一番怖いのは人間 魔女の実在を問うゴシックホラー『ウィッチ』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第三十一回

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2017.7.23
 (C)2015 Witch Movie,LLC.All Right Reserved.

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
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もしもあなたが、“魔女”だと疑われたら、どうするだろう。そうではないという証拠を見せるのはなかなかに難しく、それこそ“悪魔の証明”とも言えるのではないか。だからこそ、中世ヨーロッパの時代にたくさんの魔女狩りや魔女裁判が行われ、無実の女性たちが処刑されたことが、残酷な歴史として語り継がれているのかもしれない。今回紹介するのは、家族に魔女と疑われてしまった少女の物語『ウィッチ』だ。

舞台は1630年のニューイングランド。信仰心の篤いキリスト教徒の一家が、村はずれの森の近くに引っ越してきた。ある日、一家の生後間もない赤ん坊・サムが何者かに連れ去られ、行方不明になってしまう。母・キャサリンはサムの面倒を見ていた娘・トマシンを責め、一家に不穏な空気が流れることに。やがて、父・ウィリアムが「トマシンが魔女なのではないか」と疑い始め、疑心暗鬼に陥った家族の溝はますます深まってゆく。

 

アニヤをはじめとした子どもたちの演技に注目

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ヒロイン・トマシン役のアニヤ・テイラー=ジョイは、以前こちらのコラムでも紹介した、M.ナイト・シャマラン監督の『スプリット』でもヒロインを演じていた。本作は『スプリット』より前に公開された作品で、彼女が初めてメインキャストとして立つことになった映画だ。とはいえ、彼女は、私が『スプリット』で感じた目力や存在感をしっかりと確立していて、敬虔なキリスト教徒一家の中で正しくあろうとしながらも抑圧されてゆく、ティーンエイジャーの複雑な気持ちを絶妙に表現している。

そして、弟のケイレブ、さらにその下の双子のジョナスとマーシーは、ロバート・エガ―ス監督自らがイングランド中の学校を回って見つけてきた子どもたちが演じている。エガース監督は、物語に真実味を持たせるため、その地方の自然な訛りのある英語を話せる子どもたちを探したそうだ。家族の中で誰よりも空気が読め、姉のトマシンのことも気遣える賢いケイレブは、トマシンに負けないほどのパワーと存在感を見せつけてくれた。

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幼い双子、特に妹のマーシーは、自分がトマシンよりも母親に可愛がられていることを自覚していて、姉にそれを誇示してくるマセた子どもだ。マーシーからは、幼いからこその容赦のなさがにじみ出ていて、私は思わず「こいつムカつく!」と思うと同時に、トマシンに同情してしまった。そしてこのマーシーこそが、トマシンを追い詰めることに一役買う存在になってゆくのだ。そんな子どもたちの自然な演技に相対して、父・ウィリアム役のラルフ・アイネソンと母・キャサリン役のケイト・ディッキーの狂信的な様は恐ろしく感じることだろう。

 

おとぎ話のような世界観と人間の恐ろしさの対比

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本作はホラー作品ではあるが、ビックリドッキリ系の仕掛けやゴア表現があるわけではないので、ガッツリとしたホラーを求める方には少々物足りないかもしれない。しかし、魔女に関する当時の文献などを参考につくられた世界観は、まるで『赤ずきん』などの童話のように美しく、惹かれるものがある。

とはいえ、その内容はドロドロだ。妄信のために“異端”のレッテルを貼られて村を追放されてしまった両親の元で、子どもたちは神を信じ懸命に耐え忍ぶ。しかし、親は子どもたちを思いやるほどの余裕もなく、貧困ゆえの苦しみや、末っ子を失った悲しみ、そういった行き場のない感情をトマシンに向け、やがて思いもよらぬ行動に出るのである。本来ならば親は子を守るべき存在だと思うのだが、村という集団から離脱し、家庭がひとつの集団となってしまった以上、家族すらもただの他人となってしまうのだろうか。

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本作には、そういった人間の容赦のなさを突きつけ、観る者を蔦に絡めとってゆくような怖さがある。キリスト教に基づいた話がチラホラと出てくるため、多少造詣が深いとより理解しやすいかもしれない。が、そんなことよりも私は、「アニヤちゃんの真っ白い肌に真っ赤な血が落ちるシーンがとってもキレイだから見逃すなよ!!」と伝えておきたい。

美しいヒロインと血。ゴシックなホラーだからこそ楽しめるポイントも、ぜひエンジョイしてほしい。

『ウィッチ』は公開中。

作品情報

映画『ウィッチ』


(2015年/米国/英語/カラー/93分/ビスタサイズ/ドルビー・デジタル)
原題:THE VVITCH
映倫:G
字幕演出:インジェスター
配給:インターフィルム
【ストーリー】
1630年、ニューイングランド。父ウィリアム(ラルフ・アイネソン)と母キャサリン(ケイト・デッキー)は、5人の子供たちと共に敬虔なキリスト教生活をおくる為、森の近くの荒れ地にやって来た。しかし、赤子のサムが何者かに連れ去られ、行方不明に。連れ去ったのは森の魔女か、それとも狼か。悲しみに沈む家族だったが、父ウィリアムは、美しい愛娘トマシン(アニヤ・テイラー=ジョイ)が魔女ではないかと疑いはじめる。疑心暗鬼となった家族は、やがて狂気の淵に陥っていく。
公式サイト:http://www.interfilm.co.jp/thewitch/
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