クリストファー・ノーラン監督「次の世代が映画を作る時の選択肢として、フィルムがあることが大切」 未来の映像作家100人を前に語る
クリストファー・ノーラン監督
8月24日(木)、映画『ダンケルク』でメガホンをとったクリストファー・ノーラン監督が東京・YouTube Space Tokyoのスペシャルトークイベントに登壇。イベントには、映画監督や映像クリエイターを目指す学生約100人が詰めかけた。
『ダンケルク』は、『ダークナイト』シリーズや『インセプション』、『インターステラー』で知られるノーラン監督の最新作。第二次世界大戦中の1940年、860隻の船舶でイギリス軍、フランス軍の兵士約40万人もの命を救った史上最大規模の“ダンケルク作戦”をもとにしたスペクタクル・サスペンス大作だ。キャストには、『インセプション』や『ダークナイト ライジング』でノーラン監督とタッグを組んだトム・ハーディや、『ブリッジ・オブ・スパイ』でアカデミー賞助演男優賞を受賞したマーク・ライランス、ノーラン作品常連のキリアン・マーフィ、『マイティー・ソー』など監督としても活躍するケネス・ブラナー、そして本作で映画デビューを飾るワンダイレクションのハリー・スタイルズが名を連ねている。
クリストファー・ノーラン監督と学生たち
イベントでは、いち早く『ダンケルク』を鑑賞した学生からの質問に、ノーラン監督がひとつひとつ丁寧に解答していった。日本映画に質問がおよぶと、『ダンケルク』が黒澤明監督の『羅生門』に影響を受けたことを明かす一幕も。また、強いこだわりを持つ、フィルムでの撮影・上映への想いを語るなど、学生たちに負けない熱さでトークを繰り広げている。
クリストファー・ノーラン監督と学生たちのQ&A
クリストファー・ノーラン監督
お集まりいただきありがとうございます。7年ぶりの来日で非常にワクワクしています。こうして皆さんからの質問にお答えできることを光栄に思います。
――監督が映像の世界に入ったきっかけを教えてください。
7歳から8歳くらいの頃、父がスーパーエイトのカメラを買ってくれて、弟と一緒にショートフィルムを作ったりしていました。それ以来ずっとその時々にあるカメラを使い映画を作っており、だんだんその規模が大きくなって、そして願わくは質も良くなっているかなと思います。ともかく映画を作るということは私にとってずっと、情熱でした。
――監督の映画には観客の心を動かす方程式があるように思います。学生である我々は、今何を学ぶことが大事なのでしょうか。
映画を学ぶ学生さんであれば、たくさん映画を観て、それを楽しむことが大切だと思います。同時にその作品を分析すること。私自身は映画学校には行かず大学時代は英文学を学んでいましたが、ずっとそのようなやり方で映画を勉強していました。フィルムメーカーたちがどういったメカニズムで映画を作り、イメージをつなげて、どのようにストーリーを描こうとしているのか。そしてどうやって観客を引き込もうとしているのか。映画を分析しながら彼らを理解しようとしていました。
クリストファー・ノーラン監督
映画学校の皆さんが私の映画で興味を持たれるのはおそらく予算の規模なのではないかと思います。私はこれまで本当にいろいろな規模の映画に関わってきました。最初の『フォロウィング』は予算が全くありませんでした。16ミリモノクロで撮影し、平日は他の仕事をしている友達と一緒に、週末撮影するという形です。その後、様々な規模の映画を作ってきました。どんな規模であっても、一番大切なことは変わりません。映画作りのクリエイティブなプロセスの本質とは、監督として常に同じ姿勢を貫かねばならないということです。実務的な事でいえば、”フレームの中に何をおさめるか”といこと。その情報がストーリーを進めているかどうか、そして次のイメージにつながっていくかどうか。映画の規模に関わらず、その一点は常に変わらずにあるべきだと思います。監督として最初に感じた衝動、それに従ってイメージを取り込んでいくということ、そしてストーリーを語っていくこと。それが大切だと思います。
――『ダンケルク』は70ミリフィルムでの上映が話題になっていますが、なぜフィルムにこだわるのか。フィルムで撮ることを選んだ体験などあれば教えてください。
私はずっとセルロイドのフィルムが大好きでした。大学卒業後にデジタルのビデオカメラで撮影する仕事に就いたのですが、そこに映る映像は私が世界を見ている色とは違っていました。アナログのフィルムは非常に深みがあって肉眼で見ているのと変わらない色を再現できます。映画の種類によって適したフィルムは変わってくると思うのです。リアリズムを追及するような作品であれば、独特の質感があるアナログがベストでしょう。デジタルが適した分野ももちろんあります。両者は競合しないはずなのです。確かにデジタルが出てきた初期のころは、製造元のプッシュによりアナログを排除するような動きがありましたが、今ではアナログのフィルムとデジタルは違うメディアだと理解されています。デジタルの画素数が上がって来てはいるのですが、まだ私が愛するアナログのフィルムのレベルには達していません。タランティーノやスピルバーグなど、他のフィルムメーカーと仕事をすることがありますが、彼らもアナログのフィルムを愛しています。次の世代も今と同じ質のフィルムを使うことができるようにするためには、私たちがフィルムを使い続けなければいけないのです。皆さんのような世代の方々が、映画を作るときに、選択肢としてフィルムがあるということは非常に大切だと考えています。
クリストファー・ノーラン監督
――劇中で敵兵の姿が映されていませんでした。どのような意図だったのでしょうか。
『ダンケルク』のストーリーの本質はとてもユニークなものです。これは戦闘についての話ではなく、撤退の物語です。私はそこにいた人たちの主観的な経験になるべく寄り添いたいと考えました。爆撃などはありましたが、彼らは実際に敵と直面したわけではありません。戦闘映画ではなくサスペンススリラーとしてストーリーを語ろうとしたのです。つまり、見えない敵がジリジリと近づいてくるサスペンス。それが実際そこにいた人たちの経験に忠実であると考えたのです。
――作品の中では時系列が前後していました。その意図を教えてください。
映画をこのような構成にしたのは、観客にその場にいるような経験をしてほしかったからなのです。私の過去作、『メメント』は時系列を逆にした作品です。観ている人たちにいったい何が起こったのかわからないという視点を持たせる事を意図していました。『ダンケルク』ではストーリーの主観的な視点に観客を立たせたいと思ったのです。兵士たちの気持ちになり、彼らの感覚を味わってもらう。あるいは彼らが持つ情報を知ってもらう。そこでこの構成に至ったのです。ただ同時に、大きな全体図で何が起きているのかを把握できるようにもしたかったのですが、そのために例えば地図や政治家の話などは入れたくありませんでした。あくまでも人間的な視点を大事にしようと思い、そこで陸・空・海という3つの違う視点を作ったのです。
クリストファー・ノーラン監督と学生たち
――日本の映画をご覧になりますか?最近気になった日本の映画があれば教えてください。
山崎貴監督に会うことになっていたので『永遠のゼロ』を観ました。『ダンケルク』とパラレルになっている非常に興味深い作品でした。おもしろいアイデアを想起させてくれましたし、完成された作品だと思いました。『ダンケルク』でいうと、黒澤明監督の『羅生門』にインスピレーションを受けました。物事をいろいろな視点から描き、ひとつの大きな物語を語る手法です。この作品はこれまでも何度も見返しました。ある一つの事件について、人々がそれぞれ誤った記憶や誤解を持っているという点がおもしろいと思っています。
映画『ダンケルク』は9月9日(土) 全国ロードショー。
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
(英題:Dunkirk)
監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
出演:トム・ハーディー、マーク・ライアンス、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、ハリー・スタイルズほか
オフィシャルサイト:http://dunkirk.jp
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