ミュージカル『パレード』稽古場レポート～演出家と俳優の緻密な対話が重ねられる白熱の稽古場

1998年ブロードウェイ初演でトニー賞最優秀作詞作曲賞、同最優秀脚本賞を受賞したブロードウェイ・ミュージカル『パレード』が、ついに日本初演を迎える。本作は20世紀初頭にアメリカ南部で起きた冤罪事件を題材とする社会派作品で、森新太郎が演出、劇団四季以来17年ぶりの舞台共演をする石丸幹二と堀内敬子をはじめ、ミュージカル界の実力派が出演する注目の舞台だ。稽古場の様子をお伝えする。

物語の舞台は、1913年アメリカ南部の中心、ジョージア州アトランタ。13歳の白人少女の強姦殺人事件で、容疑者として逮捕されたひとりはレオ・フランク(石丸幹二)。実直なユダヤ人で少女が働いていた鉛筆工場の工場長だった。事件の早期解決を図りたい州検事ヒュー・ドーシー(石川禅)は、レオを犯人へと仕立てあげていく。

この日、稽古場でまず行われたのは、レオ・フランク(石丸幹二)の裁判のシーン。約30分かけて通した。レオの同僚やフランク家に勤めるメイドらが、レオの見覚えのない証言を述べ、有罪の判決が下されるという物語の盛り上がるシーンだ。ユダヤ人を眼の敵にしている活動家・ワトソン(新納慎也)が中心となって歌う「Hummer of Justice」、偽の証言をする工場の清掃人ジム・コンリー(坂元健児)の「That's What He Said」など、リズムが良く耳に残る曲が多かった。

その後、通しの倍の時間をかけて、シーンを作り込んだ。森の演出は非常に細かく丁寧だった。

例えば、レオの「It's hard to speak my heart」。裁判の最終陳述で自身の無実を歌う印象的な曲を、森は自身で実演しながら、レオ役の石丸と対話を重ねる。目線、感情の起伏、手の動かし方など、あらゆる所まで計算し尽くして、レオの繊細な心模様を客にどう伝えるかを考え、引き出そうとしていた。石丸も流石の歌唱力と表現力で、森の要望に応えていた。

森は見逃しがちな部分にも気を配る。回転式の舞台のスピードに関して「スピード40%を42%に」、民衆役の俳優が座るタイミングを「あと0.5秒早く」といった具合に。森の粘り強い演出で、『パレード』がより観客の心に切り込む深い作品になっていく過程を目の当たりにした。

気鋭の森の演出のもと、ミュージカル界の実力派キャストが勢ぞろいする今回の舞台。開幕が待ちどおしい。

取材・文・撮影＝五月女菜穂