深津篤史の代表作『うちやまつり』に名古屋のオイスターズが挑む! 平塚直隆にインタビュー《深津演劇祭〜舞台編》第5弾
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前列左から・川上珠来、太田侑伽、永田貴椰、藤由依雛、佐藤寛大 後列左から・平塚直隆、藤島えり子、上田愛、河村梓、米津知実、芝原啓成、古川聖二
平塚の苦悩は見事花開くか!? 敬愛する先輩・深津の奥深き世界観をどう立ち上げる?
昨年9月から故・深津篤史(桃園会主宰・劇作家・演出家)ゆかりの演劇人たちによって公演が行われている《深津演劇祭~深津篤史コレクション舞台編~》。その第5弾として深津の代表作『うちやまつり』を、劇作家・演出家の平塚直隆率いるオイスターズが、20日(木)~25日(火)まで名古屋の「七ツ寺共同スタジオ」にて上演する。
『うちやまつり』は、1997年に桃園会が初演し、翌’98年には第42回岸田國士戯曲賞を受賞している。その後、〈うちやまつり三部作〉とされる前日譚『熱帯夜~うちやまつり前日譚』と、後日譚『paradise lost,lost』も発表しているが、巨大団地の空き地を舞台に、住人同士の希薄な人間関係やそこで起こった連続殺人事件を巡って展開される物語は、多くの謎やうす気味悪さ、エロティシズムをはらんだ難作でもある。
以前当サイトでも紹介しているが(関連記事を参照)、《深津演劇祭~深津篤史コレクション舞台編~》は、はしぐちしん(コンブリ団主宰)と中村賢司(空の驛舎主宰)が発起人となり、深津と関わりの深い演劇人に「好きな深津作品を上演してほしい」と声を掛け実現したものだ。
この呼びかけを受け『うちやまつり』に名乗りを上げた平塚は、かつて役者として深津演出を受け、濃密な時間を共に過ごした経験も持っているが、本作の演出については悪戦苦闘の様子。深津の代表作だけにより多くの注目と期待が集まる中、作品とどう向き合い、立ち上げようとしているのか、稽古場を訪ねて話を聞いた。
稽古風景より
── 以前、この公演について少し伺いましたが、深津さんの作品をいろいろ読まれた中で『うちやまつり』を選ばれたということですよね。
はい、そうです。どの作品でも良いということだったので。
── 実際に演出をされてみて、どんな感触ですか?
ホンはだいぶわからないところがなくなってきたんですけど、難しかったですね。最初は何のことを言ってるのかがわからなかったんですけど、役者が読んでるのを聞いたりして、恐らくこういうことなんじゃないのかっていうのはだいたい見えてきたので闇の中を走ってる感じはないんですけど、大変なのが、役者がどうやっていいのかが見えてこないみたいで。それでいろいろあの手この手でやってはいるんですけど、僕のイメージしてるものと折り合いがつかなくて、そこで苦労してる感じです。
── 平塚さんの中では、こう見せたいというイメージがはっきりとある?
そうですね。書かれてるセリフと目的、つまり今何のことを言っているのかっていうのが、喋っていることと違うことなので。表向きはたとえ話みたいなことを喋ってるような台本なのでそれに捕らわれすぎていて、「実はこっちのことを言ってるんだよ」っていうことがなかなか……。
── 表面的なコトバではなく本質を表現してほしいということですよね。
「これは今、あなたはこういうことを思ってます。それをやってほしいです」って言ってるんですけど、言葉に絡め取られちゃうっていうか。「今悲しいです」っていうセリフがあったとしたら、実は悲しいわけじゃないんだけど、っていうことをどれだけ説明してもなかなかすっきりいかなくて。絶対にそのままのことは言ってないから、っていうのがわかってきたので余計。
稽古風景より
── これは関西弁のニュアンスだからこういう伝え方ができるのかな? と思ったりするシーンもあるんですよね。
そうかもしれないですね。あるシーンでは、これは絶対に関西人じゃないとやれないだろうっていうところもあったり。
── 一人ひとりのセリフに含みもとても多いですよね。出てくる人がみんな素直じゃないというか(笑)。
本当にミステリーとして読むと、難しすぎますね(笑)。謎が書かれなさすぎてるから。ヒントなさすぎるって(笑)。その辺のところは目を瞑るようにしてやらないと。
── 戯曲をよく読むと朧げにわかってくる気がするんですけど、演じるのはとても難しいのではないかと。役者自身の豊かさも求められる戯曲かもしれませんね。
きっとこういうことを言ってるんだろうなぁっていうのはわかって、だとしたら面白いなぁと感じるので、それをなんとかしてお客さんにもわかってもらいたいんですけどね。何のこと言ってたのかわからないけど、観終わって、なんか面白かったなぁって。言葉を伝えようとしちゃダメというか、なんていうのかなぁ…それでもちゃんと言ってほしいんですけど。かといって大げさな表現になっちゃうと一気に冷める気もするし。セリフが一見何を言ってるかわからないので、それだけに余計役者の演技がものすごく重要だなって思って、この演技がちょっとでも観客に引かれたらもう見てられないぞって。下手したら役者の立ち姿が良ければ何を言ってても良いというか、わかんなくても見てられるかもしれない、とも思ってはいるんですよね。だから演出も気をつけなくちゃいけないんですけど。
── あと、ト書きを読むとわかりますけど、観客はこの会話だけで登場人物の関係性がわかるのかな? とか。
そうですよね。なので関係性だけとにかくわかりやすく。きっとこの人はこの人に対してこういう風に思ってるんだろうなぁって、それだけはわかりやすくしようとは思ってるんですけどね。立ち姿とか距離感ですよね。あと視線もすごく大事で、それで本当に印象が変わるんですよね。細かくやりだすと時間がアッという間に経つんですよ。役者が目線をちゃんと自覚して、首の角度とかもちゃんと狙ってやっていかないと、気分でやると毎回印象が変わったりして。細かく確認していかないと、なかなか見せたいものにはならないなと。
稽古風景より
── 後半で佐藤さんが滔々と語るシーンがありますけど、それもなんだか不思議ですよね。
本当に不思議ですね。僕はそのあたりが笑えたんですよ。そうやって考えると幾つも笑える箇所があるので、だから笑えるところは笑えるように。「これ、面白いところですよ」って、できるだけあざとくなく、なんとか提示したいなと思って。それが見せられたら、やっと僕らがやる意味がわかるかなぁって感じがしますけどね。カッコつけてやるんじゃなくて、「ちゃんと笑えるお芝居ですから」って見せられたらいいなと思いますね。
── 演出としては、ストレートに見せる感じですか?
あぁもう、本当にどストレートです。だから余計自信がないというか。もっと削ぎ落としてやってみようかなとも思ったんですけど、結局できなかったな。不条理劇でもないし、距離感とかも読んでて具象的な感じがするし、実際にやってみても抽象的にするのは難しいなと。ある程度ぶっ飛んで抽象的にやれたら、「これはこういうもんです、僕のやり方はこうです」って自信を持ってやれるんですけど、これはちょっと怖い(笑)。
── 舞台美術はどんな感じになるんでしょう。
わりとシンプルな舞台ではあるんですけど、僕らの中では具体的にこれぐらいの空き地があって、こうなっててっていうのは決めて。団地の空き地をぽっかり抜き出したみたいな感じの舞台です。(戯曲を元に)これはどういう場所なんだろう? ってやってくと、ベンチがこうなってて、ここに“小山さんちの庭”があって、これしかないだろうっていう。
── 音楽などは?
たまにちょろっと流れたりします。またカセットテープの音(盗聴されたらしきカセットテープを再生するシーンがある)も難しくて。あれだけで場所と時間がわかるようになってるので、音響との打ち合わせだけでも二転三転してますね。「ごめんなさい、間違えてました。やっぱりこうです」って。もうヘトヘトです(笑)。こんなに頭使ってやる稽古なんて初めてかもしれないですね。
稽古風景より
── でも改めて読んでみると、本当に面白い戯曲ですよね。
面白いですよね。その面白さをちゃんと伝えられないと意味がないので、やっぱりセリフの表面に絡め取られたらダメだなって。戯曲を選ぶ時に4~5本読んだんですけど、一番面白かったし、でも一番わけわかんなかったんですよね。この不思議な感じ、何?って。わからないのに面白いって、すげぇなぁって。ホンは一字一句変えてないんですけど、会話っていうか詩なので、それですね厄介なのは。詩が会話っぽくなってるだけで(笑)。そりゃいろんな捉え方できるわ、って。
今年の第61回岸田國士戯曲賞では、最終候補に選ばれつつ惜しくも受賞を逃した平塚だが、“不条理な状況をベースとした、可笑しみを伴った徹底的な会話劇”という劇作や演出は、ここ数年で確固たる独自の方法論が定まった感があり、役者陣一人ひとりの輝ける個性ともあいまって、強固な作品を生み出し続けているオイスターズ。
さらなる高みを目指し、『うちやまつり』という難題にメンバーの人数を上回る8名の客演を迎えて挑んだ彼らの果敢な挑戦を、まもなく始まる本番で見届けてほしい。本作は名古屋公演のみにつき、他エリアの読者も週末を利用してぜひご来名を!
なお、下記上演回の終演後には、ゲストを招いてのアフタートークも予定されている。
20日(木)19:30/北村想
22日(土)14:00/佃典彦(劇団B級遊撃隊)
25日(火)19:30/はせひろいち(劇団ジャブジャブサーキット)
深津演劇祭〜深津篤史コレクション舞台編〜 オイスターズプロデュース『うちやまつり』チラシ表
オイスターズプロデュース『うちやまつり』
■作:深津篤史
■演出:平塚直隆
■出演:芝原啓成、田内康介、上田愛(フリー)、古川聖二、太田侑伽(愛知淑徳大学演劇研究会「月とカニ」)、米津知実(雲の劇団雨蛙)、河村梓、藤由依雛(電光石火一発座)、川上珠来、永田貴椰(フリー)、野田雄大(演劇組織KIMYO)、佐藤寛大(フリー)、藤島えり子(room16)
■日時:2017年4月20日(木)19:30、21日(金)19:30、22日(土)14:00・19:30、23日(日)11:00・15:00、24日(月)14:00・19:30、25日(火)14:00・19:30
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:一般前売2,800円、当日3,000円 学生前売1,500円、当日1,800円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から南東へ徒歩5分
■問い合わせ:オイスターズ 090-1860-2149
■公式サイト:http://www.geocities.jp/theatrical_unit_oysters/