『ルグリ・ガラ ~運命のバレエダンサー~』会見レポート ルグリが魅せる自身のバレエ人生の集大成、そして「今」

レポート
クラシック
舞台
2017.5.3
マニュエル・ルグリ

マニュエル・ルグリ

8月19日から大阪を皮切りに、名古屋、東京で開かれるルグリ・ガラ。パリ・オペラ座のエトワールとして、そして引退後はウィーン国立バレエ団の芸術監督として同カンパニーを著しく成長させたマニュエル・ルグリが、自身のバレエ人生の一つの集大成と位置付ける公演である。

出演するダンサーはパリ・オペラ座バレエ団、英国ロイヤル・バレエ団、ボリショイ・バレエ、ルグリが芸術監督を務めるウィーン国立バレエ団から選りすぐった精鋭たちに加えフラメンコ界からもダンサーが参加する、多様な顔ぶれだ。

演目はバレエと共に生き、バレエが人生たるルグリの節目に関わったもの。つまり演目を通して彼のバレエ人生の軌跡を辿ることができる。そしてそれらを彼自身が認め、育ててきたダンサー達が受け継ぎ、披露する。それは世界のトップダンサーから渡されたバトンを引き継ぐ、バレエの今、そして未来の姿を目にする、歴史的な瞬間ともいえるかもしれない。

このほど行われた会見の様子を紹介しよう。


■コンセプトはルグリの人生「運命とダンス」

――まずこの公演のコンセプトを教えてください。

ルグリ:今回の公演のコンセプトはサブタイトル「un destin... "La Dance"」にあるように、「運命とダンス」がそれを端的に表しています。

私は4歳でバレエを始め、それからずっとバレエと共に生きてきました。私の人生はバレエそのものです。パリ・オペラ座に入団し、引退し、ウィーン国立バレエ団の芸術監督となり……と、私の人生は全てバレエに彩られています。バレエは私の運命なのです。今回日本で再び舞台に上がりますが、尊敬するダンサーに囲まれながら踊る機会を得られて、とてもうれしく思います。

マニュエル・ルグリ

マニュエル・ルグリ

■ルクリ自身が選んだ世界のトップダンサー達が集結

――今回選んだダンサーについて教えてください。

ルグリ:まずイザベル・ゲラン。彼女とは共にパリ・オペラ座の一時期を過ごし、多くのことを得てきました。そして芸術的にも共有するものが多いダンサーです。彼女は40歳でパリ・オペラ座を引退しましたが、私は早すぎたと思っていますし、彼女も今、過ぎた時を取り戻すように踊っているように感じています。今回は彼女とパトリック・ド・バナ振付「フェアウェル・ワルツ」を踊ります。

英国ロイヤル・バレエ団のマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフ、ボリショイ・バレエのオルガ・スミルノワ、セミョーン・チュージンは国際的にも有名で皆さんよくご存じだと思います。
彼らを選んだ理由は、ひとえに今のバレエ界で最も優れたダンサー達であるからです。特にムンタギロフとチュージンは私がバレエをこう踊ってほしい、バレエ表現に求めているもの、期待しているものを体現してくれる男性ダンサーです。

ウィーン国立バレエ団のダンサー達を紹介

ウィーン国立バレエ団のダンサー達を紹介

■芸術監督として誇りとするウィーンのダンサー達

ルグリ:私はウィーン国立バレエ団の芸術監督になって8年目に入りました。そしてこのバレエ団の芸術監督になって本当に光栄だと思っています。私が赴任した頃は、ウィーンといえばやはりバレエよりオペラでしたが、近年バレエ団の評価は高まり、はほぼ100%売れています。

今回はウィーンからは8人のダンサーが参加しますが、そのうち5人がソリスト、あるいはドゥミ・ソリストで、彼らは私がオーディションで選んだダンサー達です。

プリンシパルのダヴィデ・ダトはイタリア人、ニーナ・ポラコワはかつて私と共に来日したこともあります。デニス・チュリェヴィチコなど、皆力のあるダンサーです。

ソリストのナターシャ・マイヤーとヤコブ・フェイフェルリックはウィーンのバレエ学校出身のオーストリア人で、才能豊か。同じくソリストのニーナ・トノリ、ニキーシャ・フォゴ、ドゥミ・ソリストのジェームズ・ステファンはロイヤル・バレエ学校の出身。私が彼らを誇りに感じていますし、日本の皆様にお披露目することをうれしく思います。

このほかフラメンコ界からエレナ・マルティン、振付家のパトリック・ド・バナが参加します。彼らは私の大切な友人でもあり、特にバナは「マリー・アントワネット」などウィーンでもたくさんの振り付けてもらっています。今回もマルティンとバナが踊る「I have been kissed by you」、ダドが踊る「Inside the Labyrinth of solitude」などがあり、楽しんでいただけるでしょう。

■演目で辿るルグリの人生と「継承」

――今回のプログラム構成について教えてください。

ルグリ:作品の多くは私のバレエ人生で節目となってきたものです。かつて私が踊っていた作品を、若いダンサーが踊ることにより「継承」、つまり引き継ぐ、ということを強く意識した演目構成になっています。

例えば「ライモンダ」は私が21歳の時、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で当時芸術監督のヌレエフによりエトワールに任命された時の思い出深い作品です。また「マニフィカト」はノイマイヤーが私とシルヴィ・ギエムのために作ったもので、今回はトノリとフェイフェルリック(ウィーン国立バレエ団)が踊ります。

世界で何度も踊り、世界中で楽しんでもらった「チャイコフスキー・パドドゥ」はヌニェスとムンタギロフに、「グランパ・クラシック」はスミルノワとチュージンという、世界的なダンサー達に踊ってもらいます。

また私のミッション、芸術監督としての責務の一つとして、エドワード・リアン、エドワード・クルグなど、日本の方々がまだ知らない振付家を紹介することも考えています。

さらに私自身がウィーン国立バレエ団のために振り付けた「海賊」も披露します。なかでも有名なオダリスクは音楽も全く新しいものとなっています。2幕のコンラッドとメドーラのパドドゥはドリーブの曲を使っており、こちらはヌニェスとムンタギロフが踊ります。

このほかバランシン作品(「スターズ アンド ストライプス」、「ジュエルズ」よりダイヤモンド)や、「ローレンシア」からはパドシスを。これはウィーンのダンサー達をお目にかける機会となるでしょう。ゲランとはローラン・プティ作品「アルルの女」を踊ります。これは彼女と共にパリ・オペラ座で上演した作品です。

花束をもらって

花束をもらって

■ルグリのソロ作品に日本人ピアニスト滝澤志野さんも参加

ルグリ:私自身のソロ作品は振付家ナタリア・ホレツナに依頼しました。作品作りは6月以降なので、今は詳しく話せませんが、素晴らしい作品になると確信しています。

――ソロ作品には日本人ピアニストの滝澤志野さんが参加すると聞きました。

ルグリ:彼女は輝かしい、優れた、情熱のあるピアニストです。バレエピアニストとして、友人として常に私のそばにいてくれます。今回のソロのための曲探しも手伝ってくれました。公演で彼女とともに舞台に上がり、作品を踊れることにとても感謝しています。

ウィーン国立バレエ団専属ピアニスト 滝澤志野さん

ウィーン国立バレエ団専属ピアニスト 滝澤志野さん

■ヌレエフ作品の継承者として

――「継承」という話が出ましたが、世界のカンパニーでヌレエフ作品が踊られるときはルグリさんが指導すると聞きました。どういうことを伝えていきたいと思っていますか。

ルグリ:ヌレエフ芸術監督とは6年間一緒に仕事をし、彼の作品はほとんど踊ったので熟知しています。ヌレエフの作品で特に大事なのは精神性です。どのように踊るのかを伝えることは非常に難しいのですが、それをウィーンで試み、成功しました。例えばロシア出身のダンサーはヌレエフの踊りには慣れていません。ですからなぜこれをしなければならないのか、なぜこのパが大事なのかを一つ一つ理解してもらうことに努めました。

そしてヌレエフ作品についてぜひ伝えたいのは喜びと共に踊る、ということです。ヌレエフの踊りは大変なため、なかなか感情を与えるまでに至らないと考えられがちですが、音を理解し、そのうえでなぜこのパがこの音に伴っていくのかを理解すれば、作品が論理的にわかるでしょう。

今回のガラではヌレエフの「白鳥の湖」から黒鳥のグラン・パドドゥをご覧いただきます。1964年版のものですので、通常ご覧になっているものとは全く違うものでしょう。

――最後にメッセージを。

ルグリ:私自身のダンサーとしてのキャリアはパリ・オペラ座で終わりました。パリ・オペラ座の引退公演の時に出せるものは全て出し切りました。時々舞台に上がって踊るのは、舞台上で皆さんとお会いする喜びのためです。今回ソロ作品を踊りますが、私自身、これが最後とは言えませんし、そういう言い方は好きではないのですが、年齢を考えたら最後の公演となるかもしれません。素晴らしいダンサーに囲まれた私の姿を、ぜひ多くの皆さんに見ていただきたいと思います。

マニュエル・ルグリ (撮影:西原朋未)

マニュエル・ルグリ (撮影:西原朋未)

会見ではスケーター、そしてスポーツキャスターとして活躍する浅田舞さんが登場。3歳からバレエを始めた浅田さんは「バレエの足首を鍛えるためにフィギュアスケートを始めた」という話を披露し「世界のトップダンサーが集結した舞台はとてもぜいたくで、こうした機会は滅多にありません。ルグリさんのソロも楽しみ。成功をお祈りしています」と応援メッセージを送った。

浅田舞さんと

浅田舞さんと

ルグリのバレエ人生の結晶ともいえる今回のガラ。ひょっとしたらこれがルグリの踊る、最後の舞台になるかもしれない公演は8月19日、大阪で幕を開ける。自身で「継承」と語るこの公演は、まさにバレエ界の歴史の瞬間となることは間違いない。レジェンド・ルグリの姿を、ぜひ目に焼き付けておきたい。

公演情報
『ルグリ・ガラ ~運命のバレエダンサー~』
 
東京公演
【会期】
8月22日(火)18:30  Aプログラム
8月23日(水)18:30  Bプログラム
8月24日(木)18:30  Bプログラム
8月25日(金)18:30  Aプログラム
【会場】東京文化会館

 
大阪公演
【会期】 8月19日(土) 14:00 Aプログラム
【会場】フェスティバルホール

 
名古屋公演
【会期】 8月20日(日) 17:00 Aプログラム
【会場】愛知県芸術劇場  大ホール

 
出演:マニュエル・ルグリ、イザベル・ゲラン、マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ、オルガ・スミルノワ、セミョーン・チュージン、エレナ・マルティン、パトリック・ド・バナ、ニーナ・ポラコワ、デニス・チュリェヴィチコ、ダヴィデ・ダト、ナターシャ・マイヤー、ニーナ・トノリ、ニキーシャ・フォゴ、ヤコブ・フェイフェルリック、ジェームズ・ステファン、滝澤志野

■公式サイト:http://www.legris-gala.jp/

 
シェア / 保存先を選択