ドイツで活躍する注目振付家・森優貴の新作『Macbeth』、神戸・東京で上演!

2017.7.12
インタビュー
クラシック
舞台

森優貴 池上直子(撮影:佐々木友一)


2012年よりドイツ・レーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーの芸術監督/振付家を務める森優貴は、日本人初となる欧州の公立劇場舞踊部門の芸術監督として活躍している。今年(2017年)4月、「NHKバレエの饗宴2017」において古巣の貞松・浜田バレエ団のために演出・振付した『死の島 ― Die Toteninsel』が大反響を呼んだばかりだが、8月に神戸と東京で新作『Macbeth(マクベス)』を発表し、気鋭のダンサー/振付家の池上直子と共演する。新作への意気ごみ、近況、今後の展望について聞いた。

ドイツで高まる声望

——2016年秋、ドイツの権威ある舞台芸術賞der Faust(ファウスト賞)の振付家部門にノミネートされました。ダンスサスペンス『The House』が対象でしたが、そのときの心境は?

脚本・構成・演出も含めた僕のオリジナル作品なのでノミネートされて名誉でした。舞踊分野のみに限らず、劇場支配人、演出家、構成作家、役者などのドイツの舞台芸術を代表する関係者の方々に“振付家・森優貴”をより一層知っていただける機会となりました​。市立劇場専属カンパニーの新作がノミネートされ、劇場規模に関わらずフェアに評価いただけたことは、ドイツ国内の全ダンスカンパニーの視点から見ても意味のある出来事で大変喜ばしいです。

——芸術監督として5シーズンの間、カンパニーをどのようにリードしてきましたか?

ダンサーたちに僕が求めるクオリティ、理解力、感受性と1人の振付家に自らを捧げ創作に関わることを自覚してもらえるように努力してきました。公立劇場の専属カンパニーに所属すると個人主義の自己満足は許されません。オーディションでは人間性も見抜く目が必要ですし、国民性も母国語も年代も違う団員をまとめるのは大変ですが「優貴のところで活動ができたからこそ今の自分があり、自信を持って踊れる」と彼らが認識してくれていると自負しています。

毎シーズン僕の新作を発表していますが、限られた予算と期間のなかでクオリティを落とさずに成功させなければなりません。成功とは簡単にいえば“売り上げ”のことで、数字として残ります。もちろん“売り上げ”が第一目標ではないのですが、運営責任と創作意欲のバランスを取るのが難しいですね。僕にできるのは自分の作品に対して正直にいること。僕が思い描く世界観や信念は揺るぎませんが、常に観客の皆さんに感動していただく作品を創るためには、ダンサーの資質を最大限に引き出して一緒に成長し続ける必要があります。​

森優貴(撮影:黒須みゆき)

シェイクスピアの現代性から立ち上げる人間ドラマ

——神戸市民文化振興財団/神戸文化ホール主催「ダンス×文学シリーズ」Vol.1『Macbeth』を初演し、東京でも「文学舞踊劇」と掲げて同じ作品を上演します。シェイクスピアの「マクベス」を原案にした理由とは?

公立ホール発の舞台芸術として多くの方々にご覧いただき、舞踊表現の上演価値を新たに認識してもらうために見やすくアクセスしやすい文学作品を用います。シェイクスピアにしたのは現代的解釈を可能とする“柔軟性”があるからです。権力、野心、裏切り、騙し合い、性愛、暴力、純愛、恋愛といった現代人も抱く感情や衝動が表現され、時代に関係なく人間ドラマとして柔軟に解釈できます。なかでも「マクベス」は男女がお互いの野心のために共に動き、なおかつ個々が違った形で崩壊していくという“純愛”などと決して呼べない関係性で進む物語に惹かれました。

——シェイクスピア悲劇といえば以前「オセロー」に取り組まれていますね?

「オセロー」をドイツ、オーストリア、日本で3つの異なる演出・振付で創作しているのでエキスパートです(笑)。「オセロー」は“純愛”が背景にあるからこそ嫉妬に呑みこまれ、弱さのために最愛の者を殺める悲劇です。しかし「マクベス」では、人が必ず隠し持っているであろう“汚れた野心”と対照的に抱える“奪われることへの不安や恐怖”、“優柔不断さ”、“暗闇への無力さ”など人間の本質的な部分を背景に描かれます。マクベスとレディマクベスが自らの手を血に染め、人を殺めるという破壊的な行為で王座を手にし自己崩壊に向かう悲劇だと僕は捉えています。主人公をつなぐのは“汚れた野心”で、必ずしも“男女の純愛”ではないんです。でも、それもシェイクスピアが描いた“愛”のひとつの形なのかもしれません。

レーゲンスブルクでのリハーサル風景(撮影:ピーター・マトカイチェク)

真っすぐな表現者・池上直子と共に自ら踊る入魂の舞台

——神戸では6年ぶり、東京では3年ぶりに舞台に立ちマクベスを踊ります。

踊らないと身体が“舞台に立つ”ことを忘れてしまうので、その感覚を連日のリハーサルで呼び戻し、自分の感覚のすべてのエッジを尖らせようとしています。シーンごとの精神状態、息づかい、目線、動きの細部に至るまで“現実”に身を置いて表現したい。マクベスを演じるのでなくマクベスなんです、僕が。

——レディマクベスを踊る池上直子さんは、Dance Marché(ダンスマルシェ)を立ち上げ自主公演を行うなど実力者です。今回共演しようと思われたのはなぜですか?

池上さんは昨年12月から3か月間、文化庁の在外研修員としてレーゲンスブルクに滞在し、新作ダンスオペラ『恐るべき子供たち』のアシスタントをしてくれました。彼女は表現に対し真っすぐで、華奢な身体からその真っすぐさと弱さが絶妙なバランスで伝わってきます。そこが今回のレディマクベスに求められる要素です。夫を真っすぐに想うからこそ野心を盾に夫を促す。そして誰よりも恐怖や不安に駆られるからこそ精神的崩壊が待っているのです。毒女、悪女として描こうとは思いません。夫妻が同じ弱さを持ち、同じくらい優柔不断で敏感で臆病であるからこそ野心だけが大きく膨れ上がり、野心に呑みこまれる。マクベスの陰として存在し、マクベスの弱さに油を注いで炎を大きくするからこそ間接的であっても人を殺めてしまうのです。

——『Macbeth』におけるこだわりを教えてください。

原作からマクベスとレディマクベスに焦点を絞って2人の関係と物語を極限まで抽出し、可能な限りシンプルにまとめあげたい。​そうすることによって原作から感じ取ることのできないものが視覚化され、身体を使っての表現として、ある種の狂気と弱さを感じていただけるかと。音楽的にも構成・演出を最大限に引き出せるように選曲しました。音楽的にすべてを演出するのが絶対に揺らぐことがないこだわりです。観てくださる方々の身体に音楽が自然に送りこまれ、物語を内面から受け取っていただけると思います。

池上直子(撮影:大月信彦)

新たな転機を迎えて

——今後の展望をお話しください。

ドイツに渡って20年になりますが、再びターニングポイントに向かっての準備の時期かもしれません。ありがたいことにレーゲンスブルクでの契約保証があるなかで他劇場から振付を依頼されたり、移籍の話もいただいたりしていますが、じっくり落ち着いて目の前のことに集中したい。そうすれば自然と新しい船に乗ることができると思います。

日本では先輩の金森穣さんが新潟に公立劇場専属舞踊団Noismを発足しトップバッターとして走っています。僕は20代前半の頃から穣さんを見上げ、追いつこうと必死に進んできました。互いが抱える問題も環境も違いますが、芸術監督としての立場と役目、振付家としての信念と情熱に関して共感できると思っています。日本でNoismに次ぐ公立劇場専属舞踊団ができない現状に対して複雑な気持ちです。日本でゼロから発足し確立していくエネルギーと勇気が自分にあるのか? しかし欧州の公立劇場で芸術監督に選ばれた責任を胸に、経験させていただいた物事を生かし日本の劇場文化、舞台芸術の進歩に少しでも貢献していかなければいけないのではないかとも考えています。

森優貴 池上直子(撮影:佐々木友一)

取材:高橋森彦

公演情報
<神戸公演>
ダンス×文学シリーズvol.1『Macbeth』


構成・演出・振付:森優貴 
出演:池上直子 森優貴

【日時】
2017年8月18日(金) 19:00開演 
【会場】
神戸文化ホール 中ホール (兵庫県)
【問い合わせ先】
http://www.kobe-bunka.jp/hall/event/detail.php?id=2719



<東京公演>
文学舞踊劇『Macbeth』


構成・演出・振付:森優貴 
出演:池上直子 森優貴

【日時】
2017年8月30日(水) 19:00開演
【会場】
渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール (東京都)
【問い合わせ先】
https://www.macbeth-tanz.com/ticket-schedule

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