“イトヲカシらしさ”はやっぱりブレなかった ツアー最終日・Zepp Tokyoに見た野心と誠実さ

レポート
音楽
2017.7.21
イトヲカシ

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second one-man tour 中央突破 2017.7.16 Zepp Tokyo

イトヲカシにとって、4月から約3ヶ月をかけて全国16箇所をまわったツアー『second one-man tour 中央突破』におけるテーマは、“チャレンジ”であったという。(路上ライブを除けば)過去最多/最長のツアーであり、約1万人という動員面も過去最大。しかも、後半の3公演を除けば、最新アルバム『中央突破』のリリース前に行われており、それはつまり新曲を多く含む楽曲たちで勝負をするということなわけで、いうまでもなく挑戦的な試みである。先日インタビューをした際にそのあたりの意図を聞いてみたところ、こう答えてくれた。バンド時代に路上ライブをしていた頃には誰も自分たちの曲を知らない環境で歌っていたから、曲自体の良さで足を止めてもらうしかなかった。本当に曲がよければ初めて聴く曲でも満足してもらえるはずなのだと。この日のファイナルの時点では既にCDは発売されていたが、2人は言葉通りに、曲そのものの良さとそれを誠心誠意のパフォーマンスで届けることでもって、宣言通り見事に“チャレンジ”を完遂してみせたのだった。

イトヲカシ

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場内が暗転し、SEが流れると自然発生的に大きな手拍子が起きる。カウントコールから一気に明転して流れ出したのは、アルバムでもオープニングを飾る「スタートライン」。ライブの火蓋を切るにはうってつけのパワフルなナンバーだ。曲間、思いのほかリラックスした様子で伊東歌詞太郎(Vo)が「こんばんは、イトヲカシです。楽しんでいきましょう!」と挨拶。宮田“レフティ”リョウ(Ba/Gt/Key)は「楽しもうぜ、東京!」と眩しい笑顔で呼びかける。昨年の初ライブハウスツアーでは冒頭からガンガン拳を突き上げて煽っていたことを思えば、いい意味での精神的余裕を感じさせてくれると同時に、しっかりと楽曲を届けることとライブ感とのバランスをとろうとしているようにも映る。そうしてことさらアジテートすることはなくとも、「東方見聞ROCK」「カナデアイ」と畳み掛けるうちにフロアは波打ち、いたるところから拳が上がっていった。ステージセットに目をやると、サポートバンド陣が2人の背後に弧を描くように陣取っているのだが、ドラムセットが上手側に据えられているため、2人が自由に動き回れる範囲はかなり広め。それを活かすようにレフティが上手側に回って演奏したり、ハンドマイクを用いた楽曲では歌詞太郎も最前まで出て歌唱するなど、視覚的にもこれまで以上の自由度とスケール感を味わわせてくれる。

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セットリストは当然『中央突破』からの楽曲が中心ではあったのだが、ここでもチャレンジングな姿勢の表れか、前述の「東方見聞ROCK」のほかにも「ハートビート」「トワイライト」といった路上ライブ会場限定盤からの楽曲も織り込んであったし、ライブ初披露の新曲を披露する一幕もあった。ひとつめの新曲は、「アイスクリーム」。テレビ東京 木ドラ25『さぼリーマン甘太朗』のEDテーマともなっているこの曲では、ちょっと大人なコード感とピアノの音色が場内を心地よく揺らす。「あなたのそばにいたい」という気持ちをこの上なくストレートに歌い上げ、イトヲカシにとって新境地を拓いたバラード「あなたが好き」では、ブレスの一つひとつ、ビブラートの余韻に至るまでしっかりと情感をこめ、丁寧に歌詞太郎が言の葉を紡いでいく。

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ライブの折り返し地点でひときわ強いインパクトを与えてくれたのは、「ヒトリノセカイ」だった。歌詞太郎の携えたアコギの音色とともに静かに流れ出したメロディは、レフティのベースと力強いビートが生み出す重低音とともに次第に激しさを増していき、サビでは鬼気迫るような<あぁ>に、ありったけのエモーションがこもる。ライブでの反響が大きい曲なのだとは事前に聞いていたが、これほどとは。アップテンポでも明快でもない、<誰のために生きているの 明日はなんで必要なんだろう>と歌われる内省的でシリアスな曲ながら、じっくりと聴く者の心に訴えかける力をもった、間違いなくライブで化けるタイプの一曲だ。一方、「このツアーを走り抜けてきた証として」と歌われた「さいごまで」では、全力の肯定を歌うことで力強くリスナーの背を押した。一見正反対のようでもある2曲を本編の真ん中に据えたこと、そしてそこを境にライブの勢いが一層加速していったことこそが、イトヲカシがどのような存在であるのか、あるいは、あろうとしているのかを物語っていたように思う。

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後半に向けてどんどんギアの上がっていくライブ。「ドンマイ!!」の間奏では、ツアー中に続けてきたという“ドンマイ!!トーク”のコーナーが差し込まれ、レフティの片耳が聞こえづらくなって病院に行ったら“何か”が詰まっていただけだったという話、歌詞太郎が学生時代に友人に1万円を貸したところユーロで返されて、換金したら普通に損をしていた――という、ドンマイ!!な話題で大いに笑いを誘った。歌詞太郎がテレキャスターを奏でながら届けた「Never say Never」から、無数のタオルやペンライトがうち振られた、未音源化曲ながらライブで欠かせないサマーチューン「SUMMER LOVER」へ。オーディエンスの盛り上がりに呼応するように、歌詞太郎はピョンピョンと飛び跳ねて楽しさを全身で表す。レフティのラップパートもバッチリ決まった。

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そして終盤戦。すっかりライブアンセムとなったメジャーデビュー曲「スターダスト」では盛大なシンガロングが巻き起こり、歌詞太郎の歌声もリミッターを外したかのようにここで一層力強さを増す。弾むリズムに乗ってとことんピースフルな空間を作り出し、歌詞太郎のブルースハープ・ソロも飛び出した「Thank you so much!!」で本編は終了。アンコールに応え再登場した後は、この日ふたつめの新曲で映画『氷菓』主題歌に決定している「アイオライト」がライブ初披露された。「いつもそう思っているけど、全年齢対象の曲」と紹介された同曲。疾走感あるサウンドとポップなメロディを軸にロックテイストを感じさせるギターリフがフックになった、これぞイトヲカシ!といった仕上がりであると同時に、その精度が増していたことで、これから2人が生み出す楽曲への期待をも増幅させてくれたことを記しておきたい。

イトヲカシ

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バンドメンバーが一足先にステージを後にし、ラストナンバーを前に「本当に本当に、本当にいつも応援してくれてありがとう!」と深々と頭を下げた歌詞太郎。長い長い一礼をする彼に、あたたかな拍手が降り注ぐ。「あなたがいるからライブができる」とまっすぐな感謝を伝えたあと、レフティのキーボードのみを伴奏に歌われたのは「パズル」だった。左手を胸に当て、ささやくように言葉を重ねる前半部から、朗々と声を張り上げるドラマティックなサビへ。満員のフロアの一人ひとりと向き合いながら歌い上げる、<君は美しい 世界にたった一つのピース>という何の小細工も衒いもないメッセージ。客席には涙を拭う姿も多く見られた。最後は再びバンドメンバーと、イトヲカシ第3のメンバーといっても過言ではない(?)、マニュピレーター・たるとを招き入れての記念撮影で締め。ツアーは大団円を迎えたのであった。

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このツアーにおけるイトヲカシの“チャレンジ”とは何だったのだろうか。終演後あらためてそのことを考えた。前半に書いたような、新曲で勝負したことや動員面のことももちろんその一つだろうが、きっと彼らにとって最大のチャレンジは、この過去最大規模のツアーをあくまで出発点と位置付けることだったのではないだろうか。つまり、今回のツアーを通して、思い描く理想へ向けて今の自らがとる姿勢と音楽性を全面的に打ち出すことと、自分たちの音楽が届く範囲をもっともっと広げていくのだという意志をハッキリと提示することで、この先のイトヲカシが進む道を明示してみせよう、という挑戦だ。これまで定番だった曲のいくつかがセットリストから外れたことも、Zepp Tokyoという節目の舞台に立ったことに対して特に言及しなかったことも、そう考えると合点がいく。ただ、先へと進むために彼らがマインドやスタンスを変えたのかといえば、そんな心配は無用だ。真っ向勝負のステージングも、MCで明かされたツアー中のエピソード(1公演目の話題だけで散々盛り上がった)やそこから見えてくる情景も、ワゴン車にありったけの機材を詰め込んで日本中を巡っているときと何ら変わりなかったのだから。

イトヲカシ

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まだまだこんなもんではないし、立ち止まるつもりはさらさらない。そんな大いなる野心と、同時に自分たちの音楽を必要としてくれる目の前のリスナーを誰一人として追いていくまいとする誠実さ――ブレない“イトヲカシらしさ”を旗印に、彼らはこの先もシーンのど真ん中を突破し続けていく。


取材・文=風間大洋 撮影=田中聖太郎

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セットリスト
second one-man tour 中央突破 2017.7.16 Zepp Tokyo
1. スタートライン
2. 東方見聞ROCK
3. カナデアイ
4. ハートビート
5. アイスクリーム
6. あなたが好き
7. ヒトリノセカイ
8. さいごまで
9. トワイライト
10. ドンマイ!!
11. Never say Never
12. SUMMER LOVER
13. スターダスト
14. Thank you so much!!
[ENCORE]
15. アイオライト
16. パズル

 

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