大衆演劇の入り口から[其之四]・後編 聞きたて!橘小竜丸座長&鈴丸座長ロングインタビュー!@立川けやき座
橘鈴丸座長(2015/9/5)筆者撮影
橘小竜丸太夫元座長(2015/9/5)筆者撮影
東京・立川けやき座。華やかな舞台が魅力の橘小竜丸劇団が9/29(火)まで公演中!
お忙しい中、橘小竜丸座長と鈴丸座長にインタビューを依頼すると、こころよく受けてくださった。9/5(土)16:00~16:30、立川けやき座客席にて取材。
小竜丸座長の母は女剣劇の座長だった
(昼の部の送り出しを終えた後、鈴丸座長はまだ支度中だったため、小竜丸座長が先に話を始めてくださった)
―今の橘小竜丸劇団を見ていると、女優さんがすごく活躍されていますよね。それで気になったのが、小竜丸座長のお母様が女剣劇の座長だったということです。以前インタビューで読んだのですが…。
小竜丸座長(以下、小) そうそう。尾上京奴って芸名でした。
―もしかしたら、小竜丸座長が子どもの頃、お母様が舞台で主役になるのを見ているのと、今の橘小竜丸劇団のスタイルには何か関係があるんじゃないかと…
小 うちのおふくろは、女剣劇では立ち役…男役がほとんどでした。女性が男役も女役もやるんです。それから、おふくろは大衆演劇をやめてからOSKに入ってました。そういうおふくろの影響がやっぱりあるのかなぁ。
※OSK…OSK日本歌劇団。1922年から現在まで続く女性だけのレビュー劇団。
―お母様は、小竜丸さんには決して大衆演劇をやってほしくないっておっしゃっていたそうですが。経済的に厳しい時代だったというのが理由なんでしょうか?
小 そうですね、大衆演劇はテレビが普及しない頃は良かった。でも昭和39年にオリンピックでワーッとテレビが普及し始めてからは、ホントに悲惨な状況になった。学校に行けばいじめの対象だったもの。白粉くさいとか、オカマとか。今みたいな、こんなきれいな劇場(けやき座を見回す)でもないし、寝るところもなくて舞台に布団引いて寝たり、雨漏りするような部屋だったり。今では考えられない。でも、貧乏な生活はけっこう楽しかったんですよね(笑)。雨漏りして床にバケツとか置くと、音するでしょう、ポッチャン、ポッチャンって。昔はトタンだったから、カーン、コーンて響いて。それが面白くて(笑)。
―小竜丸さんは俳優養成学校に通われたんですよね。その後オンワード樫山に入って西武百貨店に勤められた時代もあったとか…。
小 そう、色々やってるでしょ(笑)。小学校の頃からやっぱり芸事が好きで、でも大衆演劇がしたいわけじゃなかった。どっちかというと映像のほうに行きたくて、普通の舞台をやりたくて、東映の養成学校に入った。そこで新派のお芝居とか、色々勉強させてもらいました。でも、僕が29歳のときにおふくろが亡くなったんです。自分のおふくろがやってたものがどういうものかっていうのがすごく気になって、大衆演劇の世界をのぞき始めた頃に、南條隆さんと知り合った。宮崎に橘劇場っていう大きい劇場ができたとき、南條さんから「どうだ、一ヶ月、俺の友達の紀伊国屋章太郎の公演に出てみてくれないか」って。いいですよ~って気楽に言ったのが事の始まり。
―それが、この仕事続けようっていう風になったのは何がきっかけだったんですか?
小 紀伊国屋で一ヶ月やったときに、すごい!と思ったの。僕がやってたような舞台は一つの舞台をやるのに一ヶ月くらい稽古して、台本覚えて、仕上げて、舞台にかけてっていうやり方をするでしょ。それが大衆演劇だと、前の日に稽古して明日本番っていう世界。ええ、それでできるのか!っていう驚き。それとやっぱり紀伊国屋っていう人間に僕が魅力を感じた。うまい!と思ったの。背がスッとしててね、カッコいいのよ。自分の師匠を褒めるわけじゃないけど、股旅物でも立ち姿がすごくカッコ良くて。はー…っ(感嘆の表情)ていう。弟子にしてください!となった。
お客さんの“この芝居が好き”がありがたい
(ここで鈴丸座長が支度を終えて参加してくれた)
―2001年に今の橘小竜丸劇団を立ち上げられたんですよね。当初から女性座員さんが多かったんですか?
小 いや、そんなことないですよ。立ち上げた当時は男ばっかりです。鈴も舞台をやる気は全くゼロでした。
―最初の頃は鈴丸さんはあんまり出てらっしゃらなかったんですよね?
鈴丸座長(以下、鈴) 出てなかったですねー。
小 漫画家になりたかった子やけん。
鈴 舞台は、トップショーにちょこっと、ラストショーにちょこっとみたいな出方で。そこからお芝居で茶店の娘程度に出たりですかね。出たり出なかったりがずっと続いて、でも座員がどんどん減っていった時期から、バンバン出るようになりましたけど。
―舞台を楽しいって思ったきっかけはありますか?
鈴 自分の誕生日公演で初めてお芝居を作った時ですね。17歳か18歳だと思います。父が、もうポンと“やれ”って投げたんで(笑) “あ、はい”って感じで作って。喜んでくれた方もいますし、あそこはああしたほうがいいんじゃないってアドバイスくれた方もいらっしゃいますし。だから作って改めて、お芝居ってすごい深いなってことが感じ取れた瞬間でしたね。
―鈴丸さん自身が好きなお芝居は何ですか?
鈴 あんまないんですよ(笑)。大衆演劇では元々が歌舞伎のお芝居が多いじゃないですか。歌舞伎で観るとすごい良いな、素敵だなって思うんですけど、自分がやることによって、その良さが出てこない気もするし。お客さんがすごい良かったよって言ってくれても、自分の中では全然完成してないから、まだ探り探りやってる状態なので…。だから多分…一生好きになれるかどうかわからないですけど、でもなれるようにしたいですね、これから。
―今、橘小竜丸劇団の十八番の芝居は何ですか?
鈴 自分たちで偉そうにこれが十八番です!自信あります!って言える芝居はないかもしれません。ただ、お客さんがあの芝居好きだな、この芝居好きだなって言ってくれる芝居はあります。ありがたいですね。その芝居をまた観に来てくれたら、すごく嬉しいです。
芝居『上州土産百両首』の一場面。少し頭が弱いが心の優しい“牙次郎”役の鈴丸座長。(2015/9/5) 筆者撮影
“女優だから”できること
―鈴丸さんが色んなインタビューの中で“女の子でもやれるっていうことを見せていきたい”っておっしゃってるんですけど、具体的にどういうことですか?
鈴 男の人には出せない女の良さというか。男の人が女を作り上げるっていうのは素晴らしいことだと思うんですよ。やっぱり女らしく見えるし。でも女は女に見えて当たり前なんですよ。その女性の良さを活かしたショーをやりたいなと思って。たとえば男の人が網タイツ履いたら、気持ち悪いのは悪いじゃないですか(笑)。それが女の人はできる。首のラインがきれいに見える衣装とかを着て華やかに舞ったら、男の人にはできない芸風ができあがるわけじゃないですか。そういうところで、男の人にはできない、女の良さ、カッコ良さがあると思うんですよ。
―今、ドレスとかスーツとか、今すごくオリジナルのスタイルですけど、昔はそうでもなかったんですよね?
鈴 昔はけっこう和物が多かったんですけど、結局女の子が立ち役やっても所詮は女の子だからってなっちゃうし、女形やってもお客さんが食いつかないんです。それだったら男の役者さんの女形の方が、お客さんはきゅんきゅんするし喜ぶ。それが悔しくて。どうやったら目を向けてくれるだろうって、化粧前で音楽聴きながらずっと考えてました。自分は音楽でも、パンク・メタル・ロック・ビジュアル系…そういうのがすごい好きなんです。だからこういうビジュアル系の音楽使って、奇抜な格好をして出てみたらどうかなって。それで受けなかったら受けなかったで、自分はこの世界に向いてないんだ、もういいや!ってやけくそになって。ブルーのロングドレスに、髪の毛を編みこんで、スプレーで立てて爆発した髪にして、舞台に出たんですよ。そしたらお客さんが、キャーとか、うわーじゃなくて、“なんだこいつは!”っていうような反応だったんです。だからこれはダメだったなーって思ってたら、送り出しで“今日のあのドレスすごい良かった、素敵だった”ってすっごい褒められて。これだ!って思ったんですよ。それがきっかけで、自分の趣味を舞台に取り入れ始めて、今のカラーが出来上がりました。
―鈴丸さんが5月に座長襲名公演をされたとき、Twitterで話題になった画像があったんです。(写真を見せる)
鈴丸座長の座長襲名公演。妖美で官能的な空気が漂う。撮影した方は“体に衝撃が走ったような気分”と語る。(2015/5/16) はなさん撮影
鈴 あー、『愛と欲望の日々』!
小 はは(笑)
―この写真がタイムラインに流れてきたとき、ビックリしました。今まで観てきた大衆演劇と全然違う!って。大げさかもしれないんですけど、何か新しい時代が始まったんじゃないかって。
鈴 ありがとうございます!すっごい嬉しい…そんな風に言ってもらえると。ハーレムですもんね、それ(笑) やっぱり、男と女で絡むといやらしい部分て出てくるんですよ。お客さんもちょっとリアルに受け取っちゃう。女同士だから許せるっていう部分があると思うんで、やりたい放題やってます(笑)
―他の女優さんは、皆さん自分で志願して入って来たんですよね?
小 そうですよ。
―そこからみんな、稽古して役者になるんですよね。舞台に立った経験自体ないところから。
鈴 自分も最初この世界に入った時、全く分からない状態でした。踊りにしたってお芝居にしたって。だから、みんながわかんない、うわぁどうしよう!って思う気持ちもわかります。気持ちを理解してあげながら、わかりやすく教えられるところは教えていきたいですね。
左・橘鈴丸座長 右・たちばな千夏さん 女性同士の相舞踊が美しい (2015/9/5)筆者撮影
立川けやき座はこれから1年が勝負
―立川けやき座公演は始まって5日ですけど、どうですか、印象は。
小 いやー、厳しいですよ。できたばっかりの劇場なので、それは仕方ない。新しい劇場は浸透するのに1、2年はかかるでしょうね。外でけやき座どこ?って言われて、ああ、あそこって言われるようになるのに、最低でも1年。まだまだ日にちも、努力も、けっこうかかります。劇場さんのほうが、これを辛抱できるかどうかです。
―そういえば、今日の昼の部には、おそらく初めて大衆演劇を観る地元のお客さんがいました。芝居『上州土産百両首』を観ながらあらすじを予想して、“この後きっとこうなるのよ”“ああ、やっぱり”って、すごく楽しんでらっしゃいました。
小 (笑いながら)そう、そうなのよ、何が大切かって言ったら、地元の、この立川のお客さんがいかに増えるか。劇団のお客さんていうのは、追っかけで来れるのは週に1回とか2回。平日でも来ていただける地元のお客さんに、いかに宣伝するか。
―立川のお客さんの観方はどうですか?
鈴 舞台をじーっと真剣に観られる方がすごく多いですね。楽しんでるのかな?どうなのかな?つまんないかな?って思ってたんですよ。自分のカラーって好き嫌いがあると思うので、舞台に立ってていつも不安です(笑)。けど、送り出しで“良かった!”とか“感動した”とか“また来る”とか“買ったから”とか、みなさんお声かけしてくださる。そうやって声をかけてくれる方が多くなってきたので、すごく嬉しいですね。本当にありがたいです。
全国レベルで名前を!男座長に負けない座長に!
―座長になられてから、座長らしくしなきゃっていうのはありますか?
鈴 すごいありますね。座長だから全部これをしなきゃいけない、あれをしなきゃいけない…恥かいちゃいけない、お客様に粗相があっちゃいけない。劇団の看板になった以上はお客様に気分の悪い思いをさせたくないので、そういった色んな気遣いをしなきゃいけない。怖いです。毎回、幕開けるのも。自分が看板で観に来るお客さんじゃないですか。その1回こっきりかもしれないし、また来てくれるかもしれないし、それがわかんないから毎日が戦いですよね。
―小竜丸さんから鈴丸さんにアドバイスはされるんですか?
小 何かあればですね。でもそんなしょっちゅうは言わないですよ。自分の好きなように、自分のやりたいようにやるのが一番なんで。ちょっと違ったなって思えばそれはちょっと違うんじゃねえか?って言うくらい。他はもう、好きーに(笑)。何でもやんなさいって。そうじゃなかったら伸びないですもんね。個性がなくなっちゃう。
―最後に今後の目標をそれぞれ教えていただけますでしょうか。
小 目標は、やっぱり1番になることでしょう。1番っていうのはおこがましいかもしれないけど、女座長で成功した大衆演劇の座長さんって本当にいないんです。それをぶち破ってもらいたい。僕はもう後押ししかないんで。男座長に負けない座長になってくれって。
鈴 楽さしてくれって(笑)
小 名前を全国レベルで売ってほしい。全国の大衆演劇の中でも、関西の劇団なんかは関東まで名前が売れてるわけだから。逆に関東から西に名前が売れてるっていうのはないから。少しずつでも名前が響いてくれりゃあ良いなぁ。
―鈴丸さんの目標は。
鈴 ともかく今は、他の男座長さん・女座長さんに追いつけるように頑張りたいです。まずはその目標です。皆さん長いスパンで大衆演劇にいて、座長さんをやっているわけじゃないですか。見てて、座長っていう貫禄がすごくあるんですよね、自分に足りないものってそれだと思うので…この人たちに追いつけるように頑張っていきたい。男の人にも、他の女の座長さんにも、負けないくらいの立派な座長になれるように頑張ります!
インタビュー後の夜の部の公演。鈴丸座長の口上挨拶に、大拍手が起こった。
「大衆演劇は男の世界と言われるけど、私はそんなもんぶっ飛ばしてね、女でもやれるところまでやってやろうというつもりでおります!」
橘鈴丸座長 (2015/9/5)筆者撮影
女だからできること。彼女だから変えてゆけること。
大衆演劇の新風が、今、立川に吹いています!
会場:立川けやき座 http://t-keyakiza.com/
期間:9/1(火)~9/29(火)昼の部
公演時間:
昼の部12:30~15:30
夜の部17:30~20:30
※9/17(木)は休演日
座席を予約する場合の予約料:桟敷席400円 椅子席・たまり席300円
問い合わせ先:042-512-5057
JR立川駅北口より徒歩約8分・モノレール立川北駅より徒歩約5分
地図はこちら(googleマップ)