メジャーデビューを果たしたBentham“集大成であり意欲作”となったフルアルバム『Re:Wonder』について語る
Bentham 辻 怜次(B)小関竜矢(Vo/Gt) 撮影=森好弘
今年4月にメジャーデビューを果たしたBenthamが、7月26日にバンドキャリア初のフル『Re:Wonder』をリリースした。軽快でキャッチーなメロディとハイトーンボイスを武器に、着実にライブシーンを駆け上がってきた彼ら。今作では、これまでとはひと味違う骨太なサウンドで、腹の底に沸々と込み上げている激情をぶつける新境地を覗かせた。そんなニューアルバムについて、小関竜矢(Vo/G)と辻怜次(Ba)にインタビューを遂行した。「これまでの“集大成”ともいえる作品であり、次なるステップへと繋がる“意欲作”になった」と語る二人からは、今のバンドの状況の良さがヒシヒシと伝わってきた。9月からは『Re:Wonder』リリース記念の全国ツアーを開催。ゲストにグッドモーニングアメリカ、ドラマチックアラスカ、SAKANAMON、東京カランコロン、PELICAN FANCLUB、夜の本気ダンスらを迎えた対バンライブの他、東名阪ではワンマンライブも決定している。メジャーデビューを果たし焦りや葛藤を吹っ切って、自信に溢れた今のBenthamを見逃さないでほしい。
――今年の4月に「激しい雨/ファンファーレ」でメジャーデビューされてから、7月12日にはシングル「White」をリリース。それから間もなくしてアルバム『Re:Wonder』が完成しました。アルバムの制作は、いつぐらいから動き出していたのでしょうか。
小関:デビューシングル「激しい雨/ファンファーレ」が完成してすぐの頃には、今作の制作に移っていました。バッと集中してレコーディングに臨めたので、メジャーデビューするまでの方が実際には慌ただしかった気がしますね。
辻:シングルのレコーディングで言うと去年の10月ぐらいからずっと曲作りをしていましたね。なのでレコーディングして、その後にライブして、今度はアルバムの曲作りをしてというサイクルだったので、タイム感としてはあっという間に過ぎていった印象です。
小関:こういう制作過程は今回が初めてなので、“これからはこういう流れになっていくのかな”という期待と不安がありました。
Bentham 小関竜矢(Vo/Gt)
――メジャーデビュー後のフルアルバムというのは、インディーズ時代の曲を軸に構成するケースもあると思うのですが、今作はデビュー後の新曲ばかり。なによりどの楽曲からもバンドが新たなステージへ向かおうとしている気迫が伝わってきて、聴きながらこちらも身の引き締まる思いになりました。
小関:インディーズの曲もこれからライブでやるので、メジャーとインディーという違いをそこまで深く考えているわけではないんですけどね。これまでもそうですが、今の自分たちの一番良い状態でCDを出したかっただけなんです。そういう意味では、シングルですでにリリースしている曲をアルバムに入れるのはどうなのかなと思ったので、少しマスタリングを変えたり「White」ではアウトロを変えたりしています。
――それぞれバラエティ豊かな楽曲が収録されていますが、全体的に憂いや焦燥感が共通して感じました。特に想像を掻き立てられるような歌詞が印象的で、ラストナンバー「クラクション・ラヴ」に至るまで、どの新曲も思いっきりの良さが刺さる歌詞が頭から離れず……。
小関:歌詞を書きためていた時期を正確に覚えていないんですけど、恐らく制作を始めたメジャーデビュー前の心境というのが凄く大きいからなんじゃないかなと思います。変にカッコつけずに自分の思っていることを出せていますね。シングルの「激しい雨」はメジャーに行くという決意表明の曲であり、「ファンファーレ」は僕たちと同じようにスタートを切る人たちと一緒に頑張っていこうというエールを込めた曲なので明確な狙いがあって書いているんですけど、他の新曲はそういうテーマだとか狙いがあって書いた曲は一切ないんです。単純に思っていたことを書けたと思います。こういうインタビューで歌詞について聞かれるたびに思うんですけど、僕の意地の悪いマイナスな部分が、もしかしたら出すぎてしまったのかもしれないですね(笑)。
Bentham 左:辻怜次(Ba) 右:小関竜矢(Vo/G)
――意地も悪くないですしマイナスではないです(笑)。だけど、憂いだったり怒りのような腹の底に煮えたぎっている感情が凄く歌詞に出ているなと。それは特に意識せず書かれていて、取材を通して初めて分かったということですか?
小関:全く気づかなかったですね。
――特に、「survive」はバンドマンとしての気持ちがエグいほどディープに書かれていたなと感じました。
小関:エグみは意識しましたね。ただ変に伝わったりしないように、過激な単語や、あからさまな表現はせずに書きました。
――この歌詞の部分で思ったのは、SNSの反響についても思うところがあるのかなと。
小関:お客さんとの友達みたいな距離感もそうだし、あんまり音楽は聴いてくれてないのかなと感じてしまうような人が多かったりすると悲しくなることがありますね。どうしても心無い言葉とかもあるじゃないですか。
辻:SNSが普及したことで、お客さんとの距離のとり方が難しくなってきたなと思うことはありますね。
小関:インディーズ時代でSNSをしっかりと活用してきた中で、お客さんとの間で勘違いや誤差がどうしても起きて、それをどう修正していくかを考えることもあります。もちろんほとんどがそうではないけれど、心無い言葉もやっぱり出てくる。みんなが思っている以上に僕たち見てるからね(笑)。バンドマンがエゴサーチするのなんて当たり前じゃないですか。
辻:なんなら反響を見るためにSNSを利用してるからね(笑)。
小関:なんならこっちは箇条書きにして、“これは良くなかったのか”とか“この曲が好きなんだ”とか書き出して参考にしているぐらい真面目に情報収集してますから! 反応が直で分かるところはメリットなので。まぁ、心無い言葉とか見つけてしまうと“見てろよ!”という気持ちでいっぱいですよ。
Bentham 辻怜次(Ba)
――日々の憂いも楽曲に昇華されれているからこそ、沸々とした感情が伝わってくるのですね。焦燥感という点でもお伺いしたいことがあって。昨年、大阪で開催された気鋭バンドが集結する野外イベント『ヤングライオン祭り』にBenthamも出演されていて、MCで「俺たち、他のバンドに比べてもう“ヤング”じゃない」と自虐的に言って笑いに変えつつ煽っていたのがすごく印象に残っているんです。アラサー世代のバンドとして、周りにはもっと若いバンドが出てきていることへの焦燥感って今でもありますか?
小関:正直、年齢とか時代の流れを意識しているというよりも、周りでサポートしてくれている人たちがいる中で、“自分たちはちゃんと目に見える結果が出せているか?”という気持ちの方が強くあります。動員もそうだしCDのセールスもそう。個人的には、アーティストはCDのセールスのことを気にしなくてもいいぐらい、しっかりと結果を出さなければいけないと思うんです。それぐらい、圧倒的な結果を残したい。とはいえ僕たちはまだまだなので、今はしっかり演奏していい曲を作ることを続けるしかない。だから、今はそこまで変な焦りというのは、もう無いと思います。
辻:今の話を聞いていて改めて思ったのは、制作もそうですけど、毎日が音楽漬けの生活を送らせていただけている環境があるのはとてもありがたいことだなと。本当に今は、音楽と向き合いながら集中して活動ができているんですよね。世の中にバンドマンが五万といる中で、一握りのバンドにしか与えられない環境でやらせてもらえているわけだから、制作もライブも全力でやるだけだなと思っています。
Bentham 小関竜矢(Vo/G)
――万全の環境の中で、好きなことをより詰めこんだ作品になったと。実際にリリース後の反響は届いていますか?
小関:PVも公開されている「Chicago」は思いのほか反響がいいですね。正直、自分はカッコいいと思って作ったものの“実際はどうなんだろう?”とやっぱり不安にはなっていました。だけど、“今までにないBentham!”って言ってもらえてるみたいで良かったなと。僕としてはいつも通り作ったつもりだったんですけど、きっと今までに得た細かいコード感だったり歌メロにも凝っているので、メンバーの努力とフレーズが上手く作用して“なんか凄い!”と思ってもらえてるのかなって。そういう反響を知って、不安もなくなり自信に変わりましたね。
辻:付き合いも長くて昔から知ってる僕から見ても、「Chicago」はBenthamが持ってる武器をしっかり出せた印象なんですよね。昔ながらの“小関竜矢”を感じたので、それを“新しいBentham”だと言ってもらえているのがすごく新鮮ではあります。そのギャップは確かに不思議に思いました。
――バンドとリスナーの間で、そういったギャップが生まれたのはどうしてでしょう?
辻:恐らく、憂いている少しダークな部分だと思いますね。そういう不思議な妖艶さや浮遊感というのは、最近とは違うので久しぶりといえば久しぶりに感じましたから。そういった部分をシャープでカッコいい曲に落とし込めたので、こういう武器もあったなと思い出したし懐かしく思いました。尚且つ、インディーズ時代と、それ以前と今とでより幅が出せるようになってきたバンドの成長を感じられた曲でもあるかな。
――ドラマチックな曲展開の中には、バンドが積み重ねてきたサウンドが詰まっていた。この曲に限らず、全体を通して聴いてみてもこれまでのバンドの集大成であり新たなスタートを切っているなと。
小関:そういう風に考えて作っていたわけじゃないんですけど、結果的に現時点での集大成的な1枚になっているなと思います。集大成となる1枚を意識して作ることも大事ですけど、完成した作品が自ずとそうなっている方が凄くいいことなんじゃないかなって思うんです。というのもそれって“出しきった”ということだと僕は捉えているから。今作では僕が作った曲も多く使われただけに、ストックがもう無くなったんですよね。なので、これからどんな方向に進もうか選べるようになった状態。もし少しでも出し切れていなかったら、出し切れなかった分を次に使ってとか邪念が残るんですけど、今回に限ってはもう一切ないですから。そういう意味で“出し切った”。もしこれで周りの反響が良くなかったなら“そりゃBentham、売れねえわ”と納得さえできたと思うぐらい、僕はもう全ての球を、この作品で投げきったんですよね。
辻:今作を経て、ここからステップアップしていく作品になったとは僕も思います。今作ではいろいろ挑戦できたとメンバーそれぞれが思っているので、さらに次へと繋がる1枚になっています。
Bentham 左:小関竜矢(Vo/G) 右:辻怜次(Ba)
――辻さんの中で、特にチャレンジした楽曲を挙げるなら?
辻:やっぱり「survive」ですね。
小関:「survive」を録る前だけちょっと黙っていたもんね(笑)。
辻:ついにその日が来てしまったかという思いでしたよ……(笑)。
小関:時間が押してしまって、「survive」も続けて録るか今度にするか選べるタイミングだったよね。
辻:それで「「survive」は今度にしよう」って(笑)。で、帰ってからひたすら練習しましたよ……。それぐらいギリギリまでセッション性があって、決まりきらずに悩みながら作りました。
――具体的にどういった点で最後まで悩むことに?
辻:先ず、僕はこれまでベースを弾く時、ピック弾きにこだわってきたんです。ルーツの話になるんですけど、クラレンス・ホワイトとか、ブルーグラスのギターリストがフラットピッキングでテクニカルなフレーズを早く弾くことが多くて、それに影響を受けて僕もピック弾きを武器にしてきたんです。何事にも武器を持っている方が突き詰めていきやすいと思っていたので。だけど今回はメジャーデビューというタイミングだからこそ、一度こだわりを崩してみようとチャレンジしてみようと思って、あえて指弾きの音を入れてみたり、スラップの音を入れてみました。「戸惑いは週末の朝に」も指で弾いています。そういう、ちょっとしたピックでは出せないニュアンスの違いにチャレンジしてこだわっていくと、ギリギリまで決められずに悩んでしまって……(笑)。
Bentham 辻怜次(B)
――こだわりの枠を超えてチャレンジしたからこそ悩み、次に繋がる手ごたえも得られたと。
辻:そう、やってみて良かったなって思います。次の作品でも別の引き出しが出せそうな気もしますし、そういうチャレンジって自分自身のレベルアップに繋がって面白いなと改めて感じました。
――今作を通してスキルアップした面だけでなく、意識的にも変わったことなどありますか?
小関:あんまり周りの見え方は気にならなくなりましたね。昔からですけど、今いるバンドの中で自分たちの曲が一番良いと思ってやっているんです。で、これまでの積み重ねを経てアルバムができて、成長したところがもちろん沢山あるんですけど、だからと言ってメジャーデビューした途端に良くなったとか、急に注目されることってあるじゃないですか。僕としては、“別に昔からやってること変わんねぇし”と思っていて、前からずっと変わらずにカッコいいことをやる続けてきたからこそ、メジャーデビューさせたいと思ってくれる人と出会えたはずなんです。そういう環境が変わると意見も変わる人がいることも、今までだと気にしてしまっていたんですけど、いいアルバムが作れたからこそ今はもう割り切れるようになりました。
――変わらずにやってきた自信の裏付けになったわけですね。
小関:“インディーズとメジャーの差って何だろう?”って、僕たちは意識しなくていいことだと思うんですけどね。ただ、メジャーデビューしてガッカリする人もいるじゃないですか。バンド側がブレちゃうことがあるから、“変わっちゃったな”とか思う気持ちも分からなくもないんですけどね。例えば、メジャーを機に衣装をしっかりしようとした時、お客さんのことを意識した今までとは違う衣装を着ちゃうから“変わったな”とか言われるだけで、普通に私服だと考えて“カッケーからこれにする!”ってノリで決めたら問題ないと思うんですよ。他もそうですけど、ちゃんと自分たちのやりたいことができる環境になったからこそ、ブレずにやりたいですね。あと、周りに任せっきりなのは良くないなと思っています。しっかりと意見を出して、ダメなら理由を聞くとか、予算がどれぐらいかかるのかも聞くべきだと思うし、全てに意思を持ってやらなければいけないなと、そういう気持ちも強くなりましたね。
Bentham 左:辻怜次(Ba) 右:小関竜矢(Vo/G)
――レーベルともかなりディスカッションできているからこそ、バンドとしてもいい状況に。
小関:そうですね。なので、正直イメージと逆でした。メジャーという環境にストレスを感じるんだろうなと思っていたら全くの逆で、“お前らはカッコいいからやりたいようにやって。あとは俺たちがサポートするから”という風に言ってくれています。
辻:他にも、現場やバンドの空気感がすごくいいとも言われるんですよね。付き合いも長いですから家族みたいですごく意見も言いやすい。その上、レーベルや事務所ともチーム感が出て来て、プラスプラスで積み上げてやれているなと思います。
小関:これから先のことを考えたり聞かれた時、“40歳まではとりあえずBenthamをやりたい”なんてフランクに言ってきたんですけど、もう40歳なんてあっという間なんですよね。でもそれに不安にならないというか、40歳までに何をやろうかポジティブに考えられているんです。この先10年、バンドを続けられると思えるぐらいポジティブな環境にいられているといのは、凄くいいことだなと改めて思いました。
辻:長く続けられるバンドというのは憧れですからね。そういう意味では地に足つけてしっかりとやっていくことが大事かなと。これからだとツアーで良いライブをする、それからまた良い曲を作る。それに尽きると思うので、しっかり積み重ねていきたいなと思います!
取材・文=大西健斗 撮影=森好弘
2017年07月26日(水) Release
1.Chicago
2.透明シミュレーション
3.White (Album Ver.)
4.今さら
5.Sunny
6.戸惑いは週末の朝に
7.ファンファーレ
8.エスケープ
9.Heartbreaker
10.survive
11.センチメンタル
12.激しい雨
13.クラクション・ラヴ
【DVD収録内容】
①恵比寿LIQUID ROOMワンマンライブ後編11曲の映像収録(2017.10.27)
②おまけ映像として、レギュラーラジオの映像版「ベンプレTV」も収録
・ CD Only盤: PCCA.04550 \2,500+税
・Bentham屋盤:CD+グッズ(タオル) SCCA.00053 \3,500+税
・9/10(日)岡山ペパーランド(w/グッドモーニングアメリカ)
・9/12(火)広島CAVE-BE(w/グッドモーニングアメリカ)
・9/15(金)熊本B.9 V2(w/ドラマチックアラスカ)
・9/16(土)福岡DRUM SON(w/ドラマチックアラスカ)
・9/18(月・祝)松山W studio RED(w/SAKANAMON)
・9/20(水)高松DIME(w/SAKANAMON)
・9/22(金)神戸太陽と虎(w/SAKANAMON)
・10/1(日)静岡Live House UMBER
・10/6(金)千葉LOOK(w/東京カランコロン)
・10/7(土)HEAVEN’S ROCK Utsunomiya(w/東京カランコロン)
・10/11(水)仙台LIVE HOUSE enn2nd(w/PELICAN FANCLUB)
・10/12(木)新潟CLUB RIVERST(w/PELICAN FANCLUB)
・10/13(金)松本alecx(w/夜の本気ダンス)
・10/15(日)富山Soul Power(w/夜の本気ダンス)
・10/20(金)大阪 umeda TRAD(ワンマン)
・10/21(土)赤坂BLITZ(ワンマン)