葛飾の夜にザ・クロマニヨンズがかけた、ロックンロールという名の魔法
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
ザ・クロマニヨンズ TOUR BIMBOROLL 2016-2017
2017.4.19 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
ロックンロールとは何なのかを文章で説明しようとすると、どんどんその本質から遠ざかってしまいそうになる。ロックンロールとは感じるもの、体験するものだからだ。ザ・クロマニヨンズのライブに行けば、それがどういうものであるか、一発で実感できるだろう。56本に及ぶツアーの55本目となるかつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール。ツアー終了直前のステージなのだが、それゆえに特別な何かがあるわけではない。ザ・クロマニヨンズのコンサートは1本1本がすべて特別だからだ。ロックンロールのかっこよさ、素晴らしさ、とてつもなさ、かけがえのなさがぎっちり詰まったライブだった。不純物も添加物も一切なし。ただひたすら100パーセント、ピュアな音楽が鳴り響いていた。
ステージの背後には最新アルバム『BIMBOROLL』のジャケットが映し出されている。アルバム『BIMBOROLL』に沿ったツアーであることをシンプルかつストレートにアピールする演出だ。SEで「嘆きのビンボー」が流れて、マジシャン(おそらくスタッフ)が登場して、ベタな手品を披露していく。花を出したり、どこまでも繋がったハンカチを出したりするうちにメンバーが登場すると、大歓声が起きた。甲本ヒロト、真島昌利、小林勝、桐田勝治という4人が並んでいること自体が最高の魔法みたいだ。背後に映し出されたアルバム・ジャケットが一瞬にして巨大化する手品を合図にライブが始まった。「嘆きのビンボー」の原題は「EL BIMBO」なので、“BIMBO”つながりでこの曲がオープニングSEに選ばれたのだろう。「嘆きのビンボー」と来たら、マジックのBGMを連想してしまう(有名なのはポール・モーリア「オリーブの首飾り」)。意味はないが、ダジャレが成立しているところがザ・クロマニヨンズらしい。つまり楽しければ、それでいいのだ。おもしろければ、なんだっていいのだ。
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
1曲目の「おれ今日バイク」が始まった瞬間に、ザ・クロマニヨンズの演奏に体ごと持っていかれた。ボーカルが胸の中に飛び込んでくる。ギターが脳天からつまさきまで体の中を縦断していく。ベースがボディブロウのようにみぞおちを直撃していく。ドラムが腰骨を揺らして、体全体をシェイクしていく。ヒロトがバイクにまたがり、ハンドルのグリップを握るポーズを取って歌っている。メンバーが代わる代わる「おれ今日バイク」と歌っている。会場内の全員が一体となって、ロックンロールという名前のバイクに乗って、とてつもなく気持ちのいい世界へと運ばれていく。このみずみずしい演奏はなんなんだろう。彼らはこの10年間に10枚のオリジナル・アルバムをリリースして、毎回、何十本もの本数のアルバム・ツアーを展開してきているのだが、まるで生まれて初めてステージに立ったかのようなフレッシュなドキドキ感が漂っている。彼らはステージに立つたびに生まれ変わって、生まれて初めて大好きなロックンロールを奏でているかのようだ。「光線銃」「マキシマム」「デトマソパンテーラを見た」と『BIMBOROLL』収録曲が続けて演奏されていく。どの曲もライブという場所でさらに本領を発揮している。「デトマソパンテーラを見た」の切れ味抜群の桐田のドラムと小林のベースが気持ちいい。会場内が熱狂し、興奮している。
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
「ありがとう、よく来てくれた。最後まで楽しんでいってくれよ。上から読んでも下から読んでも“かつしか”。かつしかな娘ですが、よろしくお願いします……。おもしろくなかったですか。MCは料金に入ってませんので、演奏をしっかり楽しんでいって下さい」とはヒロトのMCだ。まったくおもしろくないところが逆におもしろい。いろんな価値が逆転していく。そのヒロトのハープで始まったのはシングル「ペテン師ロック」のカップリング曲「ハードロック」。ゴリゴリッとしたハードでヘヴィなサウンドとソリッドなアンサンブルが気持ちいい。上から降りてきた電球が点滅して、シュールな光景が出現していく。さらに「もれている」「モーリー・モーリー」とたてつづけに演奏されていく。「モーリー・モーリー」では歌詞が一瞬飛んで、ヒロトが笑顔を見せていたのだが、それすらもがライブの味となっていく。最新アルバム以外の曲もどれも存在感がある。5thシングル曲「スピードとナイフ」はモータウンのリズムを基調としながらも、自在にテンポが変わっていく演奏と表情豊かなコーラスが見事だった。4thアルバム『MONDO ROCCIA』収録曲の「ムーンベイビー」ではコール&レスポンスも起こり、バンドの白熱した演奏がさらに加速していく。
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
「タコ社長! さくら! 博! 佐藤蛾次郎! 笠智衆! ここ葛飾なんで葛飾ネタ(『男はつらいよ』)でふざけてみました。今日はアルバムの曲、全部やります。でも全部やっても30分くらいなので、他のアルバムからもやります。何をやっても全部ロックンロールにしてしまうので、今日、最高の時間をそこで過ごして下さい」というMCに続いて、ここからはまた最新アルバムのナンバーが続く構成だ。白と青の光が輝く中での「ナイアガラ」に続いての「焼芋」は夕陽の光のようなオレンジの照明の中での演奏。照明などの演出はシンプルなのだが、それゆえに観る側の想像力を刺激していく。レゲエ・テイストの漂うこの曲ではダブ的なノリを生楽器のアンサンブルで作り出していく。叙情も哀愁もロックンロールに昇華していくような演奏だ。彼らの奏でるロックンロールはなんと豊かな音楽なのだろう。
2017年のパブロックと言いたくなったのは「誰がために」だ。ここまで強靱に鍛え抜かれたバンドサウンドはそうはない。だがマーシーのギターはエモーショナルでブルージーでドラマティック。「ピート」は10代のころに感じた感動や興奮が蘇ってきて、胸が張り裂けそうになった。ロックンロールというと、ハードなイメージがあるかもしれないが、実は甘酸っぱさをはらんでいたりする音楽でもあるのだ。ヒロトがピート・タウンゼントのウインドミル奏法みたいに腕をぐるぐる回している。かっこよさとせつなさが共存している歌と演奏が素晴らしい。
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
「ライブは楽しいなあ~。みんな、やりたいか? ザ・クロマニヨンズは今夜もやりたがっている。やりてえ~、やりてぇ~、やりてぇ~」というヒロトのシャウトに続いて、メンバー紹介があり、「カツジいけ~」という言葉を合図に「ペテン師ロック」が始まった。白熱の演奏と客席の熱狂とが混ざり合って、とてつもないエネルギーを生み出していく。さらにハンドクラップとともに「エルビス(仮)」「突撃ロック」。「エイトビート」ではマーシーがステップを踏みながらギターを弾いている。生きていることを全面的に肯定していくような温かなボーカル、ハープ、ギター、ベース、ドラムだ。さらに「雷雨決行」「ギリギリガガンガン」へ。「ギリギリガガンガン」の“今日は最高”というフレーズがこの瞬間のこの場所ともしっかりシンクロしていく。ヒロトが踊ったり、跳ねたり、寝そべったりしている。本編ラストはアルバム『BIMBOROLL』ラストに収録されている「大体そう」。バンドの生み出す強力なリズムが脈打つ心臓にエネルギーを送り込んでいくようだ。熱狂することと脱力することが混じり合っていくような不思議な余韻が残った。
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
アンコールでは「あとひと暴れ」というヒロトの言葉に続いて、まずシングル「ギリギリガガンガン」のカップリング曲「笹塚夜定食」が演奏された。パンクもオルタナティブもヘビーメタルも飲み込んだようなナンセンスなナンバーなのだが、葛飾が笹塚に染まっていくような圧倒的なパワーに会場内が熱狂していく。「タリホー」では会場内が飛び跳ねながら、シンガロングして、開放感と高揚感が充満していく。ヒロトがまたしても手を激しく回している。ラストは「ナンバーワン野郎!」。みんなが叫んでいる。コール&レスポンスではなくて、シャウト&レスポンスだ。「ありがとうたのしかった。またやりたい。またやらしてください。ロックンロール!」とヒロト。「またね~」とマーシー。最後は4人が腰に手を当ててポーズを取りながら挨拶すると、盛大な歓声と拍手が起こった。いいものを観たなあ、生きてて良かったなあというきわめてシンプルな感想を抱いたのは、おそらく筆者だけではないだろう。タネも仕掛けもないロックンロールというとてつもない音楽の魔法が出現した夜となった。
取材・文=長谷川誠 撮影=柴田恵理
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理