『生きていてよかった夜』を超えた先にあったもの── フラカン・鈴木圭介が食らった“日本武道館ロス”と、その次の一手= ニューシングル「あまくない」を語る
フラワーカンパニーズ
2015年=結成26年・デビュー20年にして無謀にも挑んだ初の日本武道館ワンマン、9000人を集め大成功。この年のニュー・アルバム『Stayin’ Alive』とミニ・アルバム『夢のおかわり』のリリース、初のバンド・ヒストリーブック『消えぞこない』の刊行なども含めて、目標に向かって全力でひた走った結果が12月19日の日本武道館ですべて大団円を迎えた、フラカンにとって最良の年になった。
2016年=全国から日本武道館に集まってくれたファンへのお礼として、今度はこっちから行きます!という趣旨で、47都道府県ワンマン・ツアーを行う。前半と後半の狭間の夏にはフェス等も出るしアコースティック・ツアー『フォークの爆発』も行う。など、リリースは武道館のDVDと年明けの配信シングル『青い吐息のように』だけだったものの、ライブ方面で稼働しまくる充実の年になった。
そして2017年。1月から2月にかけて、ゲスト出演や3本の対バンツアーなど、数本のライブを行い、3月からは4曲入り(うち1曲は6/9に日本武道館ワンマンを行う先輩、Theピーズにエールを贈る意味で彼らの曲のカバー)のライブ会場先行販売シングル『あまくない』を携えて、バンド結成28周年ツアー『フラカン28号』に出発したフラワーカンパニーズ、なのだが。
以下、レコーディングを終えて2週間後くらいに行ったインタビューです。特にファンの方にとっては、ちょっと生々しすぎるかもしれませんが、そもそもみっともなかろうがぶざまだろうが身もフタもなかろうが、こういうことまであけすけにしゃべってしまうだけならまだしも、楽曲にしてしまうようなバンドだからこそ我々はフラカンを追ってきたわけなので、「これも込みでフラカン」ということで納得していただければ幸いです。で、『あまくない』未聴の方は、今のフラカンを確かめるためにライブに足を運ぶことをお勧めいたします。
あと、ファン以外の方も、こういうバンドに付き合い続けることの喜びの一端を、垣間見ていただければと思います。ではどうぞ。
2000年代の最初の頃に戻ってやってみるといいかな、と(グレートマエカワ)
──本当は去年、47都道府県ツアーの合間にアルバムを作ろうと思ってたんだけど、歌詞がなかなか書けなくて作れなかったという話をファンクラブの会報のインタビューでしておられましたよね。
鈴木圭介(以下、鈴木):うん。
──そこからどのように新しいシングルを作る流れになったのか、教えていただけますか。
グレートマエカワ(以下、グレート):まず、去年47都道府県ツアーを回っていて、その中で制作にまとまった時間をかけるなんてことはできなかったし。だから、鈴木が歌詞が書けないっていうのもあたりまえのことかなと、途中から思い始めて。ここ何作かは、曲を作るために時間を空けるようにしとったんだけど──。
鈴木:去年はなかったからね。
グレート:だから「それはそうだよな、できんなよな」と思って。でも新曲はほしいな、ライブ会場で売るシングルでもいいから作りてえな、と。メジャーだと、シングルはタイアップありきじゃないと出さないじゃん。それでいいと思ってたけど、その前のトラッシュ(・レコード)の頃を思い出したら、2000年代の最初の頃とか、ツアーのたびにシングル1枚作って、ライブ会場で売ったりしてたわけで。
だったら今も、レコード会社がシングルを出そうって言わなくても、自分たちで作ってツアーで売ればいいと思ってさ。今、契約の更新タイミングで、谷間の時期なんだよね。このタイミングで4人だけで作ってみたらおもしろいかな、トラッシュの頃に戻ってやってみるといいかな、というのもあって。
──2曲目の「すべての若さなき野郎ども」は、去年の秋からツアーでやってましたよね。
グレート:去年の47都道府県のツアーで、前半が終わって夏フェスとかあって、後半戦に行く前にどうしても新曲ほしいから……もう曲はあったのね。で、ツアーでやりたいからなんとか1曲書けないか?って鈴木に言って。
鈴木:で、がんばって書いた。なんかリハビリみたいな感じだったね、この曲は。今年に入って思うのは、俺はちょっと遅かった、武道館の反動が来るのが。今年に入ってから来てる。
グレート:もう1年経ってるよ(笑)。
鈴木:うん。去年は、47都道府県ツアーをちゃんとやりきることで精一杯だったから。日程に間が空いてても、ほかのことに集中できなくて。曲は作ってたんだけど、歌詞がねえ……書けるモードに入るまで時間がかかるんだね、俺の場合。いろんなことを同時にできない。ツアーの合間に歌詞を書いてっていうのは……昔はやってたけど、今はスイッチの切り替えが難しくて。でも「すべての若さなき野郎ども」は、なんとかスイッチを替えて書いたんだけど。
この歳なのに、いつまでも青いこと歌っててもしょうがないだろう、
っていうのもあるんだよね(鈴木圭介)
──何年か前は「歌詞で悩まなくなった、いくらでも書ける」っておっしゃってましたけれども。
鈴木:そうそう。なんで書けなくなっちゃったんだろう?なんか、同じことを書いてもしょうがないんじゃない?って思っちゃったのかもね。「これ、前に書いた曲と一緒じゃない?」っていう。
あと、この歳なのにいつまでも青いこと歌っててもしょうがないだろうっていうのもあるんだよね。でも、歳をとった時の歌っていうのが、自分の中でなかなかイメージできなくて。47ぐらいの自分がどういうことを歌うんだろうっていうのが、なかなか照準が定まらない。そこで本心を出してやっていくか、エンタメでいくか、その狭間で今も悩んでる。
本心をエグいところまで出すのは……若手はいいんだけど、47のおっさんがそれをやって需要があるのか?イタすぎんじゃないの?とか。その狭間でどこまで本当のことを歌っていいんだろうか、とか。
ちょっと話が大きくなっちゃうんだけど、今いるライブのお客さん、武道館にあれだけ集まってくれたお客さんを……たとえばさ、全然お客さんがかぶらないような若手と一緒にやるのは、こっちにとっては挑戦だけど、お客さんにとっては戸惑う場合もあるじゃない? 前はそれでもいいと思ってたんだけど、武道館にあれだけ来てくれたってことを考えると……今いるお客さんに喜んでもらう、飽きたって言われないようにするっていうのは、今までほとんど考えたことがなかったんだよ。究極、今いるお客さんが去って行ってもかまわない、新しいお客さんが来ればいいということばかり考えてたのが、なんかその、今いるお客さんが……。
──武道館をやったことで、初めて感謝の気持ちが芽生えたと。
鈴木:そう。
グレート:はははは。
鈴木:責任感っつうかさ。そうなってくると、ある程度エンタメにしていかないと、お客さんたちも絶望するかな?とか。 あまりにも本音を出すと……いい本音ならいいんだけど、バッドな時に書いちゃったりしてさ、とてつもなく暗い曲だったりすると、お客さんも「ええっ……」ってなるじゃない?
1曲目の「あまくない」は、ちょっと本音を出しちゃった(鈴木圭介)
──それを喜ぶ人もけっこういると思いますけども。
鈴木:そうかなあ?
グレート:まあ、そればっかりでもよくないし、エンタメばっかりでもよくないってことだよね。
鈴木:そう、だから今その狭間で「どうしたらいいものか……」っていう感じなのかな。
グレート:俺はただ、鈴木が自分でハードル上げとるような気がするけどね。前だったらそこまで考えずに書いてたのが──。
鈴木:うん。あとやっぱり、最近若い子の歌詞がすごいんだよ。そういうのにもアテられちゃってるね。
それでさ、1曲目の「あまくない」の方はちょっと本音を出しちゃったんだ。これでは暗すぎるだろうと思って、3曲目のちょっと明るい「最後にゃなんとかなるだろう」でバランスをとったつもりなんだけど。「あまくない」は、なんか武道館終わって、バンドがバラバラになっていくようなさまを歌ってるっていうかさ。
グレート:(笑)。
──バラバラになっていったんですか?
鈴木:「ああ、なんか、このままバラバラになっていくのかなあ」って思っちゃったんだよ(笑)。47都道府県ツアーやってた時はまだ気が張ってたけど、それが終わって……まあ、バラバラになっていくって言うと大げさだけど、前よりは距離はできてきてるんじゃないかって思ったりして。それまでの2年間とかがおっきな目標にみんなで向かってた分、そう感じちゃったのかもね。
武道館をやって、一回トーンと落ちてまた這い上がって行くのか、そのまま終わっちゃうのか分かんないっていう……そういう不安な感じの時をちょっと出した感じの歌詞なのね。だから、お客さんにとっては微妙な感じかもなあ、と思いながら、おそるおそる出してみたんだけど。
グレート:まあ、武道館の時って目標がわかりやすいじゃん。47都道府県の時もそうだし。それが終わって……言っとることはわかるような気もする。まあでも、そういう時期があるのは、バンドだけじゃないじゃん? 友達でもそうだし、会社でもそうかもしれんし。だからこの曲のサビの<夢見て 夢に疲れ>とか<夢見て 夢に汚れ>とか……やっぱり人間バイオリズムがあるもんだと俺は思うからさ。普通に生活しとってもね、こういう歳になってくると。
──だとしても、ファンをいたずらに心配させるような話をしてますねえ(笑)。
鈴木:そういう時期もあるっていう。そんなの今までもあったんだよ、いくらでも。
──でもそれこそ、バンドをやめて第二の人生とかは──。
鈴木:第二の人生なんてまったく思わないよ。俺バンドやめたらもう死ぬよ(笑)。いや、死ぬよとまでは言わないけど、なんにも働き口なんてないと思ってるし、俺みたいな奴は。
フラワーカンパニーズ
Theピーズの「とどめをハデにくれ」、この曲こそまさにね、
今の俺の気持ちにぴったりなんだよ(鈴木圭介)
──ちなみに30周年日本武道館への応援の意味で入れたTheピーズのカバーですが、曲を「とどめをハデにくれ」にして、アコースティック・アレンジでレコーディングしたのは?
グレート:ピーズがライブの後半でやるような、アッパーな曲をカバーしたいなと思って。アコースティックでやろうっていうのは、俺たち『フォークの爆発』っていうアコースティック・ツアーやってんじゃん。あれでよくカバーやってるでしょ? でも音源としては残らないから、あのノリをいつかシングルとかに入れたかったの。
鈴木:この曲こそまさにね、レコーディングした時の俺の気持ちにぴったりなんだよ。
グレート:(笑)。
鈴木:ほんとに。「ああ、これ俺の歌だ!」って。
──「始めるぜ終らすぜ わけわかんねーまま散るぜ」が?
鈴木:そうそう。それを、暗い感じじゃなくて、この曲調ぐらいの明るさで、っていうさ。俺ん中でこれはすごくリアルかなあ。今いちばんリアル、この曲が。ピーズファンもこの曲は好きなはずだよ?
──いや、好きですけども(笑)。
鈴木:だってこの曲を聴いてさ、「うわあ、暗いなあ」っていう気持ちにはならないもん。
グレート:歌詞だけ追うと暗いけど、暗いだけじゃない……それは曲調と声と音色があるからっていうさ。それを入れたかった、フラカンのものとして。鈴木の声でやるとまた全然違う響きになるから。そりゃあハッピーとは言わないけどさ──。
鈴木:でも救われるよ。この曲を録音してかなり救われたもん。すごい気持ちよかった、歌ってて。そういう作用があるんだよ、はるさん(大木温之)の歌詞には。どん底のことを歌ってても、ちょっとどん底になりかけてる俺が救われてるんだから。
前はピーズをそういう感じでは聴いてなかった。もっと勉強する感じで聴いてたの。「うわ、やっぱ言葉の使い方がうめえなあ」とかさ。でも今聴くこの曲は「これ、俺の歌じゃん!」っていう。これを歌うことが、自分の浄化作用になるなと思って。
The Birthdayとやったことによって、目を覚まされた(鈴木圭介)
──しかし、なんでまたそんなに弱っちゃったんでしょうね。
鈴木:たぶん、47都道府県ツアーが終わって、気がゆるんだんだよね。あそこまでは気を張ってたんだよ。あそこまでが俺の武道館なんだよ。あの1本の武道館だけでは、俺は納得することができなかったから。昇天できなかったから、あの武道館で。
──途中、声の調子が悪かったですもんね。
鈴木:うん。だから、47都道府県ツアーの最後の和歌山で、武道館とまったく同じセットリストでやるっていうのも、俺は反対してたんだ。もしうまくいかなかったら、もう俺、たぶん二度とライブができなくなるから。でも無事に最後まで歌えて、それで気持ち的に、本当の意味での武道館が終わって放心したんだろうね。
そこから自分ではずっといいライブができてなかったんだ。で、大阪の『人間の爆発』(2月14日梅田クラブクアトロ、w/The Birthday)で、やっといいライブができたかなと思った。The Birthdayとやったことによって、目を覚まされたというか。もうチバ(ユウスケ)くんの声にぶん殴られたみたいな感じだったからね。その前の広島(2月12日広島クラブクアトロ、同じくw/The Birthday)はまだ俺は追いつけなかったんだけど、大阪は……お客さんがどう観たかはわかんないけど、俺ん中では吹っ切れたものがあって。
それまでは、ちょっとした鬱状態だったかもね。歌詞も書けないし、ライブもうまく集中できないし、なんかこう……ポワーンとなってて、何を観ても何を聴いても感動しないし、感情の起伏が起こらないというか。なんか……意欲がなくなっていて。
「あ、俺、ダメになってる、しっかりしなきゃ」と思いながらも、ずっとぼんやりしてたのが、The Birthdayとやったことで目が覚めたかなあ。広島でチバくんの声を聴いて、あれはきたなあ。
グレート:でも鈴木だけじゃなくて、フラカン自体、大阪みたいないいライブは、今年になってからまだできてなかったと思う。だからやっぱり、武道館ってそれぐらいすごかったんだよ。俺も……武道館を2015年の12月にやって、2016年の2月から47都道府県ツアーを始めたけど、武道館のリバウンドからぬけるのに半年ぐらいかかったもん。そんなこと、これまでバンドやっとって初めてだったわけでさ。
鈴木:The Birthdayには……長年のいろんな思いがあるからさ。やっぱり同世代で、ワーッと追い抜かれて、こっちは憧れの眼差しと妬みと嫉妬でずっと見ていたバンドが解散して……ものすごい地獄も見たと思うんだよ。ものすごい孤独で、ものすごい背負い込んでいて……The Birthdayを始めた頃だって、大変だっただろうと思うんだ。でもずっとやってきて、今こんなかっこいいライブやるんだ、こんな声出せるんだ、こんな前向きにやれるんだ、っていう。しかもこんな大人になっていて、ちゃんと歳相応で、若ぶらずに、めちゃくちゃかっこいいことやってるしさ。
そこでなんかもう、ひっぱたかれた感じだよね。「何やってんだおまえ? そんなとこで」って。そんな感じだった。地獄をくぐってきた人の声にきこえたんだよ、俺には。
グレート:でも、そういうのはあるよな。去年のツアー中に、『DRAGON DELUXE』に出てもらったサニーデイ・サービスのライブもそれだもんね(2016年10月22日、名古屋ダイアモンドホール)。
鈴木:そうだね。
グレート:サニーデイにしたって、90年代の俺たちの目の上のタンコブだった人たちがさ。その後解散して、いろんなことがあって、再結成して……それこそ地獄も見てきた人たちに、ああやってすっげえライブをされたらさ、いろんなことを思うよね。「悔しい」っていうのもあるし、「さすがだな」っていうのもあるし、自分らが不甲斐ないと思うこともあるし。俺らは解散せずにずーっとやっとるのに……いや、ずーっとやっとるからこそ、ぬるま湯に浸かっとることも多いんだな、って気付かされるというかさ。
だからこの半年の間で、サニーデイとやったこととThe Birthdayとやったこと、このふたつはでかかったな。新しいバンドにも、大先輩にもすごい人たちはいるんだけど──。
鈴木:同世代っていうのがね。
グレート:そう。すごい同世代っていう存在には、やっぱり思うことがいろいろあるんだろうね、俺らも。
——目が覚めてよかった(笑)。ちなみにこの「あまくない」ですが、まずライブ会場で先行販売していたのが、4月からそれ以外でも買えるようになる?
グレート:今、ライブ会場先行って形で売ってるんだけど、4月から全国のライブハウスに置いてもらおうと思ってるのね。去年47都道府県をやったことで、改めて、俺たちはライブハウスで生活してるんだってことが身をもってわかって。ライブハウスに置いてもらえば、全国の店でも買えるってことになるな、と思ってさ。
地元のバンドのCD、ライブハウスで売ってることって多いじゃん。それを今やろうと思ってんのね。で、各地のいろんな人に連絡したら、「やりますよ」って言ってくれて。それで売れるか売れんかはわからんけど、それをやるのが健全というか、いいんじゃないかなと思って。まずは自分たちのライブ会場で先行で売る、2000年代最初の頃、トラッシュ・レコード時代のスタイルに戻るのもいいんじゃないかなと思って。
——さらにアルバムに向けたレコーディングも行なっているそうで。
グレート:今年に入ってからツアーの途中にちょっとずつレコーディングしとる。歌詞書けないって言っとった鈴木もここにきてエンジンかかってきて、夏頃には出せればいいな、と。
取材・文=兵庫慎司 写真=HayachiN