東京アンティーク散歩vol.7 新宿にある"眺めのいい部屋" アンティークショップ『boil』

レポート
アート
2017.6.5

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東京近郊にある、上質なアンティークショップを巡っていく連載『東京アンティーク散歩』。今回は、新宿にあるアンティークショップ『boil』をご紹介する。


 

喧騒と静けさの境界

東京の魅力のひとつは公園である。ビジネス街や商店とともに緑豊かな場所が共存している。田舎育ちの筆者にとって、初めて新宿御苑を訪れたときの驚きは忘れられない。

芝生の向こうに見えるビル群、公園で遊ぶ人々のあっさりとした様子ーー。田舎の野放図な自然とは一線を画す余裕を感じた。そして新宿の人間臭さとともに泰然と存在している御苑ミスマッチがなんといっても魅力だった。

そんな新宿御苑のすぐ近く、レトロな雑居ビルに新宿の喧騒と御苑との境界を象徴する店がある。訪れた人は「まさかこんなところにこんな店が……」と驚くだろう。

ビルの古い階段を6階までゆっくり上ると時代も空間も超えていくような不思議な感覚になってくる。珍しいつくりの階段で映画の舞台になりそうな空間だ。

6階まで階段を上るという行為は今は珍しい。が、古い建物やアンティーク好きな人にとっては大いに価値のある建築構造だろう。店の扉を開けると窓辺にはフランスのアンティークガラスがいくつも並び、新宿御苑の並木がゆらぐように映っている。眺めのよさとは室内と風景とがマッチしてこそだとつくづく感じる。そして心地良い音楽。つつましく置かれた飾り気のないアンティークの品々。

ここは新宿の眺めのいい部屋。アンティークショップ『boil』である。

 

新品とアンティーク品が並列に感じられるショップ

店主の岩本氏はこざっぱりとした感じのよい男性で、大手雑貨メーカーに長く勤務したのちアンティークショップboilを2006年に開業した。メーカーで磨いた商品配置のセンスは抜群で、ものの魅力が映える場所に的確に配置されている。

タバコ屋の紙袋。アンティークの紙ものも多く扱う。

タバコ屋の紙袋。アンティークの紙ものも多く扱う。

岩本氏はオーストラリアの蚤の市がきっかけで、アンティークを扱いはじめたという。

「オーストラリアの友人のところに遊びに行った際に、蚤の市でアンティークというより日用品のジャンクに近いものが手ごろな価格で売られていたんです。いくつか買って帰ったら友人達が欲しいと言ってくれました。それで古いものを新しい雑貨と同じような感覚で買える、日用雑貨としてのアンティークを扱う店としてboilを開業しました」と岩本氏は語る。

しゃれたテイストの薬の空き箱

しゃれたテイストの薬の空き箱

「アンティークというと特別なものと思われがちですが、ふだん使いの雑貨としてとらえて欲しいと思っています。日常で使えるリアリティーのある形やニュアンスを大事にしています。デザインが利いていて、コテコテのものは入れないんです。自分自身が欲しくて使える、という感覚で選んでいます」

その言葉通りさりげないセンスの光る商品が多く、料理家やスタイリストなどboilの品揃えと感性の合うお客様が通ってくれるという。

 

古いワイングラスに映える窓辺の光

店内でまず目を引くのは窓辺に配置されたアンティークのグラス類である。ひとつひとつに個性が感じられ、ぽってりとゆがんだ古いガラスが窓辺の光を魅力的に演出している。

岩本氏は「フランスの古いガラス製品の質感や色、ニュアンスが好きなんです。高級品ではなくて日用品としてのフランスのガラスですね。古いワイングラスは同じように見えて作った職人さんの気質があらわれる。ゆがみや厚みに個性が出るんです。その違いが面白い。お客様も同じような見方をする方が多いです」と説明してくれた。

取材時にはアンティークガラスの棚の横に現代のガラス製品も並べられていた。

新しいものとアンティークが良い感じになじみ、グラス類に反射する光が時間とともに美しく変化してゆく。ガラスが光の温かみを繊細に放っていた。いつまでも眺めていたい窓辺だった。

現代ものだがアンティーク的な味わいのあるグラス

現代ものだがアンティーク的な味わいのあるグラス

 

アンティークコーヒーミルが引き出す心の余裕

グラス類と反対側の壁には50年代から60年代の古いコーヒーミルが整然と並べられていた。壁掛けの珍しいものもある。こうした古いコーヒーミルを探している愛好家は多く、boilの売れ筋のひとつだという。

岩本氏がベルリンで見つけて初めて使ったアンティークのミル

岩本氏がベルリンで見つけて初めて使ったアンティークのミル

岩本氏自身もコーヒー好きでベルリンの蚤の市で古いラインブロックのコーヒーミルに一目惚れし、購入した。とても使い辛いかったが、大切に使ううちに愛着が湧いたという。

その後フランスの自動車メーカー『Peugeot(プジョー)』のコーヒーミルと出会い、商品として扱うようになる。プジョーはもともと歯車の会社であり、古いコーヒーミルには鋼の歯車が使用されているため丈夫なのだという。

アンティークミルを使うのはそれなりにひと手間かかるものだが、岩本氏は心の余裕を保つ道具として使っている。

「アンティークのコーヒーミルは回すというところから時間が始まるんです。茶道のような感覚です。忙しい時こそあえてアンティークのコーヒーミルで挽きます。心の余裕を保つためでもあるんですよ。アンティークと親しむのは、日常のあそびと余裕の感覚だと思っています」

壁面に並ぶアンティークのコーヒーミル。左手前は壁掛けのミル。

壁面に並ぶアンティークのコーヒーミル。左手前は壁掛けのミル。

私たちは日ごろの雑事に追われ無意識に心がざわめいていることが多い。そして誰もが情報の詰まった生活の中で「あそび」を探し求めている。

だが、そんな「あそび」を生みだすのは自分自身の感性である。喧騒の新宿を抜け古い階段を静かな気持ちで登れば、それも「余裕の時間」。

そして眺めのいい部屋boilの扉を開き、自分ならではの「あそび」を生みだすものと出会ってほしい。

商品の魅力を引き出し工夫されたディスプレイ

商品の魅力を引き出し工夫されたディスプレイ

イベント情報
boil

住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目1-32新宿ビル3号館6階
TEL:03-6457-4969
OPEN・CLOSE:ウェブサイトにて確認
MAIL:boil@y8.dion.ne.jp
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