土田英生セレクション『きゅうりの花』を、土田英生(MONO)+諏訪雅(ヨーロッパ企画)が語る
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(左から)土田英生、諏訪雅。 [撮影]吉永美和子
「排他性の大本みたいなのを面白く演出した、キッチリした舞台を見せたいです」(土田)
京都の劇団「MONO」の土田英生が三鷹市芸術文化センターと組んで、自身の過去作品をキャストを変えて再演する企画「土田英生セレクション」。4回目となる今回は、小さな田舎町の青年会メンバーたちによる、おかしくも切ない人間模様を描いた『きゅうりの花』を取り上げる。作・演出の土田英生と、今回の出演者の一人で、土田作品には二度目の登場となる「ヨーロッパ企画」の諏訪雅が、本格的な稽古に入る前に大阪で会見を行った。地元関西という気安さもあって、著名な演劇人たちとの愉快なエピソードも飛び出した、その模様をお届けする。
■「『きゅうりの花』は今の社会というより、人物を描いた作品」(土田)
──「土田英生セレクション」は、どういった位置づけの企画ですか?
土田 基本的にはMONOなどで上演した作品を、何年かしてもう一回再演するという。僕の気持ちの中では、このセレクションで再演した作品はもう自分では(演出は)やらないつもりでやっています。
──『きゅうりの花』は、土田さんにとってどういう作品でしょう。
土田 18年前に(富山県)利賀村の演劇祭に呼ばれた時に、利賀村がすごく田舎だということに合わせて描いた作品でした。当時MONOは関西だけで公演をしていたんですけど、この時にたくさんの東京の関係者に華々しく囲まれたんです。ただ残念ながらその日は、深津(篤史)君が岸田國士戯曲賞を獲った日で、割と深津君についてしゃべった記憶があります(笑)。でもこれをきっかけに公演の話をいただいて、1999年からは東京にも行くようになったので、劇団にとってはターニングポイントになった作品。ちなみにMONOの制作会社「キューカンバー(英語できゅうり)」も、この作品名から取っているので、自分にとっては代表作の一つだと思っています。
MONO『きゅうりの花』(2002年再演版) [撮影]谷古宇正彦
──18年前の作品ということで、読んだ時にギャップとかは感じませんでしたか?
土田 これぐらい時間が開くと書いた時の感じも忘れてますし、そうなってから(セレクションで)やってるかもしれないです。だから「何でこう書いたんやろう?」という部分はありますけど、「この頃は良かった」も「明らかにここが足りない」とかもないんですよ。18年間進歩してないなあと(笑)。ただ「町に携帯の電波が入らない」とか、さすがに今の時代では厳しい会話はあります。あと初演の時は、僕らはまだ20代から30代前半だったんで、青年会というのを何の言い訳もなくできたんですけど、今回は……諏訪君でいくつ?
諏訪 僕40歳です。
土田 そうそう。ヨーロッパ企画って僕らにとって一回り下の(世代の)劇団なんですけど、諏訪君すら40歳なんですよ。MONOからは金替(康博)も、18年前と同じ役で出るんですけど、彼も2日前に50歳になって(笑)。だから今回は(登場人物たちの)年齢を10歳上げて、もう町に青年がいないから、いつまで経っても青年会をやらざるを得ないという、そういう状況にしました。キャッチで「わちらいつまで青年会なんだ?」と書いてる通り、逆に(登場人物が)大人になって、前より悲哀の出るお芝居になるのかなあと。あとこの企画を始めたのは、いろんな所で自分の作品を上演していただいたのを観て、よく「それは違うよ」と思ったからというのがあります。自分が演出することで、こういう芝居は(劇団)外でもできるんだって証明したいという。そういう意味で今回も本当に、諏訪君を始め素晴らしい役者さんに集まっていただきました。ただ諏訪君に関して一個だけ言うと、もともとは「太ってて理屈を言う人」というのが面白いなあと思って呼んだんですけど、どんどんやせて普通の人になってきて、そこだけが詐欺だなあと(笑)。
諏訪 いえいえ、全然太っても。
土田 (ロバート・)デ・ニーロじゃないから、そのままで(笑)。あと僕はエンターテインメントが好きなんですけど、どうしても今世の中が世の中なんで、あまり脳天気に芝居を作ってられない感じなんですね。今の社会の動きに対する何かしらのリアクションとか、かすかな批判みたいなものが、どうしたって新作を書くと入ってきちゃう。もちろん『きゅうりの花』にもそれはあるんですが、どちらかというと人物を描いた作品。「日本がどうだ」じゃなくて「嫁が欲しいなあ」という話を、久々にやるのもいいなあと思っています。
今年に入って何と30kgのダイエットに成功した諏訪雅。土田作品は、MONO『少しはみ出て殴られた』(2012年)以来の出演。 [撮影]吉永美和子
諏訪 僕は土田さんの舞台がすごく好きで、どの作品も最後に泣きそうになるのが素敵だなあと思っています。『きゅうりの花』はDVDで観たんですけど、台詞の掛け合いがすごかったです。MONOの役者さんは熟練した掛け合いができるけど、これをいろんな所から集まった人が、しかも一ヶ月ちょっとの稽古でやるのかというのが、僕はすごく不安で。
土田 でもMONOって、全員アンサンブルの演技なんですよ。この前僕、本当に久しぶりに劇団☆新感線を観に行ったんです。飲み屋で偶然古田(新太)さんに会って「4ヶ月も(『髑髏城の七人 Season花』)やってるのに、お前は観にこないのか?」と言われて、あわてて観に行ったんですけど、4回ぐらい泣きました。もうケレン味しかないんですよね。それでつくづく「ケレンとは何か?」を考え、KERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんに「ケレンを付けたいけどどうしたらいいですか?」と相談してみたんですけど「人にはそれぞれ得意な所があるから、無理しない方がいい」と言われました(一同笑)。まあMONOとしては、アンサンブルでやっているので、だからパス回しはめっちゃ上手いと思うんですよ、みんな。ただ決定力がないんですね。割とゴール近くまで行くけど、点数が入らないという。でもこれがプロデュース公演だと逆に、やたらシュートを打ちたがる人が集まってきちゃったりするんですよ。「まだセンターラインやで!」っていう所からボンボン打つ、みたいな。これはこれで僕の芝居が壊れちゃうなあというのがあるので、このセレクションではパスも回せて、決定力のある人というのを探すようにしています。
『きゅうりの花』について語る土田英生。舞台となる下河部町は、愛知県の猿投山辺りをイメージしたそうだ。 [撮影]吉永美和子
■「踊りや方言が不安だけど、土田さんの代表作でもあるので楽しみ」(諏訪)
──そのパスとシュートの例えについて、もう少し詳しく教えてください。
土田 僕がいつも描きたいと思っているのは、会話をしている中で“人間”が見えてくるようなこと。そのためには愉快な台詞も哀しい台詞も、きちんと相手と会話をする中で淡々と言って、それを眺めているお客さんが勝手に悲しんだり、勝手に笑ったりというお芝居を作りたいと、いつも思っているんです。でも役者さんってどうしても……先ほどのケレンの話じゃないんですけど、派手にアピールしようとする人が本当に多いんですよ。愉快な台詞を、ことさら愉快な感じで言うとか。僕が演出家として一番嫌いなのは自意識なので「この台詞で俺、いい感じに見えるんだろうな」って、ちょっとでも思って演じられるのが嫌なんです。だからオーディションで「そこまで!」って言った時、首を傾げた役者は絶対×を打ちます。こういう人は、ダメ出しをした時に「本当はこんなんじゃないです、俺」って言い訳をするんですよ。自意識がない役者は、ただやって帰っていきますから。
──MONOは自意識がない人をそろえたと。
土田 そういう人たちだし、僕も「一切こんなことをしないでくれ」と言い続けて、そういうお芝居ができたんです。でも多少はやっぱりお客さんに「あ、その台詞!」って思わせてほしい所も淡々と言っちゃうんで、点が入らないとはそういうこと。だから台詞を回さなきゃいけないことはわかりつつ、いい台詞は少しだけ……何て言うんですかね? 見せ方を知ってるというメンバーに集まっていただきました。
──諏訪さんや金替さん以外の役者については。
土田 加藤啓さんは10年以上前に知り合ったんですけど、勝手にお笑い系の人だと思って、僕の芝居にはあまり興味がないだろうと思ってたんです。でもヨーロッパ企画の舞台に出ているのを見て、これなら一緒にできると思ってお願いをしました。内田淳子さんは知り合って30年になるんですけど、僕の作品に出たことが今まで一度しかなかったんです。しかも僕が21歳の時に書いた、誰も観ていない芝居(笑)。千葉雅子さんは、このセレクションの常連ですね。あとは神田聖司君という、謎のイケメン。これはぶっちゃけて言うと、町で一番若い青年の役を、集客のためにイケメン枠にしようということになったんです。それで何人かを紹介してもらったんですが、僕が神田君にしか目が行かなかった(笑)。彼はこれが初舞台なので、(集客のために)枠を作った意味がまったくないんですけど、本当に素直で人好きがする子で。きっと客席で観られた皆さんも夢中になると思うし、これから絶対売れると思います。
──諏訪さんは、自分の役にどういう印象を持っていますか?
諏訪 自然農をやってる人なんですけど、難しい役やなあと思います。感情がパッと切り替わるような……さっきまで怒ってたのに、急に笑ってるわーという性格で、そこが多分(自分と)違う部分だと思うので。あと最後に踊る所も難しそうです。
土田 踊りますねえ。劇中で「イエイエ節」というオリジナルの民謡が出てくるんですけど、今回は前衛舞踏的な踊りにしようかなあと思ってます。あと曲の方は、昔はある民謡を使って、歌詞を(MONOの)水沼(健)に書いてもらってたんですど、今回は「FUKAIPRODUCE羽衣」の糸井(幸之助)さんに作曲をお願いしました。そうやっていろんな方に触れたいという、僕の思いもあったので。(※ちなみに振付は「Baobab」の北尾亘が担当)
和気あいあいとした雰囲気の中、土田が「今回は割とスパルタに演出します」と言って諏訪が怯む場面も。 [撮影]吉永美和子
諏訪 あとは僕の台詞が長くて、しかも(オリジナルの)方言とかもあったりして。
土田 ベースは名古屋弁ですね。
諏訪 その名古屋弁の感じが僕の身体にまったくないので、その辺りもどうしようかなあと思っているんですよ。
土田 それをそのまま方言指導すると、名古屋の話になっちゃうんですよね。だから初演の時は兵庫県出身の奥村(泰彦)に好きに読んでもらって、それをこの方言の正しいアクセントということにしてました。そしたら、芝居を観てくれた平田オリザさんが「あれは関ヶ原辺りの言葉だよね」って(笑)。名古屋弁で書いたものを兵庫のアクセントで読むと、やっぱり(その中間地点の)関ヶ原の感じに聞こえるんだなあと。「ああ、言葉ってすごいなあ」と思いました。
──今回書き直した部分と、書き直しながら気づいた所はありますか?
土田 内容はほとんど同じですけけど、人物配置は変わりましたね。初演は全員がほぼ同級生だったんですけど、今回は20代と50代が同じ青年会にいるという状況になっているので、人間関係は変わっています。あと諏訪君は、ちょっとスリムという設定にしないと(笑)。
諏訪 いやいや、書き直しをするほどのスリムではないので。
土田 でも「やせたなあ」ぐらい入れとこうか?(笑)。あと書き直した時に「今上演するとしたら、何が現代にヒットするか?」と思ってたんですけど、やっぱり排他性ですね。今すごいじゃないですか? 排他性が。この物語だと、千葉雅子さん演じる妻が小さい町に嫁いできたことで、ちょっといじめられるんです。千葉さんが土地に対する悪口を言ったら、それまでバラバラだった人たちが急にまとまるとか。そういう排他性とか閉鎖性みたいなものが、国レベルでもどんどん増している中で、その排他性の大本みたいなのを、ちょっと面白く演出できたらなあと思っています。
──では最後に、今回の意気込みを。
土田 今まで「『きゅうりの花』って良かったんやで」っていろんな所で言ってきたので、これやって全然面白くなかったら、もう本当にダメだなあと思ってるんです。だからこれはウェルメイドな……「ああ、こんなキッチリした芝居があるんだ」と言われるぐらいの。何なら満点取ってやろうぐらいのつもりで臨んでますので、ぜひよろしくお願いします。
諏訪 明後日ぐらいから稽古が始まるんですけど、何か楽しみでもあり、ちょっと不安でもあり。でも土田さんの代表作でもある作品なので、すごく楽しみだなあと。
土田 シュートを決めてもらってね、ちょっとね。
諏訪 ぐらいの気合いを入れて、頑張りたいと思います。
土田英生セレクションvol.4 イメージ写真 [撮影]西山榮一(PROPELER.)
■日時:2017年7月28日(金)~8月6日(日) 19:30~ ※7/29・8/5=15:00~/19:00~、7/30・8/3・8/6=15:00~、7/31…休演 ※7/29夜公演、8/1、8/2は終演後にトークイベントを開催。
■会場:三鷹市文化芸術センター 星のホール
■料金:一般=前売3,800円 当日4,000円、学生=2,000円、高校生以下=1,000円
※学生&高校生以下は前売・当日同料金。
※7/28~30は早期観劇割引、8/3は平日マチネ割引で、一般料金は各400円引。
■日時:2017年8月11日(金・祝)~13日(日) 11日=19:00~、12日=15:00~/19:00~、13日=15:00~ ※8/12夜公演は終演後にトークイベントを開催。
■会場:ABCホール
■料金:一般=前売3,800円 当日4,000円、25歳以下=2,000円(前売・当日共)。
※8/11は初日割引で、一般料金は各500円引。
■出演:内田淳子、加藤啓(拙者ムニエル)、金替康博(MONO)、神田聖司、諏訪雅(ヨーロッパ企画)、千葉雅子(猫のホテル)
■特設サイト:http://cucumber-m.com/selection4/