されることとなっている。飯守芸術監督は「モンテカルロという世界的な観光都市で、新国立劇場から発信する舞台を、世界のお客様に見てもらえることは非常にうれしく意義がある」と話す。

飯守泰次郎 新国立劇場オペラ芸術監督 (撮影:西原朋未)

またグリンダも「モンテカルロと東京という離れた国での共同制作は簡単ではないが、双方のチームが非常にいい相乗効果を出しており、オペラへの愛を感じる。劇場スタッフのやる気、技術の高さも日々実感している。愛と喜びをこめたプロダクションを、どうぞお楽しみに」と語った。

ジャン=ルイ・グリンダ 演出/モンテカルロ歌劇場総監督 (撮影:西原朋未)

■人気急上昇の歌姫オルガ・ペレチャッコ=マリオッティが登場

指揮は自身を「ベルカントの大使」と語る、ジャンパオロ・ビザンティで、新国立劇場には初登場となる。「演出家、キャスト、オーケストラなど最高の布陣。ベルカントという、イタリア・オペラの伝統の一端を紹介できうれしい」と話す。

飯守芸術監督が「キャスティングには本当に力を入れた」と語るキャストのなかでも、注目は「新ベルカント・オペラの女王」として近年人気沸騰中のソプラノ、主演のオルガ・ペレチャッコ=マリオッティだ。2005~07年ハンブルク州立歌劇場オペラスタジオ所属を経て、2013年『リゴレット』のジルダ役でウィーン国立歌劇場にデビュー。以後チューリヒ歌劇場やミラノ・スカラ座、ベルリン州立歌劇場などで次々と主役を演じ、『清教徒』のエルヴィーラ役でMETにも出演を果たすなど、短期間に目覚ましい勢いで活躍している。欧米の様々なメディアでも取り上げられるなど、まさに今最も勢いのあるコロラトゥーラ・ソプラノの一人と言えよう。今回の新国立劇場はもちろん初登場で、「大好きな日本で素晴らしいマエストロやキャストと仕事ができるのはうれしい。この音響設備なども含めすべてが素晴らしい劇場で歌うことを楽しみにしている」と話す。

オルガ・ペレチャッコ=マリオッティ (撮影:西原朋未)

またエドガルド役をイスマエル・ジョルディ、兄のエンリーコ役をアルトゥール・ルチンスキーが歌う。「伝統と魅力がある日本の東京で新制作のオペラに参加できてうれしい。マエストロ(ビザンティ)とは初共演だが、楽譜に大変忠実だし、何より歌手への配慮は素晴らしい」とジョルディ。ルチンスキーは10年ぶりの来日で、新国立劇場には初登場。「オーケストラも素晴らしい。ぜひ美しいイタリアのオペラを楽しんでほしい」と話す。この作品では普段カットされがちなエドガルドとエンリーコの二重唱も上演されるということで、これもまた注目だ。

イスマエル・ジョルディ (撮影:西原朋未)

アルトゥール・ルチンスキー (撮影:西原朋未)

■ロマン主義の時代を再現

この『ルチア』は19世紀半ば、ドニゼッティがこの作品を発表したロマン主義の時代を舞台として上演される。舞台設定や衣装なども「その時代の空気――自然への恐怖、畏怖などを反映した雰囲気としている」とグリンダ。また今作の見どころの一つとなる「狂乱」の場面ではグラスハーモニカを使用する。フルートなどで代用されることもあるこのシーンの音楽を、今回はドイツのグラスハーモニカの制作者であり奏者であるサシャ・レッケルトが演奏する。こちらもまた聴きどころのひとつとなるだろう。

舞台で使用される「ルチア」衣装

■「ベルカント」の本当の魅力を伝えたい

指揮者であるビザンティは「表面的な理解しかされていない“ベルカント”の本当の魅力を伝えたい」とも語る。つまりベルカントは「“美しい歌唱”の語源の通り、一部の歌唱を際立たせるものではなく、美しいオーケストラという絨毯の上で、歌手が最大限の力と魅力して、歌によって展開される強烈なドラマ」とマエストロ。そのうえで「ベルカント・オペラを指揮するうえで1.声を愛せ、2.声を助けよ、3.声を支えよ、4.押しつけをやめよ、を心掛けている。歌手やオーケストラ、演出などすべてが相互理解の元で起こる化学反応で起こるドラマがベルカントを生み出す」と自身の哲学を語った。

指揮者 ジャンパオロ・ビザンティ (撮影:西原朋未)

日本とモナコの共同制作、注目の歌姫や実力に定評のあるキャスト、ベルカント・オペラを知り尽くしたマエストロをはじめ、意欲的なスタッフが揃った新国立劇場オペラの新制作「ルチア」。3月14日、いよいよその初日の幕が開く。

取材・文・撮影:西原朋未

公演情報
新国立劇場 オペラ 『ルチア』/ガエターノ・ドニゼッティ​
全2部3幕 / イタリア語上演 日本語字幕付
■会場:新国立劇場 オペラパレス
■日程:
3月14日(火)18:30 
3月18日(土)14:00 
3月20日(月・祝)14:00 
3月23日(木)14:00 
3月26日(日)14:00 

指揮:ジャンパオロ・ビザンティ
演出:ジャン=ルイ・グリンダ
キャスト:
ルチア:オルガ・ペレチャッコ=マリオッティ
エドガルド:イスマエル・ジョルディ
エンリーコ:アルトゥール・ルチンスキー
ライモンド:妻屋秀和
アルトゥーロ:小原啓楼
アリーサ:小林由佳
ノルマンノ:菅野敦
合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団