かつてないほど開かれた、きのこ帝国の“今”を中野サンプラザにみた

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2017.4.28
きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

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ワンマンツアー2017『花の名前を知るとき』 2017.4.20 中野サンプラザ

佐藤千亜妃(Vo/ Gt)が頭の上で両手を振りながらステージに出てきたことには、演奏が始まる前からいきなり度肝を抜かれた。以前の彼女だったら、そんなことは絶対(?)しなかった。

きのこ帝国のライブは毎回、何かしら驚きがある。インディー最後のアルバムとなった『フェイクワールドワンダーランド』のツアー・ファイナルでは、“オルタナ・ロックを演奏するトンがったアンダーグラウンドなバンド”というイメージを払拭しながら、もっと多くの人に訴えかけることができる世界観の広がりをアピールするその鮮烈さにワクワクさせられた。また、メジャー第1弾アルバム『猫とアレルギー』のツアー・ファイナルでは、成長・成熟も含め、バンドが劇的に変化していることを感じさせてくれたのだが、驚きという意味では、今回が一番だったかもしれない。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

昨年11月にリリースしたメジャー第2弾アルバム『愛のゆくえ』をひっさげ、全国6か所計7公演を回ったワンマンツアー『花の名前を知るとき』。そのツアー・ファイナルである中野サンプラザ2デイズの2日目。佐藤がアコースティック・ギターをかき鳴らしたオープニングの「桜が咲く前に」から、バンドは2時間にわたって『愛のゆくえ』の曲を中心にアンコールを含め、全20曲を披露した。「桜が咲く前に」に続けて、ステージの4人が「怪獣の腕のなか」を演奏しはじめたとたん、ちょっとした勘違いからこの曲がもう死んでしまった飼い猫の思い出と結びついている僕は思わず涙がこぼれ、ちょっと閉口したが、そんなセンチメンタルを吹き飛ばすようにこの日、バンドが躍動感あふれる演奏とともに印象づけたのは、これまでにないオープンマインドなバンドの在り方だった。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

変化は多分にバンドの顔である佐藤のパフォーマンスに如実に表れていたように思う。中盤の「雨上がり」でタンバリンを叩きながら歌う姿も新鮮だったけれど、あーちゃん(Gt/Pf)が奏でる軽やかなカッティングに合わせ、手拍子した観客に「クラップありがとう。うれしい」と語りかけたり、MC中にメンバーをいじってみたり、メンバー紹介では、「(自分に対する歓声の)声が小さいよ~」とおどけてみせたり、「疾走」ではあーちゃんと背中合わせにギターをかき鳴らしたり。そんな光景を見ながら、アマチュア時代、対バンはみんな敵だと考え、ライブ直前に4人で円陣を組み、“死ね!死ね!死ね!”と気合を入れていたバンドが……と面食らってしまった。アマチュア時代って、いつの話をしてんだと言われるかもしれないが、そこまで遡らなくたって、ついこの間まで、照れもあったとは言え、敢えてファンと馴れ合いにならないことに美学を感じていたと思しき彼女達が、劇的に変わったと言えるほどオープンマインドな姿を見せたのは、何かしら心境の変化があったに違いない。しかし、だからって、きのこ帝国はまるっきり変わってしまったわけではなかった。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

それがはっきりと聴き取れたのが、シティ・ポップスに通じるアーバンな魅力をアピールした「LAST DANCE」やレゲエの「夏の影」といった新境地を打ち出した『愛のゆくえ』の曲を立て続けに演奏した中盤のパートだった、というところがおもしろい。中でも圧巻は「MOON WALK」だった。谷口滋昭(Ba)のウォーキング・ベースと西村“コン”(Dr)のタイトなドラムが作るグルーヴの上で、あーちゃんが不穏なリフを重ね、佐藤の虚ろな歌声が観客に底知れない深淵を覗かせる熱演は終盤、轟音とともに凄絶ささえも湛えていた。この中盤のパートを始める前に佐藤が言った「ムーディーな曲を何曲かやります。ゆったりとノリながら聴いてください」という前置きとは裏腹に、観客がみな金縛りにあったように微動だにせずステージの4人を凝視していた光景は壮観の一言だった。アルバム全9曲中、最も地味に感じた「MOON WALK」がライブで大化けしたという意味でも、きのこ帝国というバンドが持つ底力を物語っていたという意味でも、この日一番のハイライトだった。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

メランコリーとともに成熟を新境地として反映させた『愛のゆくえ』が『猫とアレルギー』以上にバンドの変化を印象づけた作品と受け取られているかもしれないことを考えると、ギターの轟音も含め、きのこ帝国が持つ凄みを改めてアピールした中盤のパートが持つ意味は大きかったと思う。しっとりとした歌の魅力を味わわせた「愛のゆくえ」を演奏する前に佐藤が語った「前向きな言葉を歌いたいと考え、それを実践してきたきのこ帝国が再び人間のディープなところにある蠢きを表現できたアルバムです」という言葉から察するに、『愛のゆくえ』は新境地である一方では、若干の原点回帰という想いもあるのかもしれない。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

中盤で一度、ズドンと観客を戦慄させた後は、前述したオープンマインドなパフォーマンスで盛り上げると、「誰もが大切な人に出会えるように」という願いを込め眩い光の中で演奏した「東京」では、バンドの熱演に客席から歓声が上がった。アンコールでは、「おもしろいものを届けられたら」と、今年9月に迎える結成10周年に先駆け、新曲「夢みる頃を過ぎても」を披露。この曲を含め、佐藤はこの日、2曲でアコースティック・ギターも弾いたが、それは求めるバンド・サウンドがまた変わってきたことの表れだったかもしれない。

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

きのこ帝国 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

そして、アンコールを締めくくったのが「ありふれた言葉」。バックドロップが上がって、ぐーっと奥行きが出たステージは、鮮やかにさらなる世界観の広がりを印象づけたが、バンドの演奏に手拍子で応えるファンを見ながら、初めて聴いたときにその前向きさがきのこ帝国らしくないようにも感じられた『猫とアレルギー』のこの曲が、バンドとファンがこれから築いていくに違いない新しい関係を象徴しているように思えた。きのこ帝国はまだまだ変わっていくに違いない。この次は、どんなふうに驚かせてくれるのか楽しみでしかない。


取材・文=山口智男 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

ライブ情報
きのこ帝国 Dr.西村”コン″生誕祭
『楽しい夜にドラムを叩く』

【公演日】6月24日(土)
【会場】新代田FEVER
【時間】OPEN17:30/START18:00
【出演】きのこ帝国 / あいみょん / paionia
 
※すべてバンドでDr.西村"コン"が参加いたします。
 
】¥3,900(税込) (ドリンク代別)
一般発売日:5月20日(土)
 

 

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