東京バレエ団 シュツットガルトで絶賛の『ラ・バヤデール』、東京でいよいよ凱旋公演
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(左から)川島麻美子、上野水香、ダニエル・カマルゴ、斎藤友佳理芸術監督 (撮影=西原朋未)
6月30日から東京バレエ団でナタリア・マカロワ演出・振付『ラ・バヤデール』公演が行われる。この演目は2009年の初演後、2011年、2012年、2015年にも上演。さらに今年4月7~9日の東京バレエ団シュツットガルト公演の演目ともなり、現地で絶賛を浴びた。この6月の公演は、いわば凱旋公演ともいえよう。
『ラ・バヤデール』は1877年、マリウス・プティパ振付によりサンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場で初演された作品だ。東京バレエ団がレパートリーとするマカロワ版はプティパの原振り付けを残しつつ、長い上演の歴史の間に割愛されたソロルとガムザッディの結婚式や寺院の崩壊を、新たに振り付け蘇らせている。これにより物語が一層明確になり、登場人物たちの心理描写がより深く表現されるドラマティックなプロダクションとなっている。
また本公演では、ソロル役にオランダ国立バレエ団のダニエル・カマルゴがゲストとして出演する。カマルゴはジョン・クランコバレエ学校で学び2009年にシュツットガルト・バレエ団に入団、2016年に現カンパニーに移籍した。2015年11月のシュツットガルト・バレエ団来日公演では『ロミオとジュリエット』のロミオ、『オネーギン』のレンスキーなどを踊り、若さあふれた踊りと端正な容姿で日本のファンにその存在を強く印象付けた。オランダ国立バレエ団でもマカロワ版の『ラ・バヤデール』でソロル役を踊り、振り付けは万全。パートナーとなる上野水香は東京バレエ団初演から連続してニキヤ役で出演しており、この2人のパートナーシップも公演の見どころの一つとなるだろう。
今回は去る4月に来日したカマルゴを交えてのリハーサルと、記者会見の様子をお届けしよう。
リハーサルから垣間見える人間ドラマ
まず行われたのは、1幕ソロル役のダニエル・カマルゴとニキヤ役の上野水香のパ・ド・ドゥ。寺院の前でソロルとニキヤが愛を語るシーンだ。ピアノに合わせ通しで踊った後、細かい動きの確認に入る。互いに長身でスラリとした2人のパ・ド・ドゥは無駄をそぎ落とした、すっきりとした味わいがある。カマルゴと斎藤友佳理監督はロシア語で会話。筆者はロシア語はわからないが、斎藤監督と上野との「なぜそう動いたのか」「なぜそうしたのか」という会話から、動きや表情の一つひとつに対し、お互いに納得したうえで次に進もうという丁寧な作業が見て取れる。
ダニエル・カマルゴ、上野水香 (C)Maiko Miyagawa
次いでガムザッディ役の川島麻実子とカマルゴのパ・ド・ドゥ。2幕の婚約式の場で、次第にニキヤと自身の心を思ってだろうか、表情を変えるカマルゴと、それを見つめるガムザッディ・川島の表情にハッとする。本番で通して見たらどのようなドラマが見えるのだろう。なお、カマルゴは差し出した手の形、腕の角度など細かい部分を斎藤監督と熱心に語り合っていた。
ダニエル・カマルゴ、斎藤芸術監督 (C)Maiko Miyagawa
最後はプリンシパル兼バレエ・スタッフの木村和夫も加わっての3幕のパ・ド・カトル。このマカロワ版の見せ場の一つで、ドラマのクライマックスともいえる場面だ。ソロルがリフトしたガムザッディをラジャに渡す動きやタイミングを何度も繰り返し確認する。カマルゴを交えてのリハーサルは1週間だけで、次に合わせられるのは本番直前だろうという話だが、期待できる舞台になりそうだと思わせられるリハーサルであった。
シュツットガルトで絶賛された作品を東京で
リハーサル後に行われた記者会見には斎藤監督、上野水香、ダニエル・カマルゴ、川島麻実子が参加し、作品への思いを語った。
――マカロワ版『ラ・バヤデール』についてお話をお聞かせください。
斎藤:2009年に初演したときは上野と私、そして(2016年3月末に退団した)吉岡美佳が主演しました。上野と、今回がニキヤ役デビューとなった川島は、今年シュツットガルトの舞台でもこの演目を踊りましたが、怪我で踊れなかった奈良以外、今回主演するメンバーは、ほとんど皆シュツットガルトの舞台を経験しています。
2009年の初演時はマカロワさんとオルガ・エヴレイノフ先生が指導し、その後はオルガ先生が公演のたびに来てくれています。非常に厳しい目で見てくれるので、バレエ団としてもいい状況が保てています。
斎藤友佳理芸術監督 (撮影=西原朋未)
――東京公演のキャストについてお話いただけますか。
斎藤:このマカロワ版の『ラ・バヤデール』を踊る際、ゲストの選出にはマカロワ、オルガ両氏の許可が必要です。今回のゲストであるカマルゴは彼女等から推薦を受けました。また、川島が2日目にニキヤとして柄本弾と踊り、3日目は上野とカマルゴのペアにガムザッディ役で出演します。川島はここ数年『くるみ割り人形』『白鳥の湖』などに出演し著しく成長している。彼女ならニキヤができるのではとオルガ先生に聞いたところ、許可をいただきました。
――カマルゴさんの『ラ・バヤデール』という作品との関りなどについてお話いただけますか。
カマルゴ:バヤデールは2012年オーストラリアで踊り、2016年秋にオランダ国立バレエ団の初演となるマカロワ版を踊りました。マカロワ先生との練習はとても具体的で、貴重な時間でした。登場人物の関係を明確に教えてくれるし、作品も始めから終わりまで筋が通っていて、登場人物のそれぞれの個性が強く踊りとしても美しい。正しく踊れるようにリハーサルを重ねていきたいと思っています。
ダニエル・カマルゴ (C)Maiko Miyagawa
――上野さんは初演からニキヤを踊っていますね。
上野:はい。でも相手役は高岸直樹さん、マシュー・ゴールディングさん、柄本弾、そして今回はカマルゴと踊る度に違います。同じ役、同じ踊りですが、パートナーが変わると視線の合わせ方やパ・ド・ドゥのニュアンス、タイミングなど全てが変わり、またその時の自分の想いが反映されます。パートナーから学び取りながら、それを自分の成長に繋げていきたいと思います。
初演はマカロワ先生からの直接指導でした。先生は非常に細かく、最初の出の一歩から何度もやり直すなど厳しかったのですが、その経験は自分の宝物です。この作品は大好きなので、カマルゴと共に今までとは違った自分、違ったニキヤを演じられるのでは。今の自分にできることを発展させていきたいと思います。
上野水香 (C)Maiko Miyagawa
――川島さんは前回公演でガムザッディ、シュツットガルトではニキヤで、東京公演では両方を踊りますね。
川島:私も初演から関わっていますが、その時はコール・ド・バレエでした。そのほかジャンベのソリスト、ガムザッディ、さらに今年のシュツットガルトでのニキヤで、この作品で女性が踊るほぼ全ての役を踊ったことになります。これは私にとって財産です。この作品はいろいろな場面に登場人物の様々な感情が生まれているので、これまでやってきたことを糧に理解を深め、ガムザッディとニキヤに挑戦し、生かしていきたいと思います。
川島麻美子 (C)Maiko Miyagawa
――上野さんとカマルゴさんのお互いの印象を聞かせてください。
上野:踊りに対してまっすぐで若いパワーがある、とても才能あふれるダンサーです。リハーサルは互いにこの作品を踊ったことがあるので、バランス、リフト、手を持つ位置の違いなどの微調整から始めました。お互いにこれまでやってきたことを聞き、それを取り入れるなどディスカッションもしています。彼の若さやパワー、才能をのびのび表現してもらうことで、2人で前向きなパワフルな世界が表現できるのでは。力の中にドラマや繊細な表現を感じてもらえる舞台にしたいです。
カマルゴ:細かな動き、役柄の解釈など細部を話し合うことから始め、互いに心地よい方向で踊れるように心がけてきました。はじめからとても良いプロセスで、互いにオープンにして、探りながら解決してきました。それが結果としてうまくお客様に伝わればいいと思います。
4月に行われた東京バレエ団のシュツットガルトでの公演は計3回、シュツットガルト州立劇場で行われた。
インタビュー・文=西原朋未