ケラリーノ・サンドロヴィッチ×三宅弘城×大倉孝二にインタビュー「描かれるのは現代の寓話!?」ナイロン100℃ 3年ぶりの新作『ちょっと、まってください』

インタビュー
舞台
2017.8.28
三宅弘城、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、大倉孝二

三宅弘城、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、大倉孝二


ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)率いる劇団、ナイロン100℃が2017年秋、再始動する。2015年の『消失』からおよそ2年、新作としては2014年の『社長吸血記』以来となる公演。公演タイトルは『ちょっと、まってください』。何をしかけてくるのか、誰がどんな役どころなのかもまったく想像できない、だからこそ非常に想像力をかきたてる魅力的なタイトルだ。

毎回観客を不条理に翻弄するナイロン100℃の「今」について、KERAと劇団員である、三宅弘城大倉孝二に話を聞いてきた。


――この3年間を振り返ってみると、どんな心境なのでしょうか?

KERA あれこれ他のことやっているうちに時間が経ってたという感じですね。四半世紀近くやってると、いろんな事情で、ナイロン100℃で何度も何度も煮詰まりもしました。ポンポンと脚本を書ける状況じゃなくなったのも事実。だんだんローペースになってきて、ついに休止に至った。反面、劇団については、劇団として活動してないときのほうが考えますね。人の劇団を観たりとかすると。若い頃は劇団の面倒臭さばかりを主宰として感じていて、主宰は一人だけど他の役者・スタッフはたくさんいる……主宰だけが損しているような感覚があったんです。今は劇団をやり続けてよかった、と、年々強く感じます。みんないい歳になってきましたが、この歳でないとできないこと、若い頃はできなかったような作品を楽しめるかなって感じています。

2007年の『わが闇』くらいの頃は、演劇も劇団も、50代の半ばくらいでできなくなると覚悟して活動するべきだ、という自分なりの計算があったんです。僕の家系は親父も祖父も短命で、50代で死んじゃってるから。でも今、この歳になっちゃうと、来年まで、再来年まで、とか言わずに、できる限り長くやり続けていたいですね。そして劇団員のみんなにも元気でいてほしいと心から願ってます。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

三宅 周りに言われるほど、3年ぶり、ひさしぶり、という感じがしないんですよ。幸いな事にいろいろな現場に呼んでいただけるようになったので、どこかの収録でバッタリ会ったりすることもあって。

自分から入っといてなんですが、”劇団”にいること、”劇団員”である自分がどこか恥ずかしいって思う時期があったんです。一般的な偏見があるじゃないですか、ネガティブな(笑)。「いつもジャージ着て地べたに座っているんでしょ?」とか(笑)。別にいいんですけど、やっぱり嫌だなあと思う時期もあって。でも一周回って、劇団という帰れる場所があることは幸せだなって思うんです。ここがなかったら……末端の……俳優モドキで……(KERA、大倉がたまらず笑い出す)。

三宅弘城

三宅弘城

大倉 皆さんいろいろなところに出ているので、僕もそんなに長いことやってなかった感はなく、むしろ自分たちはすごいいっぱいやっているなって思っていました。ハタから見ても。だから「3年ぶり」ってことがそんなに(この公演の)ウリになるのかなって。こっちがいうほどみんなそんなに思ってないんじゃないかな? まあ、そのうちみんな歳を取って、メンバーが揃う可能性が徐々に減っていくことを考えると、今やっておけるのはいい事だと思います(笑)。

大倉孝二

大倉孝二

――劇団の良さを再確認する機会でもある今回の公演。タイトルが『ちょっと、まってください』。プロットには「乞食と金持ちの話」とあるのですが、もう少し詳しく教えてください。

KERA 乞食の家族と金持ちの家族が少しずつ入れ替わっていき、最終的には完全に入れ替わる話になるのかな。ならないのかな。でもそれを今話しても(ネタバレ的に)平気なのは、別にそこに面白みがある訳じゃなく、いかにしてそうなるのかがポイントだから。スケールの大きい話じゃないんです。むしろミニマムな世界でのお話になると思う。この設定とタイトルから、色々と想像して頂ければ。

――「乞食」って「貧乏人」とは違うニュアンス?

KERA あくまで「乞食」ですね。貧乏だからって皆乞食なわけじゃないでしょ?(笑)生々しい存在としてではなく、もっと愛嬌のある存在としての「乞食」と「金持ち」です。今回は「寓話」的なものになると思う。日本の話にするかどうかもまだ決めてないんですけどね。おとぎ話のような舞台にしたいと思っています。

タイトルも『ちょっと、まってください』以外にいろいろ考えたんですよ。もう少しカタい感じで、『○△町誘拐事件』とか。『葛城事件』みたいな(笑)(←赤堀雅秋監督の映画タイトル)。「誘拐」を物語に絡ませられないかと。

大倉孝二、ケラリーノ・サンドロヴィッチ

大倉孝二、ケラリーノ・サンドロヴィッチ

KERA 基本路線は別役実さんの世界。不条理劇ですね。静かなナンセンス・コメディ。僕はこれまで別役さんの作品を4本演出させていただいてます。数ある戯曲の中で別役さんの本は別格だと思ってる。最終的には別役戯曲の完全なるパスティーシュ(模倣)を作るというのが一つの目標でもあって、「これ、書いたのは別役さんじゃない?」ってところまで行きつけるといいなと思ってます。これまでも自作の中で別役的なる文体の模倣は何回かやっています。例えば三年前の『社長吸血記』は、二つの世界を行き来する作品でした。一つは別役的な世界でもう一つはリアリズムの世界。全編別役実でいく勇気がなかった。でも今回はやってみようかと思ってます。今のところね。それでもある程度僕的になっちゃうと思いますけどね。

――別役さんの作品にそこまでほれ込んでいる理由とは?

KERA なにより笑えるから。あとは不条理感ですね。チェーホフにも不条理な空気が漂ってなくもないんですが、僕の中で別役さんのがいちばんポップなんです。いちばんくだらない。別役さんの中で起こるスペクタクルは、せいぜいが着ていた洋服を全部持っていかれちゃうとか、そんなもんでしょ(笑)。いや、別役実を知らない人がこれ読んだら誤解するな…ともかく独特の不条理感が可笑しいんですよ。そして非常に哲学的。ただ、書くのにも演じるのにも、独自のスキルとセンスが不可欠でとても難しい。そうした意味でも、「別役作品のパスティーシュ」を目指すなら劇団公演が最適なんです。

――と言う訳で、KERAさんが絶賛執筆中の本作ですが、出演する側として今感じていることは?

三宅 金持ちと乞食が入れ替わるのって面白いですよね。入れ替わることだけでも十分面白い。

KERA 三宅は(フライヤーの)犬の役をやりたいんでしょ?

三宅 それは峯村リエさんが言っているだけです(笑)

大倉 金持ちも乞食もどっちもバカバカしいんですよね。

KERA だろ?(インタビュアーに)こう思えるセンスの俳優が必要なんですよ。

――今時点でKERAさんの頭の中ではお二人に金持ちと乞食、どちらの役をさせたいか、プランはあるんですか?

KERA 全然ない。誰がどの役をやってもうちの劇団員ならその人のやり方でうまくやってくれると思うから。あとは全体のバランスを考えてキャストを決めます。実は金持ち側の人も乞食側の人もさして変わらないことになると思うんです。

――とはいえ、まずスタート時点ではどっちをやりたいって希望はありますか?

三宅 やっぱり役者が悪役をやりたがるように、僕は乞食のほうを……。

大倉 いや、三宅さんは昔から社長役が似合うからむしろ社長役をやってほしいなって。『ウチハソバヤジャナイ~version100℃~』の子ども社長とか。

――そんな大倉さんはどちらをやりたいですか?

大倉 どっちもやりたいですね!

――お二人からみたKERA作品の魅力とは?

三宅 僕はKERAさんからこの世界に入ったので、KERAさんしか知らない時代がしばらくありましたね。KERAさんの作・演出でやるのが当たり前だった。だから当然のように感じてたので意識したことないんです。面白いことを当然のようにやってました。KERAさんの作品だけでなく、劇団でやれることは劇団でしかできないので、ありがたみを感じていますね。

大倉 誤解を恐れずに言うと、世の中にはおもしろくないセリフがいっぱいあるなって思っているんです。昔、そう思わなかったのは面白い脚本とセリフをずーっとやってきたから。(KERAを横目に)「何言ってんの、この人」というのが大好きで(笑)。そういうセリフって世の中には少ないから今回またそういうセリフをいっぱい言えるといいなって思ってます。

KERA そんなセリフばっかりだと思うよ(笑)。観客はウンザリだろうな(笑)。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ、三宅弘城

ケラリーノ・サンドロヴィッチ、三宅弘城

――今回客演として3名(水野美紀、マギー、遠藤雄弥)をお迎えすることになりますが彼らを選んだ理由は?

KERA 遠藤君は直感ですね。一人異分子を入れたいっていう想いがあってのことです。ドラマなどでの印象は、非常に細かいことにも耐えうる人、というか喜びを感じている人かな?子どもも生まれたし、若者というほどではないけど。

水野は、KERA・MAP #006『グッドバイ』に出てもらった時感じたんだけど、コメディを演じるスキルが『神様とその他の変種』に客演してもらった頃よりも格段に上がるし、演じることをおもしろがっている。逆にあそこまでいくと「はしゃがない!」とか「いい気になるな!」とか言いたくなるくらい(笑)。でも面白がっているとどうしたってどんどん上手くなりますからね。

マギーはね……準劇団員枠に入る何人かの一人。キャストの中に作・演出家が一人いてくれると楽なんです。これまでも赤堀雅秋、河原雅彦、岩井秀人、千葉雅子とか……作・演出家をキャスティングするのが好き。アドバイザーとしても働いてくれるからね。

水野美紀、マギー、遠藤雄弥

水野美紀、マギー、遠藤雄弥

――お二人は客演陣にどんな期待をしていますか?

三宅 僕はマギーさん以外とは、舞台では初めてなんですよ。

KERA そっか、水野と一緒にやったことありそうだけどね。

三宅 ドラマ『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)ではあるんですけど。水野さんが「怪演」って言われていた……あのときも演技を「面白がっていた」というのが前面に出ていたと思いますね。遠藤くんは“仲間にいた”っていうだけの仲で。

KERA “仲間にいた”ってどういう事!?

三宅 NHK大河ドラマ『篤姫』で同じ薩摩藩士の中にいたんですよ(笑)でも当時直接絡むことがなかったので。あと、藤田(秀世)さん、廣川(三憲)さん、僕、久しぶりなんですよ。

大倉 もう思い出せないですね。誰と久しぶりか、とか。

三宅 いつぶりかなあ?『わが闇』以来だっけ?

大倉 (けだるそうに)もう全然思い出せない……(笑)。

KERA そうか、大倉と藤田くんも久しぶりの共演なんだ。

大倉 もうどの作品以来か、わからないです……何年か会ってないかもしれない(笑)。客演陣については、水野さんもマギーさんもよくご一緒しているので知ってますが、遠藤は10代の頃にバラエティ番組(『ブログタイプ』フジテレビ系列)で一緒だったんです。当時は(遠藤が)おばあちゃんと二人暮らしだったことくらいしかしゃべれてなかった。大人になった遠藤くんに一度も会っていないので「改めて、初めまして」ですねきっと。

三宅弘城、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、大倉孝二

三宅弘城、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、大倉孝二

――久しぶりに再集合ということで、お酒が入る親睦会などはされるんですか?

KERA どうですかね。一回は飲みにはいくと思いますが、僕は台本の進行次第。別に今さら親睦を深めるということもないですね(笑)。みんな各々勝手に行くんじゃない?

大倉 最初は飲みに行っても割としゃべることはあると思うんですが、すぐネタがなくなるんですよ……いろいろな事が思い出せなくなっていて(笑)。

KERA 思い出せなくなってるねえ。全然出てこない。「ほら、アレだよアレ!あのぉ、ほら、アレ!」

大倉 あるある、アレだよーって。

三宅 昔、みのすけさんと山崎一さんがアレアレで会話していたのを笑っていたのに、まさか僕らがやるようになったのがショックで(笑)。

――ナイロン100℃の皆さん、どの方も主役を務めていたり、日々何かの作品に出演していたり、と活躍されていますが、今後はどんな方向に進んでいこうと考えていますか?

KERA 劇団員の外部での活動はよく知らないんですよ。主役を張るのは、それはそれですごいことだと思いますが、それぞれの意向や事情がありますからね。本人が楽しく、なにより健康でやっていけてれば充分なんじゃないですか。

人生山も谷もあってナイロンも、これからは支え合いかなあ。やれ病気だとか自己管理が、とか言い出したらきりがない。いたわり合いながらやらないと続かなくなると思うんです。なのでそこは臨機応変に。

当たり前に舞台がやれる、稽古が普通に始まって初日が開いて千秋楽を迎えられて、それが当然だと思うと大きな間違いなんですよね。奇跡的なことですよ。その奇跡を何度も経験出来たのは、思う以上に幸せなことだと感じます。「ナイロン100℃は来年25周年ですよ。周年で思い出さなきゃならないこともたくさんあると思いますが、それよりも「今、何ができるか、どんな新しいことができるのか」を考えながらやっていきたいと思います。

取材・文・撮影=こむらさき

公演情報
ナイロン100℃ 44th SESSION『ちょっと、まってください』​
 
■作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
■出演:
三宅弘城 大倉孝二 みのすけ 犬山イヌコ 峯村リエ 村岡希美 藤田秀世 廣川三憲
木乃江祐希 小園茉奈/水野美紀 遠藤雄弥 マギー
■企画・製作:シリーウォーク キューブ
■問い合わせ:キューブ 03-5485-2252(平日12時~18時) 
■最新情報:
http://www.cubeinc.co.jp/
http://sillywalk.com/nylon/

 
<東京公演>
■日程:2017年11月10日(金)-12月3日(日)
■会場:下北沢 本多劇場
発売開始:2017年9月9日(土)
料金: 6,900円 (前売・当日共/全席指定/税込)

※学生割引券:4,300円(東京公演のみ/前売のみ/税込/ぴあのみ)
リーズナブルな価格で多くの学生の皆様にご覧頂くため、学生割引券をご用意致しました。
※学生割引券は当日指定席引換券となります。当日、劇場受付にて開演30分前(開場時間)より指定席券とお引き換え致します。その際、必ず学生証をご提示ください。学生指定券は、通常の席に比べてややご覧になりにくいお席になる場合がございます。2名様以上の場合、お席が離れる場合もございます。なお枚数には限りがございます。また、学生証のご提示がない場合は一般料金との差額をいただきます。
※当日券は開演の1時間前より劇場受付にて販売いたします。
※開場は開演の30分前です。未就学児童の入場はご遠慮ください。
※車椅子でのご来場は必ず事前にキューブまでお問い合わせください。
※11月22日(水)昼夜公演は収録のため、客席にカメラが入る予定です。予めご了承下さい。

 
<三重公演>
■日程:2017年12月6日(水)19:00
■会場:三重県総合文化センター 三重県文化会館 中ホール
■問い合わせ:三重県文化会館カウンター 059-233-1122
 
<兵庫公演>
■日程:2017年12月9日(土)13:00/18:00 10日(日)13:00
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■問い合わせ:芸術文化センターオフィス 0798-68-0255
 
<広島公演>
■日程:2017年12月12日(火) 19:00
■会場:JMSアステールプラザ 大ホール(アステールプラザ芸術劇場シリーズ)
■問い合わせ:TSS事業部 082-253-1010(平日10:00-18:00)
 
<北九州公演>
■日程:2017年12月16日(土)13:00/18:00 17日(日)13:00
■会場:北九州芸術劇場 中劇場
■問い合わせ:北九州芸術劇場 093-562-2655 (10:00-19:00)
 
<新潟公演>
■日程:2017年12月20日(水)18:30
■会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
■問い合わせ:りゅーとぴあ専用ダイヤル 025-224-5521(11:00-19:00/休館日は除く)
 
※平成29年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業(三重・兵庫・広島・北九州・新潟公演)
 
■企画・製作:シリーウォーク キューブ
■問い合わせ:キューブ 03-5485-2252(平日12時~18時)
■公式サイト: http://www.sillywalk.com/nylon/

 
【STAFF】
■音楽:鈴木光介
■美術:BOKETA
■照明:関口裕二
■音響:水越佳一
■映像:上田大樹 
■衣裳:宮本宣子
■ヘアメイク:宮内宏明
■演出助手:山田美紀 
■舞台監督:竹井祐樹 福澤諭志 
■宣伝美術:はらだなおこ

 
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