舘野泉「80歳バースデーコンサートへの道」公開

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クラシック
2015.9.10

「80歳への挑戦」への支援を

長年フィンランドを拠点に演奏活動を続けているピアニスト舘野泉は、来年80歳になる。先日誕生日を迎えた小澤征爾とは一年違いと、まさに同世代の名演奏家だ。NHK大河ドラマ「平清盛」(2012)でその演奏が使われたことでも広く知られる舘野は、2002年のリサイタル終演後に脳出血で倒れ、命はとりとめたものの右手に麻痺が残ってしまう。この報に少なからぬファンがキャリアの終わりを心配したものだったが、しかし翌々年の2004年には舘野は「左手のピアニスト」として活動を再開し、現在に至っている。そう、あのドラマで何度となく印象的に響いた「遊びをせんとや」のピアノもまた、左手だけで演奏されたものだったのだ。

世界大戦の影響と舘野とはその理由は異なるけれど、あの哲学者の兄パウル・ヴィトゲンシュタイン(1887-1961)は「左手のピアニスト」として活動を余儀なくされた。彼は同時代の作曲家たち、ブリテンやブリッジ、R.シュトラウス、プロコフィエフらに左手だけで演奏するピアノ作品を委嘱することで新たな音楽の可能性を開拓し、生涯演奏活動を続けた。そのヴィトゲンシュタインの委嘱から生まれたフランク・ブリッジの「三つのインプロヴィゼーション」との出会いがあったからピアノ演奏に復帰できた、と舘野は後に語っている。そんな経験故か、舘野泉もまた左手のピアニストだからできる音楽を現代の作曲家たちに委嘱し、独奏、室内楽や協奏曲など多様な作品群が彼を起点に創りだされ、繰り返し演奏されてきた。その作品群は彼の公式サイトでリスト化、公開されている。

左手だけでピアノを演奏する困難は如何ばかりか、といち音楽ファンとしてはつい考えてしまうところだが、本人は「音楽をするのに両手であろうと片手であろうと関係ない。左手だけで充分な表現が出来る。なにひとつ不足はない」「私には左手だけで弾いているという認識は最初からありませんでした。皆さんに聴いていただいているのは、音楽そのものなのです。左手というのは、飽くまでも手段、方法にすぎません」という(舘野泉 公式サイトより)。その謙虚にして真摯な姿勢に、頭の下がる思いである。

そんな彼は前述のとおり来年80歳になる。その記念年を彼自身の演奏会のシリーズで祝うのが「舘野 泉 80歳へのプロジェクト」だ。このプロジェクトは、今年の誕生日である11月10日に開催する<第1楽章>バースデー・コンサート「音楽と物語の世界」から、80歳の誕生日を祝う<第3楽章>80歳バースデー・コンサート「4つのピアノ協奏曲に挑む」までの三つの公演で構成される、「ピアニスト舘野泉の集大成」だ。朗読とのコラボレーションや新作初演など、若い演奏家にとってさえも挑戦的と言える内容のシリーズに、自然体で臨む80歳になろうというピアニストの姿に、ますますもって頭の下がる思いである。

9月8日に、プロジェクトの実行委員会は「一人でも多くの方と喜びを分かち合いながら」(プロジェクト受付ページより)長く続いていくプロジェクトを成功に導くため、クラウドファンディングプロジェクトを公開した。支援の対象は舘野泉の今年の誕生日に銀座・ヤマハホールにて開催される<第1楽章>、ゲストに女優の草笛光子を迎えて二作を初演するコンサートだ。最小で3,000円の小口から参加できるファンディングで、彼の「左手」が生み出す新しい響きを生み出すことに参加することができる。
舘野泉のこれまでの音楽を愛する、そしてこれから彼が生み出す音楽を楽しみにしている皆さまのご助力を、及ばずながら私からもお願いさせていただきたいと思う次第だ。

イベント情報
舘野泉 バースデー・コンサート 2015 ~ 音楽と物語の世界

日時:2015年11月10日(火) 19:00開演
会場:ヤマハホール
出演:舘野泉(ピアノ) 草笛光子(語り)
曲目:
末吉保雄:土の歌・風の声(舘野泉に捧げる) 
吉松隆:KENJI…宮澤賢治によせる「舘野泉左手の文庫」助成作品
公式サイト:http://www.izumi-tateno.com/


 
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