飛行機と気の利いたアナウンスと乗務員の愚痴について

2017.8.21
コラム
アート

 拝啓

 

 飛行機に乗ることは好きですか? 僕は結構好きです。この年になっても、離陸の瞬間にはわくわくしてしまいます。

 高いところはかなり苦手なんですけどね。たぶん風を感じないから大丈夫なんでしょう。多少席が窮屈なカフェが空飛んでいるみたいな感覚です。乗ったことはないですが、屋根のない小型飛行機や気球なんかには乗れないでしょうね。テラス席で空は飛びたくないものです。

 

 最近はあまり乗っていませんが、以前は仕事の関係で全国各地飛び回っていたので月に何度かは飛行機に必ず乗っていました(前職はエクソシストです)。もっぱら国内線の利用だったので、どこに行くにしても一時間半もあればついてしまうのですが、その短い時間にコーヒーを飲んだり、読書をしたり、食事をしたり、窓の外を流れる雲を見たり、寝てみたり、結構楽しんでいました。

 

 国内だけでもいろんな航空会社があって、サービスもいろいろです。とは言え正直なところ、低価格が売りのLCCを含めても、各社の快適さにそこまでの違いを僕は感じません。どこも似たり寄ったりな印象です。ということは、価格を優先して航空会社を選んでもいいんですが、僕はだいたいいつもANAの飛行機に乗ることにしています。

 

 理由は、機内アナウンスが一番気が利いているからです。まあ、ANAのマイルを貯めているからとかそういう事情もあるんですが、とにかくANAの機内アナウンスを僕は気に入っているんです。特に到着地へ着陸後に行われる最後のアナウンスですね。

 説明するまでもないですが、機内アナウンスというのは「皆様こんにちは。今日もXX航空をご利用下さいましてありがとうございます」とか「この飛行機は間もなく離陸いたします。シートベルトをもう一度お確かめ下さい」とかの飛行機内での乗務員による利用客への呼びかけ放送です。

 当然機内アナウンスにも台本というかマニュアルがあります。それに沿っていろんな説明や注意なんかをしてくれるんですが、何度も同じ会社の飛行機に乗っていると内容もだいたい覚えてしまってろくに聞いていなかったりもします。

 しかしANAの着陸直後のアナウンスについては、キャビンアテンダントのアドリブが入るので聞き逃せないんです。

 

 アドリブ部分は飛行機を降りる際の注意事項が読み上げられたあとに、文にすればほんの一、二行程度の一言二言だけ挨拶に添えられます。内容は季節やその時の天候に関するものが多く、たとえば「少し肌寒い季節になってきました。風邪を引かないよう暖かい服装でお過ごしください云々」や「現在外はあいにくの雨模様ですが、午後には晴れる予報です。お散歩に出かけるのも気持ちよさそうです云々」などです。

 着陸した空港の所在地や行事にちなんだアナウンスも定番です。冬に福岡へ行った時は「博多の名物もつ鍋がおいしい季節になりました」から始まり「よいクリスマスをお過ごし下さい」で終わった時もありました。

 聞いていると「いいフライトだったな」と、なんとなくあったかい気持ちになるんです。僕はこういう気持ちになれる機内アナウンスが大好きです。

 

 しかしこの挨拶、忙しいキャビンアテンダントの方が業務の合間を縫って考えているんでしょうか。そうだとしたら大変ですね。たった一、二行とはいえ下手なことは言えないですもんね。

 変なアナウンスも聞いてみたいですが。乗務員の方の思いっきり個人的な愚痴とか聞きたいですよね。

 「昨日買ったばかりのレタスが今朝にはもう痛んでいました。がっかりです」とか「先日彼女に振られてしまいましたが、めげずに今夜はコンパに行ってきます」とか。聞けたら仲良くなれた気がしてなんかちょっとうれしい気がします。そうでもないか。

 

 そういえば数年前、機長からのアナウンスでも素敵なものがありました。フライト中に「見られる方は右の窓の外をごらんください」というアナウンスがあったんです。突然の機長からのアナウンスに少し身構えていたのですが、窓の外を見てみると地上には富士山が姿を現していて、そしてその上空にはきれいに半分に割ったドーナツ状の大きな虹がかかっていました。奇跡みたいに美しい眺めでした。機長は「滅多にない光景なので」と続けていましたが、本当に素敵な体験をさせてもらいました。

 

 あなたと旅に行く時にも、気の利いたアナウンスと素敵な光景、体験することができるといいですね。僕はいつでも旅立てるよう準備しているので、都合のいい日にちを教えて下さい。は取っておきますよ。なにせ、マイルが溜まっていますので。

 

 それでは。

 いつかまた宇宙のどこかで。

 

敬具


チープアーティスト・しおひがりによる連載『メッセージ・イン・ア・ペットボトル』。毎回、この世にいる"だれか"へ向けた恋文のような、そうでないような手紙を綴っていきます。添えられるイラストは、しおひがり本人による描き下ろし作品です。 過去の手紙はこちらからお読みいただけます。