【WBC観戦記】侍ジャパン、オランダに劇勝! 午前零時の東京ドームリポート
撮影=中溝康隆
4時間46分の熱戦。ゲームセットの瞬間、東京ドームのオーロラビジョン横の時計は23時54分を指していた。
WBC2次ラウンド初戦のオランダ戦は、やってる選手も、観ているファンも試合後ヘロヘロになる攻防戦。俺の隣に座っていたカップルは明日朝早い彼女を23時前に帰らせ、ひとり残った彼氏が代打・内川に必死に拍手。ある意味、野球ファンとしては100点の男気、同時に彼氏としてはマイナス2億点みたいな最低な行動である。ただ、それを非難できる人間はこの空間にはいないだろう。だって、いい年こいた大人が数時間後には週明けの出勤があるにもかかわらず、この時間まで野球見てるんだよ。マジで馬鹿らしくて、ガチで贅沢な週末だ。
日曜19時開始の一戦は序盤から、中田翔とバレンティンの両主砲アーチ競演で点を取り合い、同点で迎えた5回表に日本のラッキーボーイ“バントのコバちゃん”こと小林誠司のタイムリーで勝ち越し。土壇場9回裏に追いつかれ延長突入も、11回表に無死1、2塁から始まるタイブレークで頼れる世界の中田が決勝打。最後は牧田和久が締めて8対6で競り勝った。もはや時代はNAKATAと言えば、英寿よりも翔である。試合後、お立ち台に中田翔が上がった時にはすでに午前零時を過ぎて日付が変わり、最後まで残っていたファンが昨日のヒーローに拍手を送る珍しい光景。もはや終電ギリギリ、ダッシュで駅に向かう人もいれば、もう諦めて「ラーメン食ってく?」なんて相談しているグループもいる。で、思った。「何百回と東京ドームの巨人戦に来てるけど、この時間までスタンドにいるのは初めてだな」と。贔屓球団の垣根を越えてのハイタッチと同じく、ペナントでは体験できない非日常感もWBCの魅力なのかもしれない。
それにしてもWBCは不思議な大会だ。始まる前は開催時期から大会意義まで不満噴出。日本代表もダルビッシュ、田中将大、岩隈久志、マエケン、上原浩治といった過去大会でジャパンのエースを張ったメジャー投手組全員不参加の悲劇。さらに追い打ちをかけるように大黒柱・大谷翔平が大会直前に故障で代表辞退。ついでに開幕後は頼みの山田哲人が絶不調の大ブレーキ。これだけのマイナス要因が揃いながらも、始まってみればしっかり盛り上がり侍ジャパンは4連勝を記録。何て言うのか、日本野球の底力を見せてくれている。
フジロックやサマーソニックなどの夏フェスでも、おネエちゃんとの合コンでも、出演メンツに文句言ってもいざ始まると楽しいあの感じ。春の野球フェスWBCも同じだよ。冷静に見ちゃえば、確かに問題山積み。球数制限からタイブレーク制まで突っ込みどころはいくらでもある。でも、そんなことはみんな分かってる。恐らく出る選手も応援するファンも……。分かった上で出場可能な選手でチームを作り、グラウンド上ではベストを尽くして試合をしている。「もしもあの選手がいれば」、なんて言ったところで虚しいだけさ。正論は時に元気を奪う。とりあえず今は目の前の戦いを目一杯堪能する。シビアな話は大会後。それでいいんじゃない?
断言してもいいけど、東京ドームの2次ラウンド残り2試合、もし迷っている人はぜひ球場まで観に行った方がいいと思うよ。試合中、日本ベンチで数億円貰ってるスター選手たちがほとんど座らず前のめりでグラウンドに集中していた。攻守交代時にはベンチを飛び出し仲間を迎え入れ、一塁へリスク覚悟で頭から滑り込む。まるで、大人の世界甲子園だ。最近球場から足が遠のき、昔のプロ野球の方が面白かったとか言ってる人にこそ、この雰囲気を現地で体感してほしい。
もう楽しすぎてクタクタだよ。東京ドームからの帰り道、少し落ち着くと恐ろしく空腹なことに気付き、水道橋駅近くの牛丼屋に入った。日曜の深夜零時過ぎにもかかわらず、店内は満員御礼。皆、嬉しそうに菊池のファインプレーや小久保の継投策について話しながら牛丼をかき込んでいる。明日から仕事なのに俺ら社会人として最低だな。でも、WBCという大会があって良かったよ。心からそう思った。
そう、いつだって、俺らにとってWBCは最低で最高だ。