「人間の暗部をあぶりだす芝居に」 高橋和也、池谷のぶえ、鳥山昌克と演出・日澤雄介が語る舞台『Little Voice リトル・ヴォイス』
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左から日澤雄介、池谷のぶえ、高橋和也、鳥山昌克 (写真撮影=中原義史)
大原櫻子が天才的歌声を持つ少女リトル・ヴォイス役で舞台初主演する『Little Voice リトル・ヴォイス』。大原の歌声、安蘭けいの強烈な母親役などが話題だが、脇を固める濃い俳優陣にも注目だ。芸能プロモーターのレイ・セイ役に高橋和也、母親の友人・セイディ役には池谷のぶえ、ミスター・ブーと電話会社職員の2役に鳥山昌克と多彩な顔触れが並ぶ。さらに演出は気鋭の劇団「チョコレートケーキ」の日澤雄介。このメンバーでどんな色を生み出すのか? 個性の異なる4人に語り合ってもらった。
■「池谷さんの所属する劇団のオーディションを受けたことが……」
――まずは演出の日澤さんに、この多士済々のキャストについてうかがいたいと思います。
日澤 実は僕、池谷さんが所属していた劇団「猫ニャー」のオーディションを昔、受けたことがあるんです。落ちたんですが……(笑)。そのころから池谷さんを拝見していて、すごく自由で、なんかちょっと肩の力が抜けている不思議な感覚を持った女優さんだなあ、という印象があったんです。セイディという役は影があって、ドロっとしたものを持っている役なのですが、それを面白くできて、ラストではきっちり締められる人として、今回お声がけさせていただきました。
池谷 お聞きするまでそんな接点があったなんて知らなくて……しかも、落としていたなんて! 私はチョコレートケーキの舞台でのイメージを持っていたので、どんなに寡黙な方なのだろうかと思っていたら、穏やかな方でした。脚本の読み合わせをしたときに「生々しく創っていきたい」とおっしゃっていて、面白くなりそうだと楽しみにしています。
日澤 高橋さんは正直、もっと怖い人かなと思っていたのですが、実際にはすごく気さくでした。レイ・セイはダンディで、男の匂いがぷんぷんしなくてはいけない。それでいて若干、二の線からずれている。そして年齢相応の味があって、さらに歌わなくてはいけない。いろんな要素を考えて、「そうだ高橋さんだ!」と口説き落としに行きました。
高橋 はい、口説き落とされました(笑)。僕は、1998年の映画版(マーク・ハーマン監督)の印象が強くて最初は尻込みしていたんです。この物語は欧米文化の真髄みたいな部分があって、「日本で上演したときどうなるんだろう?」とか、「今の若い人はジュディ・ガーランドもわからないよな」と思うと、この物語が果たして成立するのだろうかと考えてしまって。でも、大原さんの武道館コンサートの映像を観たときに、「あっ!行ける」って思ったんです。
池谷 レイ・セイの役のままですね。「才能を見つけた!」って感じで(笑)。
高橋 そう! この子だったら、やっちゃうんじゃないかとひらめいた。それで、「やらせて頂きます」とお返事しました。共演したことがあるのは池谷さんだけで、ほかの方はみなさん初めてです。
日澤 僕の粘りがちですね。でも、最初に会ったときから、この役をやりたそうでしたよ(笑)。
高橋 役として面白いじゃないですか。怪しい、いかがわしい感じで。芸能の仕事って本当に好きで、のめり込む要素がある人じゃないとできない世界。そういう人が持っている特殊な匂いが僕は嫌いじゃないんですよ。ちょっと共感する部分があるというか。男としても、レイ・セイのだらしなさみたいな部分は演じてみたいところですしね。
高橋和也
日澤 鳥山さんとは既に2作品一緒にやらせていただいていて、気さくなところとか、人柄とかでお願いしました。そして、ミスター・ブーというのは少し崩れている人なので、崩れ方が上手い人じゃないと、と思いまして。本当にいいメンバーが集まったなと思います。
鳥山 僕は今回、全員が初共演です。底ではつながっているでしょうけど、皆、畑が違う。そういう人たちがふっと集まって、いい脚本があって、なんだかまとまっていくような気がしています。多分、高橋さんの包容力が大きいからでしょうね。その包容力の中で、みんなで泳げばいいんじゃないかなと思っています。
■舞台版と映画版との違い
――舞台版は映画版と違ってちょっと苦味が強いように感じます。皆さんは、お客さまに何を届けたいと思いますか。
日澤 まず、この作品はショーという大きい見せ場がありますので、そこでは大原さんの歌をしっかり伝えたいですね。あと、登場人物がみんな人間臭いんですよ。一面だけではなく、二面も三面も持っていて、それが誰もが持っている嫉妬だったりの感情とつながっている。舞台版の原題は「The Rise and Fall of Little Voice」で、「栄光と挫折」という意味合いの言葉がついています。人生における成功とか失敗や挫折、望んでも勝ち取れないものに必死であがく姿。それによって大切なものをなくしてしまう愚かしさみたいなのも出していきたいと思いますね。
池谷 ショーの場面など映画で見てもすごいなあと思いましたが、それを生で見られるのが舞台の醍醐味だと思うんです。大原さんの歌もですが、安蘭さんのスラングだらけのひどい言葉でバーッとまくし立てるセリフを生で見られる。それらは、映画とは違う肌質というか、ライブな感覚を出せそうだなと思います。セイディは映画版ではマリーたちを優しく見守っているのですが、舞台はちょっと違って、「おっ!?」という部分があります。セイディの映画との違いも楽しみにしてください。
池谷のぶえ
日澤 セリフは、谷賢一さんの翻訳がまたいいですしね。
高橋 イギリス的なダークな人生の苦さを描いていて、痛い部分をさらけ出している作品です。その中でリトル・ヴォイスにとっては歌が小さな蝋燭みたいな存在で、そこだけ小さな明かりが灯っている。荒涼とした痛々しい世界の中で大原さんの歌が、小さな希望みたいにお客さまの胸の中に灯るような感じになるといいんじゃないかなと思います。親娘のパワフルなぶつかり合いもあるし、演劇的カタルシスもお客さまに伝わっていくと思います。
鳥山 僕は2役やりますが、どうなるんでしょうかね? 映画を観たのですが、鳥籠のイメージでした。リトル・ヴォイスは籠の中に閉じこもっていて、周りの人たちがそれを外から見ているのですが、気がつくと彼女は外に出ていて、ほかの人は籠の中から出られなくなっている。でも、それに気づいたり気づかなかったりしていて、それでも生きていかなくてはいけない。そういう人の哀しみというものが出せればいいかなと思っています。
日澤 劇場がこれまで僕がやっていた100人規模のところとは違って大きくなりますが、演出の根本は変わらないと思います。いい俳優さんがいれば、そこで勝負してくれるから心配もしていないです。僕はそこにちょっと塩をかけるぐらいですね。
■舞台人にとっての希望の明かりとは
――先ほど、高橋さんから「小さな明かり」という言葉がありましたが、演劇に関わる皆さんにとってリトル・ヴォイスの歌のような存在はありますか?
日澤 僕は俳優から演劇をスタートして、その後に演出もやりだしたのですが、やはり、脚本を読み込んで俳優と向き合って話しながら作っていく時間ですかね。その快感というか、充実感みたいなものが僕の中の明かりでしょうかね。
池谷 私にとって演劇は“楽しい”という思いよりも、“逃げ場”という感じで始まりました。舞台を観ている間って、日常の苦しいこと辛いことから逃げられるじゃないですか。3時間だけでも夢の世界に行ける。私もそれで救われたし、今はその夢の世界にいざなえることが私の明かりかなと。その時間だけでも逃がせてあげられたらと思います。
高橋 15歳からこういう世界で生きてきたので、どこかですごく孤独感っていうのを持っているんですね。いろんな人の目線にさらされている自分というのがいて、それを客観的に見ている自分もいて、家族がいても孤独だと思うんです。そんな中で、一緒に仕事をしている人の心に触れたかなとか、「あっ、少しこの人のこと分かったかな」「自分のこと分かってくれたかな」とかがあると、ちょっと嬉しくなる。それが小さな明かり、希望のような気がしています。
鳥山 大事にしているものや家族とかが自分の目の前からなくなるとき、その孤独を埋める作業が僕の場合はお芝居でした。このあいだ、飼い猫が死んで、ガクっとなっていたときに今回のお話しをいただきました。あっ、この人たちとやったら助けてくれるかな、と思ったんですね。今回は僕にとってそれが光でもありましたね。
鳥山昌克
■人間のダークサイドをあぶりだす
――タイトルから、がっつりミュージカルのイメージがありましたが、演劇的な要素が強い作品になりそうですね。
池谷 周りから、「歌うんでしょ?」とよく聞かれるのですが、私は歌わないですしね。生々しいゾワゾワするような匂いが立ち込めてくるやりとりがあって、下北沢の小劇場でやっても面白いような作品。演劇のファンの方にも、ミュージカルというイメージを持たずにぜひ観に来ていただきたいですね。
高橋 一筋縄ではいかない作品。いわゆる、きれいなミュージカルではなくて、人間のダークサイドをあぶりだすようなお芝居だと思うので、そこを楽しみにしてほしいですね。そこがぼくらのやりどころでもある。人間の暗部をさらけ出すような表現を目指したいと思います。
日澤 人間って、そこまでダークになると滑稽でもあるんですよね。
日澤雄介
池谷 そうですね。あまりにひどすぎて、笑えるところもありますしね。
鳥山 歌も味わってもらいつつ、劇場を一歩出てから「あれっ?」と何かが気になってくるような後味の悪さや皮肉さも楽しんでもらえるかなと思います。
日澤 人の内面のすごく強いぶつかりあいが確実にこの作品にはあります。銀河劇場の約700席の空間でも、俳優はそのぶつかり合いを目の前で観ているような感覚で見せてくれると思います。お客様にもどこかしら自分に刺さるところ、「痛っ」てなるところがあると思うので、一緒に感じていただければと思います。
あまりに持ち味の違う4人の座談会に、彼らの不協和音やいかにと思っていたが、作品を軸にすると見事なハーモニーを醸し出しだしてくれた。経験を積んだ実力派たちが、どんな音を鳴らしてくれるのか、じっくりと味わいたい作品になりそうだ。
取材・文=田窪桜子 写真撮影=中原義史
■作:ジム・カートライト
■演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
■配役:
リトル・ヴォイス:大原櫻子
マリー・ホフ:安蘭けい
ビリー:山本涼介
セイディ:池谷のぶえ
ミスター・ブー/電話会社職員:鳥山昌克
レイ・セイ:高橋和也
翻訳:谷 賢一/音楽監督:扇谷研人/美術:原田 愛/照明:原田 保/音響:山本浩一/
衣裳:藤田 友/ヘアメイク:宮内宏明/振付:川崎悦子/歌唱指導:花れん/ 演出助手:和田沙緒理/舞台監督:齋藤英明、八木 智
■日程:5月15日(月)~5月28日(日)
■会場:天王洲 銀河劇場
■主催:ホリプロ/フジパシフィックミュージック 企画制作:ホリプロ
■問合せ:ホリプロ
■日程:6月3日(土) 18:30 、6月4日(日) 13:00
■会場:富山県民会館 大ホール
■主催:イッセイプランニング/富山テレビ放送
■問合せ:イッセイプランニング 076-444-6666 (平日 10:00-18:00)
■日程:6月24日(土) 12:00 /17:00
■会場:北九州ソレイユホール
■主催:RKB 毎日放送/キョードー西日本
■問合せ:キョードー西日本 092-714-0159