大衆演劇の入り口から [其之二十五] そうだ、遠征しよう!~なぜ私たちは舞台を追うのか~

コラム
2017.7.10
夕刻のバスタ新宿。ここからたくさんの旅が始まる。

夕刻のバスタ新宿。ここからたくさんの旅が始まる。

「日本って狭いねえ…」

この言葉をこれまで何度聞いただろう。月ごとに移動する劇団を追いかけて、四国の劇場でバッタリ会った東京のファン。演目が発表された瞬間、スマホに指を走らせて大阪の宿を取った友人。大型連休、ファン仲間のグループLINEに「大阪着いた」と投稿すると「特選狂言観たくて神戸」「名古屋で○○劇団観る」と誰一人地元に残っていなかったときもあった。

“遠征”は、大衆演劇を語る際に外せない文化の一つである。

画像を見るうちウズウズと

遠征観劇は2.5次元・宝塚・商業演劇などいずれのジャンルでも盛んだが、大衆演劇の場合、遠征熱に火がつきやすい固有の理由もあるのではないだろうか。

理由①毎日休みなく舞台があり、思い立ったときに行けばまず公演している。

理由②旅芝居の性質はブログ・SNSと抜群に相性が良い。多くの劇団ではお客さんによる舞踊ショーの写真撮影・WEB上へのアップが許可されているので、遠方で公演していても様子を知ることができる。

舞台写真をSNSでシェアできるのも大衆演劇の特長(※劇団によって撮影ルールは異なる)。

舞台写真をSNSでシェアできるのも大衆演劇の特長(※劇団によって撮影ルールは異なる)。

好きな劇団の舞台模様がタイムラインに流れてくると、試しに夜行バスを調べたくなる。試しに宿も調べてみる。あれ、行ける?と思った瞬間、もう試しではなくなっている。筆者もまだまだ遠征素人だけれど、個人的なポイントを書いてみたい。

頼れる相棒:夜行バス

まずは足! 新幹線派の方もいるけれど、交通費を抑えるならやっぱり夜行バス。土日の遠征を控え、花金に高速バスターミナル・バスタ新宿へ向かう足取りは羽のように軽い。東京~大阪の場合、金曜夜の夜行バスは6000円程度から。

・夜行バス比較なび https://www.bushikaku.net/

こちらは「3列独立」「トイレ付」「ひざ掛け」などわかりやすい条件で選べるので、毎回お世話になっている。私的には「コンセント」が必須条件。遠征時は地図アプリを頻繁に見るなど普段以上にスマホを活用するため、到着時にスマホが100%充電できていると安心感がある。

一晩バスに揺られて現地に着くと、とりあえず髪くらい整えなくちゃ…(汗)という状態。近くの駅構内のお手洗いで手短に済ませることも可能だが、できればきちんと身支度したい。

・(大阪遠征の場合) WILLER バスターミナル大阪梅田 http://travel.willer.co.jp/guide/bus_terminal/wbt_osaka/

ピンクのバスで有名な「WILLER TRAVEL」の梅田バスターミナル(梅田スカイビルタワーイースト1階)にはパウダールームがある。そのため、さほど価格差がないときはWILLERのバスを選択することが多い。

夜行バスは朝6~7時に到着するが、劇場・健康センターの開演時間は12~13時。午前中を効率的に過ごすため、以下をあらかじめ調べておく。

・到着地周辺の​ネットカフェ

・早朝から開いている飲食店(24時間営業のマクドナルドは強い味方)

ネットカフェでシャワーを浴びたり、ノートPCで作業したり、文庫本を読んだり、モーニングを食べたり。観たかった舞台をゆったりと待つ時間は、人生で最も幸せと思える時の一つだ。

宿はスピードと粘り強さ

お次はホテルの予約。大衆演劇のメッカ・大阪の常宿なら…

・ビジネスホテル中央グループ https://www.chuogroup.jp/

地下鉄の動物園前駅周辺のホテルグループ。一泊3000~5000円程度で「大衆演劇ファン御用達」とも聞く。そのうちの一つ、ホテル中央オアシスに宿泊したときは、非常にリーズナブルな価格ときれいさに驚いた。

WEBサイトでホテルを探す場合は、楽天・じゃらん・Booking.comなど便利なサイトがたくさんある。特に楽天トラベル http://travel.rakuten.co.jp/ はトップページ(PC版)から「駅名」で探せるため、劇場の最寄駅で検索できる。しかし複数のサイトを一つ一つチェックするのも面倒というときは、もっと単純な方法に頼る。

拠点となる劇場をGoogleマップで表示する(例:梅田呉服座)。

キーワード「ホテル」で検索する。あとは劇場に近い所から順に、価格と空き室状況を調べていく。

・泊まりたいと思ったところには電話

WEBサイトで満室と表示されている場合でも、あきらめずに電話してみると部屋が残っていることがある。

持ち物・遠征服

まずはお財布、スマホ、デジカメ、充電器、着替えなど必須の生活アイテムを準備する。他は人によって異なるが、自分の場合はこんな感じだ。

①クリアファイル

劇場のチラシや案内、前売り券を入れる。

②光り物

役者さんが歌うときに振る、光るペンライトや指輪。どちらも友人からのいただきもの。うっかり何かが当たって光り出さないように注意を払う。

③デジカメの予備バッテリー

これで昼夜通しの観劇でも安心してシャッターを切れる。

④観劇ノート&ペン

感動を書き留める。遠方で観た舞台が、より特別な記憶になる。

⑤ストッキングの予備

移動が多いせいなのか、ストッキングの伝線が遠征時はなぜか多発する。コンビニで買うと割高なので、予備を持っておくと細かい出費を抑えられる。

⑥エコバッグ

お土産など荷物が増えたときに便利。また遠征先が健康センターの場合、バッグはロッカーへ入れ、観劇時にはデジカメ・スマホ・観劇ノート・ペン・ハンカチ・ティッシュのみエコバッグに入れて持ち歩く。

みんなは何を持っていっているのだろう?と思い、友人たちにも聞いてみた。「夜行バス用の携帯ピロー」「携帯スリッパ」「メディキュット(着圧ソックス。長時間のバス乗車による足のむくみ防止に)」「乗換案内アプリ」「応援グッズ」「遠征先で会う人へのお土産」などなど、遠征の知恵は人の数だけ…。

さて服装は、キャリーに放り込んでもシワにならない服・ペタンコ靴にしている(遠征先では道が不慣れな分、普段より格段に歩く。1万歩超えもざらにある)。わりと普段の買い物から「いざ遠征に持っていけるかどうか」を購入の基準の一つにしているのだけど、同じ方もいらっしゃるのじゃないだろうか…?

着くまでが長旅

大衆演劇の公演先は、県の中心部から離れた温泉や健康センターということもある(例:香川・四国健康村、三重・ユーユーカイカン、愛媛・奥道後壱湯の守など)。この場合は、ターミナル駅で夜行バスを降りてからがまだ長い。自力で交通網を調べて公演先を目指すことになる。

・無料送迎バス

まずは公演先から主要駅まで無料送迎バスが出ていないか確認する。あれば、それを利用するのが一番便利だ。

・ローカル線・ローカルバス

首都圏の交通網の感覚で行くと危ない。電車・バスが一時間に一本しかないところもある。一本逃したら開演に間に合わなくなってしまうので、「万が一乗り逃したら」のプランBも含めて時間を組み立てる。

・タクシー

高くつくけれど、確実で楽なのがタクシー。地元の運転手さんはしょっちゅう大衆演劇の遠征客を乗せているので、「○○座長の乗った月は一気にお客さんが増えたね」「あの劇場ができた経緯はね…」など面白い話が聞けるのもお得だ。

魔法の呪文

なぜそこまで熱心に…と家族や友人に言われながら、貴重な土日や年に数日の夏休みを使ってそれでも行く。大衆演劇の芝居・舞踊は、その日の役者さんの気持ちや客席の温度でまったく変わる。遠征先でしか聞けないセリフがあるかもしれない。観られない表現があるかもしれない。ご贔屓役者の生命力あふれる舞台は、ファンにとって日々を生きるための燃料のようなものだ。

「来てよかったー!ずっと前から職場に休み申請した甲斐があった」

「来るのに半日かかったけど、疲れが全部吹っ飛んだ!今日の舞台をありがとう…」

遠征中のファンの幸せいっぱいの投稿が、毎日Twitterに流れてくる。

知人に大衆演劇ハマりたてという女性がいる。いくら好きでも遠征はさすがに…と思っていたそうだ。けれどある日、彼女はふと好きな劇団の公演先を調べた。足と宿を押さえた。そして地元から数百キロ離れた地で小さく叫んだ。

「来れるじゃん!」

この呪文を発したら、もう引き返せない。今日もどこかで大衆演劇ファンが夜行バスを降り立ち、早朝の空に清々しくつぶやいている。

「日本って狭いねぇ」

いや、日本は広い。それを狭くしているのはあなたの、尽きない愛である。

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