新作『嘘と煩悩』を軸に全方位からKREVAを体現したツアーファイナル

レポート
音楽
2017.6.20
KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

画像を全て表示(14件)

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』
2017.6.18 TOKYO DOME CITY HALL

KREVAというアーティストがつくづく日本で最もメジャーなラップミュージシャンであるという事実を持って、ポップミュージックとしてのラップをどう拡張していくのか? に心とスキルを砕く様を見せつけられたツアーファイナルだった。バンドブームをしのぐ勢いの“フリースタイルバトル”に代表されるラップの一般化や、アメリカのラッパーたちがレゲエビートやゴスペルに接近している昨今の楽曲傾向、そしてバンド形態で表現する肉体的なグルーヴと、彼の脳ミソからダイレクトに繋がる、ある種メカニカルなフロウの融合。自分の内側とか外側とか、影響源の新しい・古いも混在しながら、”今”をブッ立てる。日本のポップミュージックはガラパゴスだなんて、彼に関しては全く当てはまらない。いや、それも理解した上で世界と共振する必要のある要素のみを抽出していたのだ。いや、喰らった。完膚なきまでに。

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

オリジナルアルバムとしては4年ぶりとなった『嘘と煩悩』を軸としながら、ツアータイトルの『TOTAL 908』を表現していく周到な方法論。まずはニューアルバムの中でも改めて“なぜ俺は音楽をやってるのか?”というボースティングでありつつ、決して一方的ではない「ってかもう」を1曲目に配置。続く「神の領域」では、分厚いファンクネスを生み出すバンドの迫力と、前向きに自身を追い込むリリックーー例えば”技 姿 言葉 オーラ 様々な条件を網羅”も相まり、ただもう意志的な音像が鳴っていた。彼のメンタリティとしてはあくまでヒップホップなんだろうが、先鋭のロック×エレクトロ・アクトにも通じる強度だ。

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

新曲2曲を演奏し、「嘘と煩悩」の演奏が始まるかと思いきや、嘘八百+煩悩百八=九百八、つまり908、KREVAであるという説明。そしてこの曲で乗るには「お母さんに怒られた時、“うんうんうんうん”ってやり過ごす感じで首を振ると、間違いなくみんなトランス状態になれます」というサジェスチョンもウィットに富んだもの。でもこれ、実はそのあとに効いてくる。で! そこまで説明しておきながら、「嘘と煩悩」にたどり着く、つまり現在の音楽的なモードやスキルに至るプロセス、つまり『TOTAL 908』を感じてもらうために過去曲のメドレーを披露したのだ。その内容は1stアルバム『新人クレバ』の1曲目「Dr.K」から6thアルバム『SPACE』の実質的な1曲目「SPACE」までを大胆にリアレンジしたもの。バンドのためのリアレンジでもあるが、もちろんそれだけじゃない。本人も話していたが、「よりラップや歌が聴こえる」ようになった今のスキルと歌唱力をしっかり伝えるためのリアレンジでもあったのだ。
 

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

中でもツアー初披露の「Dr.K」はノワールなムード漂うジャズフュージョン・タッチ、「基準」のレゲエを究極まで洗練させ強靭ささえ感じるグルーヴ、時に人力ドラムンベーズに聴こえなくもないハードコアなプレイは、あらゆるジャンルに対応する手練れのバンドメンバー ーー柿崎洋一郎(Key)、岡雄三(Ba)、近田潔人(Gt)、白根佳尚(Dr)、熊井吾郎(DJ+MPC)とKREVAの意思疎通の賜物だ。個人的にはフジロックの(どんなジャンルとは言い難いものの)ヘッドライナー級のカタルシスを感じてしまった。
 

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

音楽的変遷という縦軸を披露した上で、ようやく新作『嘘と煩悩』のタイトルチューンを投下、確かに彼が何を積み上げ取捨選択してきたのかがよくわかる。そして嘘や煩悩を肯定するわけでも否定するわけでもなく、よき生き方をしようと努力してもなお人間にあるものとして、リズムに乗りながら新作のテーマを体感するという構造になっていたのだ。なんて誠実な仕掛けなのだろう。演奏だけでなく、TEDのスーパープレゼンテーション真っ青のMCも含めて、KREVAはできるだけ誰も置いてきぼりにしたくないのだ。

KREVA&AKLO『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA&AKLO『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

過去のレパートリーを再構築した上で“その向こうを見せたいの!”と、「想い出の向こう側 feat.AKLO」をAKLOを呼び込んで共演する流れも見事。さらにライブでのリアレンジが正直読めなかった、音源では薄めの音像を持った「FRESH MODE」が、オルガンのイノセントな音色に乗り滑り出し、タフなドラムがルーツレゲエを思わせるビートを想起させると同時に、パッド使いでダブステップやエレクトロミュージックへと表現を拡張していく、まさに”新鮮なモード”。続く「あえてそこ(攻め込む)」もリリックが非常にクリアに聴こえ、苦手なことや敢えて知らないことに挑むメンタルがダイレクトに体に入ってきた。KREVAとバンドが繰り出す音像の新提案に自由にリアクションするフロア、特に1Fのスタンディングは次第にいいカオス状態に突入。
 

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

「疲れた人もいるだろうから、一旦座れる人は座るなり」と、カームダウンを促した後のエレクトリックシタールの音色が印象的だった「アグレッシ部」の本質的な優しさ。アグレッシヴであるためにはフラットでいなければ手も足も出ない、そんな思いがフレキシブルにステージをムーヴするKREVAとシンクロした。彼自身のボーカル表現が格段にアップしたことに加えて、MCでも音楽とは何か? そして今の自分の表現は何か? を気の利いた比喩で伝えていく。例えば、ファイナルの東京公演に足を運んでくれたここにいるファンへ「東京だからチャリで来れる人もいれば、山を越え海を越え、高い代買う金払って、アイスコーヒー買う金払って、雨が降りゃ傘を買い。これ、みんな共通に持ってるものじゃないですか?」と、感謝を織り交ぜながら、「最初は熊(井)が出すトラック、そこにギター、キーボード、ベース、ドラムを足していくとグルーヴが大きくなると体が勉強できるんだよね」と、エンタテイメントの中にワークショップを導入するように、会場全員でその効果を体感していくのだ。そのグルーヴの重さを楽しみながらの「タビカサナル」の音が重なることの実感たるや。KREVAの求心力とはこういうところに秘密があるんじゃないだろうか。

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

新作からのレパートリーを軸にライブ定番のナンバーも織り交ぜて進んできた終盤に「『嘘と煩悩』はオリジナルアルバムでは4年ぶりで。やっぱり自分のオリジナルアルバム出すのっていいな。以前の曲も元気もらったような気がして」というMCに万雷の拍手が起こる。続けて「“あいつ焦ったんじゃね?”って言われるぐらい、次も早く出したいと思います。心配なく、私KREVA、ダサいものを作るのは苦手なんで」と笑わせながらもシャープに決めてくれた。そして、この日は彼の41回目の誕生日。自ら発言し、「ここが居場所」と、スケールの大きなバンドアレンジになった「居場所」、そしてさらにそこから跳躍する意志を込めるように「スタート」が、フィジカルなパワーを得たレアグルーヴィな演奏でフロアを躍動させた。そのニュアンスを残したまま、本編ラストにはメジャー1stシングルである「音色」をセット。『TOTAL 908』を締めくくるという意味でも、歌メロを取り入れたチャレンジが年々進化してきたこと、バンドとともに作るアップデートされたアレンジも、何もかもが”今の音色”。言葉も尽くすが、結局、音楽そのもので戦うし、音楽そのものでしか愛しあえないという改めてのオピニオンでもあったのだ。

KREVA&増田有華『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA&増田有華『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVAの態度に感動している中、フロアからはハッピーバースデイがシンガロングされてはまた起こるというウォームなムードの中、メンバーが再登場して、トロピカル・ハウス・テイストの「NaNaNa」を披露。アウトロはロックバンド的でもあり、引き出しの多さで楽しませる。新作でフィーチャリングした増田有華を迎えての「Sanzan feat.増田有華」でポップスの最新型を聴かせた後は、KREVAがブログでネタバレにならないようにと”アディショナル・タイム”と記していたリクエストコーナーがスタート。バンド演奏可能な5曲をリクエストするファンが4人目でようやく登場、「トランキライザー」のバンドバージョンというレアさに、アンコールとは思えない盛り上がりを見せたかと思うと、サプライズで三浦大知が誕生日祝いに花束を持って登場。大きな歓声が上がり、来たる『908フェス』に向けての期待値も上昇した。そしてこの日のラストは『嘘と煩悩』の素直な発端になった心情を綴った「もう逢いたくて」で、大団円。いやもう、実はもう次の「もう逢いたくて」なんじゃないのか? とステージ上もフロアも思ったことだろう。オーディエンスを導きながら、同じ目線で今をもっと面白くしていこうじゃないかーーこんなに人間であることと音楽が一致してるアーティストって他にいる? 熱いものがこみ上げつつ背筋が伸びる3時間だった。

KREVA&三浦大知『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA&三浦大知『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

そう、さらにファンへのサプライズとなったKICK THE CAN CREWの本格的なシーンへの復活の発表。それも含め、2017年後半は面白いことになりそうだ。

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

KREVA『CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」』撮影=半田安政

 
セットリスト
KREVA「CONCERT TOUR 2017『TOTAL 908』」
2017.6.18 TOKYO DOME CITY HALL

01. ってかもう
02. 神の領域
03. Dr.K
04. H.A.P.P.Y
05. ストロングスタイル
06. K.I.S.S.
07. 基準
08. SPACE
09. 嘘と煩悩
10. 想い出の向こう側 feat.AKLO
11. FRESH MODE
12. あえてそこ(攻め込む)
13. 成功
14. KILA KILA
15. アグレッシ部
16. タビカサナル
17. イッサイガッサイ
18. Have a nice day!
19. 居場所
20. スタート
21. 音色
<ENCORE>
22. NaNaNa
23. Sanzan feat.増田有華
24. リクエストコーナー(ACE~So Sexy~BESHI~トランキライザー)

25. もう逢いたくて

 

ライブ情報
5th Anniversary
908 FESTIVAL in OSAKA 2017

8月19日(土) 大阪城ホール
出演アーティスト:KREVA / 三浦大知
葉加瀬太郎 / MIYAVI / AKLO and more
開場/開演:17:30 / 18:30
代:7,908円(in tax)
* U19キャッシュバック(19歳以下のご来場様には当日500円ご返金)
一般発売日:7月8日(土) 10:00〜
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888 (全日10:00~18:00)

908 FESTIVAL in TOKYO 2017 
9月08日(金)クレバの日 日本武道館
出演アーティスト:KREVA / 三浦大知 / and Guest Artists
開場/開演:17:30 / 18:30
代:8,300円(in tax)
*U19キャッシュバック(19歳以下のご来場様には当日500円ご返金)
一般発売日:8月6日(日) 10:00〜
お問合せ:DISK GARAGE 050-5533-0888 (平日12:00~19:00)
 
シェア / 保存先を選択